世界最大手のパソコンメーカー・レノボグループの日本法人で社長を務めるデビッド・ベネットさんは、大学卒業後に日本の古典文学の研究者を志して来日し、そのまま東京で社会人キャリアをスタートさせた。
その後も着実にキャリアを積み、グローバル企業の要職を歴任。現在は企業トップとして会社の舵を取りながら、書籍を出版したり、eスポーツのビッグタイトル「Apex Legends」の大会に出場したりと、活躍の幅を広げている。
そんなデビッドさんは、実は今まで一度も「キャリア戦略」を立てたことがないという。
『土佐日記』が愛読書だったカナダの文学青年は、いかにして今のポジションに辿り着いたのか。ユニークな経歴をひも解きながら、キャリア形成のヒントを探った。
※この記事は、NewsPicksの特集「Z世代の就活」に掲載したインタビューの無料ダイジェスト版になります。インタビュー全文は末尾にあるリンクをご覧ください。
日本に来て驚いたことの一つに、「就職活動」があります。
就活のシーズンになると、みんな髪を黒く染めて、リクルートスーツを着ますよね。私が大学まで過ごしたカナダでは、まったく見かけない光景です。
もっとも、コロナ禍もあって就活スタイルも変わっていると思います。ですが、いまだ多くの就活生が同じような時に動きはじめて、同じような会社を受けている。外国人の私からすると、少し心配な気持ちになります。
おせっかいを承知で、「本当に納得して会社を選べているのかな」とか「機を逸してしまった人はすごいストレスだろうな」と、思わざるを得ないのです。
そんな話をしておきながら、私の就活が立派だったかといえばそんなことは全くありません。特別な戦略もありませんでした。
ただ、一つだけ明確なゴールを持っていました。それは、「日本に住みたい」というもの。
大学時代は、日本の古典文学を研究していました。その一環で、卒業後に文部科学省のプログラムで日本に滞在していたのですが、その時に長男が生まれたのです。
本当は、そのまま文学の研究者になりたかったけれど、まずは家族を養わなくてはいけない。そこで、大好きな日本に住み続けられることを条件に就職先を探し始めました。
どんな仕事をしたいかは、あんまり考えなかったですね。そもそも働いたことがないし、仕事の中身で選ぶのは難しいなって。
最終的に、私は東京にある人材コンサルティング会社に就職しました。
人材に興味があったわけではないし、会社のこともまったく知りませんでした。ジョブフェアでたまたま知って、なんとなく面白そうだなと思ったのが決め手です。
その後は、人材コンサルでクライアントだった(半導体大手の)AMDに転職し、10年ほど勤めた後、今はレノボ日本法人社長として働いています。
20年ほど働いてきて思うのは、就活の軸は「ここに住んでみたい」とか、「なんとなくこれが好き」とか、それくらいシンプルでいいということです。
その後のキャリアでいろいろなチャンスや縁に恵まれるはずですから。
最近は、日本でも就職前にインターンをしたり、自分で新しいプロジェクトを立ち上げたりする人が増えていると聞きます。
それは、とてもいいことです。結局、やってみないと何も分かりませんからね。
経験はどんなものでも尊いですが、一つだけお勧めするとしたら、「自分でビジネスをやってみる」ことでしょうか。
私が採用のレジュメを見る時に、思わず目を止めてしまうのはEntrepreneur(起業家)。英語では「Roll up sleeves(腕まくり)」と言いますが、ちょっとストレッチな仕事に挑戦している人、仕事やビジネスの本質が何かを少しでも分かっていて、自分のものにできている人は魅力的です。
起業までしなくても、学生時代に何かしらの仕事で「Roll up sleeves(腕まくり)」したことがある人は、貴重な経験を積んでいると言えます。
そういう経験を通じて、のめり込めそうな仕事を探してみてください。
もちろん、仕事を「お金を稼ぐ手段」と割り切って考える人もいるでしょう。それは、人それぞれの考えなので、まったく否定されるものではありません。
私自身は、仕事とは「自分のハピネスを追求するもの」だと考えています。
人生のなかで、仕事が占める時間の割合は非常に大きい。だったら、好きなことをしていたほうが満足度が高いし、より大きなパワーが出せると思うのです。
好きなことをするために、好きじゃない仕事をせざるをえない状況もあるでしょう。そういう時は、1年とか2年とか、時間を決めて頑張ってみるのがいいと思います。
以前受けた取材で、私はカナダに「Two years, up or out」という言葉があると話しました(※下の記事参照)。同じ仕事、同じ役職のまま2年が経って3年目に突入したら、それは会社からあまり評価されていないという意味です。
それだけ聞くと少し物騒ですが(苦笑)、逆に言えば「人は2年あれば新たなチャレンジができる」とも考えられます。
最初の1年は、ひたすら学ぶ。そして次の1年で、勉強したことをエグゼキューション(実行)していくのです。
なので、2年間は好きじゃない仕事でも取り組んでみる。そして、その経験を元に3年目で別のチャレンジを仕掛けてみてはどうでしょうか。
もう一つ、お勧めなのは、仕事以外の「サブ・プロジェクト」を持つことです。
本業で行き詰まっている時のリフレッシュになるし、意外な場面でビジネスの役に立ったりします。
私自身、サブ・プロジェクトを持つようにしていて、直近ではeスポーツの「Apex Legends」の大会に出たり、流行りのNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)の企画を考えたりしています。
『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』(KADOKAWA)という、日本語に関する本を書いたこともありますよ。
サブ・プロジェクトのように、「好きなこと」は仕事以外でやってもいいんです。
何らかの形で自分の「好き」に向き合い、表現できる場を持つ。それが、人生がより豊かなものにするヒントになると思っています。
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〈全文記事には、こんな話も載っています〉
取材・文:高橋智香、取材・編集:佐藤留美、デザイン:すなだ ゆか、写真:レノボ・ジャパン提供