あのNTTが、2021年から管理職に向けたジョブ型制度を導入し、ブリヂストンも2022卒採用から職種別採用を開始——。
ここ数年、話題に上がることの多かった「ジョブ型」雇用が、大企業にもどんどん広まっている。
新卒採用でも、配属や仕事内容を会社に委ねる「メンバーシップ型雇用」を嫌う学生が増え、自分で職種とキャリアを決めるスタイルが支持を集めるようになった。
中でもソニーは、10年前から職種・コース別採用(以下、コース別採用)を実施する、ジョブ型雇用の先駆け的存在だ。
1960年代から社内募集制度を設けていたソニーは、2013年から新卒でもコース別採用を開始。2023年卒採用の時点では、98コースに拡大している。
上の記事で、ソニーの人事トップである安部和志さんは
「自分自身がソニーで『何をしたい』、または『何を実現したい』のか、それを考えてもらいたい」
と語っている。このことからも、主体的にキャリアを作り上げてほしいという思いが伝わってくる。
しかし、“ジョブ型先進企業”と言えるソニーが今年実施した社内調査によると、コース別採用で入社した21卒〜23卒の学生のうち、1割がコース別採用にネガティブな印象を持っていたそうだ。
インターンシップに参加する学生が増えたとはいえ、
職種についての理解が浅い
自分に合う職種がわからない
入社後のキャリアが制限されそう
などの不安を持つ人は一定数いるということだ。
そんな中、ソニーで働く若手社員たちは、こうした不安をどのように解消してきたのか。3人の先輩たちに話を聞いた。
—— まずは、自己紹介と、現在の仕事について教えてください。
田中:新卒1年目の田中 涼(たなか りょう)です。大学では工学部に通っていましたが、現在はソニー株式会社の人事総務部門で働いています。よろしくお願いします。
井上:新卒2年目の井上 南(いのうえ みなみ)です。ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社のイメージング&センシングデバイス開発部門で半導体エンジニアとして働いています。大学院では原子核物理学を専攻していました。
廣瀬:新卒1年目の廣瀬文香(ひろせ あやか)です。就活ではセールス&マーケティングコースに応募しましたが、今はソニーグループ株式会社の秘書部に所属しています。今日はよろしくお願いします。
—— 田中さんは理系学生だったわけですが、応募の時点で人事を希望したのはなぜですか?
田中:大学時代に学生団体に所属していた経験から、人材や組織を活性化させる仕事に強い興味を持つようになったからです。
人事の仕事がやりたくて、コース別で採用をしているソニーに応募しました。
職種別ではない採用だと、理系学生が人事系の部門に配属されることはめったにないんじゃないかと思いまして。
—— 工学部卒だと、メーカーやソフトウェア開発の仕事に就く人が多い印象です。
田中:私自身、今でもエンジニアリングやソフトウェアの仕事には強い興味があります。
けれどまずは、広い視野で経営を見てみたいと考えました。
—— 井上さんは理系の大学院からソニーに就職しています。そのまま博士の道を進もうとは思わなかったのですか?
井上:修士から博士に進むかどうかは、かなり迷いました。
でもある日ふと、「自分はモノを作ったり、データを解析したりすることが好きなだけで、対象は原子核でなくてもいいんじゃないか」と気づいたんですね。
そこから企業への就職に舵を切りました。
—— 原子物理学の研究から製品開発の世界に移って、戸惑うことはありませんでしたか?
井上:ソニーでは応募する段階で、担当する製品を絞ることもできます。そのため、同じ職種で働いている先輩の姿を入社前に想像しやすく、違和感を覚えることはありませんでした。
また、研究は10年後、20年後に結果が出る世界です。メーカーではそれよりずっと短いスパンで、自分の作ったモノが世の中に広がるという点に魅力を強く感じています。
—— 一方で、廣瀬さんはお2人と違い応募時と現職が異なる職種です。なぜそうなったのですか?
廣瀬:私はコース別採用に興味があったというより、ソニーのPurpose(パーパス)自体に惹かれて応募しました。
就職活動中に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurposeを知り、社会人になったら、感動を届けることを仕事にしたいと考えていたこともあり、絶対にソニーに入社するんだと心に決めていました。
それで、コース別採用への応募時は、顧客に感動を与えるソニーの製品に直接かかわることができる仕事は何かという観点から職種を探して、セールス&マーケティングを選びました。
ただ、面接を数回重ねるうちに、「秘書部はどうですか」と声をかけていただいて。
秘書部という部署自体をよく知らなかったので驚いたのですが、適性を見いだしてもらえたと感じ、そこから秘書部の仕事内容を詳しくヒアリングさせてもらいました。
—— ソニーグループのコース別採用では、廣瀬さんのように応募職種の変更を提案されることもあるのですね。
廣瀬:「ポテンシャル確認希望」制度というものがあり、私のように確認希望を出した学生には、会社から職種を提案してもらうケースもあるようです。
—— 応募したコースと違う職種を勧められたことに、不満はなかったのでしょうか?
廣瀬:はい、応募動機が「ソニーに魅力を感じたから」でしたので。
もちろん、セールス職やマーケターとしてソニー製品に携わること自体は魅力的だと感じていました。
しかし秘書部の先輩方と話していくうちに、役員をサポートするからこそ見えてくる、ソニー全体の軸があるとわかったんです。
私も自分の中に経営の目線を取り入れてみたいと思ったので、秘書としての入社を決意しました。