三井物産「異例の新卒5年目社長」を育てた、結果を出す人の行動学

三井物産「異例の新卒5年目社長」を育てた、結果を出す人の行動学


この記事に登場するロールモデル

商社といえば就活生にとって憧れの的。例年、就職人気ランキングでは上位に顔を出している。


特に5大商社の人気は高く、その一つである三井物産は「人の三井」として有名だ。24卒の就活人気ランキングでも7位にランクインしており、高い注目度を示している(ONE CAREER「東大京大24卒就活人気ランキング」6月より)。


そんな三井物産で、「新卒入社5年目のジョイントベンチャー社長」として異例の抜擢を受けた社員がいる。陣内寛大(じんない のぶひろ)さんだ。


今年4月、KDDIとの合弁で人流予測プラットフォームの「GEOTRA(ジオトラ)」を立ち上げ、運営会社の社長に就任したのだ。

GEOTRA(ジオトラ)

大規模でグローバルなプロジェクトを手掛けることが多いため、「若手社員の裁量権はそれほど大きくない」と言われることもある総合商社で、陣内さんはどうチャンスをつかんだのか。


キャリア1年目からの奮闘を紐解くと、誰もがマネできそうな3つのノウハウが浮かび上がってきた。

三井物産・GEOTRA代表取締役社長の陣内寛大さん 経歴

目次

自ら動く主体性と「任せる文化」


—— 三井物産に入る前は、大学院でコミュニケーションロボットの研究をしていたと聞きました。なのになぜ、総合商社へ就職を決めたのですか?


自分と似た学歴の人があまりいない環境で働きたいと考えたからです。


大学院で研究をしていた時は、企業と共同研究して実用可能な商品を作ることが特に楽しかったんですね。


それで、理系の研究者になるよりも、自分で作ったモノの価値を世の中に問うことができるビジネスサイドに行きたいと、常々考えていました。

陣内寛大さん

しかし、IT系のメガベンチャーなどには、自分のような知識を持つ人がたくさんいます。他に良い就職先はないかと探していた2017年ごろに、三井物産の主催する「AIインタラクティブセミナー(現:DX/理系アントレプレナー人材セミナー)」へ参加したんです。


今で言うDX(デジタル・トランスフォーメーション)化が今ほど重視されていない時期でしたが、とても可能性を感じて入社を決めました。


—— 入社後は経営企画部へ配属されたそうですね。三井物産では新卒で経営企画部に入ることも珍しくないのですか?


新卒で経営企画部に配属されたのは、私が初めてのはずです。


私が入社した2018年当時は、AIやDXの文脈で商社に入ってくる人もあまりいませんでした。


そのため、社内でこれからDXを進めていくのに、テクノロジーに精通した人が内部にいないのはいかがなものかと問題になり、技術知識を持つ社員が経営企画部のデジタルトランスフォーメーションチーム(当時)に集められていたのです。


そこで自分にも白羽の矢が立ちました。


現場経験を積まずに経営企画部に配属されるのは異例だったので、社内でも議論があったと聞きましたが、「若い人にやらせてみようよ」という声が上がり、配属に至ったようです。


そういう部分から、三井物産には「任せる文化」があるのだと思います。


——「任せる文化」とは?


三井物産には、「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」という、社風を表す言い回しがあります。実際にも、「成長を望む若手には機会を与えよう」という雰囲気があると思います。


特に、当時の私が配属されたデジタルトランスフォーメーションチームは、組織ができたばかりです。先輩から「これをやって」と指示される業務もほとんどありませんでした。


だから、入社1年目から、自分で仕事を見つけてくる必要があったんです。

同業の先輩や同僚にアドバイスされたことで、最も仕事上の教訓になったことは何ですか?

陣内 寛大
経験者陣内 寛大
三井物産株式会社

『人が仕事をつくり、仕事が人を磨く』

三井物産には『人が仕事をつくり、仕事が人を磨く』という言葉があり、入社以来様々な先輩方よりこの言葉を引き合いに出しながら様々なアドバイスを受けた。

何も持たない商社であるからこそ、自ら主体的にチャレンジングな事業を構想し、関係者を巻き込み事業化し、かつそのチャレンジを通して自らのビジネスパーソンとしてのレベルを高め成長していく、そういった一連のチャレンジと成長自体が商社パーソンの本質で有り醍醐味であるという点は、今現在取り組んでいる「低...

炭素化社会、ポストデジタル時代を見据えた新たな社会インフラ・エネルギーインフラ」の領域でも不変であると信じ、日々仕事に取り組んでいる。


でも、経験も人脈もない私には、創造性のある案件の企画を立てることすらできず……。


悩んだ結果、1年目は将来的に事業になりそうなテーマを探すことに精いっぱい取り組もうと決めました。


具体的には、AIやスマートシティなどの最新事例が学べるセミナーや、幕張メッセのような大規模施設で行われるビジネス展示会、大使館で行われる外国のスタートアップとのミートアップなどにひたすら足を運び、とにかく人脈を広げました。

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Photo:iStock / Pinkypills

そこで得た人脈を頼りながら、新しく面白そうなテクノロジーを使った新規事業を企画していました。


—— 1年目から1人で新規事業を考えるのは、孤独ではありませんでしたか?


新規事業を立ち上げて軌道に乗せてきた先輩たちが身近にいたので、つらくはありませんでした。


三井物産の中でも、新規事業の立ち上げなどで良い意味で“暴れている”社員は、事業部を超えて横でつながっているんですね。


自分が「これをやるべきだ」と考える案件を形にするために、誰かに指示される前に猪突猛進していく先輩たちの姿を見て、あきらめずに動き続けることの大切さを学びました。

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Photo:iStock /Eoneren

この頃、とある先輩に教えてもらった言葉で印象に残っているのは、「新規事業は上司がGoサインを出すものではないよ」というもの。


新規事業をやりたいなら、何事も自分から動き出す必要があるという意味です。


勝手に打ち合わせをして、勝手にお客さまの興味を調べて。需要がある根拠を示すことで、初めて上司に「いいね」「やってみたら?」と言ってもらえる。


三井物産が主体性第一のカルチャーであることを、言葉と背中で示してくれました。


そんな先輩たちをマネして、ひたすらに新規事業を構想し続けることで、私も1年目の後半から企画がやっと形になり始めました。


立ち上げと失敗、学びのサイクル

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