2021年の暮れ、一つのバズワードがテック界を席巻した。「Web3」だ。
解釈は一様ではないが、誰もがコンテンツを管理されることなく公開できる非中央集権的なインターネットが「Web1.0」であり、巨大テック企業がネットを中央集権化したセカンドウェーブが「Web2.0」、分散型テクノロジーを活用して、再びコンテンツの非中央集権を目指す動きが「Web3」である。
この「Web3」を、ムーブメントへと押し上げている一つの要因に「NFT」がある。
NFTとは「Non-Fungible Token(ノンファンジブル トークン)」の頭文字を取ったもの。簡単に説明すれば、模倣が容易にできるデジタル作品が「正規品」であることを保証するトークン(暗号資産)だ。
NFTは分散型テクノロジーによって成り立っており、作品によっては数十億円を超えるなど価値が高騰していることから、Web3の広がりを後押ししている。
このNFT業界で、ひときわ異彩を放つプロジェクトがある。「VeryLongAnimals(通称:ベリロン)」だ。
頭が長く伸びた動物のドット絵は、発売から1週間足らずで熱狂的なファンが生まれ、現在までに総取引高2000万円を超える国内トップクラスのコレクションになった。
驚くべきは、「VeryLongAnimals」のファウンダーが、京都大学大学院在学中の学生だったということ。「NFTについてイマイチ分からない」状態でリリースした作品が、あれよあれよと人気になった。
ファウンダーであるAkimさんは、Web3を語るうえで欠かすことのできないNFTの世界で、いかにしてキャリアをつくってきたのか。
立ち上げの経緯から、これからの展望までを聞き、Web3領域でキャリアをつくるヒントを探っていこう。
—— Akimさんはもともと、Web3に関心を持っていたのですか?
「Web3」という言葉は聞いたことがありましたし、概念として何となくの理解はありましたが、「よく分かんないな」というのが正直なところでした。
ですから、関心を持っていたかと問われると、「No」です。
実際、大学院在学中は就職活動もしていたくらいで、現在のようなキャリアを歩むとは夢にも思いませんでした。
—— ではなぜ、Web3の世界に?
そもそものきっかけは、就職するのをやめて、起業したことです。
スタートアップで働いていたことも影響しているのですが、就職するよりも自分で事業をつくるキャリアに魅力を感じ、入社を目前に内定を断ってしまったんですね。
ただ、立ち上げた事業はうまく成長しませんでした。
VTuberが家庭教師として勉強を教えてくれるサービスをつくっていたのですが、生徒さんは一人しかおらず、それで生計を立てていく見込みが立たなくて……。
—— 立ち上げた事業をたたみ、Web3での事業を考えた……?
いや、その時点でも、Web3に関する知識は「ほぼゼロ」でした。
事業を続けるつもりはありませんでしたが、だからといって代替案すら持っていないのが当時のリアルです。
そこで、空気を変えようとシリコンバレーを訪ねました。「起業が盛んな地域で、アントレプレナーシップを学んでみようかな」くらいの軽い気持ちでしたが、とりあえず何かしらのヒントが得られると思ったんです。
そこで知ったのが、NFTの「異常なまでの盛り上がり」でした。
ミートアップで知り合った若い起業家たちは、「Web3」や「NFT」といったワードを口々に話しており、なるほど、ここには大きな市場があるのだと。
自分がその領域で事業をつくるかは別として、好奇心が湧きました。「デジタルアートが、びっくりするくらいの値段で売れる」わけですから。
ただ、好奇心が湧いただけで、事業をつくろうと考えていたわけではありません。
絵で食べていけるほどの画力があるわけではないですし、ブロックチェーンについての理解があったわけでもないので、自分ごとではありませんでした。
—— では、「VeryLongAnimals」はどのようにして生まれたのですか?
生活費に困り、とりあえず絵を描いて売ってみたんですよ。
シリコンバレーは想像以上に物価が高く、そのうち「明日食べるメシにも困る」ような状態になるのが見えていたので、「生活費の足しになればいいな」と描いたドット絵が「VeryLongAnimals」なんです。