SNSを活用して5職種マスター、20代で実現する変幻自在キャリア
2022年3月14日(月)
就職活動をしていた当時、新卒から数年間は自分がそのときもっともやりたいことを、その後は将来キャリアの柱となっていく軸を育てたいと漠然と思っていました。
ただ、具体的にどんな職業に就きたいかが定まっていたわけではありません。就職活動が始まるまでは、ジュエリーデザイナーになるなんて一度も考えたことがなかったくらいです。
卒業した京都市立芸術大学からも、ジュエリーデザイナーとして就職した人はいなかったと聞いています。好奇心を大事にしてきた結果が現在の私です。
大きく2つの理由があります。1つは、小さい頃から山や海で石を拾ってきたり、鉱物の図鑑を買ったり、宝石の祭典に行ってルース(裸石)を買い集めてみたりと、もともと石や宝石が好きだったので、ジュエリーがお仕事になったら楽しいだろうなと思ったからです。
2つ目は、デザインが消費されていくことに、違和感を抱いたことです。
私はデザイン学部に所属して、ビジュアル・デザインを専攻していました。美大と聞くとアーティスティックなイメージを持たれる方がいるかもしれませんが、私が学んでいたのは商用的なデザインです。パッケージデザインなどを想像していただくと分かりやすいかもしれません。
就職活動を始める以前は、その道で生きていくつもりでした。学生時代はソーシャルゲームのキャラクターを描いたり、フレグランスボトルのパッケージや販促什器をデザインしていたりしたこともあり、このまま「グラフィックデザインを仕事にするんだろうな」と思っていたのです。
ただ、就職活動が始まったタイミングで、考え方が変わりました。改めて何がしたいのかを考えてみたときに、「消費されないデザインを手がけてみたい」という気持ちが湧いてきたのです。
ゲームのキャラクターは、サービスが終了すると誰の目にも触れなくなります。
また、当時デザインを担当したパッケージや販促物は、シーズンごとや一定の期間で使われなくなるものも少なくありませんでした。考え抜いてデザインした制作物が消費され、人の記憶からなくなっていく感覚を強く感じていたのです。
でも、ジュエリーはそうではない可能性があります。
そもそもジュエリーの歴史は長く、その文化はローマ帝国の時代から現代にまで続いています。また、一度購入したら長い期間愛してもらえる特性があり、親から子どもへ……と後世に引き継がれることもあります。
長く愛されるデザインを手がけられるのは、デザイナーの誇りです。ジュエリーデザインの経験があったわけではないものの、その魅力に心を動かされました。
美大に進学したのもそうですが、私が大切にしてきたのは「自分が好きなこと」から目をそらさないことです。
ファーストキャリアを選ぶタイミングでも、やはり後悔のない選択がしたかったので、思い切ってジュエリー業界への就職を決めました。
すぐにデザインを手がけられたわけではなく、入社1年目はショップで販売スタッフをしていました。どのようなお客様がご来店されているのか、どんな思いで商品を選んでいただいているのかを、自分の目で見たのがこの期間です。
ジュエリーデザインを本格的にスタートしたのは、店舗研修を終えた2年目から。初期は研修を受けながら先輩に指導をしてもらい、冬頃から少しずつ、自分の手がけたジュエリーが店頭に並ぶようになりました。
自分がデザインしたジュエリーが初めて店頭に並んだときの感動は、今でも忘れていません。デザインしたネックレスは、頑張ってきた自分へのプレゼントとして買いました。
仕事が板についてきた3年目には、シーズンごとに発表するコレクションのメインアイテムもデザインさせてもらえるようになり、ジュエリーデザインの面白さにますます心を奪われていきました。
ジュエリーデザイナーの役割は「デザインを描くこと」なのですが、自分が手がけたデザインがどのようにして形になるのかを知りたくて、朝早く出社してCAD(設計や製図を支援するシステムソフト)を勝手に触っていたくらいです。
その光景を見た先輩が「教えてあげようか?」と声をかけてくれて、自分で造形できるレベルまでには技術を習得できました。いま身に付けているジュエリーも、自分でデザインしたものです。
それくらいには、目の前の仕事に没頭していました。
ジュエリー業界の市場規模が、年々縮小していることに気付いたのです。仕事そのものは大好きなのですが、キャリアという観点で見ると、少しばかり不安がありました。
