「地方を盛り上げる仕事」始める前に学んでおきたいプロの知恵
2022年3月28日(月)
埼玉県さいたま市の出身なので、そもそも地域と関わりがある人間ではありませんでした。地域創生に興味があるかといえば、少なくとも大学に入学するまでは「興味がなかった」というのが本音です。
では、どうして地域創生に関係する仕事に就いているのか。それは、都市圏出身の僕が知らない魅力が、地域にはあふれるほどあることを知ったからです。
大学時代に所属していたゼミで、茨城県のかすみがうら市と協力し、地元産の食材を用いた商品の企画やイベント出店を手がける機会がありました。
当時の僕は、都市圏で生まれ育ったこともあり、物質的に満たされた生活を送っていると思っていました。しかし、プロジェクトを通じて、その認識が間違っていたことに気が付いたのです。
自分はまったく知らなかったけれど、「食べてみると、とにかくおいしい」。かすみがうら市には、そんな名産品がたくさんありました。
次第に「どうしてこれほど魅力ある商品が知られていないのだろう?」と疑問を持つようになり、少しずつ地域特有の魅力を発信することに興味を持つようになりました。この経験が、キャリアの原点です。
きっとそうだと思います。当時は高校時代に部活動にぶつけていたエネルギーを持て余していたので、「やるならとことんやろう」と、ゼミ活動だけではなく授業も活用しながら、地域創生の取り組みに参加し続けていました。
具体例を挙げると、大学3年次に主催した「沖縄フェス」です。大学の本籍がある自由が丘のみなさん、そして琉球銀行さんの協力を仰ぎ、地域イベントの一角で沖縄の魅力を伝えるイベントを主催しました。
「沖縄フェス」は、過去に携わったプロジェクトは一回きりで終わってしまうことが多かったので、そうではなく、これからも永続的に続いていく地域イベントをつくろうと企画したものです。
僕が大学を卒業した後も、コロナ禍になるまではイベントが続いていたと聞いています。毎年多くの方が参加してくれるイベントになったそうで、地域創生に学生生活を注いできた僕としては、「納得のいく成果を上げることができた」と胸を張れるものでした。
一度、Webマーケティングを手がける広告代理店に就職しています。「地域創生を一生の仕事にしたい」という気持ちはあったのですが、就職活動中に実力不足を感じ、まずは能力を磨くことを優先したのです。
先ほど「学生時代に納得のいく成果を上げることができた」と申し上げましたが、すべてが自分の実力によるものではありません。関係者の協力があって実現したものでしたし、それでいて協賛企業に利益をもたらせたわけでもなかったのです。
たしかに胸を張れる経験ではありましたが、自分だけの力で同じだけの成果を再現できるかといえば、そうではありませんでした。
就職活動を通じて社会への理解を深めていくうちに、「自分は大人たちに応援してもらっていただけだったんだ」と理解し、なんだか恥ずかしくなってしまって。
地域創生を仕事にするなら、それを実現できるだけのスキルが必要だろうと、ファーストキャリアは“武者修行”に出ようと決めました。
将来的に地域創生に従事するなら、絶対的に「伝える力」が必要だと考えていたからです。名産品の販路を拡大するにも、移住者を呼び込むにも、伝わらなければ何も始まりません。まずは、そのスキルを身に付けようと思いました。
また、伝える以前に、自分の足で情報を得る力も求められます。その意味で、新規開拓などの営業スキルも必要だと考えていました。つまるところ、「ぽんっ」と一人で放り出されても、なんとかできるだけの能力と自信が欲しかったのです。
その双方が得られる場所を探していたところ、興味を持ったのがマイクロアドという広告代理店でした。
選考の過程では、「将来的には地域創生を仕事にしたいこと」そして「数年後には退職する予定であること」を事前に伝えていました。マイクロアドは、それでも「応援するよ」と言ってくれた、懐の深い会社です。
最終的には、広告運用と営業が分担されておらず、また年次にかかわらず挑戦の機会があり、まだ入社もしていない自分の夢を応援してくれるという3つの理由から、就職を決めました。
内定者時代のアルバイトから一貫して、新規開拓の営業をしていました。
アポイントを取り、同行してもらった上長にフィードバックを反映しながら、提案の質を上げていく。「習うより慣れろ」の精神で現場に入りながら、クライアント様の広告運用も任せてもらいました。
自分よりはるかに優秀なクライアントとお仕事をさせていただく機会もありました。クライアントにもかかわらず仕事を教えてもらうなど、チャンスがあればとにかくそれをつかもうと必死でしたね。
2年目からは仕事が板につき、自分でプロジェクトを立ち上げたり、新規顧客を開拓して大型の契約をいただいたり、成果が出せるようになりました。
いつかは地域創生を仕事にしたい気持ちがあったので、心からやりたいと思える仕事ではなかったかもしれませんが、やりがいでいっぱいの毎日だったと思います。
「目的を果たそうと必死になれば、仕事は面白くなる」と身をもって感じましたし、成長志向の強いメンバーと働いた経験は、今でも僕の財産です。
まだまだやるべきことが残っていましたし、もっと成長できるチャンスもたくさんありました。当然、一人前になったという自負もありません。
