東大の友人とスタートアップ起業「ソフトウェア開発を安全に」

東大の友人とスタートアップ起業「ソフトウェア開発を安全に」


この記事に登場するロールモデル

スタートアップブームにともなって増えてきた20代の起業家。


「時代の流れもあると思います」。そう話すのは、サイバーセキュリティーサービスを展開するFlatt SecurityでCCO(最高クリエイティブ責任者)を務める豊田恵二郎さん(27)。キャリアのスタートはUI/UXデザイナー(※)です。

生成AIの登場に誰もがコンテンツを作れるいま、仕事に求められるものは?(聞き手:JobPicks編集長 野上英文)


(※)「UI(ユーザーインターフェース)デザイン」はスマホやPC上に表示されている、文字のフォントやボタンのサイズなどのデザインを指す。「UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン」はアプリやプロダクトを通じて、ユーザーさんが体験するストーリー全体を設計


目次

東大で友人と起業。論理と創造力でエンジニアの安全体験つくる

開発者に寄り添うセキュリティを作りたい

ユニークな働き方をする次世代の担い手たちにインタビューし、いまどんな仕事をしているのか、なぜそのキャリアに至ったのか、これから何をしたいのか......あれこれ聞きました。


今回注目したジョブ(職)は「UI/UXデザイナー」。杉友さん(#11出演)のご紹介で、豊田さん(27)に話を聞きました。豊田さんは、東京大学時代の友人である井手康貴さんと開発エンジニアに向けたサイバーセキュリティ事業を展開するFlatt Securityを立ち上げました。

──豊田さんは、どんなプロダクトをデザインしていますか?

豊田:Flatt Securityの最高クリエイティブ責任者(CCO)として働いています。主に、セキュアコーディング学習プラットフォーム「KENRO(ケンロー)」などのデザインに携わっています。

セキュリティサービスというと、情報システム部門やコーポレート部門向けに展開されているものを想像されるかもしれません。

しかし、僕たちFlatt Securityが提供するのは「開発者のためのセキュリティサービス」です。

デジタルサービスが普及したいま、「ソフトウェアの開発者」こそが世界の主役だと思っています。彼ら/彼女らが、コードを書かない限り、世の中にある大量のソフトウェアは何一つ動きません。そんなソフトウェア開発者に安全に、そして快適に仕事してもらうサポートとして、サイバーセキュリティ事業を展開しています。

Flatt Securityが展開するサービスを、国内、さらにはグローバルで多くの人に使ってもらいたい。そのために、もちろんUI/UXデザインなどのクリエイティブ周りもやりますし、ビジネス戦略の策定もやりますね。

東大で友人と起業。論理と創造力でエンジニアの安全体験つくる

この仕事に向いている人、向いていない人の資質とは何だと思いますか?

豊田 恵二郎
経験者豊田 恵二郎
株式会社Flatt Security

打たれ強さ、ポジティブさ、負けず嫌いな性格

CxOは経営のいちメンバーとして常に未知の課題に立ち向かわなければいけません。厳しい課題ばかりですが、これに対処できる資質が必要です。この資質は複数の切り口で捉えられると自分は考えており、個人的に意識している3つを紹介します。


まず一つ目に、シンプルな「打たれ強さ」です。

これは文字通りハードな状況にも耐えられるメンタルの強さのことで、それ以上の意味はありません。


二つ目に「ポジティブさ」です。

何か課題が現れた時に「新しいタイプの...

課題だ、面白い」「これをクリアすればまた一つ成長できるな」と脳内でプラスに変換できる能力・マインドはとても大事だと思います。 三つ目に「負けず嫌いな性格」です。 ほとんどの場合ビジネスには競争相手がいます。負ければ会社のビジョンを達成できないかもしれません。辛い境遇にあっても「〇〇に負けたくない」という気持ちが自分を突き動かす、そのような性格の人は強いと思います。


長期インターン仲間と意気投合、そして起業へ

──Flatt Securityを立ち上げたきっかけを教えてください。

豊田:代表の井手に誘われたのがきっかけです。

井手は、東大の同期で、当時は数少ない長期インターシップをする仲間でした。今でこそ「東大からスタートアップ」という話は聞くかもしれません。2016年時点では30〜40人クラスの中でも、長期インターン経験者は1人、2人程度でした。