市場が縮小していくと、年収を上げにくくなるし、キャリアの自由度も狭まっていきます。
そうした未来を考えると、「好き」という気持ちだけでキャリアをつくっていくのは難しいのだと感じました。
ただ、ネガティブな気持ちに支配されていたわけではありません。「ジュエリーデザイナーと同じくらい好きになれる仕事があるのではないか」と、外の世界を見るきっかけが得られたからです。
きっかけは、IT業界への興味でした。
ITの知識はほとんどなかったのですが、「これから成長する産業はなんだろう」と、本や記事を読んでいた頃に、ブロックチェーンやAI・機械学習、VR・AR、といった先端技術を知ったのです。
直感的に「面白そうだ!」と関心を抱きました。好奇心を大事にしてきた人生だったので、いずれ転職する場所としてマークしておこうとも思いました。
とはいえ、ずぶの素人ですから、技術の詳細は分かりません。「興味があります」というだけでは、転職できないことも分かっていました。
すぐに転職できるわけではないけれど、一度深く学んでみたいなと、カンファレンスに顔を出してみたり、海外の書籍を買って翻訳しながら読んでみたり、退勤後の時間や週末を利用して自分なりに独学していました。
これは発見だったのですが、少し勉強してみると、次第に興味が高まっていきます。「こんな技術があるのか」「こんな未来が実現できるのか」と、知りたいことがどんどん出てくるのです。
その過程が楽しくて、SNSで学びの過程を発信していたところ、自然とコミュニティができていきました。「Udemyのコンテンツが参考になりますよ」とか、「この書籍が参考になりますよ」とか、その道のプロの方が教えてくれるのです。
連絡をくれた方の中には、「VRゴーグルが余っているから貸してあげるよ」という人までいました。
「興味がある」というだけで、終わらせないようにしていましたね。
ブロックチェーンやVRなどの先端技術について知らないどころか、ITについての知見もなく、当然のようにコードも書けない。ただ、その状態で放置していたら、せっかく抱いた興味がもったいないじゃないですか。
だから、とりあえずやってみました。ブロックチェーンについて知らないならカンファレンスに参加すればいいし、コードが書けないなら本やインターネットを活用して勉強すればいい。抱いた興味を深掘りするために、自然と身体が動いていました。
ジュエリーデザイナー時代にCADを勝手に触っていたのもそうですが、取り掛かってしまえばある程度は形になるし、真剣なのであれば応援してくれる人もいます。
そのことを理解していたから、特にハードルを感じることはありませんでした。懸念があったとしたら、自宅でNetflixを観る時間が少し減るくらいです。
2つの理由があります。1つは、これから市場が大きく成長していくと確信できたことです。
VRゴーグルをお借りしてから、VR業界への興味がどんどん増していって、すきま時間に業界動向を調べていました。すると、海外では医療現場などでも活用されていることが分かり、「これからきっと伸びるぞ」と。
そもそも転職を考えたきっかけが「自分の業界が縮小傾向にある」と危機感を覚えたことだったので、これから働く市場にぴったりだと思えました。
2つ目の理由は、自分が手がけたものを、多くの人の手に取ってもらえる可能性を感じたからです。
ジュエリーデザイナーを選んだ理由でもありますが、もともとものづくりが大好きでした。描いた絵が褒められたり、制作したデザインで誰かが喜んでくれると、うれしくて。自分の作品が多くの人の手に届くことに喜びを感じていたのだと思います。
市場が伸びているVR業界に転じれば、自分の仕事がたくさんの人に届く可能性があります。未経験の業界で、さらには経験したことのない職種に就く不安も少なからずありましたが、それよりも期待が大きかった。
この2つの理由が決め手になり、最終的には転職を決めました。
本業を持ちながら勉強するのは大変でしたし、入社した後も苦労はありました。エンジニアとして採用していただいたのですが、技術的なバックグラウンドがないので、引き続き勉強をする必要がありましたから。
「楽しそうだな」と心が躍る選択肢を選んだことでしょうか。もし「市場価値が高いと言われているから」という理由だけでジョブチェンジを試みていたら、きっとうまくいかなかった気がします。
カンファレンスに参加したのも、洋書を翻訳しながら概念を学んだのも、全く理解できなかったプログラミングに着手したのも、純粋な興味があったからです。
