「これからどのように生きていくか」を決めるうえで、大学生活は重要な意味を持つ。
学業に専念するも良し、サークル活動に精を出すも良し、アルバイトで社会経験を積むも良し。いかに時間を使うかによって、未来はいかようにもコントロール可能だ。
GoodpatchのUIデザイナーとして働く石黒澪(いしぐろ みお)さんが取った選択は、入学から半年での「休学」だった。
経営学部に所属するも、学校生活に抱いた違和感から、学校に籍を残したままインターンに力を入れることにした。
そこで出会ったのが、門外漢のデザインだった。情熱の注ぎ先が見つからず、「実家の天井をただ見つめて過ごすだけの日もあった」そうだが、現在はデザインを手がけたサービス「SUNTORY+」でグッドデザイン賞を受賞するなど活躍している。
石黒さんは、いかにして情熱の注ぎ先を見つけたのだろうか。「自分だけの判断基準を知ることができたなら、選択肢を絞ることも怖くない」と語る石黒さんに、キャンパスライフだけがすべてではない大学生活の使い方を教えてもらおう。
—— いったいどうして、大学を半年で休学することに?
大学を卒業したときの自分が、何者かになれている想像がつかなくなったからです。
初めての期末テストを終えた、3日後のことです。ちゃんと授業に出席していたのですが、テストが終わった途端に、身に付けたはずの知識がすべて抜け落ちていて……。
「継続的に勉強していないからだ」と言われたらそれまでなのですが、能動的に学んでいないことはすぐに忘れてしまうのだと、モヤモヤとした感情になりました。
大学では、興味のない分野の授業も「一般教養」として受講し、必死にテスト勉強をして単位を集めなければいけません。
もちろん幅広く学問を学ぶ重要性は理解できますし、そこでの経験が広い視野をもたらすことも想像できます。
とはいえ、「興味のない分野の勉強に時間を割いて、そこで得た知識を忘れていく」日常を真面目に過ごした先に待つ未来は、はたして自分の望むものなのだろうか、そのモヤモヤがなかなか消えなくて。
時を同じくして、取り組んでいた長期インターンでも、「このままではいけない」と思わされる失敗を経験しました。
長期インターンでの仕事は、かねて興味のあったマーケティングです。
高校生の頃から経営やマーケティングに関する本を読むのが好きだったため、大学受験をする際も、自ずと経営について学べる学部を選びました。
ただ、長期インターンでは、もともと興味があったからこそ、「その分野について無知ではない」という小さなプライドを捨てきれませんでした。その結果、思うように成長できなかったのです。
振り返ってみると、「好きだからこそ」フィードバックを素直に吸収できなかったのだと思いますが、当時は「好きな分野でさえ思うように活躍できない」という焦りに押しつぶされていました。
大学への違和感と、長期インターンで感じた「このままではいけない」という焦燥感。とにかく一旦休んで、自分の「好き」を見つめ直す時間を取るべきだと感じ、休学を決意しました。
—— マーケティングとデザインはまったく違う分野ですよね。休学してから、どのような経緯でデザイナーの仕事にたどり着いたのでしょうか?
休学してすぐは、何をすればいいか分からず、実家の天井をただ見つめて過ごすだけの日もありました。
自分の好きなことや得意なことを見つけるために休学したのに、そのためにやるべきことが分からない。
大学に入学する以前は、早くから経営に興味を持っていたこともあって、自分を特別であるかのように思ったこともありました。
でも、私は天才でも、サラブレッドでもなく、「やりたいことが見つからない」いたって普通の人間でした。
それを認めるのは悔しくもありましたが、そうはいっても自分を変えられるのは自分だけです。
簡単に好きなことを見つけようとするのは諦め、まずは今までの経験を振り返り、同じ失敗を繰り返さないことを目指しました。
たとえば私にとって、マーケティングのインターンで成長できなかった1つの原因は、「プライドの高さ」です。
「今までも勉強してきたのだから」というプライドのせいで、素直に失敗を認められないし、改善もできない。その結果、周りの仲間たちと高め合うことができず、自分だけが成長できない——。悪循環に陥っていたわけです。
そこで、今度はプライドがゼロの土俵に挑戦しようと決めました。
もともと、デザインの仕事に強い興味があったわけではありません。でも、イラストや漫画が好きだったので、興味はある。これなら、伸び伸びと楽しく学ぶことができるのではないかと、デザイナーとしての長期インターンをスタートしました。