オムロン社員を直撃「副業者と働く」ことで得た成長のヒントって何?

2022年2月4日(金)

副業人材と「収益化」を目指す

—— まずは受け入れ側となった大藪健二さんに、オムロン ソーシアルソリューションズで副業希望者を募集した背景を教えてもらえますか?

大藪:オムロン全体が「物売り」から「ソリューションビジネス」に転換していく中で始めた新規事業を、軌道に乗せるというのが大きな目的です。

我々が担当したプロジェクトでは、昨年3月にリリースした「Facility Log(ファシリティログ)」というクラウド型ビル管理システムを使って、お客さまにとっての新しい価値を生み出すのがミッションでした。

—— 「ファシリティログ」は、どんなサービスなのですか?

大藪:もともとオムロン ソーシアルソリューションズのお客さまだった鉄道会社を含めて、ビルや大型施設の管理を行う企業が抱えるメンテナンスの人手不足問題を解消するサービスです。

今は、高度成長期に建てられた施設が老朽化していく中で、どう維持していくかが喫緊の課題になっています。一方で、そういう古い建物の管理を担う人材は、ベテランの定年退職などもあって年々減っています。

そこで「ファシリティログ」は、スマートフォンやPCで簡単に点検業務をできるようにした上で、収集した点検データを管理側がすぐに見れるようにしています。

分かりやすく言うと、これまで人が紙に手書きする形で行ってきた点検業務をDX化するのが狙いです。

ただ、リリース前からデータ活用の仮説は持っていたものの、収益化に向けてどうやってデータを加工・提供すればいいのか、試行錯誤を続けていました。

そこで、データサイエンティストの板津勇太さんに副業で入っていただき、データ活用の仮説をブラッシュアップして新たな機能・サービスの形にするまでを一緒にやってきました。

—— 板津さんは、なぜこの副業プロジェクトに興味を持ったのですか?

板津:私は約10年間、AIベンチャーやコンサルファームでデータサイエンスの仕事をしてきましたが、ビルのようなリアルな対象物のデータを収集してビジネスにつなげる経験はしたことがありませんでした。

そんな中、登録していたビズリーチでオムロンの副業人財募集を見て、仕事の幅を広げる意味でもやってみたいと思ったんです。

新規事業ということで、これからマネタイズの素地をつくっていくフェーズだったのも、やりたいと思った理由の一つでした。

「週1定例」の効果を最大化するには

—— 副業での参加は、どんな形で?

板津:平日は自分の会社の仕事をやりながら、週1回、1時間〜1時間半くらいのオンラインミーティングに参加する形でした。

もちろん、翌週のミーティングまでに「ファシリティログ」の保有データを見せていただいたり、データ分析のアルゴリズムを考えるなど、諸々準備が必要でした。なので、そういう業務は平日の夜や土日にやっていました。

—— 副業人材とコラボする際の課題の一つとして、社外秘の情報にどこまでアクセスできるかがあります。開発担当だった島川智行さんは、この部分についてどんな配慮を?

島川:板津さんとNDA(秘密保持契約)を交わした上で、今回のプロジェクトで必要なデータはほぼ全て見てもらっていました。

このご時世で、オムロングループもリモートワークが進んでいまして。システムのセキュリティ面を含めて、オンラインで社外の方々ともコラボレートできる体制が整っていたのが幸いでした。

板津:そうですね、情報へのアクセスに関して不便に感じることはなかったです。

—— では、他に大変だったことは?

