やりがい迷子だった私が就職前に知った「没頭できる仕事」の見つけ方
2022年11月4日(金)
大学を卒業したときの自分が、何者かになれている想像がつかなくなったからです。
初めての期末テストを終えた、3日後のことです。ちゃんと授業に出席していたのですが、テストが終わった途端に、身に付けたはずの知識がすべて抜け落ちていて……。
「継続的に勉強していないからだ」と言われたらそれまでなのですが、能動的に学んでいないことはすぐに忘れてしまうのだと、モヤモヤとした感情になりました。
大学では、興味のない分野の授業も「一般教養」として受講し、必死にテスト勉強をして単位を集めなければいけません。
もちろん幅広く学問を学ぶ重要性は理解できますし、そこでの経験が広い視野をもたらすことも想像できます。
とはいえ、「興味のない分野の勉強に時間を割いて、そこで得た知識を忘れていく」日常を真面目に過ごした先に待つ未来は、はたして自分の望むものなのだろうか、そのモヤモヤがなかなか消えなくて。
時を同じくして、取り組んでいた長期インターンでも、「このままではいけない」と思わされる失敗を経験しました。
長期インターンでの仕事は、かねて興味のあったマーケティングです。
高校生の頃から経営やマーケティングに関する本を読むのが好きだったため、大学受験をする際も、自ずと経営について学べる学部を選びました。
ただ、長期インターンでは、もともと興味があったからこそ、「その分野について無知ではない」という小さなプライドを捨てきれませんでした。その結果、思うように成長できなかったのです。
振り返ってみると、「好きだからこそ」フィードバックを素直に吸収できなかったのだと思いますが、当時は「好きな分野でさえ思うように活躍できない」という焦りに押しつぶされていました。
大学への違和感と、長期インターンで感じた「このままではいけない」という焦燥感。とにかく一旦休んで、自分の「好き」を見つめ直す時間を取るべきだと感じ、休学を決意しました。
休学してすぐは、何をすればいいか分からず、実家の天井をただ見つめて過ごすだけの日もありました。
自分の好きなことや得意なことを見つけるために休学したのに、そのためにやるべきことが分からない。
大学に入学する以前は、早くから経営に興味を持っていたこともあって、自分を特別であるかのように思ったこともありました。
でも、私は天才でも、サラブレッドでもなく、「やりたいことが見つからない」いたって普通の人間でした。
それを認めるのは悔しくもありましたが、そうはいっても自分を変えられるのは自分だけです。
簡単に好きなことを見つけようとするのは諦め、まずは今までの経験を振り返り、同じ失敗を繰り返さないことを目指しました。
たとえば私にとって、マーケティングのインターンで成長できなかった1つの原因は、「プライドの高さ」です。
「今までも勉強してきたのだから」というプライドのせいで、素直に失敗を認められないし、改善もできない。その結果、周りの仲間たちと高め合うことができず、自分だけが成長できない——。悪循環に陥っていたわけです。
そこで、今度はプライドがゼロの土俵に挑戦しようと決めました。
もともと、デザインの仕事に強い興味があったわけではありません。でも、イラストや漫画が好きだったので、興味はある。これなら、伸び伸びと楽しく学ぶことができるのではないかと、デザイナーとしての長期インターンをスタートしました。
逆に、何も知らない世界だったからこそ、「楽しい」と「悔しい」を素直に感じることができました。
デザインにのめりこめた背景にあるのは、「手応え」と「遊び心」という2つの要素です。
自分が手がけたアウトプットで、顔の見えない誰かが喜んでくれる。その「手応え」をこんなにも感じられる仕事は、実はそんなに多くないと思っています。
いい手応えが感じられたら「次はもっと喜ばせたい」と学ぶ意欲につながるし、そうでないときでも「次こそは満足してもらおう」と悔しがることが自己成長のモチベーションになります。
遊び心とは、いわば自分の意思をアウトプットに乗せること。デザイナーを始めたころは、依頼されたものをつくることで精一杯でしたが、次第に自分だけの「プラスモアの部分」を付け加える余裕が生まれました。
遊び心を持って仕事に取り組めるようになると、そこに自分が存在する意味が生まれます。
プライドがゼロの、未経験の世界に踏み込んでいなければ、この「没頭感」は味わえていなかったのかもしれません。
自分にしかできないデザインを追求する環境として、Goodpatchが最適な環境に思えたからです。
以前のインターン先は、私にとって非常に有意義な場所でした。デザイン未経験の私を拾ってくれて、なおかつ挑戦する機会もたくさん与えてもらえて。
でも、スタートアップだったこともあり、デザイン業務に集中することが、どうしてもかなわなかったのです。
