【5分解説】新時代のキャリアビルド「CxOキャリア」を知る
2022年10月5日(水)
今年6月、内閣府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針)において、「人への投資」「科学技術・イノベーション」「炭素・デジタル化」と並ぶ重点投資分野に「スタートアップ」が位置付けられた。
岸田文雄首相は、新設するスタートアップ担当相を山際大志郎経済財政・再生相が兼務する人事を発令。今後、スタートアップ企業を5年で10倍に増やす計画が、本格的に始動していくものと思われる。
こうした流れを受け、今後スタートアップへの転職事例が増えていくことが予測されるが、実は大企業からスタートアップへのキャリアチェンジがすでに増加し始めていることをご存じだろうか。
エン・ジャパンが運営する若年層向け転職サイト「AMBI(アンビ)」によると、21年4~9月に大企業からスタートアップに転職した件数が、18年4~9月比で7.1倍に増えているそうだ。
かつてスタートアップへの転職は、大きなリスクを伴うものという見方がされることもあった。しかし現在は、調達環境の改善などから、必要な人材を好待遇で採用する向きが見られるようになってきている。
ベンチャー企業のCxO(執行責任役職の総称)の平均年収は800万円前後とも言われており、高給で知られる投資銀行やコンサルティングファームと比較すると、おそらくダウンしてしまうだろう。
とはいえ、ある程度高い年収を確保しながら、ストックオプションによるアップサイドと稀有度の高い経験を得られることを考慮すれば、今日におけるスタートアップへの転職は「キャリアビルド」としての側面が強いといえるだろう。
CxOキャリアについて語る以前に、一度「CxOとは何か?」という問いに答えておこう。
CxOとは、 “Chief ~ Officer”と表記される、執行責任役職の総称を意味する。例えば、企業の最高経営責任者であるCEOはChief Executive Officer、最高執行責任者であるCOOはChief Operating Officerの略称だ。
CxOはもともと、主に欧米の企業で用いられている役職名であり、近年になってグローバル化を進める日本企業、スタートアップやベンチャー企業を中心に取り入れられるようになってきた。
ただ、本来的な意味合いと日本企業におけるCxOには、ニュアンスに若干の違いがある。
欧米企業の場合、経営と執行の分離が前提にあるため、取締役会の中で経営メンバーと執行メンバーが明確に別れている。ガバナンスを担うのが取締役会の経営メンバーで、CxOは執行を担うキーパーソンという区分けだ。
しかし、日本の場合、経営と執行の関係性が非常に近い。取締役が執行のトップを担うケースが多く、経営陣がCxOを兼ねている、というのが大半だ。
つまり、日本におけるCxOは、本来的に担うべき役割とは異なる枠組みで語られていることが少なくない。
とはいえ、企業のCxOを経験したことがキャリアにポジティブな影響を与えるのは、およそ間違いのない事実だろう。
実力が伴わない状態で「肩書きとしてのCxO」を担うのは本末転倒だが、例えばCFO(Chief Finance Officer)を名乗ることで、「ファイナンスの専門家」として立ち振る舞うことはできる。
よく言われる「役職が人をつくる」が正であれば、スタートアップやベンチャー企業へと転職し、そこからCxOを目指すルートは、今後の王道キャリアになっていく可能性もあるだろう。
今後よりメジャーになっていくであろう「CxOキャリア」を歩むには、どのようなアクションを取ればいいのだろうか。
本記事では、キャリアの道筋を鮮明に描くべく、CEO、COO、CFO、CTO、CMOの主要5職種に焦点を当て、「仕事の中身となりかた」について解説していく。
CEOとは、Chief Executive Officerの略で、最高経営責任者を意味している。企業が行う業務のすべてを統括し、経営方針から事業戦略の策定まで、あらゆる面でリーダーとなる存在がCEOだ。
近年は、複数の企業でCEOを歴任する「プロ経営者」や、ベンチャーを起業してCEOになる人も増えている。
現役のCEOは、ご自身の仕事をどのように定義しているのだろうか?
