20代でビル購入 元リクルートが明かす成功する副業マインド

20代でビル購入 元リクルートが明かす成功する副業マインド

    過去の常識が通用しなくなり、組織に依存しない柔軟な働き方が求められつつあるVUCAの時代。日本にも、数年前から副業ブームが到来しています。そんななか、10年以上前から本業と並行して6つ以上の副業に取り組み、20代でビルオーナーになったのが新卒でリクルートに入社した弦本卓也さん(37)です。

    弦本さんは、1年目からさまざまな副業に挑戦し、27歳で東京・神保町に5階建てのビルを購入。購入した物件を20代の起業家が集まる“秘密基地”にするべく奮闘し、2023年に売却するまでの8年間、ビルの管理・運営を手がけてきました。

    まさに異色のキャリアをサバイブしてきた人生観や、信条について伺いました。

    目次

    弦本卓也さんプロフィール

    リクルート同期に感化され、起業に興味

    ── リクルート入社1年目から、複数の副業に取り組んできたそうですが、その原動力は何だったのでしょうか。

    弦本:実を言うと、大学4年生の時から学生起業していました。当時、リクルートの内定者は約100人ほどだったんですが、そのうち30人くらいが起業していたんですよ。

    プログラミングをやっていたこともあり、「自分も何か事業を始めたい」と思うようになって。そこでまずは、起業していた同期に1人ずつ会いに行ったんです。

    いろんな人にヒアリングしていくうちに、自分も感化されてきて。これはもう起業しちゃえと思い、特に事業内容が決まっているわけでもなく、リクルートへ入社する前に会社を立ち上げました。

    副業ブームの前から副業しまくりだったという弦本さん(撮影:古田島大介)
    副業ブームの前から副業しまくりだったという弦本さん(撮影:古田島大介)

    リクルートではSUUMOのインターネット広告を企画、運営する部署に配属されました。その仕事と並行して副業もやってきたわけですが、「新たに立ち上げては、事業を変えていく」ことをひたすら繰り返していました。

    0→1で思いつくものは全て試し、結果的に残った副業が6つだったというのが正しいですね。

    ── 具体的にはどんな副業を手がけていたんですか?

    弦本:芽が出るもの、そうでないもの、本当にたくさんやりましたね。

    最初は同期に勧められたイベント事業をやっていたんですが、飲み会イベントなどをしばらく続けていると、だんだんつまらなく感じるようになって。

    そこで音大や美大、ダンサーなど専門領域のスキルを持つ学生が活躍できる場を作りたいと思い、クリエイティブ表現を行う学生とパフォーマンスできる場所をマッチングするビジネスを始めました。

    音大生がピアノの置いてある飲食店でコンサートを開いたり、踊れる学生がクラブでダンスイベントをやったりと、イベント制作の事業を行っていました。

    あとは、高校がない沖縄の離島に教育実習をやりたい先生を送り込んで、学生向けの塾を開く事業もやりましたね。

    なかでも、リクルート1年目の終わりに立ち上げた「高専ベンチャー」は、現役の高専生を対象とした“高専支援団体”として、ビジネスが拡大していきました。

    もともと私が、長野工業高等専門学校の学生と出会う機会があり、そこで高専生の実力の高さや将来性を感じました。そこで「専門性や才能を持つ人の可能性を広げたい」という思いから、高専ベンチャーを始めたんです。

    本業と副業では“使う脳みそ”が違う

    ── うまくいかなかった副業はありますか?

    弦本:アイデアで頓挫したもの、始めてみたものの続かなかった副業も、数えきれないほどあります。

    プログラミングの基礎はあったので、Webディレクションや受託開発などの案件もやっていたんですが、契約書の内容がうまく理解できず、途中で収入が途絶えてしまった経験もありました。

    また、果物のリンゴに絵柄を入れる「マーキングリンゴ」を売るビジネスも考えたんですが、当時は事業化していくスキルが備わっていなくて、途中で諦めてしまいましたね。

    のちに購入する、弦本ビルのスケッチ(提供:弦本卓也さん、絵:池上里佳子さん)
    のちに購入する、弦本ビルのスケッチ(提供:弦本卓也さん、絵:池上里佳子さん)

    ── 本業と副業というマルチタスクに取り組んでいく上で、タイムマネジメントで意識したことは何でしょうか?

    弦本:本業と副業では“使う脳みそ”が違うので、私の場合はうまく仕事を切り分けながら取り組んでいましたね。

    上場前のリクルートは終電まで業務を行うこともよくありましたが、会社近くの賃貸物件に住んでいたので、夜中の1時半くらいまで仲間内と副業のミーティングや作業を行っていました。

    朝4時半くらいまで副業の時間を取り、自宅に戻って5時間くらい寝て、会社へ出勤するような生活スタイルを送っていたと思います。

    ── よく続きましたね(笑)。モチベーションを保つ工夫はされていましたか?

    弦本:やはり、周りに人がいるとモチベーションにつながりますね。

    高専ベンチャーを立ち上げたときには、実際に身銭を切ってマンスリーマンションを借り、事業を始めようとしたときに、リクルートの同期が遊びに来て。それ以来一緒に副業に関わるようになったんです。

    また、SUUMOで不動産に興味を持ったこともあって、会社近くの家賃18万円のタワーマンションの一室で仲間内4人で暮らし、寝食を共にしていました。それも副業を続けていくにはいい環境でした。

    副業は「楽しんでやる」こと。そして「仲間を作る」こと。この2つが大事になるのではと思っています。

    その上で、疲弊しないようにお金が回る状態を作っていくのが次のステップです。自分の中で意識していたのは「ラストワンマイルの努力」でした。

    1日働き詰めで体が疲れていても、最後のひと踏ん張りでメールを送ったり企画書を仕上げたりと「小さな成功体験」を積んでいくことで、ちょっとずつ自分に自信が持てるようになります。

    新しいことに挑戦する時は「型化」を意識

    ── 20代で通称“弦本ビル”のビルオーナーになったきっかけは?

