消費者至上主義で大逆転、大手出版社も期待するとある地方工場の秘密

消費者至上主義で大逆転、大手出版社も期待するとある地方工場の秘密


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100円ショップに足を運べば大概の生活用品は手に入り、ショッピングサイトにアクセスすれば同じ機能を持った幾つもの商品が目に付く。現代は、ものがあふれかえった、いわば「もの余り」の時代だ。


そんな時代において、生活者のニーズを捉えた嗜好品をヒットさせることは簡単ではない。ヒットの法則があるのであれば、何をおいても聞いてみたいものだ。


家業のプリント工場を継ぎ、IPグッズの企画・デザイン・製造を請け負う「ichinosai」を立ち上げた沼倉佑亮(ぬまくら ゆうすけ)、沼倉彬人(ぬまくら あきひと)兄弟は、どうやらその答えにたどり着くヒントを持っているらしい。


ichinosaiが手がけるのは、大手出版社やプロスポーツクラブのグッズ製作。これを企画から製造まで一貫して行い、ファンの心をくすぐるヒット商品をプロデュースしているそうだ。


ものが売れない時代にヒットを生むには、どのような視点が求められるのだろうか。


倒産の危機にあった下請け工場からスタートしたichinosaiの歩みを紐解き、「売れる商品企画」のヒントを探っていこう。

目次

本当に欲しい商品はどこにある?


—— 商品企画の経験がない状態から、アパレルグッズ製作の事業を立ち上げたと聞いています。


佑亮 私が東京から帰ってきたとき、実家は「Tシャツのプリント工場」でした。企画力はなく、言われたものを淡々とつくるだけの、いわゆる下請け工場です。


プリントに関する高い技術力を持っていたのですが、商流が分断されていたので、それをプレゼンする機会もありません。「こんな製品をつくれますよ」と提案しても、取引先である代理店には取り合ってもらえませんでした。

沼倉佑亮さんのプロフィール写真

ライブTシャツやスポーツクラブのユニフォームグッズを扱っていたこともあり、そもそも企画力を求められなかったというのもあります。売り出す商品の型が、すでに決まっている場合が多かったのです。


事業を成長させるプランはなく、営業活動で地道に売り上げを増やしていくしかない。これが、数年前までのichinosaiでした。


彬人 でも、兄の後を追って僕が秋田に帰った頃には、そうも言っていられない状況になってしまいました。新型コロナウイルスの影響を受け、イベントは軒並み中止になり、顧客の大半を失ってしまったのです。


このままでは、事業の拡大を目指すどころか、会社が倒産してしまいます。一刻も早く、「言われたことをやるだけの工場」から、変化しなければいけなかった。


そこで兄と2人で相談し、プリントよりも上流にある、企画やデザインを手掛ける新部門の立ち上げを目指しました。

沼倉彬人さんのプロフィール写真

—— 会社の窮地を救うために、現在の事業体へと舵を切ったのですね。とはいえ、経験を持たないお二人が、どのようにして事業を育てていったのですか?



彬人 Webデザインの経験はあったものの、商品企画をしたことはなく、いわゆる王道は知りません。だから、まずは消費者として「本当に欲しい商品」を考えることから始めました。


みなさんにも、好きなアーティストやアニメがあると思います。僕も昔から、アニメや漫画が大好きでした。


でも、関連グッズを購入したことがありません。「欲しい」と思える商品がなかったからです。


これまでのグッズには、人気キャラクターのイラストが前面に大きくプリントされていたり、漫画のコマがそのまま載っていたり、誤解を恐れずに言えば「着る人のことを考えていない」商品が多くありました。


僕はそれを、普段着として使う気にはなれなかったんですね。たしかにキャラクターは好きだけれど、もっとシンプルなアイテムを身に着けたいし、ペラペラのTシャツは買う気になれないし……。



—— 消費者の視点に立てば、ヒット商品を生み出し、現状を脱することができると考えた?


もし僕の感覚が「正しい消費者感覚」なら、そこにテコ入れをすることで、もっと売れる商品がつくれるはずです。


専門的な知識はないけれど、本当に欲しい商品をイメージすることならできる。そして、それを形にする技術力もあります。


「消費者が本当に欲しい商品をつくることで、消費者として感じているマーケットへの不満を解決しながら、自社の売り上げも伸ばしていく」。これが、企画から製造までを一気通貫で手がけるichinosaiのスタートでした。


仕事が人を育て、技術を授ける

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