ココナラの南章行さんは、「論理的に答えを出せない問題に対して意思決定をし、選んだ道を正解にしていくというのが経営者の仕事である」と語っている。
経営をしていると、A案もB案も地獄、みたいな窮地における意思決定の場
経営をしていると、誰しも「解決不可能に感じられる壁」にぶつかるもの。それを乗り越えるために、自らの意思で選択し、その選択を正解にしていく。それこそがCEOの役割であり、手腕が問われるのだという。
南さんは過去のインタビューで、「会社を経営するために必要なプリンシプルをつくることと、日常で小さな意思決定をしていくことは、実は地続きです。それも、びっくりするくらいに」とも語っている。

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CEOを目指すのであれば、まずは「日常の些細な選択も自らの意思で判断するクセをつける」。そして、その意思決定に責任を持つことから始めてみてはいかがだろうか。
COOとは、Chief Operating Officerの略で、最高執行責任者を意味している。端的に言えば、「CEOが描いた中長期の経営方針をもとに、現場が目標達成できるよう日々の業務をサポートする」のがCOOだ。
役職上、COOは特定の担当領域を持たないことが多い。そのため業務内容を明確に定義することは難しく、「何でもこなせるジェネラリストが向いている」との声もある。
現役のCOOは、ご自身の仕事をどのように定義しているのだろうか?
Leaner Technologiesの田中英地さんは、COOを「理想の実行請負人」と定義する。「俯瞰し、問題・課題を定義し、解くこと」が役割であり、「与えられたリソース(お金・時間)の中で、次のステージに至るだけの成果を残せるか」という難題に向き合うのだそう。
”理想の実行請負人”
現役のCOOには、かつてCEOを経験していたり、事業責任者を務めたりした経験を持つビジネスパーソンが数多くいる。CEOを右腕としてサポートしつつ、現場の執行に責任を持つため、組織のトップに立った経験が生かされるのだろう。
COOとしてプロを目指すうえでは、役割が多岐にわたるからこそ、自分自身の専門領域をとがらせていくことが重要だ。
ミーミルのカスタマーサクセスであり、かつてユーザベースのCOOを務めた山中祐輝さんは、「役割が多岐に渡ったり曖昧になりがちだからこそ、COOは明確にコミットメント領域を決めて、それを内外に打ち出していくこと、その領域を『自分から』選んでいくことが非常に重要」だと語っている。
COOは名前の通り、CFOやCHRO、CROなどと異なり、特定の管掌領域を持たない曖昧な経営ポジションだと思っています。 そうであるが故、経営チームのバランサー的な役割を求められたり、実際にそのように広い守備範囲の中でコミットしているケースが多いと思います。 一方で、役割が多岐に渡ったり曖昧になりがちだからこそ、COOは明確にコミットメント領域を決めて、それを内外に打ち出していくこと、その領域を「自分から」選んでいくことが非常に重要です。経営チームの中で落ちていくボールを拾っていくことも必要な役割ですが、COOとして何を成すかを自身のWILLを軸に決めていかないと、特定領域で120%コミットしている他のCxOに比べて経営者としての自身のエッジを磨いていけないし、何よりも会社や事業の成長に自分の意思を込めることができません。 自分の意思を会社や事業に込めることができない経営者は、経営者としては失格です。COOという、守備範囲が広く色んな役割を任されるポジションだからこそ、自身の色(エッジ)を意識して、「何をしたいか」をベースにコミットメント領域を決めていく、「経営者としてのアイデンティティを持つ」ことが求められると思います。 逆に言えば、色んなことに巻き込まれることが多い分、色んな領域に接しながら種を見つけることができます。自身のWILLに自覚的であればあるほど、面白いチャレンジを見つけやすい、チャンスに恵まれた職種だと思います。
火中の栗を積極的に拾いながら、事業を成長させるための意思決定機会を多く持ち、それでいて自分なりの色を磨いていく。
華やかではなくとも、日常に転がる課題を責任を持って解決していったその先に、COOとしてのキャリアがあるのではないだろうか。
CFOとは、Chief Financial Officerの略で、最高財務責任者を意味している。企業の財務戦略を立て、執行する責任者で、資金面で自社の成長を支えるのがCFOだ。
とはいうものの、企業の成長フェーズに応じて、外部からの資金調達やM&A(合併・買収)を主導し、会計の透明性を担保するなど、任される範囲は幅広い。
現役のCFOは、ご自身の仕事をどのように定義しているのだろうか?