    弦本:神保町の“弦本ビル”を購入したのは、不動産の売買仲介を行う営業の人から紹介を受けたのがきっかけです。正直、最初はビルを持つことに対して、戸惑いや不安がなかったわけではありません。

    ビル購入時の外観(提供:弦本卓也さん)
    ビル購入時の外観(提供:弦本卓也さん)

    その一方で、ビルを購入する資金は用意できると考えていました。

    SUUMOで広告企画を担当していた社会人2年目に、北新宿の4LDK新築戸建て3400万円の借地権物件を購入し、そこに住んでいたことがあるんです。

    翌年にはこの3400万円で購入した物件を4400万円で売却し、1000万円の利益を上げることができました。

    その売却益と副業やリクルートの収入で貯めた資金があれば、ビルの購入費用に充てられると目算を立てていました。

    また、弦本ビルの1階に入居する中華料理店は、家賃30万円を毎月納めている状況で、あとは2階から5階の入居者も集めることができれば、ビルを運営していける目処が立つと考えていました。

    あとは、この物件は駅近3分の好立地ながらも、築40年5階建て、かつ、飲食店と事務所と住居が混在している中古ビルという条件がネックになり、買い手がつきにくい“売れ残り物件”だったのです。この点が逆にすごく燃えたというか、やる気につながりましたね。

    興味を持たれにくい物件に光明を見いだし、将来の可能性に賭けてみる。そうした思いから、ビルオーナーになることを決めました。

    ビル購入の契約が決まってからの引き渡し期間は2カ月くらいあったんですが、入居者を探すために毎日人と会っていましたね。それこそ、月に100人くらいには会っていたと思います。

    飲食店、シェアオフィス、シェアハウスにコワーキングスペースなど、20代の仲間内で集まれる、大人の秘密基地にしたかったので、広告はあえて回さずに、人の紹介やご縁から入居者を集めていきました。


    内装をリニューアルしてコワーキングスペースに(提供:弦本卓也さん)
    内装をリニューアルしてコワーキングスペースに(提供:弦本卓也さん)

    ── ビルの管理・運営を行うなかで工夫したこと、苦労したことはありますか。

    弦本:私は同じことを繰り返すのが苦手で、常に新しいことに挑戦していくタイプなので、「型化」して手順に起こすのを心がけてきました。

    始めの1回目は現場に入り、2周目は自分なりのアレンジを加え、3周目は後任へ引き継いでいく。

    このような意識のもと、属人化せずに「仕組み」で回せるようにすることを大切にしていました。

    弦本ビルの滑り出しは好調で、20代の若き起業家に恵まれ、非常に“濃い”コミュニティの醸成ができたと思っています。

    やりたいことを実現する仕組みやコミュニティ構築など、弦本ビルを運営していくなかで、さまざまな経験を積み、その再現性を高めていくプロセスを学べました。

    そういう意味では、あまり苦労していないんですが、一蓮托生の関係を築いてきた起業家の事業が軌道に乗り、年齢も30代になると、後から入居してくる20代の人へ目がいかなかったのは課題でしたね。

    ここから多くの起業家や若手ビジネスパーソンの交流が生まれた(提供:弦本卓也さん)
    ここから多くの起業家や若手ビジネスパーソンの交流が生まれた(提供:弦本卓也さん)

    次世代へバトンを繋いでいくことが、弦本ビルではうまくできなかったんです。

    2023年には弦本ビルを売却し、そこで得た5000万円と、8年間のビル運用で貯めた1億円の計1.5億円を元手に、3年後を目標に「新・弦本ビル」を都心に建てる計画を立てています。

    そこでは世代問わずに助け合える場を作り、一人ひとりの可能性を世の中に広げていく活動をしていきたいと考えています。

    新・弦本ビルに来れば、やりたいことが見つかり、気軽に実践できる。そして、その場所に人が根付くことでコミュニティが生まれ、ビルの価値が高まっていく。このような循環を生み出していきたいですね。

    本業を頑張るからこそ、副業もうまくいく

    ── 1つの仕事に固執せず、「副業」という選択肢を選ぶ人も増えていますが、会社員以外の働き方を始める際に心がけるべきことは何ですか?

    弦本:「いきなり会社を辞めて起業はしない」、「副業はやりたいことをやる」の2つが重要なポイントです。

    初代「弦本ビル」のお別れ会の様子(提供:弦本卓也さん)
    初代「弦本ビル」のお別れ会の様子(提供:弦本卓也さん)

    私自身もリクルートで12年働いていました。本業と副業で得るものは全く違いますし、本業を頑張るからこそ、副業もうまくいくと考えています。逆に、副業が全然うまくいかなければ、本業をもっと頑張ったり転職して環境を変えたりするといいでしょう。

    後者でよくあるのが、「やりたいことが見つからない」という悩みです。それには、自分の過去を振り返ってみたなかで、最もモチベーションが上がった体験や出来事を思い出してみてください。

    興味・関心が湧いて、心の動いたものが見つかれば、そこに会社のスキルを掛け合わせてみる。そこから、空いた時間とお金で小さなプロジェクトから少しずつ始める。成功を求めず、失敗する前提で副業にチャレンジすると気が楽になります。

    「副業をやらなくては」というスタンスよりも、本業にしっかりと取り組みつつ、「やりたいときに副業に取り組む」ことが大事になってくるでしょう。

    (文:古田島大介、デザイン:高木菜々子、編集:富谷瑠美)