猪子寿之が明かす「組織で働く」本当の効能

猪子寿之が明かす「組織で働く」本当の効能

    多様性の時代。就職をせず学生起業をしたり、フリーランスとして社会人生活を始める人も珍しくなくなった。


    本当にやりたいことがあるなら、就活に時間を費やすより、独学でスキルを身に付けて働いたほうがいい​​。そういう考えも決して間違いとは言えない。


    だが、チームラボ代表の猪子寿之さんは「働き方が自由になっても、僕は絶対にチームに入って仕事がしたい」と語る。


    自身は学生時代に就活をせず、東京大学を卒業後に起業した身だ。にもかかわらず、組織に属するのを勧めるのはなぜか。会社と個人の理想的な関係とはどんなものか。


    デジタル技術を使ったアートを世に広め、新たなムーブメントを生み出す異端児の話に、耳を傾けてみよう。


    ※この記事は、NewsPicksの特集「Z世代の就活」に掲載したインタビューの無料ダイジェスト版になります。インタビュー全文は末尾にあるリンクをご覧ください。

    チームラボ代表の猪子寿之さん 経歴

    目次

    入りたいと思える会社がなかった


    僕が初めて、働くことをぼんやり意識し始めたのは高校卒業くらいの時期です。


    高尚な志や、やりたい仕事があったわけではありません。大人になんてなりたくないけど、もうすぐなっちゃうんだよな、大学出たら働かなきゃな、くらいの感覚でした。


    ちょうどその頃、たまたま雑誌で見た日本の時価総額ランキングに、驚いたのを覚えています。ランキングの上位は、元国営企業や財閥系の銀行ばかり。新しいものや価値観なりを生み出している会社が、一つもないと感じたんです。


    平成の終わりに、SNSで平成元年(1989年)と平成31年(2019年)の世界時価総額ランキングを比較する画像が出回っていましたよね?


    あれを見た人は覚えているかもしれませんが、平成元年は日本の時価総額トップ企業が軒並み世界の上位に入っていました。

    平成元年(1989年)と平成31年(2019年)の世界時価総額ランキング

    ところが、平成最後のランキングになると、トップ10は米中のIT企業ばかり。日本の会社は、トップ10に1社も入っていません。


    今振り返っても、僕が高校生だった1990年代前半の日本企業は、新しい価値を世界に示すような仕事ができていなかったんだと思います。


    僕は、どうせ働くなら人類の価値観をほんのちょっとでも広げるようなものを作りたいと考えていたので、こういう社会に出て働くイメージがどうしても持てなくって。

    猪子寿之:どうせ働くなら人類の価値観をほんのちょっとでも広げるようなものを作りたいと考えていた

    それで、当時から仲の良い友だちに「将来会社をつくるから一緒にやろうよ」と声をかけていたんです。


    その後、大学生になって90年代半ばになると、インターネットが普及し始めました。ネットがあれば国境を超えて発信できる。もともとサイエンスとアートが好きだったので、デジタルの世界で仕事をしようとチームラボを起業しました。


    就職活動もしてみたかったけど、朝起きられないので会社説明会には1社も行けず、諦めました(笑)。

    猪子寿之:就職活動もしてみたかったけど、朝起きられないので会社説明会には1社も行けず、諦めました

    2001年の創業当時は、事業プランも創業資金もほぼゼロ。デジタルで、それぞれ好きだと思える仕事をやること以外、何も決めていませんでした。


    そんな状態で、幼なじみや学校の友人たちはよく一緒に起業してくれたなと思います。ずっと共にいたし、これからもみんなで好きなことやろうぜ!という“青春の魔法”に助けられたんです、きっと。


    マリオやスマホを生んだのは誰か


    会社の名前を「チームラボ」にしたのは、独りでは大きなことを成し遂げられないと考えていたからです。


    デジタルなプロダクトの開発は複雑極まりないし、リアルなモノづくりに比べると分業が難しい。ソフトウェアもハードウェアも進化のスピードが異常に速いので、高度な専門性を持つ人たちがチームを組まないと、良いアウトプットは出せません。


    専門家たちが一つの場所に集まり、お互いに専門領域を超えてコラボしたほうが、人が驚くものを生み出せるはず。


    そういう直感だけはあったので、チームで何かを生み出すためのラボをつくろうと考えました。

    チームラボのオフィス。ワンフロア全て、チームのコラボを促すために設計されている
    チームラボのオフィス。ワンフロア全て、チームのコラボを促すために設計されている(提供:チームラボ)

