「新卒チケット」という言葉をご存じだろうか。一度しかない訪れない新卒の機会を、プレミアチケットのように見立てて表現した言葉だ。
就職活動では、大企業からベンチャーには行けるが、ベンチャーから大企業には行けないという噂がまことしやかにささやかれている。
そのため、新卒チケットは大企業に使うべきであり、これを逃すと再び大企業に行くことは困難だと考えている人も多い。
果たしてこの噂は、本当なのか。転職者の体験談が集まる「ワンキャリアプラス」の投稿を交えながら、噂を検証していく。
寺口:大前提、人によりますよね。
ただ、「ベンチャーから大企業には転職できない」は、紛れもないウソです。
実際に、我々が展開するワンキャリアプラスでは、ベンチャーから大企業への転職事例も多く見つけることができます。
寺口:同様に、「大企業からベンチャーには行ける」も、そうとは言い切れません。
大企業とベンチャーで必要な人材は違いますし、ベンチャー企業は採用人数が少ないので、採用には慎重になります。
ですから、「大企業出身だから採用する」といったことはほぼありません。むしろ、アンラーニング能力(過去のやり方を捨て去る能力)や、意思決定経験の有無などで疑問符をつけられ、敬遠されてしまうという話も耳にするくらいです。
そもそも、中途のマーケットは新卒よりもはるかにシビアです。
どんなに前職の企業が立派でも、どんなに大きな案件に「携わった」としても、「何ができるか」がないと、基本的に企業は採用してくれません。「携わった」という言葉だけでは、企業も投資が難しいんですね。
安田:その通りですね。僕も採用面接をよくしますが、「事実」しか聞きません。
例えば、「携わった」プロジェクトは具体的に何名でやっていたのか、その中でどういう役割を担っていたのかと、事実を深堀りしていくのです。
そうしてチェックポイントをつぶしていくと、着飾っている人は必ずボロが出ます。
寺口:ベンチャーから大企業への転職理由として、大きく2パターンが共通項として浮かんできます。
1つは、リソースの豊富な大企業で自分の強みを伸ばしたいというもの。
ベンチャーにいると、個人として関わる領域が多岐にわたるので、マルチに何でもこなすことが求められます。
一方で、徐々に自分の得意領域がわかってくると、分業的で豊富なリソースが使える大企業の環境が魅力的に映るのではないでしょうか。
予算やデータが豊富な大企業で、自分の得意スキルにレバレッジをかけて挑戦してみたいという声は、転職経験談でも多く見られましたね。
もう1つは、ドメスティックからグローバルへの挑戦です。
最近は、スタートアップでもグローバル展開している企業も多いですが、チャンスの頻度としては大企業に分があるので、より活躍フィールドを広げたい人は、大企業への転職を考えるのかも知れません。
寺口:ベンチャーから大企業への転職事例が増えているのは、大企業の抱える経営課題と、ベンチャー人材の持つケイパビリティとの親和性が高いからだと思います。
というのも、多くの大企業の経営課題が、DXや新規事業創出など、既存のものを大きく変えたり、新たな価値を生み出す必要があるものへとシフトしているんです。
大企業はビジネスとして安定している半面、事業を作った経験のある人材が少ないので、起業家精神を持ったベンチャー人材が欲しいのだと思います。
安田:最近、大企業の経営層と話をすると、やたらと部下のマネジャーたちに、「アントレプレナーシップを持って」と言うんですよ。
大企業が、いかに起業家精神のある人材を求めているかを感じますね。
起業家精神というとPL感覚が想起されますが、グロース(成長)に対する責任感・切迫感も、ベンチャー出身者に期待されている部分だと思います。
寺口:「ベンチャー」という言葉が独り歩きしていますが、成長率の高い中小企業のことを指しているにすぎません。
そう考えたときに、ベンチャーと大企業の新規事業部門との間に、本質的に大きな違いはないんです。両者で求められる人材は共通していて、「事業を作れる」人。
ただ、事業を作った経験のある人材の母数はベンチャーの方が大きいので、そこから人が欲しいとなるのは、不思議なことではないと思います。