スタートアップはリソースの制約上、やらなければいけない業務が多岐にわたります。まだスキルが未熟な私がデザイナーとして一人前になるには、もっと集中的にデザインにのめり込む必要がありました。
Goodpatchは、会社のビジョンに「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」と掲げているくらい、デザインを大切にしています。そのビジョンは私の思いそのものでしたから、そんな環境で働けることは、私にとってこれ以上ない幸せだったのです。
私はインターンから入社しているのですが、当時Goodpatchは、デザイナー職のインターンを募集していませんでした。
それでも働きたい思いが強かったので、「挑戦するだけなら死ぬことはない」と自分を奮い立たせ(笑)、ダメもとで求人サイトの中途採用募集にメッセージを送ってみたところ、面白がって採用してもらいました。
もちろん、プライドが邪魔をして、うまくいかないときもあります。
頭では「プライドなんて足かせだ」と理解しているのですが、自分のデザインを否定されると、やはりネガティブな気持ちになってしまうのです。
そんなときはいつも、ある上司の「デザインはみんなでつくり上げるもの」という言葉を思い出しています。
実際に手を動かして、ユーザーが閲覧する画面をデザインしているのは、私たちUIデザイナーです。
しかし、それはあくまでUXデザイナーやPdM(プロダクトマネージャー)、そして何よりクライアントの方々の思いを引き継いだ結晶でしかありません。
だから、UIデザイナーは、「自分ひとりでつくっているつもり」になってはいけません。
上司の言葉を常に頭の隅に置き、チームで働くことを意識していると、自分を守るためのプライドが取るに足らないものだと思えます。
「ユーザにとってより良いものをつくるためには、どうしたらいいか」と考えたほうが、ずっといい時間だなって。
自己成長よりも、チームでつくるデザインの磨き込みこそが、私にとっての「楽しい」だと気付いてからは、フィードバックに落ち込む時間は一瞬で終わらせて、前を向けるようになりました。
「自分の感情に素直になること」です。
大学のテストに感じた違和感も、マーケティングインターンでの失敗も、その場で自分の中で重要な問題としなければ、いつの間にか忘れ去ってしまいます。
逆にいえば、一度感じた違和感をそのままにせず、なぜ違和感を抱いたのかをひも解いていけば、今後の人生を決める自分だけの判断基準が見えてくるのです。
自分に何が向いているか、何が好きかなんて、最初は分からなくて当然です。
それでも、とりあえず目の前のことに真剣に取り組んでみれば、それを好きか嫌いか、何をしている瞬間が幸せで心躍るのか、乗り気になれないのはどんなときかなど、自分の価値観に気付けます。
その価値観に従った先に、自分の「好き」な道が開けていくのです。
私の場合、マーケティングのインターンでの反省を踏まえて、未経験のデザインにチャレンジした結果、これまでにない「没頭感」を味わうことができました。
自分だけの判断基準を知ることができたなら、保険をつくらずに1つの選択肢に絞ることは、それほど怖くありません。
選択肢を絞ることに不安を感じるかもしれませんが、本気なら、不思議と周りの人たちまでもが真剣に向き合ってくれるようになります。
拍子抜けするほどシンプルですが、「失敗しても死なないから大丈夫」と自分に言い聞かせることです。
大学を休学したときも、Goodpatchにメッセージを送ってみたときも、最終的に大学を辞めてデザインを仕事にすると決めたときも、不安がゼロだったといえばうそになります。
特に大学中退に関しては、両親や今までお世話になった方々に反対されるのは目に見えていたし、納得してもらう理由を説明できる自信もありませんでした。
でも、それが自分に必要な一歩であることは確信していたのです。
プライドを守るためだけに今いる場所にとどまるよりも、大真面目に失敗して新たな判断基準を手に入れる方が、結果として得るものは大きいと私は考えています。
結果論になりますが、18歳の私が「大卒」の肩書きを守る代わりに、「デザイナー」という大好きな仕事に出会うチャンスを失っていたらと思うと……。過去の私の選択は、きっと間違っていなかったはずです。
もし日常に違和感を持ち、「このままではだめだ」と焦っている方がいるならば、なんでもいいから迷わず行動することをアドバイスします。
どのような環境にいても、自分を変えられるのは自分だけです。悩むことがあっても、「失敗しても死なない」と自分に言い聞かせて、次の一歩を踏み出してみてください。
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文:北川マユ、取材・編集:オバラ ミツフミ、デザイン:石丸恵理、撮影:遠藤素子