板津:しいて挙げるなら、昨年6月に参加し始めてから1〜2カ月間、週1回のミーティングの効果をどう最大化するか、お互いに試行錯誤していた時期がありましたね。

この期間は、プロジェクト内の議論、サービスの現状のプロトタイプ確認など、状況把握に努めました。

大藪:もともと、このプロジェクトで副業人財を募集した時は、大きく2つの業務をお願いすると明記していました。

一つは「ファシリティログ」が収集しているデータを実際に見ていただきながら、どうアウトプットすれば顧客価値を高められるかを一緒に考えること。

もう一つは、この議論を踏まえた上で、新しいマネタイズのやり方を書面や(分析用ダッシュボードの)試作画面として残していただくことです。

結果、今回のプロジェクトでは最終的に8個のプランを形にするところまで行けたのですが、最初は相談する側の我々もどう進めていったらいいのか手探りでした。

なので、プロジェクトそのものの進め方からすり合わせをする必要があったのです。

Photo:iStock / undefined undefined

島川:こういう部分は、社内の人間だけで進めるプロジェクトなら、さほど問題にならなかったと思っています。

それに、社内の他部門に仕事をお願いする時や、システム会社やコンサル会社などに業務委託をする時は、「やってほしい業務はこれ」「成果物はこういう形で」としっかり要件を決めてからお願いするケースが多かったんですね。

でも、今回そういう形では板津さんに入っていただく意味が薄かったというか。

—— 業務委託とは違って、副業人材を受け入れる体制づくりから始めなければならなかったと?

大藪:そうですね。お互いに仮説しかない状態で、週1ペースで何を形にしていけば仮説検証のサイクルを高速で回せるのか。ここから整備する時間が必要でした。

オムロンはソリューションビジネスをつくる上での経験知も少なかったので、板津さんにはコラボレートするための体制づくりからご一緒いただき、とても助けられました。

受け入れ側の働き方も変わる

—— その体制整備の結果、どんな形でプロジェクトを回していくことに?

大藪:板津さんのご提案で、毎週の議論をドキュメントとして残すというのを愚直にやるようにしました。

当たり前といえば当たり前のことですが、単なる議事録ではなく「この議論は継続」とか「この仮説を検証するデータを準備する」などと、次のアクションまで決め切って見える化しておくのが大切でした。

このドキュメントも成果物の一つとして、板津さんにまとめていただくようになってからは、プロジェクト進行も円滑になったと感じています。

Photo:iStock / tadamichi

—— 副業で入っている板津さんが、「契約上は業務外」だった進行管理までやることになった理由は?

板津:シンプルに、私はコンサル経験もあったので。この辺を整理しながらプロジェクトを進めるのに慣れていたんです。

「前回こういう議論があって、次のステータスとしてこういう調査をやりましょう、そのためには今週このデータを見せてください」などと細かく確認しながら、次にやることまで会議の中で決め切るというやり方ですね。

—— 失礼な質問かもしれませんが、そういう業務はオムロン側でやってほしいという思いはなかったのですか?

大藪:そこは我々の反省点でもあるのですが(苦笑)、板津さん、率直にいかがでしたか?

板津:やりにくいという思いはなかったですね。単なる業務委託ではなく、このプロジェクトにきちんとコミットして成果を出したいと思っていたので。

それに、業務的な負担より、副業とはいえ「やりたい」と思ったことをやらせていただけるメリットのほうが大きいと感じていました。

ビルや商業施設など、リアルな対象物のデータを収集する難しさのような部分も学べましたし。

島川:先ほども話したように、我々はまず要件を決めてから開発に進んでいくことが多かったので、板津さんのやり方はとても勉強になりました。

—— ウォーターフォール型の開発から、アジャイル型に変わっていくようなイメージでしょうか?

Photo:iStock / gerenme

島川:そうですね。所属する部門ごとに業務がサイロ化していると、仮説を検証するために小さくアウトプットして、そのアウトプットを通じてさらに仮説をブラッシュアップしていく業務プロセスにはどうしてもなりにくいんですね。

ウォーターフォール型とアジャイル型のどちらが優れているか?という議論とは別に、我々の組織ではあまりやってこなかったワークスタイルだったので、引き出しが増えた感覚です。

大藪:小さく仮説検証を進めていくスタイルになってからは、アウトプットの質も高まったように感じています。

例えば点検員がビル内にある設備の故障を検知した時、「ファシリティログ」ではビルの管理者にどうやって異常を通知するか?みたいな議論では、ただデータをグラフ化して見せるだけでは意味がないのではと。