そんなマイノリティな存在だったので、井手と僕は知り合ってすぐ打ち解けました。

卒業して時間が経つので確かなことは言えませんが、いまや多くの学生さんが起業を見据えて、長期インターンをしていると思います。そんな状況だったら、井手と僕は出会っていなかったかもしれませんね。

東大で友人と起業。論理と創造力でエンジニアの安全体験つくる
RubyKaigiに参加する、豊田さん(写真左から2人目)

──長期インターンではどのような経験をされたんですか。

豊田:出張撮影サービスを展開するラブグラフさんで、UIデザインやWebデザインを経験しました。今やmixiによるM&Aを成功させて、僕自身も追いかけている企業です。

そんなラブグラフさんも、僕がインターンを始めた当時は、正社員10人程度の規模でした。スピーディーに事業を拡大していった様子を、肌で感じられたのは大きいです。あの経験は、僕自身の起業や組織づくりのヒントにさせていただいています。

UI/UXデザインにこそ「ロジカルさ」が大事

──「UI/UXデザイナー」という職種は注目されてますか。

豊田:この5年で、注目度が上がっている感覚はあります。昔は、世の中にデジタルプロダクト自体が少なかったので、多少デザインが悪くても使ってもらえました。

そこからプロダクトを扱うスタートアップが登場し、競争が激化してきました。もはや、UI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)をきちんと設計したプロダクトじゃないと、選ばれない時代に突入しています。

その流れに合わせて、僕のようなCCOや、CXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)といったUI/UXデザインに責任を持つポジションが登場しました。現場で制作するUI/UXデザイナーの需要も高まりつつあります。

ただ、自分がUI/UXデザイナーを採用する側という目線で考えると、まだまだ候補者が少なく集めるのは大変そうですね(笑)。

──UI/UXデザインにおいて大事なスキルがあれば教えてください。

豊田:UI/UXデザイナーは、多くの人がイメージしている以上に「ロジカルさ」が求められる職業だと思っています。

なぜ、文字のフォントを太くしたのか、ユーザーの導線はどうなっているのかなどを論理的に説明できないと、エンジニアをはじめチームメンバーの合意が得られないからです。

僕が尊敬するUI/UXデザイナーの先輩方は、ロジックの設計や言語化能力が優れており、それらを大事にしている印象があります。

東大で友人と起業。論理と創造力でエンジニアの安全体験つくる
Flatt Securityメンバーと話す豊田さん(写真右)

もちろん、ロジカルさだけでなく、純粋にものづくりが好き、クリエイティブな活動がしたいという感覚を持っていることも大事ですね。

この仕事に向いている人、向いていない人の資質とは何だと思いますか?

豊田 恵二郎
経験者豊田 恵二郎
株式会社Flatt Security

ものづくりが本能的に好きだけど、言語化にも向き合える素質が重要

UIデザイナーはソフトウェアとユーザーの境界、文字通りインターフェースをデザインする職業です。すなわち「ソフトウェア開発」の一部を担う役割であるわけですが、では、なぜソフトウェアエンジニアにはならなかったのでしょうか?


個人的な仮説として、デザイナーを志すのは絵を描いたり、模型を作ったり、写真・映像を制作したりと「ビジュアルに関わるものづくり」が本能的に好きだった人が多いのだと思います。UIデザインも広義に捉えればビジュアルを介したコ...

