景色の変わらない日々に退屈して、通勤時間に「全く違う仕事をしている自分」の姿を空想する——。漫然と過ぎていく毎日を抜け出そうと、キャリアチェンジを考えたことがある人も少なくないだろう。
しかし、「現実的ではない」という理由から、「全く違う仕事をしている自分」への変化を諦めてしまう人がほとんどだ。
ただ、大胆なキャリアチェンジは、あなたの人生を満足感や幸福感にあふれたポジティブな方向へと導く可能性を秘めている。
VRソリューションを開発するジョリーグッドでUXデザインを手がける黒崎由華(くろさき ゆか)さんは、ジュエリーデザイナーからエンジニアに転職し、エンジニアからUXデザイナーに転身した過去を持つ。
ジョブチェンジの背景にあるのは、「ジュエリー業界の縮小」と「先端技術への興味関心」だ。
長引くコロナ禍の影響から、自身のキャリアについて考える機会が増している昨今。自分の意思で大胆な変化を起こした黒崎さんに、リスキリング(今後新たに発生する業種や職種に順応するための知識やスキルを習得すること)のヒントを教えてもらおう。
—— ジュエリー業界からVR業界に転職したと聞きました。ご自身のキャリアについて、どれくらい戦略的に考えてきましたか?
就職活動をしていた当時、新卒から数年間は自分がそのときもっともやりたいことを、その後は将来キャリアの柱となっていく軸を育てたいと漠然と思っていました。
ただ、具体的にどんな職業に就きたいかが定まっていたわけではありません。就職活動が始まるまでは、ジュエリーデザイナーになるなんて一度も考えたことがなかったくらいです。
卒業した京都市立芸術大学からも、ジュエリーデザイナーとして就職した人はいなかったと聞いています。好奇心を大事にしてきた結果が現在の私です。
—— 前例がなかったジュエリー業界への就職を決めた理由について、教えてください。
大きく2つの理由があります。1つは、小さい頃から山や海で石を拾ってきたり、鉱物の図鑑を買ったり、宝石の祭典に行ってルース(裸石)を買い集めてみたりと、もともと石や宝石が好きだったので、ジュエリーがお仕事になったら楽しいだろうなと思ったからです。
2つ目は、デザインが消費されていくことに、違和感を抱いたことです。
私はデザイン学部に所属して、ビジュアル・デザインを専攻していました。美大と聞くとアーティスティックなイメージを持たれる方がいるかもしれませんが、私が学んでいたのは商用的なデザインです。パッケージデザインなどを想像していただくと分かりやすいかもしれません。
就職活動を始める以前は、その道で生きていくつもりでした。学生時代はソーシャルゲームのキャラクターを描いたり、フレグランスボトルのパッケージや販促什器をデザインしていたりしたこともあり、このまま「グラフィックデザインを仕事にするんだろうな」と思っていたのです。
ただ、就職活動が始まったタイミングで、考え方が変わりました。改めて何がしたいのかを考えてみたときに、「消費されないデザインを手がけてみたい」という気持ちが湧いてきたのです。
—— 黒崎さんにとってジュエリーは、「消費されない」デザインだったのですね。
ゲームのキャラクターは、サービスが終了すると誰の目にも触れなくなります。
また、当時デザインを担当したパッケージや販促物は、シーズンごとや一定の期間で使われなくなるものも少なくありませんでした。考え抜いてデザインした制作物が消費され、人の記憶からなくなっていく感覚を強く感じていたのです。
でも、ジュエリーはそうではない可能性があります。
そもそもジュエリーの歴史は長く、その文化はローマ帝国の時代から現代にまで続いています。また、一度購入したら長い期間愛してもらえる特性があり、親から子どもへ……と後世に引き継がれることもあります。
長く愛されるデザインを手がけられるのは、デザイナーの誇りです。ジュエリーデザインの経験があったわけではないものの、その魅力に心を動かされました。
美大に進学したのもそうですが、私が大切にしてきたのは「自分が好きなこと」から目をそらさないことです。
ファーストキャリアを選ぶタイミングでも、やはり後悔のない選択がしたかったので、思い切ってジュエリー業界への就職を決めました。