安田:実際に僕も、ラッシュ(英国系コスメ会社)にいた最後の方では、ベンチャー人材に手を出していました。
大企業の人は、1→100の発想はできても、0→1の発想が苦手なんですね。一方で、規模は小さくても、自分でビジネスを立ち上げた人は、0→1の発想に明るい。
寺口:事業のフェーズや組織課題によって、求められる人材は変わっていくのだと思います。
例えば、逆にベンチャーが組織として大きくなってくると、組織戦略やガバナンス整備が必要になってきます。そうなると、大きい会社でそうした経験のある人が当然求められます。
今はちょうど、大企業が新しいことを始めようとしているタイミングなので、ベンチャー人材が大企業に流れていますが、10年後には逆の現象が起こっていても不思議ではありません。
終身雇用が崩れつつある今、多くの学生は就職活動を通して、将来の転職を意識した「ファーストキャリア」としての1社目を選んでいる(以下の記事参照)。
しかし、一部の会社や業界では「中途で入社すると出世できない」という噂が流れている。社内でキャリアアップしていく人材は、全て生え抜きであり、中途入社はある一定のラインで頭打ちになる。
このような噂から、転職に対してネガティブなイメージを持つ学生も多い。転職が「当たり前」となった今、出世街道は新卒生え抜き組にしか開かれないのだろうか。
寺口:中途が出世できるかどうかは、企業によりますね。
新卒至上主義の会社では、中途が昇進することは難しいのが現実です。ある程度のグレード以上は新卒出身者のみと決めている企業もあると聞きます。
安田:職位=キャリアアップと考えることに違和感はありますが、外資系に限定すると「中途が冷遇される」ことは、ほとんどありません。
例えば、以前在籍していたジョンソン・エンド・ジョンソンは、中途の方が新卒よりも早く出世していました。
外資系の企業は実力主義で人材の流動性が高いため、ポジションがあくと能力のある人材を社外から採用して埋めることが多いです。そのため、社外から来た優秀な中途社員に、新卒はすぐ抜かされます。
もっとも、同じ外資系でも、P&Gやネスレは生え抜き主義だと聞きます。会社の中で、新卒と中途がどのような位置付けかにあるか確認してみてください。
寺口:中途採用に積極的な企業は、候補者に向けて中途社員のキャリアパスをWeb上で明示したり、採用広報で登用しています。
僕たちが企画するワンキャリアライブ(動画の企業説明会)でも、中途社員のキャリアパスを出す会社と出さない会社はハッキリ分かれます。
例えば、DeNAは退社後のキャリアパスを紹介したり、ライブに出演する社員も、中途から新卒の生え抜きまで多様なバックグラウンドの方々でした。
一方で、新卒の生え抜きしか出てこない会社もあります。新卒生え抜きしか出さない理由は、そもそもいないのか、いるけど採用の舞台には出したくないのか、このどちらかです。
安田:企業がここまで新卒を大事にする理由は、新卒しか会社の持つ価値観や組織文化を維持できないと勘違いしているからです。
もちろん、実際は中途でも全く問題ありません。
また、シンプルに中途を入れると、これまでの日系企業の年次体系や給与の秩序が崩れるというのはあります。
人事体制が崩れるし、給与も合わない、年次もどこにプロットしたらいいかわからない、このような状況では新卒に潤沢な人材がいる限り、要職に中途を雇おうとは思いません。
例えば、商社もかつては、中途採用に力を入れる動きがありました。しかし、数年前を境にその動きがやみ、20代での管理職登用など、生え抜き主義に逆戻りしたんです。
新卒組を大事にしたいというより、もう制度と仕組みを崩せないんだと思います。
寺口:そもそも、中途で大企業に行きたがる人が少ないことも理由に挙げられます。
オファー自体はあるものの、大企業に中途で入ることで、自由度が低くなる懸念が大きいという声も耳にします。
例えば、グローバルを舞台に大きな仕事がしたいとか、ベンチャーでは難しい大量のデータを扱える仕事がしたいという理由から、大企業でチャレンジしたいという志がある人は多いです。
一方で、自分のキャリアを考えると、社内フローが増えるし、中途採用に慣れてない会社で現場にフィットできるかは未知数だからリスクだよねという話は、周りでよく聞きます。