「好きこそ物の上手なれ」というように、物事が成就する最大の要因は、好奇心だと思います。好奇心があったからこそ、自分で調べて、自分で学んで、自発的な発信ができていたんです。
「周囲がお勧めしているから」「トレンドの職業だから」という理由でジョブチェンジしたとしても、その先で苦労してしまうはずなので、やはり好奇心が湧かない選択をするのは望ましくないと思います。
とはいえ、自分が歩んできた姿勢も大切にしたかったので、 最終的にはUXデザインをメインに仕事をしていました。「エンジニアリングへの好奇心を抱きながら、かつクリエイティブの強みが生きる領域はどこだろう?」と考えた結果、行き着いた先がUXデザインだったのです。
グラフィックデザインも、UXデザインも、課題解決に主眼を置く仕事です。異分野への転職でしたが、素地がある分野を仕事にすることができたので、その後は自分らしく働くことができたと思います。
月並みな表現になってしまいますが、広い視野を手に入れられました。
スキルを深めるのは、キャリア形成において重要な視点だと思います。とはいえ、スキルを深めただけでは、それを最大化できないというのが現時点での私の考えです。
自分の仕事の周辺では、どのような動きが起こっているのか。私が担当した仕事は、どのようにしてエンドユーザーのもとに届くのか。それを知っているのと、知らないのとでは、やはり仕事の進め方やキャリアの築き方に差が出ると思います。
ジュエリーデザインに打ち込んでいたときは、「この道でプロになるにはどうしたらいいのか」をいつも考えていました。
ただ、リスキリングを実践して、ジョブチェンジをした結果、あらゆる可能性を比較検討して、自分の強みを発揮する方法を考えられるようになりました。
例えるなら、RPGのようなものです。とある街で腕を磨くだけでなく、街を飛び出してマップを広げていけば、自分が身を置くべき場所が分かります。
私の強みはクリエイティブにあると思っているのですが、クリエイティブを最大限に発揮する方法は、周辺職種について知ることだったり、エンジニアリングやビジネスサイドを学ぶことだったりします。
一度はみ出したからこそ、気付けたことがたくさんあったんです。
具体的なプランは考えていないものの、少なくとも職種や業界を変えることへの抵抗感はありません。
リスキリングを実践した後だから言えることですが、キャリアは一定ではなく、変則的なものだと思います。
現時点の職種を続ける必要はなく、持っているスキルを生かして、全く異なる職種に転じてもいいわけです。
一度リスキリングを実践すると、「勉強すれば、ある程度のことはできる」ということを身をもって感じられるので、フットワークが軽くなります。変化するしなやかさを手に入れられると言えるかもしれません。
これから先、ジュエリーデザイナーに戻る可能性もあると思っていますし、経験したことがない職種に就く可能性もあると思います。
ジョブチェンジをしてみて、思ったことがあります。それは、「すべての仕事は似ている」ということです。
商材によって差はあれど、ビジネスパーソンとして働く私たちは、「プロダクトをつくって、それを販売し、顧客から得たフィードバックを反映する」という一連のサイクルの中にいます。セールスやデザイナー、エンジニアといった職種は、あくまで役割にすぎません。
つまり、解き方が違うだけで、解いている問題は同じなんです。そう考えると、さまざまな解き方を知っていることは、キャリア形成におけるアドバンテージですよね。
特定のスキルが陳腐化するスピードが加速度的に速くなり、次々に新しい職業が生まれている時代ですから、専門性をいくつも持っていることは、今後ますますストロングポイントになるはず。リスキリングは、変化の激しい時代を軽やかに生きていくための手段なのです。
選択の積み重ねが個性ですから、自分なりの意思決定をしていけば、オリジナルなキャリアがつくれると思います。意思決定の際に、少しでも市場の動向を反映させられたら、オリジナルかつ市場価値の高いキャリアになります。
まだまだ未熟な身なので、大それたことは言えませんが、これからジョブチェンジを考えている方には、「内の世界と外の世界の双方を見ながら、好奇心を大切にしてほしい」と伝えたいです。
【極意】「コの字型キャリア」で、自分の市場価値を高めよう
取材・文:オバラ ミツフミ、デザイン:岩城ユリエ、撮影:遠藤素子