いつかは起業して、やりたいことを形にしたい。
そう考える若者が、一度は突き当たるテーマが「就職して経験を積むか、いますぐ起業するか」だろう。
近年の日本は、かつてないほど起業しやすくなっている。この10年で、資金調達の環境は劇的に良くなった。2022年初頭に岸田首相自らスタートアップの創出支援を表明するなど、起業志望者ヘの追い風はより強まっている。
スタートアップ情報プラットフォームのINITIALとNewsPicksが2020年に行った下の調査では、シリーズB以上の(つまり一定以上の成長をしていると考えられる)国内スタートアップのCEOは「学生起業家」が最も多いという結果も出ている。
しかし、2017年に起業し、小売チェーン向けECプラットフォーム「Stailer」を武器に急成長する10X(テンエックス)の創業者・矢本真丈(やもと まさたけ)さんは「いま22歳に戻っても起業前に就職する」と話す。
その理由と、起業する前に積んでおきたい経験を聞いた。
僕が起業を考え始めたのは、東北大学で大学院生をやっていた頃。小さな頃から起業を考えていたわけではありません。
直接のきっかけは、大学院1年生の時に起こった3.11(東日本大震災)でした。僕自身が被災し、その後の復興ボランティアにかかわる中で、自分という存在のちっぽけさを痛感したんです。
1日かけてがれきを20個運んでも、すぐに身近な人たちの暮らしが元に戻るわけではない。非力さというか、独りでやれることの限界を感じる毎日でした。
それで、「これからの人生では、社会により大きなインパクトをもたらす存在を目指したい」と思うようになったんですね。
その後に迎えた就職活動では、「経営」や「将来起業するには」というキーワードで会社を探しました。
僕にはスポーツ選手や研究者として世界を驚かせる才能がない、ならばビジネスでインパクトを生もうと。
結果、5年以内に起業するという当時の目標をかなえるため、ビジネスの基本が学べそうな総合商社(丸紅)に入りましたが、いまなら別の選択肢を取ると思います。
学生起業はしないでしょう。就職せずに会社を起こすという選択肢もありますが、就職したこと自体に後悔はないんです。
丸紅を辞めた後、NPOでGoogleとの東北復興プロジェクトを経験したり、スマービー(現・ストライプインターナショナル)やメルカリで働く中で、ゼロからプロダクトを生む楽しさと難しさを学べたからです。
担当サービスの閉鎖という苦い体験もしながら、「良いプロダクトは社会を変える」「だからこそ、継続して運営可能なプロダクトを作らなければならない」という原理原則を学ぶことができました。
こうした体験の積み重ねが、10Xを創業して自分の力で事業を育てるという覚悟につながっています。
共同創業者の石川(取締役CTOの石川洋資さん)とのご縁も、メルカリで働いていた時にできました。こういう人脈は、就職後、一緒に働きながら苦楽をともにする経験がなければつくれなかったと思います。
その上で、いま就職するなら、1社目にどんな会社を選ぶか。
前にもこのテーマについて、自分のポッドキャストで話したことがあるのですが、その時はデザインカンパニーのグッドパッチに就職すると話しました。