【要点解説】就職・転職前に「会社の未来が見える」決算書の読み方
2022年3月25日(金)
最初に学生インターンが質問したのは、就職先を選ぶ時、どの数字を見れば各企業の競争力がわかるのか?だ。
分析方法はいくつかあるが、平岡記者は小売業界大手のイオンと、「セブン-イレブン」など複数の小売チェーンを持つセブン&アイ・ホールディングスの2社を比較しながら、「学生がここだけは見ておくべき指標」を説明する。
学生インターン鈴木朋宏(以下、鈴木):就職したい企業ランキングのような人気投票ではわからない、企業の本当の競争力を見る時は、決算書でどの指標を見ればいいんですか?
平岡:まずは「営業利益」を見るのがいいでしょう。例えば小売企業なら、本業となるスーパーマーケットチェーンで、どれだけのコストを使って利益を出しているのかがわかるからです。
特に、売上に対して利益がどれくらいあるのかを表す「営業利益率」をチェックしてみましょう。
業界内で売上高が1位の会社だったとしても、営業利益を見比べると、同じ業界で売上高が5位の会社とそれほど変わらないという場合があります。
つまり、5位の会社のほうが営業利益率が高い。これがわかっているだけでも、競争力があるかどうかの判断がしやすくなるのです。
鈴木:なぜ、営業利益率を見ると会社の競争力がわかるのですか?
平岡:企業の売上高というのは、世の中に対する「お役立ちの総和」なんですね。一方、利益とは「その会社にしかできない貢献度合い」を示す数字です。
だから後者のほうが、より正しく会社の強みを表している。
鈴木:営業利益率を見る時は、やはり同業の競合他社で見比べるのがいい?
平岡:そうですね。営業利益率は、業種、業態によって「何%くらいが平均値なのか」が変わるので。
実際に、イオンとセブン&アイ・ホールディングスの決算を例に見ていきましょう。
2010年以降、どちらも売上高が伸びていて、特にイオンはいろんな会社を買収することで8兆円を超える売上高を記録しています。一方のセブン&アイ・ホールディングスは5兆円規模。この数字だけを見ると、イオンのほうが競争力が高いように思えます。
ところが、2021年2月期の決算書で営業利益率を見ると、イオンは売上高が約8.6兆円で営業利益が約1500億円。2%弱の営業利益率になっています。
対するセブン&アイ・ホールディングスは、営業利益が約3600億円で、イオンの2倍近い数字でした。売上高は約5.7兆円でイオンより低いものの、営業利益率に換算すると6%くらいになります。
鈴木:なぜこの差がついたのでしょう?
平岡:もちろん要因はいくつかありますが、一つはセブン&アイ・ホールディングスがセブン-イレブンなどで展開しているプライベート・ブランド「セブンプレミアム」が好調だからです。
一般的なプライベート・ブランドは、他のメーカーの商品より安いことが売りですが、「セブンプレミアム」は高級志向を打ち出して他社の商品より値段が高くても買ってもらえるようにしています。
営業利益率とこの事実を掛け合わせて考えると、先ほどお話しした「その会社にしかできない貢献度合い」が読み取れるわけです。
鈴木:会社ならではの商品に競争力があるから、高くても売れる。そういうことなんですね。
次は、就職先選びでほとんどの人が気になるであろう「給料」にまつわる指標を見ていこう。
「ファーストキャリアは成長できる環境がいい」と考えてはいても、本音では「どうせ働くなら良い報酬が欲しい」と思うもの。そこで、給料アップの可能性を知ることができる決算書の読み方を聞いた。
学生インターン平瀬今仁(以下、平瀬):ズバリ、入社後に給料がどのくらい上がりそうかを予想するには、決算のどこを見ればいいのでしょう?
平岡:会社が利益を出していなければ、社員の給料も上げようがないので、まずは利益を見てみましょう。
利益にはいろんな使い道がありますが、高い利益率を誇る会社は、給料を上げる原資があると言えます。実際には給与制度次第で社員がもらえる額が変わるものの、まずその「元手」があるかどうかを知っておくのが大切です。
平瀬:その元手を確かめるには、具体的にどの指標を見ればいいんですか?
平岡:いくつかの指標を基に、「1人あたりの営業利益率」を出してみるのがいいでしょう。
数千億円規模の利益を出している会社が2社あったとして、A社は従業員数10万人で、B社は5000人。この場合、B社のほうが社員の給与を上げる余地が大きいですよね。
平瀬:確かに社員同士で「分け合える金額」が変わりますね。
平岡:これを確認したい時は、有価証券報告書を見てみましょう。
ここには利益の他、従業員数、平均年収といった情報も載っているので、今話したような計算方法で算出できます。
もう一つ大事なのは、最新の決算だけでなく、過去5〜10年くらいの決算をさかのぼって「1人あたりの営業利益率」を確認すること。
給料額は会社の利益に比例するので、「将来の給料が上がるかどうか」を知るには過去からの推移を知るのも大切だからです。
業績が良い時と悪い時で、どのくらい平均給与が変わっているのか?を確認する意味でも、過去からの流れをチェックしてみましょう。
例えば、昔から1人あたりの営業利益率が高いことで知られる任天堂で、2010〜2022年度の「1人あたりの営業利益率」と「平均給与」を見ていくと、このようなグラフになります。
2006年に発売された据置型ゲーム機の「Wii(ウィー)」が好調だった時期から、2010年代に入って赤字に転落するなど、業績の波が読み取れます。それに合わせて、社員の平均給与も上下動しているのがわかりますよね?
平瀬:こうやってグラフ化してみると、一目瞭然ですね。1人あたりの営業利益率を長期目線で見てみる大切さがわかりました。
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下の本編動画(前後編)では、冒頭で紹介した5つの項目について、他に決算書のどの指標を見ればチェックできるのかを解説している。
ぜひ、動画で確認してみてほしい。
3. 買収されるリスクは?(以下の前編動画)
【動画解説】こんな会社は黄信号?決算書でわかる「5つの急所」4. 就職先で「伸びている配属先」を選ぶなら? 5. 新しいことに挑戦できる企業かどうか?(ともに、以下の後編動画)
【就活生必見】私たちが「本当に成長できる」企業の見極め方文:伊藤健吾、デザイン:石丸恵理