特に、エンジニアだと最新のツールが入ってないことは、業務の質に直結するため、入る前に丁寧に確認するそうです。
寺口:厚労省のデータにもあらわれていますが、上がるケースも下がるケースも両方あります。
そもそも転職とは、労働マーケットで個人として上場する=値付けをされるイメージに近い。
中途市場は、第二新卒をのぞいてジョブ型の世界なので、ポストの役割の大きさや、能力を持った人材の希少性に連動して給料が決定します。
ですから、給料が上がる下がるというよりも、実力や需給に合わせて、適正価値に近づくという捉え方が適切だと思いますね。
つまり、現職がもらいすぎの人は下がるし、逆の場合は上がる。
給料が下がるケースで多いのが、前職の企業や業界が「稼げる資産やシステム」を持っている場合。
システムが稼いでいる分のお給料が額面に乗っているので、実力に対して「もらいすぎ」であることが否めないのです。
例えば、私は金融の総合職の5年目で転職したのですが、当時は「異業種行くならどこ行っても200万円下がります」と人材エージェントに言われました。
安田:ある程度年齢を重ねた人には、特に当てはまる現象ですよね。
一般的な年功序列の企業では、年次が上がるにつれて自動的にお給料が上がっていくので、マーケットの適正価値よりも多くもらっている社員も多くいるなという印象です。
でも、それは責められるものもなく、若い頃に安い給料で働いていた分のギャップを取り返しているだけなんです。
寺口:年金と似ていますね。昔に頑張った先輩社員たちの給料分を、今の若手が頑張って稼がないといけない。だけれど、もしその企業や業界が傾いてしまったら、今の若手社員が頑張ったツケは永遠に支払われませんよね。
安田:だから僕は、2000年代にスーパーマーケットが斜陽になった際に、ツケは返ってこないなと察し、外資系に転職しました。
なぜなら、外資系は完全なジョブ型だから。25歳だろうと45歳だろうと、同じ責任で同じ仕事をしていれば、フェアに同じお給料をいただけるんです。
寺口:同世代の友人たちと30歳の頃によく話したのが、自分の給料の仕組みがわからずに、生活水準を早めに上げすぎたことへの後悔です。
確かに「稼ぐシステム」を持った企業にいると、マーケットの適正価格以上の、高いお給料をもらうことができます。
しかし、いざ転職に挑戦しようと思うと、中途採用はマーケットの適正価格でしか評価してくれないので、お給料が下がります。人間にとって、一度上がった生活水準を下げるのは大変難しいので、転職に踏み切れないケースが多いのです。
ですから、転職するしないにかかわらず、労働マーケットでの自分の価値を、常に知っておくことは良いことだと思います。そのためには、自分の実績や保有スキルなどを書いたレジュメを、マーケットに晒しておくことがおすすめです。
ジョブ型採用が広がりを見せる一方で、仕事を経験したことがない学生にとって、ファーストキャリアをどの職種から始めるかは重要だ。多くの学生は、汎用性が高く幅広いビジネススキルが身につけられることから、「つぶしが利きやすい」と噂される、営業とコンサルを選ぶ。
しかし、営業とひとくくりにしても新規開拓営業や、既存進歩営業など顧客の種類や時期、業界によってさまざまな種類があり、それに伴ってインサイドセールスやカスタマーサクセスなど新しい職種も増えている。
コンサルも同様で、一口にコンサルと言っても、戦略系や総合系、シンクタンクなどあらゆる業界に存在する。果たして、営業とコンサルは、次の切符を手にしやすい将来性のある職種なのだろうか。
安田:営業という職種が大事なのではなく、それを通してどんなスキルを身につけたのかが重要です。
営業は人口が多く、転職市場にごろごろいます。そのため、オファーをかけたとき、一番網に引っかかりやすいというのはありました。
ただ、営業だから採用することはなくて、どのような実績を残し、どのような能力で課題を乗り越えてきたのかを見ています。
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〈全文記事には、こんな話も載っています〉
取材・文:鈴木朋宏、平瀬今仁、編集:佐藤留美、デザイン:國弘朋佳