    今の時代は、大学を出てすぐフリーランスとして働くこともできます。それが今ベストな選択だと思ったなら、個人事業主として働くのも悪くない。


    でも、世界中でたくさんの人が感動したり、体験してよかったと思ってもらえるような仕事がしたいなら、絶対に独りじゃムリです。


    日曜大工で世界が変わったって話、聞いたことありますか? 少なくとも僕はない。


    iPhoneだって、スティーブ・ジョブズが独りで作ったんじゃなく、Appleが生み出したんです。


    『マリオシリーズ』の生みの親は宮本茂さんだと言われるけれど、開発したのは宮本さんをはじめとする任天堂のクリエイターたちです。

    猪子寿之:iPhoneだって、スティーブ・ジョブズが独りで作ったんじゃなく、Appleが生み出したんです

    誰かのアイデアがイノベーションを生むきっかけになることはあっても、チームがなければ形にはできません。


    Appleや任天堂に比べたらまだまだですが、僕らもチームラボに入ったり協力してくれる人たちのおかげで、今では数百万人が来場するアートの展覧会を世界各地で開催できるようになりました。

    それに、チームで働いたほうが、自分自身がクリエイティブになれます。


    僕は徳島の片田舎で育ち、学生時代は創造的な人間になるための教育なんて一度も受けていません。プログラミングだって、本格的に学んだのは起業してからです。


    ただ、とにかく創造的な人間になりたいという思いだけはありました。


    だから、チームラボや社外クリエイターのみんなと働く中で、それぞれの専門性を学ばせてもらい、何とかやってこられた。


    要は、場の力を借りながら成長してきたんです。


    「そういう人たちと一緒に働くには、自分も相応の専門性を持っていなければダメ」


    そう考える人もいるかもしれません。でも、僕は若いうちなら専門性なんてなくていいと思うんです。さっき話した“青春の魔法”じゃないけれど、ギリギリ、まだそれが許される。

    猪子寿之:若いうちは青春の魔法が許される

    「何者」かになりたいと強く願っていて、なりたい自分になれる場所で成長していく。それでいいじゃないですか。


    自由に働くために必要なのは信頼


    ただし、その場所選びは極めて大切です。僕らがチームラボを立ち上げたもう一つの理由は、優先順位の第1位が常に「新しいものを生み出す」になる組織をつくりたかったからなんですね。


    僕はろくに就活もせずに起業したので、もしかしたら昔から、日本にそういう会社があったのかもしれません。


    でも、平成元年の時価総額ランキングに載っていたような会社に入っても、クリエイティブな人間になれる環境があるとは思えなかった。だったら自分たちでつくってしまおうと。


    優先順位の1番目が「クリエイティブなことをやる」で、2番目も3番目もない。ほかの要素は、究極的に排除したいと考えていました。


    普通の会社には、いろんな優先順位があるじゃないですか。中長期計画はこれで、マーケットの状況はこうなっていて、目標達成にはこれとこれが必要だ、みたいな。


    それだと動きにくいし、優先順位が複雑になると必ずコンフリクト(衝突)が起こります。

    猪子寿之:優先順位が複雑になると必ずコンフリクト(衝突)が起こります

    だからチームラボは、出資を受けない、上場もしない、金も借りない、売上目標もつくらないという方針を貫いてきました。


    ただし、昔も今も、優先順位の4番目くらいに「場を維持する」というのがあって。


    最高のものを生むためにつくった居場所が、なくなってしまったら元も子もないという考えを大事にしています。


    それこそ創業当時は、売上を上げるために料理教室のオンライン予約システムとか産経新聞の「iza(イザ!)」など、Webサイトの受託開発・運用案件を必死にこなしました。


    業界の知識はないし、良いWebサイトの基準すら分かっていなかったけど、とにかくみんなで最高のクオリティーを出すぞと徹夜しながら開発しました。


    そうやって実績を残すと、徐々に仕事を頼まれる機会が増え、会社を維持するためのお金も増えていく。


    それ以上に、仲間同士の信頼が深まりますよね。これがすごく大事なポイントです。

    猪子寿之:全力でクリエイティブなものを作る。そうやって仲間の信頼を得る

    学生の頃から長い時間を共にして、一緒に仕事もして、信頼し合える関係を築けたから、経済的には説明の付かないような挑戦をしたいと言い出しても「好きにやりなよ」となる。


    まずは場を維持するために、全力でクリエイティブなものを作る。そうやって仲間の信頼を得る。だから好きなことができるようになったという順番ですかね。


    なぜ「考えの違う仲間」が大切か


    この「好きにやれる」状態を、みんなでつくってこれたのは、ものすごい価値だと思っています。


    僕は経営とかマネジメントがとにかく苦手で。“青春の魔法”にかかってくれた創業メンバーや、その後に入ってくれたメンバーには、感謝しかありません。


    昨今のコロナ禍でも、チームのありがたみをつくづく感じました。

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    取材・文:伊藤健吾、編集:佐藤留美、取材協力:高橋智香、小原由子、デザイン:岩城ユリエ、撮影:是枝右恭