2016年、全国の国立大学に「地域(地方)創生」を学ぶ新学部が相次いで開設されたことをご存じだろうか。
以来、ゼミ活動のPBL(Project Based Learning)に地域との取り組みが採用される事例も増え、学生のキャリアの選択肢の一つに地域創生が加わっている。
「自立した持続可能な地域をつくる」をビジョンに掲げ、全国の自治体のコンサルティングを手がけるトラストバンクの水谷智貴(みずたに ともき)さんも、学生時代に地域創生に取り組んだ一人だ。
水谷さんは、大学3年次に企業の協賛を得て地域イベントを開催するなど、意欲的に地域との関わりを持ってきた。
しかし、プロジェクトを通じて、「思いだけでは地域に貢献できない」と痛感し、ファーストキャリアには成長産業のWebマーケティング業界を選択。スキルを身に付けることを優先した。
新卒入社から2年後に念願の地域創生を仕事にし、2年間全国の自治体と関わりを持ってきた経験を通じて、水谷さんは「地域創生は想像以上に泥くさく、生半可な気持ちでつとまるものではない」と語る。
コロナ禍をきっかけに働き方の多様化やオンライン化が進み、地方移住がホットトピックになりつつある昨今。全国の自治体と向き合う水谷さんに、「地域創生を仕事にするキャリア」について聞いた。
—— 水谷さんは都市圏の出身だと聞いています。どうして地域創生に関心を持ったのですか?
埼玉県さいたま市の出身なので、そもそも地域と関わりがある人間ではありませんでした。地域創生に興味があるかといえば、少なくとも大学に入学するまでは「興味がなかった」というのが本音です。
では、どうして地域創生に関係する仕事に就いているのか。それは、都市圏出身の僕が知らない魅力が、地域にはあふれるほどあることを知ったからです。
大学時代に所属していたゼミで、茨城県のかすみがうら市と協力し、地元産の食材を用いた商品の企画やイベント出店を手がける機会がありました。
当時の僕は、都市圏で生まれ育ったこともあり、物質的に満たされた生活を送っていると思っていました。しかし、プロジェクトを通じて、その認識が間違っていたことに気が付いたのです。
自分はまったく知らなかったけれど、「食べてみると、とにかくおいしい」。かすみがうら市には、そんな名産品がたくさんありました。
次第に「どうしてこれほど魅力ある商品が知られていないのだろう?」と疑問を持つようになり、少しずつ地域特有の魅力を発信することに興味を持つようになりました。この経験が、キャリアの原点です。
—— 都市圏出身だからこそ、感じたことがあったのかもしれませんね。
きっとそうだと思います。当時は高校時代に部活動にぶつけていたエネルギーを持て余していたので、「やるならとことんやろう」と、ゼミ活動だけではなく授業も活用しながら、地域創生の取り組みに参加し続けていました。
具体例を挙げると、大学3年次に主催した「沖縄フェス」です。大学の本籍がある自由が丘のみなさん、そして琉球銀行さんの協力を仰ぎ、地域イベントの一角で沖縄の魅力を伝えるイベントを主催しました。
「沖縄フェス」は、過去に携わったプロジェクトは一回きりで終わってしまうことが多かったので、そうではなく、これからも永続的に続いていく地域イベントをつくろうと企画したものです。
僕が大学を卒業した後も、コロナ禍になるまではイベントが続いていたと聞いています。毎年多くの方が参加してくれるイベントになったそうで、地域創生に学生生活を注いできた僕としては、「納得のいく成果を上げることができた」と胸を張れるものでした。