【キレイゴトなし】社長3人が本音で語る「自分らしい就活」のススメ

【キレイゴトなし】社長3人が本音で語る「自分らしい就活」のススメ

    望みの会社に「受かりたい」。でも「自分らしい」キャリアを作りたい。この双方を叶えるには、どうすればいいのか──。


    実務経験がない就活生が「自分らしい」キャリアを考えるのは簡単ではないだろう。一体、何から始めればいいのかと戸惑う人も少なくないはずだ。


    そこで悩める就活生への応援歌として、多様なキャリア経験を積み現在は社長として企業の舵取りを行う、ポーラの及川美紀さん、ザボディショップジャパンの倉田浩美さん、台湾カフェ「春水堂」を運営するオアシスティーラウンジの木川瑞季さんの鼎談を実施。


    仕事選びはどう向き合えばいい?就活に対する企業のホンネは?「自分らしさ」を見つける方法とは?などについて、聞いた。


    キレイゴト一切なし。3人が就活生、ひいてはすべてのビジネスパーソンに向けて、キャリアにまつわる疑問に答えていく。


    ※この記事は、NewsPicksの特集「Z世代の就活」に掲載したインタビューの無料ダイジェスト版になります。インタビュー全文は末尾にあるリンクをご覧ください。

    【元気が出る鼎談】「自分らしい就活」のススメ

    目次

    「運」はある。でも周到な用意を


    ── 今回は、就活生に向けてキャリアや働くことについてアドバイスを伺います。はじめに、皆さんの就活はどうだったか教えてください。


    倉田:実は、私は2回就職活動をしています。


    1回目は、地元の女子大に通っていた時です。当時はまったく将来のことを考えていなくて、就活に出遅れ、就職先が決まったのも大学を卒業して1か月後くらいでした。


    地元の電機メーカーに一般職として入ったのですが、男女雇用機会均等法もない時代なので、毎日男性社員にお茶くみをしたり、事務作業をしたりしていましたね。

    ザボディショップジャパン倉田浩美さん 経歴

    はじめは仕事に慣れようと前向きに頑張っていたのですが、ある日ふと「私の人生このままでいいんだっけ?」と我に返りました。このままだと、スキルが身につかないな、と。


    そこで、自分が得意で好きだった英語のスキルを伸ばそうと一念発起。2年間働いて、お金を貯めてアメリカの大学に留学し、そのまま現地で2回目の就活をしました。


    今度は1回目の反省を活かし、先輩や同じ就活生に話を聞きに行ったり、履歴書や手紙をいろんな企業に送ったり、とにかく周到な用意を心がけましたね。


    その甲斐あって、プロフェッショナルファームのPwC(プライスウォーターハウスクーパース)のアメリカ本社に採用されました。


    及川:私も同じく、女子学生の就活の門が狭い時代でした。一般職で就職して、25歳までにはお嫁に行くのが黄金ルートだった頃です。


    ただ、私は地方出身で、都内の大学に通うために奨学金を借りていたので、何が何でも長く働ける会社に行きたかった。普通に返しても、41歳までかかる計算でしたから。

    ポーラ及川美紀さん 経歴

    就活の軸も「女性が一生働ける会社」と決めて、いろいろな会社を見ていきました。


    当時、女性が多い業界というと、下着や化粧品、生理用品など、女性の日用品を扱う会社が多かったです。その中でもポーラを選んだのは、中年女性が多く働いていたから。あの時代にしては珍しく、女性管理職も多くいました。


    ここなら長く働けそうだと思い、そこからは面接や手紙で自己アピールを頑張りましたね。


    木川:木川:私は大学卒業後、そのまま大学院に進学しました。勉強がしたかったのはもちろんですが、当時は超就職氷河期だったので、もう少し状況が落ち着いてから就活したい、と考えました。


    留学で1年留年して、一足先に就活をしていた同級生が苦戦している様子を間近で見ていたので、今じゃないかもな、と。

    オアシスティーラウンジ木川瑞季さん 経歴

    もともと「コミュニティ」や「異文化」に興味があったので、大学院では文化人類学を専攻。そのまま研究にハマっていき、実際に途上国の支援ができる国際協力の世界で働きたいと考えるようになりました。


    ただ、新卒で入れる国際機関はほとんどありません。そこで、バックアップとしてコンサル業界を受けました。3年くらい実務経験を詰めば、国際機関でも重宝されるのでは、と踏んだのです。


    10社ほどコンサルを受け、最終的にはマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社を決めました。就活は「運」とよく言いますが、それでも自分にあった準備やタイミングの計らいは大切だなと思います。


    「緻密なキャリア戦略」なんてない


    ── 戦略的にキャリアを考えなくてはと焦る就活生も多いです。皆さんは現在社長という立場ですが、これまでのキャリアは戦略的に築いてきたものですか?