ミュニケーションの設計なので、そういった活動が本能的に好きかどうかが、エンジニアとしてロジックを記述することを本職とする人とのキャリアの分岐点だと感じます。 ところが、いざ業務としてUIデザインを行うとあまりにもロジカルな仕事だと気付きます。数百の候補の中からなぜその案を選ぶのか、プラットフォームのルールに従っているか、網羅的な仕様になっているか、ビジネス的KGIにつながる活動になっているか、説明が求められます。こういった言語化の営みが好きでなければ、どこかでUIデザインを辛いと感じてしまうかもしれません。 自分が尊敬するデザイナーは皆、両方の要素を兼ね備えています。 誰に言われるでもなく、業務でもプライベートでもクリエイティビティを追求する一方で、言語化も進んで行いチームでのコミュニケーションを円滑化する。こういった性質を持つ人がUIデザイナーに向いていると思います。 一概には言えないでしょうが、片方もしくは両方に当てはまらない人は向いていない傾向があると思います。


生粋のミリオタ、デザインとの共通点にハマる

━━豊田さんは、この仕事を始める前からものづくりをしていたんですか。

豊田:子どもの頃から、ミリタリーオタクでして、戦闘機の絵を描いたり、プラモデルを作ったりすることが大好きでした。実家に塗装ブースを作って、エアブラシで丁寧に色を付けていくのがとっても楽しかったんです。

ミリオタすぎて、大学では飛行機を研究したいと思い、航空宇宙工学科に進みました。

また、杉友くん(#11出演)と同じデザインサークルに参加していました。機会も恵まれて、大学1年生の頃から企業のロゴやWebデザインの作成などに携わらせていただきました。

東大で友人と起業。論理と創造力でエンジニアの安全体験つくる
豊田さんが学生時代に制作したロゴデザイン

航空宇宙とデザイン制作というと、一見するとバラバラに見えますが、僕にとってはものづくりという点では共通しています。

ただ、学生時代がもう10年ほど早ければ、スタートアップで働くこと、UI/UXデザイナーとして生計を立てることはあり得なかっただろうなと思います。今頃、博士課程に進むか、大企業に入社して、航空機を開発していたかもしれませんね。

今、UI/UXデザイナーとしてものづくりに携わっているのは、時代の流れなんだろうなと思います。

生成AI時代にも残り続けるプロセス

──UI/UXデザイナーとして、一番燃える瞬間は何ですか。

豊田:複雑なルールの中から最適なデザインを導き出す時は、一番燃えます。

僕がやっているBtoBのサービスは、BtoCのサービスに比べると、金融周りのルールなど社会的な規制に違反していないかが重要になります。それに合わせて、複雑な機能要件を設定し、画面に落とし込んでいくのは相当ハードな作業です。

模型でたとえると、数百あるパーツを、一つ一つ丁寧に塗り分けて、組み立てる感覚に近いですね。そんな緻密なデザインを作っていくところに、面白さを感じます。

──昨今、生成AIブームが来ていますが、UI/UXデザイナーの仕事はどうなると思いますか。

豊田:10年後にどうなるか分かりませんし、正直、仕事を奪われる恐怖が全くないわけではないです。Midjourneyなどの画像生成AIツールを駆使すれば、ロゴ案などは簡単に作ることができますから。

ただ、デザイナーの仕事が一気になくなるわけではないと思います。たくさんあるロゴ案から、自分が正解だと思うものを1つ選んで、最適な位置に配置していくクリエイティブな作業はたくさんあります。この点は、まだまだ僕たち人間が対応することになりそうですよね。

そして先ほどもお話しましたが、全体設計を描くために「ロジカルさ」が求められます。社内やクライアントにきちんと説明して、結果を分析し、次のデザインに生かしていく。

こういったプロセスは、まだまだ僕たちUI/UXデザイナーがやっていく領域だと信じています。

東大で友人と起業。論理と創造力でエンジニアの安全体験つくる

この職業について未経験の人に説明するとしたら、どんなキャッチコピーをつけますか?

「働くっていいかも」収録を終えて (1)

次回は、豊田さんのご友人で、Z世代クリエイターが集まるクリエイティブスタジオhicardで働く上江田楓さんへのインタビューを公開予定です。

番組や記事への感想はハッシュタグ「 #いいかも」とつけて、X(旧Twitter)に投稿してください。もし気に入っていただけましたら、ぜひフォローいただけるとうれしいです。

(文:中井舞乃、池田怜央、映像編集:長田千弘、デザイン:高木菜々子、編集:筒井智子、野上英文)

※ この記事に編成されている経験談は、記事作成時の経験談の内容と情報が異なる場合があります。

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