ここまでの仮説は我々も持っていたのですが、そこから先のアウトプットまでは、うまく描けていなかったんですね。

そこで、板津さんとのミーティングを重ねながら、

「LCC(ライフサイクルコスト)の観点で見たら、故障だけでなく設備自体の入れ替え時期も分かったほうがいいのでは?」「ビル全体のエネルギーコストも合わせてチェックできたらいいのでは?」

などと新たな仮説を立て、実際に分析可能なデータを持ち合わせているのかも検証していきました。

さらに、自分たちで検証するだけでは良い答えかどうか分からない時は、私や営業担当者がお客さまにヒアリングをして改善を重ねていく。

こういう動き方は、ソリューション系の新規事業を立ち上げる時には欠かせないと実感しました。

このプロジェクトで学んだことは、今後も副業したい方々を受け入れる時に役立つでしょうし、社内にも板津さんと働くことで得た知見を伝えていきたいと思っています。

キャリア面でプラスになったこと

—— 副業は「する側」のメリットや難しさが語られがちですが、今回「受け入れる側」になってみて感じたこと、キャリア形成の面で良い経験だったと感じた事柄はありますか?

島川:私は新卒でオムロン ソーシアルソリューションズに入っているので、単純に「社外の人の仕事のやり方」に触れることができたのは貴重な経験でした。普通は転職しなければ得られない経験なので。

Photo:iStock / takasuu

具体的には、これまでも話してきたように事業企画と開発、データ活用の一連の流れを学べたのが良かったと感じています。

大きな組織には、それぞれ専門の部門があります。企画は企画の人が行い、開発は開発チームだけで進めるというのが一般的だと思うんですね。

でも、今回のプロジェクトでは板津さんが企画・開発・データ活用の3部門分を1人でリードしてくださったので、私のように1社・1部門しか経験したことのない身としては本当に勉強になりました。

大藪:私は島川と違ってずっと営業や事業企画畑でキャリアを積んできたので、逆に開発との接続面で必要な現実的な進め方を学んだと思っています。

営業はお客さまとお話する機会が多いので、やりたいことがたくさん思い浮かぶわけです。でも、これもしたい、あれもしたいと語ったところで、現実的にデータを見ながら形にしていかなければ開発側が徒労に終わってしまうことも多い。

だからこそ、まず仮説を立てた上でしっかり検証を重ねながら前に進んでいくやり方が大切だと改めて痛感しました。

—— その学びを今後に生かすために、何をやっていきたいですか?

島川:開発部門だけではなく、いろいろな部門を横断することで板津さんのような能力を身に付けたいと思うようになりましたね。

大藪:新規事業のリーダーをやらせていただいている身としては、このプロジェクトだけでなく、社内外の関係者とコミュニケーションを深めていく大切さを感じています。

お客さまはもちろん、開発やデータ分析チームとも「段階的に」「アウトプット志向」でやりとりすることが重要です。これは、副業希望者を受け入れる組織としても重要だと思っています。

物理的にコラボレートする時間が少ないからこそ、いくつか立てた仮説を取捨選択していく時、「誰の、何のための仕事か」をお互いに深掘りしていくプロセスが絶対的に必要になります。

これを何となくでやってしまうと、板津さんのお話にあったようにお互いの思考錯誤期間が長く続き、フワっとした成果しか出せなくなってしまう。

今回は、この部分で少し時間をかけ過ぎたというか、板津さんにご心労をおかけしてしまった部分なので、教訓として次に生かしていきたいです。

板津:お互いの人となりというか、得意なことや副業したい目的、時間の工面も含めた働き方を理解し合った状態にどれだけ早くたどり着けるか。これが業務内容以上に大切だというのを、私も初めて副業して感じました。

大藪:このプロセスの有無が、「作業」を切り出してお願いするだけの外部委託とは違う働き方というか、副業をやる側・受け入れる側双方のメリットにもつながってくると思います。

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取材・文:伊藤健吾、編集:佐藤留美、デザイン:岩城 ユリエ、撮影:全て本人提供