顧客をフォローアップし、ビジネスの成長をサポートする職種「カスタマーサクセス」。
日本でも、SaaS(ネット上で必要な機能を必要な分だけ使えるソフトウェアサービス)の普及に伴って、日に日に注目が高まっている。
しかし、盛り上がりを見せる一方で、仕事に対する正しい認識が広がっていないのも事実。
営業職に分類されるカスタマーサクセスだが、フィールドセールスとインサイドセールスとの違いや、似ている職種として挙げられるカスタマーサポートとの違いなどを、詳しく説明できる人はそう多くない。
日本国内で初めてカスタマーサクセスに関する実行メソッドを解説した書籍として知られる『カスタマーサクセス実行戦略』(翔泳社)の著者で、創業当時からカスタマーサクセスという概念に向き合い続けてきたSansanのカスタマーサクセス部で戦略立案のサポートを行う山田ひさのり(やまだ ひさのり)さんは、「カスタマーサクセスは、プロダクトをPMF(Product Market Fit)に導く人」だと説明する。
今後も注目度が増していくであろう注目職種のやりがいや苦労、活躍する人の特徴や将来性について、業界の第一人者に語ってもらった。
—— 求人が急増している職種の一つに、カスタマーサクセス(CS)があります。どのような背景で注目が集まっているのでしょうか?
いくつかの要因が考えられますが、SaaS(Software as a Service)ビジネスが、世界中で成長していることが一番に挙げられます。
SaaSビジネスは、パッケージのソフトウェアを販売する従来のビジネスモデルとは違い、導入後のチャーンレート(解約率)を下げ、顧客に長期間にわたってサービスを利用してもらうことで成長します。
そのためには、顧客の不満に耳を傾け、サービスを改善して価値を生み出し続け、顧客のビジネスを成功に導く必要があります。このプロセスに責任を負う職業がカスタマーサクセスなので、SaaSビジネスが成長し続ける限り、カスタマーサクセスの需要は絶えないのです。
また、「SaaSビジネスが成長している」ということは、「顧客に選ばれ続けるビジネスモデルに注目が集まっている」ということの示唆でもあります。
顧客満足度を高め、LTV(Life Time Value:1人、あるいは1社の顧客が、生涯を通じて企業にもたらす価値)を最大化することの重要性が浸透しつつあるのも、カスタマーサクセスのニーズを高騰させている要因になっているんです。
—— カスタマーサクセスという職業を語るうえで、「SaaS」や「サブスクリプションモデル」といった枕詞がセットになっている印象があります。こうしたビジネスモデル以外でも、カスタマーサクセスのニーズはあるのでしょうか?
基本的にはBtoBのビジネスと相性が良いのですが、BtoCのビジネスであっても、少なからずニーズがあります。
例えば、BtoCビジネスの代表格である消費財では、顧客に選ばれるためのアクションをマーケティング部署が担当します。
しかし、どのようなアクションを取るべきなのかが、プラクティスとして整っているわけではありません。ここで、カスタマーサクセスの発想やメソッドが生かされるケースは多々あります。
つまり、カスタマーサクセスという職種が誕生する以前から、その役割を担う職種は存在していたわけです。消費財であればマーケティングでしょうし、腕のいいフィールドセールスは、深い顧客理解によって顧客を成功に導いてきました。
近年のカスタマーサクセスの盛り上がりは、概念としては従来から存在していた「顧客に選ばれ続ける」というアプローチを、効果的に実践しようという流れなのです。