国内男子プロバスケットリーグ「B.LEAGUE(以下、Bリーグ)」で、デジタルマーケティングの模範例として注目を集めるクラブがある。
神奈川県川崎市に拠点を置く、川崎ブレイブサンダースだ。
同クラブの運営は、2018年からDeNAが行っているが(事業承継)、そこからの実績がすごい。
Bリーグ発足でバスケ人気が高まったとはいえ、プロ野球やJリーグなどに比べるとまだまだファン層は薄い。そんな状況下で異例の成長と言える。
この躍進を支えたのが、今年5月に出版された『ファンをつくる力 デジタルで仕組み化できる、2年で25倍増の顧客分析マーケティング』(日経BP)の著者、藤掛直人(ふじかけ なおと)さん。
DeNAには2014年に新卒入社し、ブレイブサンダースの運営会社「DeNA川崎ブレイブサンダース」の立ち上げから携わった社員だ。
まだ30代前半、最初は従業員数名だった組織で、どうやって変革を成功させたのか。
聞くと、「やってきた施策は、ほとんどが失敗から学んだもの」だと言う。彼のキャリアを振り返りながら、成功の裏にあった失敗学を紹介していこう。
おかげさまで重版も決まり、ホッとしています(笑)。
—— SNSや動画活用など、本に載っているさまざまなマーケティング施策は、やはりDeNAで学んだものですか?
DeNAに新卒入社してから4年ほど、ゲーム事業部でプロデューサーをやっていたので、そこで学んだ仕事の基本は確かに役立っていますし、応用できているスキルも多いです。
でも、ゲームとバスケではマーケティングの前提条件が異なるので、本に書いた施策はほぼ全て、ゼロベースで試行錯誤しながら行いました。
—— 前提条件の違いとは、「デジタルで完結するビジネス」と「リアルビジネス」の違い?
そうです。後ほど詳しくお話ししますが、データの取り方一つをとっても勝手が違うので。
ゲームプロデューサー時代に学んだことで、今、一番生かせていると感じるのは、高速にPDCAを回す習慣です。
ファンの方々との向き合い方も生きている実感がありますが、それ以外は本当に手探りでした。
—— ブレイブサンダースの運営を承継してからたった3年でリーグNo.1の動員数を達成できたのは、何がカギだったのでしょう?
大ざっぱに言うと、社内外の方々をうまく巻き込めたからだと思っています。
例えば公式YouTubeチャンネルを使った施策で言うと、2021年にUUUMさんと正式なパートナーシップを締結する以前から、「はじめしゃちょー」さんのような有名YouTuberとのコラボ企画を実施してきました。
UUUMさんとの最初のコラボは、足掛け1年くらい、お願いし続けて実現したものなんです。
ブレイブサンダースの公式YouTubeチャンネルを立ち上げた直後、動画もまだ1本しかアップしていない状態でアポを取り、「UUUMバスケ部さんとコラボさせてください」と打診したのが最初の一歩。
そこから継続的にアプローチしつつ、配信実績もつくる中で、「本気だ」と感じていただけたのかなと。
TikTokでの情報発信も、やり始めてすぐに人づてで(運営会社の)ByteDanceさんをご紹介いただき、どう運用するのがいいかを相談してきました。
その結果、ByteDanceさんともパートナーシップを組ませていただくことになりまして。フォロワー数で言うと、日本のプロスポーツクラブでは読売ジャイアンツに次ぐ2位になっています。
—— 普通は「ググって他社事例を調べる」くらいしかやらないところを、いきなり“本丸”に飛び込んだわけですね。なかなかできないことです。
人を巻き込む大切さは、DeNA入社1年目にやらかした大失態を通じて学びました。
初めて担当した新規アプリゲームの開発プロジェクトがうまく行かず、数千万円レベルの損失を出してしまい......。社会人になって最初の挫折でした。