でも、短期間で色濃い経験をさせてもらったおかげで、「地域に一人出向いても、できることがあるはずだ」という自信が持てました。そこで、学生時代に悔しさを残していた地域創生の現場への転職を決めたのです。
おっしゃる通り、地域創生を事業として運営する会社はたくさんあります。それを専業にしている会社があれば、一つの事業として運営している会社もあるので、意思決定には時間がかかりました。
そのうえで、トラストバンクに入社を決めたのは、ビジョンと事業が強固に結びついていると感じられたからです。
地域創生事業を運営していても、そこに熱い思いを持っていない会社は山ほどあります。実際に話を聞きにいき、質問をしても、的を射ていない回答が返ってくることなんてザラにありました。
一方、トラストバンクは、「自立した持続可能な地域を作る」というビジョンを達成するための事業しか運営していませんでした。社員の方の話を聞いていても、利益を追求する以前に、「そのアクションは地域のためになっているのか?」「地域に可能な限りお金を落とすためには、どんなことができるのか?」を考えていることがひしひしと感じられました。
学生時代に「片手間で地域創生は実現しない」ことを感じていたので、「ここしかないだろう」と。面接で感じた直感を頼りに、トラストバンクで働くことを決めたのです。
自治体が抱える課題の解決を目指した、ソリューションの提案を行っています。
直近では、包括連携協定を結んだ北海道の当麻町と、サウナをきっかけに域外のファンをつくる企画をつくっています。
弊社のビジョンでもありますが、「自立した持続可能な地域をつくる」ためにできることすべてが、私の役割です。
新卒でトラストバンクに入社していたとしても、社会人としての力を磨くことはできていたと思います。ただ、広告代理店で身に付けたマーケティングの視点は、自分ならではの強みになっていると感じています。
ベンチャー企業特有の、年齢を言い訳にせず結果を出すマインドセットも、ファーストキャリアで得た強みの一つです。結果論ですが、学生時代の選択は間違っていなかったと思います。
個人的な意見ですが、ビジネスパートナーという関係性を超えて、仲間として全国各地の方と働けることが最大の魅力だと思っています。
地域創生は、地域の方と背中を預け合わなければ、絶対に成功しません。人口がどんどん減っているばかりか、金銭的なリソースにも余裕がない状態で地域を盛り上げることは、想像以上に大変です。
空中戦のアドバイスをしても意味がなく、地に足をつけて一緒に活動しなければ、何も始まりません。
困難の連続で、そう簡単に成果も出ない。骨が折れる仕事です。でも、毎日を本気で過ごせるという意味で、これほど充実感を得られる仕事は、そう多くないと感じています。
保守的な方が多いプロジェクトは、なかなか進みづらいということもあります。成功体験が少ないために、「うちの地域では無理だと思います」と、後ろ向きになってしまうケースが少なからずあるのです。
そうした意味で、地域に対する熱い思いを持てない人は、地域創生を仕事にすると苦しい思いをしてしまうのではないかと感じます。
地域創生と聞くと、なんとなく「いいことをしている」ように感じますよね。「埋もれた魅力を発掘する」とか、「地域の人々と触れ合ってあたたかな気持ちになれる」とか、聞こえがいいんです。
もちろんそれらは間違いないことですが、想像以上に泥くさく、生半可な気持ちでつとまるものではないというのが、実際に働いたからこそ分かる真実です。
よく後輩たちに「地域創生を仕事にしたいです」「社会貢献の一環として地域創生に取り組みたいです」なんてことを言われるのですが、それでは本当の意味で役に立つことができないと思います。少なくとも、学生時代の私がそうでした。
全国各地の自治体を自分の目で見てきましたが、自然災害によって地場産業が崩壊してしまうなど、そもそも仕事がないような地域も少なくありません。ゼロから仕事をつくったり、関係値がない地域の方と協働したり、気概を求められるシーンがいくつもあります。
言葉のイメージと実際の現場には、まだまだギャップがあるんです。本当に地域創生を仕事にしたいのなら、まずは足を運んで、自分の目で地域を見て、自分の耳で地域の声を聞いてみるのが最初のステップだと思います。
もちろん、お勧めできます。仕事の苦労について、釘を刺すような言い方をしてしまいましたが、地域に思いのある人にとっては最高の仕事です。少なくとも僕は、地域が一体となり、その魅力を全国に届けていくプロセスのとりこになっています。
まだ計画段階ですが、将来的には“地域の人”として地域創生に関われるよう、地方移住も考えているくらいです。「本気で応援したい」と思える地域に出向き、その魅力を全国、ひいては世界に届けていく過程は、都心ではなかなかできない経験ですから。
とはいえ、思いだけではどうにもうまくいかないのが地域創生の難しいところ。パッションに勝る武器はないと思いつつ、それを下支えするスキルがあるからこそ、価値を発揮できると思っています。
僕は地域から離れてスキルを磨き、そのスキルを武器に地域と触れ合い、今度は“地域の人”として地域創生に取り組むキャリアをつくっています。これが正解かは分かりませんが、いずれ地域創生に携わりたいと考えている人の、一つの解になったらうれしいです。
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取材・文:オバラ ミツフミ、デザイン:石丸恵理、撮影:遠藤素子