まずは大学によって希望する業種や職種にどのような違いがあるか見てみたい。比較対象にするのは関東圏の有名大学の代表格である東京大学と早稲田大学・慶應義塾大学だ。
東大や早慶といったいわゆる偏差値「上位校」集団を見ても、人気職種に違いがあることがよくわかる。
東大では「事務・アシスタント」や「技術職(SE・エンジニア)」が少ない一方で、コンサルなどの「専門職」や「公務員」が多くなっている。同じ「関東の上位校」という立場でありながら、大学の性格が表れている。
ただ、学生と直接関わる機会の多いdodaキャンパス編集長の桜井貴史さんは「どの大学でも人気が高い『企画・管理』職種は商品企画や事業企画などに分かれるが、学生側はそこまで分解して考えてはおらず、イメージが先行している」と指摘する。
イメージ先行は、業種に関しても同様だ。同じ大学群での希望業種の割合を見てみると、東大、早慶ともに1位はインターネット・広告・メディアとなった。
2位は、東大がコンサルティング・監査法人、早稲田はメーカー(素材・化学など)、慶應は商社がそれぞれランクイン。3位は、東大早慶ともにIT・通信となった。
「インターネット・広告・メディアの人気は、普段の生活の中で見えやすいBtoC寄りの業種であること。また、コンサルや商社などが上位にランクインしたのは、就活生は自分の『半径5メートル』つまり、大学の先輩や同級生の間で人気のある企業を無意識のうちに希望する傾向にあることの証左といえるでしょう」(桜井さん)。
東大は、コンサルティング・監査法人などを希望する割合が慶應より2ポイント以上多い。また、早慶では希望業種の上位に入るメーカー(素材・化学など)を希望する割合が低く、ベスト5にすら入らない。
ちなみに、10年ほど前までは東大出身者がこぞって目指した金融業界が5位にまで落ちていることも(早稲田も5位)興味深い。
桜井さんは「半径5メートルの法則」の象徴として、慶應における商社志望の多さを挙げる。就職活動ではOBやOG、すでに就職した先輩からアドバイスを受けることが多いため、これまでの流れの影響を受けやすいという。
※全文記事では、関東圏のMARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)と関西圏の関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)のデータも紹介している。
桜井さんは、就職活動の進め方にも「半径5メートル」の影響があると指摘する。
「例えば、東大・京大や早慶といった上位校の方が動き出しが早かったり、地方より大都市圏の学生の方が早期に就活を始める傾向が大きいのは、周りの人間が就職活動を始めるのが早いから」だという。
このように就職活動のさまざまな判断で「半径5メートル」が基準になっているようだ。しかし、このことは必ずしも悪いことではないし、自然なことだ。
とはいえ、日本の会社が、年功序列・終身雇用を前提とする雇用慣行から変化しつつある現状、より多様な選択肢を模索するなど、自身の可能性を広げる視野の広さを担保することが重要だろう。
就活生と企業の双方と接する機会の多い桜井さんは、就活市場のマクロな流れと就活生の意識のズレを感じることがあるという。
例えば「企業の人事は学歴をあまり気にしなくなっている」。
大学でもグループディスカッションや各種ワークショップ形式の授業の導入など優秀な学生を育てる取り組みを増やしたこと、入試の形態が多様化したため大学名が能力を担保する材料ではなくなっていること、そして偏差値が高くない大学出身の者も優秀な人材が多いことに企業が気がついたことが大きな要因だ。
にもかかわらず、学生側は過剰に「学歴でフィルタリングされているに違いない」と思い込んでいるという。
企業側のニーズが変化しているにもかかわらず、学生側が適応できていないケースもある。
コンサルティング企業でデザインの重要性が叫ばれ、デザイナー人材が渇望されている一方、新卒のデザイナー人材はコンサルティング企業を選択肢として捉えていない。
美術大学在学者の希望業種を集計してみても、コンサルティング業界を志望する割合はほぼゼロだ。
業種や職種に対してイメージが先行していることもズレの一つだ。
昨今、いわゆる上位校を中心に、コンサルティング企業の人気が高まっている。これについても桜井さんは「向き不向きは人によって全く違うので、自分に合っているかどうかを確認する必要がある」と強調する。
イメージが先行した結果、インターネット業界の人気が高まる一方で、本来やりがいもあり、汎用性の高いスキルも身につきやすい営業職が不当に不人気になっているという。
例えば、SaaS(Software as a Service)の普及に伴って「カスタマーサクセス(クライアントの成功に伴走するアドバイザー的な仕事)」という新職種が生まれるなど、これまでなかった新たな職業も生まれつつある。こうした新職種の認知も、あまり進んでいない。
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〈全文記事には、こんな話も載っています〉
取材・文:衞藤健、取材・編集:佐藤留美、デザイン:國弘朋佳