4年半で、生徒数が日本一に──。
2016年4月に開校した「ネットの学校」角川ドワンゴ学園N高等学校(以下、N高)が、学校教育の世界で話題を呼んでいる。
10月15日の発表によると、開校時は1482 名だった生徒数が、2020年10月1日時点で1万5803名へと拡大。3月には初の東京大学合格者を輩出した他、就職・インターン実績も年々増えている。
2021年4月には、さらなる生徒数の増加を見越して、2つ目の通信制高校となる「S高等学校」(以下、S高)の新設も発表。茨城県つくば市に拠点を構え、筑波大学やJAXA筑波宇宙センターなどの科学研究機関とも連携する予定だ。
ITを駆使した独自の学習体験を提供してきたN高が、その特徴をより深めたカリキュラムをS高で展開していく。
興味深いのは、このS高の初代校長に就任するのが、ソフトウェアエンジニアだということだ。これまでN高のプログラミング教育全般を統括していた吉村総一郎さんだ。
なぜ、エンジニアが校長を務めることになったのか。本人に、その経緯を聞いた。
吉村さんは、新卒で入社したSIerのインクス(現・SOLIZE)に始まり、2012年に転職したドワンゴでも、一貫してソフトウェア開発を行ってきた。
『ニコニコ生放送』のプラットフォーム開発でリーダーを務め、40〜50名のソフトウェアエンジニアを率いる社内でもトップクラスのエンジニアとして活躍していた。
学校教育とは無縁だったが、キャリアをシフトしていくきっかけになったのは、2つの出来事があったからだ。
一つは、2014年に発表されたドワンゴとKADOKAWAの経営統合だ。
エンジニアではない社員も全員プログラミングを習得するという号令の下、「準エンジニア試験」に合格すると手当が付くという制度の準備にかかわることになり、初めてプログラミング未経験者に教える立場を経験した。
もう一つが、2015年、N高設立に動いていたドワンゴの川上量生氏(かわかみ・のぶお / 現・角川ドワンゴ学園理事)にかけられた一言だ。
「吉村君、たくさん部下がいて新卒・新人社員の教育もやっているでしょ。その経験を生かして、N高のプログラミングコースの教材を作ってくれない?」
Webサービスの開発から、教育の世界に。戸惑いはなかったのか。
「結構すんなり受け入れました(笑)。やる意義のある仕事だと思えたからです」
その裏側には、ドワンゴで新卒採用を担当するようになった頃から感じていた、学校教育への違和感があった。
「情報工学を学んでいた学生を面接しても、プロダクト開発で本当に使える技術を知らないことが多々ありました。例えば、データベースの基礎理論は知っていても、Webサービスの運営で何がデータベース構築の肝になるのかを知らないのです。チームで大量のコードを書く作業も、やったことがないという学生が多くいました」
大学で教わる内容と、企業が行うプロダクト開発で必要な知識には、大きな乖離があると痛感した。
「つまり『作りながら学ぶ』という基本ができていない。ソフトウェアの力を使って、身の回りの問題を解決するという経験が足りないのではないかと感じていました」
そんな課題意識を持つようになっていた吉村さんは、「中学を卒業した人がプロのエンジニアとして就職できるようにする教材を作ってくれ」という川上氏のオーダーに即答する。