【直伝】キャリア支援のプロが教える、仕事を面白くする技術

2022年11月18日(金)

入社1年目、仕事がしんどい

—— 森数さんは、noteやSNSでも日々キャリア関連情報を発信しています。これまでずっと「仕事は楽しいものだ」と感じてきたのですか?

そもそも、「仕事は楽しいものだ」とは思っていません。「追求しがいがあって面白い」ものだと思っています。

たとえ楽しくないことが9割でも、残り1割が光り輝いているから踏ん張りがきく、というのが私の考えです。

そんな私でも、社会人1年目は、「仕事は面白いものだ」と感じたことは一日もありませんでした。むしろ「仕事ってこんなにもしんどいんや」と、苦しい思いを抱えながら働いていたくらいです。

—— どうして社会人1年目は仕事を「しんどいもの」だと感じていたのですか?

そもそもジェイ エイ シー リクルートメントに新卒入社した理由は、就職セミナーで聞いた「人材業界の仕事は、企業・求職者の2者から感謝されないと利益が生まれない3-winのビジネスモデルです」という言葉に感動したからです。

実際に入社してみて、セミナーで聞いた言葉にうそはなかったと思います。ただ、新卒で配属された新規開拓の営業が、致命的に向いていませんでした。

当時は今ほど転職が当たり前ではなく、人材紹介というモデルもあまり浸透していなかった時代です。

ビルの上から下まで飛び込み営業をすることもあり、でもまったく相手にしてもらえないというのが日常茶飯事でした。

新規開拓にストレスを感じるタイプでもあったので、価値を発揮できている感覚がほとんどなく、人材業界に入社した自分の選択を後悔したこともありましたね。

—— どのようなきっかけがあり、「仕事が面白い」と感じるようになったのですか?

入社して2年目に、法人営業からキャリアコンサルタントにジョブチェンジしたのがきっかけでした。

キャリアコンサルタントの役割は、求職者に真正面から向き合い、彼・彼女らが目指すゴールを明確にして、そこにたどり着けるようサポートすること。これは、私にとって得意な仕事だったのです。

(写真:iStock / FilippoBacci)

得意なことだったので、一生懸命にやればやるだけ成果が出ました。すると、価値を発揮できている感覚も日に日に増していきます。ストレスなく得意を生かせたことで、仕事がどんどん好きになりました。

未来のための今を生きる

—— 得意な仕事を見つけられたにもかかわらず、ドコモCS東海へと転職されています。9年間在籍した人材業界から離れたのには、どのような理由があったのですか?

ジェイ エイ シー リクルートメントを退職したのは、将来の市場価値を最大化させるためでした。

というのも、ちょうど2人目の子どもを妊娠したタイミングだったんです。小さな子どもがいる状態では、なかなかキャリアにドライブをかけづらい。育児と仕事を両立させるのは簡単なことではなく、制限なく働くことは困難です。

だから、先に選択肢の幅を広げようと考えました。

私のファーストキャリアは、成長中のベンチャー企業でした。引き続き同じようなフェーズ・規模の会社で働き続けることもできましたが、「ベンチャー企業」というピースはすでに持っています。

だから、「大手企業」というピースを獲得して、キャリアの幅を広げようと考えたのです。ベンチャーだけでなく大手を経験しておけば、発揮できる価値の総量が増えますから。

(写真:iStock / MIND_AND_I)

—— 社労士資格を取得されていますが、これも同じような戦略だったのですか?

これもドコモCS東海への転職と同様に、やがて子どもが大きくなったタイミングで、自分の市場価値を最大化させるための転職でした。

私は「採用領域に明るい」というピースと、「ベンチャーと大手企業を経験した」というピースを持っている。じゃあ、次はどんなピースを取りにいこうか。

そこで考えたのが、社労士の資格を取ることでした。

ひとくちに「人事」といっても、採用、教育、制度構築、労務……とさまざまなカテゴリーがあるんですね。これを一通り押さえておけば、なかなか獲得するのが難しい「スペシャリスト」のピースを取ることができます。

事務作業は苦手意識がありましたし、自由な社風で働く方が成果を上げられるタイプだと自覚していたので、ためらいもありました。

でも、小さな子どもがいる状態では、成果を出せる環境で働くよりもピースを集めることのほうが重要に感じられたのです。

当時は、常に未来のことを考えて、今を生きていましたね。

ピース集めのその先へ

—— 次にスタートアップのMisoca(現・弥生株式会社)へと転職しています。これは、キャリアにドライブをかけるタイミングだったのですか?

いえ、すごく長いのですが、まだピースを集めている段階です。

過去の経験から、大企業は向いていないと理解していたので、価値を発揮するためには成長過程にある企業で働く道を選ぶことになります。

しかし、ある程度の規模になってしまうと、基本的には職種別採用です。私であれば、おそらく人事として採用されることが濃厚でした。

でも、そのパーツはすでに持っています。そこで、既存のパーツで貢献しながらも、新たなパーツを獲得できるスタートアップに転職することにしたのです。

スタートアップはリソースに乏しいので、一人の社員が一つの役割だけを遂行するのでは、なかなか成長していきません。一人二役はもちろん、ときには三役を任されることも。

それは大変なことでもあるのですが、ピースを集めるのにはうってつけの環境でもあります。

(写真:iStock / Sushiman)