WACULの竹本祐也さんは、CFOを「最高トラブル責任者」と定義する。CEOが求める非連続な成長を実現するために、「偶発的とも思える“非連続なもの”が起こる可能性を上げるための、アセットの調達から配賦までをリスク・リターンに目を光らせながら行う」のだそう。
最高トラブル責任者
現役のCFOには、投資銀行やプライベートエクイティファンド出身者など、経営と財務の双方に明るいビジネスパーソンが数多くいる。
CxOはあくまで経営者であるため、財務に明るいだけでは、その責務は果たせない。
CFOは参謀として兵站を担うものである、ということをよく言われます。 CFOはCEOの参謀です。CEOは常に非連続な成長を求めます。しかし、“非連続な”成長だからと、偶発的に起こってラッキーだ、起こらなかったのは残念だと、環境に身をゆだねるは間違いです。その偶発的とも思える”非連続なもの”が起こる可能性をあげるためのアセットの調達から配賦までを、リスク・リターンに目を光らせならが行うのが、CFOの役割だと思います。 実現可能性をあげるためにCFOが行うことは「空・雨・傘」の思考です。 CFOは「空を眺める」ように、マクロ環境はもちろんCOOからの現場報告や、実際にトラックしているKPIなどの変化をみます。 そして、そこから戦況の行方を予想します。例えば、新しい事業が好調に推移しているとします。今までの事業に比べると運転資金が大きくなるその事業が、順調に拡大していることで、運転資金の回転期間が長期化しているとします。ビジネスモデルやKPIの状況を鑑みれば、キャッシュが心もとないくなるのではないか、これはまさに「雨が降ることを予想する」ことです。 キャッシュがないからと順調に拡大する事業の拡販をとめるというのはおかしな話です。そのため、財務基盤強化のために資金を調達し、なんならさらにその事業を後押しするような先行投資の資金も集めてくるようなことが、「傘を用意する」ことです。 上記を実現するために、ビジネスサイドではなくとも、事業やプロダクトそのものの理解を深め、そしてそれらの現況がどういった数値に表れるかを横断的に把握し、外部とのコミュニケーションも行うことが求められていると感じます。そのため、自分の管掌するコーポレート部門を超えて、ビジネス部門はもちろんのこと、株主や金融各社、提携先など社外のステークホルダーと密にコミュニケーションをとることを強く意識しています。 すべては、まわりのステークホルダーに価値を届けることに通じます。CFOはその価値を生み出す起点となるべきだと信じています。
竹本さんが「ビジネスサイドではなくとも、事業やプロダクトそのものの理解を深め、そしてそれらの現況がどういった数値に表れるかを横断的に把握し、外部とのコミュニケーションも行うことが求められている」と語るように、CFOを目指すのであれば、ファイナンスに軸足を置きつつ、プロとして会社を経営する腕力が求められる。
CTOとは、Chief Technology Officerの略で、最高技術責任者を意味する。名前の通り、自社プロダクトの開発戦略を司る役割で、短期・中長期で採用する各種テクノロジーの決定から開発戦略、研究開発の方針策定などを行うのがCTOだ。
現役のCTOは、ご自身の仕事をどのように定義しているのだろうか?