    倉田:まったくそんなことはありません。むしろ、その時々に興味があるものに飛びついてきたので、本当に行き当たりばったりです。


    PwCに入ったのは会計学に興味があったからですし、監査部門にいたのにコンサルティング部門に移ったのも、数字を追いかけるのではなく、ビジネスプランや経営に関わる仕事がしてみたかったから。


    その後、ギャップやコーチ、フルラ、ザボディショップと小売業界にいるのも、PwC時代に携わった小売のプロジェクトがとても面白かったので、そのままのめり込んでいった感じです。

    迷ったらワクワクする方向へ行く

    特に転職のタイミングは、会社に残るか、新しい場所にいくかで悩みました。ですが、私のモットーは「ワクワクするほうに行く」こと。シンプルですが、常にそれを大事にしてきましたね。


    木川:私がマッキンゼーに入ったのはわりと戦略的で、国際機関に入るための修業ができそうだと考えたからです。ですが、3年ほど働いていざ国際機関を受けてみたら、あっさり落ちてしまいました。どうやら、カルチャーがマッチしなかったようです。


    それでも諦めきれず、マッキンゼーの在職中に休暇をとってジャカルタの国際機関で2か月間インターンをしてみたのですが、たしかに性に合わない(笑)。

    憧れの仕事が性に合うとは限らない

    コンサル時代に培った「結果思考」ではなく、「予算思考」が求められることなどが理由でした。


    今の会社で働いているのも本当にたまたまです。マッキンゼー時代の台湾駐在をきっかけに、中国茶の魅力に魅了されていたのですが、2社目で働いている時にちょうど台湾の「春水堂」が日本進出すると耳にしまして。


    2社目のシグマクシスでは引き続きコンサル業務をしていましたが、「とにかくBtoCのサービスに携わってみたい」と、後先のキャリアなどほとんど考えずに応募しました。給料も新卒の時と同じくらいまで下げてのチャレンジでしたが、あの時は今行くしかないと直感したんです。


    及川:私も、キャリア戦略からはほど遠いところにいます。というのも、これまで一回も配属希望を出したことがありませんから(笑)。


    ポーラで営業、マーケティング、商品企画などいろんな仕事をしてきましたが、すべてが人事異動。今、社長をしているのも、自分から希望したわけではないんです。

    価値を提供するプロセスが至上の喜び

    そもそも私にとっては働くこと自体が「至高の喜び」なんです。自分で言うのもなんですが、私は結構な働き者でして(笑)。大学時代から朝昼晩でアルバイトをしてきましたし、入社後もほとんどフルで働いてきました。


    もちろん、お金が稼ぎたいという気持ちもありますが、それ以上に自分の力で稼いで、いろんな人とつながって、誰かに価値を提供して、というこのプロセスがかけがえのない幸せだと思っています。


    弟が身体に障害を持っていて、小さな頃から動きたくても動けない人がいることを理解していたので、なおのことそう思うのかもしれません。


    人生は全部「ガチャ」


    ── キャリア戦略を立てずに、今のポジションにたどり着けたのはなぜですか?


    及川:ひたすらに目の前の仕事に向き合ってきたから。身も蓋もありませんが、それが一番効いています。


    入社して2年目に、私は女性社員で初めて販売会社への出向を命じられました。当時、新卒2年目で出向なんてほとんどありません。


    前例のない異動の理由は、私が隣の席に座っていた1個上の同僚と結婚したから。夫婦で同じ職場にはいさせられない、というわけです。


    当時の上司には「彼(夫)がいなくなると困るから、君が出向してくれる?」とはっきりと言われました。その時から、私の密かなライバルは夫です(苦笑)。

    不安でも飛び込めばチャンスになる

    出向前は不安もありましたが、実際に行ってみるとすごくエキサイティングな環境でした。
    私の仕事は、ポーラレディ(現:ビューティーディレクター)と呼ばれるポーラの商品を店頭で売るスタッフに、商品の売り方をディレクションしたり、新商品を紹介したりすること。


    当然、新卒2年目の私より現場のベテラン社員のほうが知識をたくさん持っているので、本当にゼロから商売とは何か、仕事とは何かを教えてもらいました。


    少しずつ慣れていって、自分なりの販売戦略も立てられるようになりましたが、それもひとえに現場でひたすら目の前の仕事に向き合い、徹底的な顧客視点を身につけたからです。


    すると、どんどん現場の仕事を任されるようになり、結局17年その販売会社にいました。


    木川:私も、特に新卒のころに、マッキンゼーで叩き込まれたプロフェッショナリズムは宝だなと感じます。

    マッキンゼーで叩き込まれたプロフェッショナリズムは宝

    学生の時はやっぱり、自分はサービスを受ける側=お客様なので気づかないのですが、提供側にまわると自然と意識が変わります。自分のこの1時間が数万円だと考えると、なんらかのバリューを出さざるをえないですね。


    面白いことに、当時私がいたマッキンゼーのチームでは、お客様からのチャージ(報酬)が公表されない仕組みでした。パートナーだけが知っていればよくて、現場社員はとにかく頼まれたものを最高の状態で納品しなさい、という意味です。


    及川:いい話ですね。特にキャリアの浅いうちほど、まずは目の前の仕事にとことん打ち込んでみてほしいというのが個人的な思いです。自分が何に向いているかがまだ明確でないならなおさら、まずはやってみる。それに尽きると思います。


    結局、仕事も人生も思い通りになることなんてほぼないです。「配属ガチャ」という言葉もありますが、それでいうと世の中ほとんどがガチャ。

    「配属ガチャ」という言葉もありますが、それでいうと世の中ほとんどがガチャ

    時たま「この仕事に何の意味があるんだろう」と悩みの声を聞きますが、仕事に意味を求めるより、与えられた仕事に応えるほうが、よっぽど大事だなと。


    私自身も、『夜と霧』著者のヴィクトール・E・フランクルの「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題ではなく、むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題だ」という言葉を大切にしています。

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    取材・文:高橋智香、編集:佐藤留美、デザイン:國弘朋佳、撮影:遠藤素子