実際Misocaでは、人事組織を立ち上げ、アンバサダーを通じたコミュニティマーケティングを担当し、カスタマーサクセスもやって、オウンドメディアも立ち上げました。

短期間で一気にピースを獲得でき、なおかつ会社の成長にも貢献できたので、私にとって非常にいいキャリア選択だったと思います。

—— 次の転職先は、同じくスタートアップのキャスターです。

キャスターへ転職したのは、キャリアのドライブをかけるための、最後のパーツを取りにいくためです。

これまでを振り返ると、エージェントからキャリアをスタートし、人事労務のスキルを獲得して、Misocaではエンジニアリング以外のありとあらゆることを経験しました。

ここまでで、「周囲をサポートすることが自分にとっての幸福でもある」という価値観が得られ、それを実現するだけの実力も身に付いてきた実感はあったんです。

ただ、自分で数字をつくる(事業をつくる)のがやっぱり好きなんですよね。そのため、事業づくりのピースを取りにいくことにしました。

キャスターで得た経験は、私にとってかけがえのないものです。事業責任者を任せていただいたり、私の理想をつめ込んだエージェント事業「Apply」(現在はサービス終了)をローンチしたりするなど、これまでにない経験を積ませていただきました。

—— 現在執行役員を担うミライフへ転職したのは、ピースを集めるためでなく、キャリアのドライブをかけるためのアクションですか?

おっしゃる通りです。子どもが大きくなってきたのもそうですし、ようやく“ピースをそろえねば病”から解放されたタイミングで、価値発揮を最優先においた転職をしました。

私は、自分が価値を発揮するには、「好き」「得意」「価値観」という3つの観点があると思っています。好きで得意なことなら活躍できるイメージがあると思いますが、ここに価値観が重なると、より価値を発揮できるようになるんです。

(写真:iStock / FreshSplash)

例えば、あなたが「株式会社A」で好きで得意な仕事を担当していたとします。でも、「株式会社B」で同じく好きで得意な仕事をすると、より活躍できる。

同じ仕事なのに、この差は何から生まれるのか。

その背景にあるのは、環境要因です。つまり、会社のビジョン、文化、同僚とのコミュニケーション、上司との相性などとの価値観マッチですね。

私にとってミライフは、3つの条件すべてが満たされる環境でした。

私は人材領域で長く働いてきていて、なおかつ組織づくりや事業づくりのピースも持っています。群雄割拠の人材業界で、これから新たな挑戦をしていくミライフと、非常に相性がいいと思ったんです。

そして、なによりミライフは、私の価値観にフィットしている会社です。

私は、子どもたちに「働くって面白い」と思ってもらえる世界をつくりたいと考えながら、日々の仕事に向き合っています。

一方、ミライフは「子供たちのためにワクワクする未来を創る」とビジョンに掲げており、驚くほど働くモチベーションが一致しているのです。

また、ミライフで働くメンバーは、「人と人の心の機微に関心が高く、良いところを見つける天才」でもあります。

ミライフの社員から森数さんに寄せられたメッセージ

入社前に、人生を振り返った「ライフラインチャート」を共有したのですが、そこでいただいたメッセージには感動しました。

ミライフ代表の佐藤雄佑は、「性格のいい会社には優秀な人材が集まる」とよく言っているのですが、ミライフこそが性格のいい会社だなって。

「もう人材業界で働くことはない」と思っていたのですが、これまでに集めてきたピースが最も輝く環境で働くことを選択した結果が、ミライフへの転職だったのです。

目的がなくても望んだ結果になる

—— 若い世代には「やりたいことが分からない」という理由から、なかなかアクションを起こせずに苦しんでいる人が多くいます。森数さんもやりたいことがないタイプだと言っていましたが、働くことが楽しいと感じているのはなぜでしょうか?

その気持ちは痛いほど分かるのですが、結論から言うと、「自分の生かしどころを分かっていない」だけだと思います。

私は今でも、これといったやりたいことがあるわけではありません。言ってしまえば、“Willなし人間”ですよね。それでも働くことが楽しいのは、自分の価値観が守られていて、なおかつ集めてきたピースが輝く環境で働けているからです。

(写真:iStock / Cecilie_Arcurs)

私にキャリア相談をしてくださる方のほとんどは、「人生の目的や目標を言わなければいけない」かのように話します。それを言えないことが、あたかも悪いことのようです。

でも、そんなの分からなくて当たり前。人生の目的に気が付くのなんて、少なくとも働きはじめてから20年がたってからでしょう。

やりたいことや人生の目的が明確なら、いち早くそこに向かえばいいと思いますが、そうでないなら「いつでも軌道修正できる」準備をしておくほうが得策です。

「どんなときでも自分の意思で決められる」状態を維持するだけでも、十分に幸せを感じられます。

私はこれまで、完璧な環境が向こうからやってくるのを待つのではなく、目の前にある選択肢を比較して、やがて完璧に近づく道を選んできました。それで十分だったと感じています。

自分の生かしどころが分からないのであれば、まずは自分を知ること。どんなことに喜び、悲しみ、夢中になれるかを理解してください。

そうすれば、やりたいことがなくても幸せでいる方法が浮かびますし、自分の個性が生きる場所へと近づく道も見えてくるはずです。

目的や目標に向けて突き進む山登り型のキャリアと比較し、目の前のことに集中する川下り型のキャリアは、到着点が決まっていないために不安を抱える人が少なくありません。

でも、都度自分の感情に従って意思決定をするので、たどり着いたゴールは自分で望んだ結果になります。

(写真:iStock / andresr)

だから、安心してください。自分をよく知ったうえで、市場からのニーズをくみ取り、獲得すべきピースを集めていけば、きっと満足のいくキャリアになるはずです。

【完全解説】今、スタートアップ転職は「正しい」のか?

取材・文:オバラミツフミ、デザイン:松嶋こよみ、撮影:森数美保(本人提供)