ARIGATOBANKの白石陽介さんは、CTOを「未来を自分で作る事ができる仕事」と定義する。「CTOはエンジニアや研究職ではなく、組織運営に関わる役割ですので、自らの範囲を狭めず、必要だと思った領域に対しては柔軟に学んでいく姿勢が求められる」のだそう。
未来を自分で作る事ができる仕事。
CTOには、技術選定の責任者という役割は当然のこと、VPoE(Vice President of Engineer:技術部門のマネジメント責任者)を設置してない組織では、開発部隊全般のマネジメントも求められる。
CTOとしての責務を果たすには、技術のプロフェッショナルであるだけでは不十分で、むしろ経営やマネジメントに明るいことの方が重要だという声もある。
コードだけを見ていてもCTOになることは不可能で、コードを取り巻く環境に目を向け、技術を軸に経営に寄与しなければならない。この事実を理解することが、CTOを目指す最初の一歩になるのではないだろうか。
CMOとは、Chief Marketing Officerの略で、最高マーケティングを意味している。自社のマーケティング活動全般を統括し、市場調査から戦略策定、実行までを指揮するのがCMOだ。
デジタルマーケティングの普及により、データ分析など関連部署との連携も増えていることから、求められる守備範囲は日々広がっている。
現役のCMOは、ご自身の仕事をどのように定義しているのだろうか?
ブランディングテクノロジーの黒澤友貴さんは、過去のインタビューで、「そもそもマーケティングは上段から考えなければ成果が出にくいものなので、コンセプトの設計や戦略の議論を放棄してしまうようであれば、特にCMOといったマーケティング責任者としては価値がありません」と語っている。

【黒澤友貴】明日から“マーケター脳”になる5つの書籍
マーケターは人気職種であり、SNSでも自身を「マーケター」と名乗って情報発信をしている人も少なくない。
しかし、マーケターを自称するアカウントの中には、手法の重要性ばかりを主張するものも散見される。プロの視点に立てば、これらはマーケティングの本質を誤解しているともいえるだろう。
手法を極めたからといって、マーケターとしての真価を発揮できるわけではないということは、DIGITALIFTの取締役を務める鹿熊亮甫さんの発言からも伺える。
マーケターのキャリアを歩むということは、エベレストを登っている感覚に近いと感じています。いわば、“終わりなき旅”です。学ばなければいけないことが多すぎて、どれだけ勉強し、実践経験を積んでも、なかなか一人前になることができません。

マーケターとは、売上をつくる人。未経験からプロになるには?
CMOを目指すのであれば、コンセプトや戦略といった、いわゆる“ビジネスの上流”から考える力が求められる。それを踏まえれば、必ずしもキャリアの出発点がマーケターである必要性はないだろう。
事実、JobPicksに経験談を投稿したCMOの方たちは、経営企画や法人営業、経理や人事といったさまざまな職種をバックグラウンドに持っている。
CEOからのジョブチェンジが少なくないことからも、経営の視座を持ちつつ、大上段から物事を考える思考を鍛えるのが良さそうだ。
CEOにくわえ、COOやCFOなどといった役職が一般化しつつある。
その一方、企業体系や事業戦略にあわせてCDO(Chief Design Officer)やCSO(Chief Strategy Officer)、CLO(Chief Legal Officer)やCPO(Chief Product Officer)といった役職を置く会社もみられるようになった。
最近では、CCO(Chief Culuture Officer)やCWO(Chief Wellness Officer)といったオリジナリティあふれる役職を設ける動きもあり、経営者のキャリアも多様になりつつある。
ユニークなCxOを設置する背景には、タグラインとして打ち出している向きもあるだろうが、経営に多様性が求められている証左ともいえるのではないだろうか。
本記事の最後に、NewsPicksに掲載された、エッグフォワード代表取締役社長・徳谷智史さんのメッセージを紹介する。
「ビジョン」と「能力」。CxOに必要な要素はどちらか【参加型】安宅和人氏らと描く「3年後の自分を変える」シナリオChiefという名がつくポジションは、これからも増えていくと思います。しかし、皆さんが何のために、何を成すためにCxOになりたいのか。重要なのはなることではなく、その先です。
CxOになるのはあくまで入り口であって、そのときに自分は何を成し得たいのか、組織をどのように変えていきたいのか、自身の言葉で語り、体現することが求められるのだと思います。
文・デザイン:オバラ ミツフミ、バナーフォーマット作成:國弘朋佳、バナー写真:iStock / mediaphotos