「コミュニケーションが取りにくい」「業務が属人化してチームに一体感がない」「メンバー育成が難しい」。
リモートワークが一般化したことで、こんな悩みを抱える人が増えている。
特に、より良い企画と成果物を出すために仲間とのコラボレーションが重要なクリエイティブ関連の仕事は、働き方の自由と裏腹に、一体感が減ってしまうというジレンマに陥りがちだ。
しかし、デザインカンパニーのグッドパッチが2018年に発足したフルリモートデザインチーム「Goodpatch Anywhere」の五ヶ市 壮央(ごかいち たけひさ)さんは、国内外に100名以上のメンバーが点在しているにもかかわらず「リモートの難しさを感じたことはほとんどない」と言う。
参画メンバーの多くはフリーランスで、手掛けるのはさまざまな企業のUI / UXプロジェクト。チーム内のみならず先方とのコミュニケーションも密に行う必要がある。
それでもリモートチームを問題なく機能させるコツは、環境づくりとオンボーディング(受け入れ研修)にあるようだ。
Goodpatch Anywhereの立ち上げ初期からチームづくりを手掛けてきた五ヶ市さんに、マネジメントの秘密を聞いた。
—— 五ヶ市さんがGoodpatch Anywhereに参画することになった経緯を教えてください。
子どもが産まれたのをきっかけに、東京から故郷の北海道に戻ることにしたのですが、なかなかUX関連の仕事をやれる会社がなくて......。
地元のシンクタンクやEC企業に入ってUXの仕事を“開拓”しようとしたものの、うまくいかなかったんですね。
それでフリーランスとしてUX関連の仕事ができないか?と考えていた頃、グッドパッチ社長の土屋(尚史さん)のSNS投稿を見かけました。
そこには「フルリモートのデザイン組織をつくる」と書いてあって、「これしかない」とすぐさまエントリーしました。
現在のGoodpatch Anywhereには、フリーランスや業務委託といった就業形態も居住地もさまざまなメンバーがそろっていますが、私は初期メンバーとしてチーム運営の土台づくりから携わっています。
なので、リモート案件で使うツール群も、私自身が試しながら活用法を考えてきました。
例えば、今ではデザイナー界隈でよく使われるようになった「Figma(フィグマ)」は、Goodpatch Anywhereが立ち上がった2018年頃から使い始めました。
立ち上げ後すぐ、フルリモートで働くクライアントとお取引する機会に恵まれて、最初だけオフラインでワークショップ(はじめの顔合わせ)をやりましょうとなった時、付箋や模造紙を手にした私たちに「Figmaが便利だよ」と教えてもらったんです。
私たちもそこから、「こういうツールがあるなら使い方も広がりそうだ」と活用法を考え、フルリモートが一気に浸透していきました。
—— クライアントとやりとりをする際、他にはどんなツールを使っていますか?
最も使うのは「miro(ミロ)」ですね。オンラインホワイトボードのツールとして、全ての情報を1カ所にまとめることができるので便利です。
カスタマージャーニーマップや先方の企画書、そこから抽出されるWebサイトへの掲載情報、ナビゲーション構造、ワイヤーフレームといった、デザインプロジェクトに必要な要素を1つの画面に書き出すことができます。
—— Figmaやmiroは、デザイナー界隈には広まっているものの、使ったことがないというクライアントもいるのでは?
そうですね。なので、プロジェクトを始める時はほぼ必ず、私たちと一緒にツールに触れていただくワークショップを行います。
画面越しに「カーソルを動かしますよ」と声をかけ、「私が動かすカーソルについて来てください」と作業をなぞってもらうんです。
画面に映るアルファベットを動かしながら、「まずPに行き、次はDです。その次はC。もう一回ついてきてください。はい、Aに行ってPDCAを学べましたね。おめでとうございます」といったやり取りをしながら、お客さまにも覚えてもらっています。
もちろん、動かし方だけでなく、データやファイルを追加・削除する体験もしていただきます。
すると、だんだん「あ、パワーポイントと一緒じゃん」となる(笑)。多くの場合、不安は「ツールが難しそう」ということに集約され、画面越しでも対面で話して説明すれば簡単に慣れるものです。
逆に言うと、プロジェクトをご一緒する最初の段階で、いかにリモートワークへの抵抗感を減らすかが鍵を握るということです。