クリエイター志望者が知っておきたい「意外な仕事と向き不向き」
2021年11月17日(水)
クリエイターは、クライアントや消費者が求めるものを創造、作成する職業だ。
技術の進歩やネットコンテンツの普及もあり、クリエイターの数や職種の種類は拡大。クリエイター職を目指す学生や、必要とする求人企業が増えている。
そんな中、下の記事では、博報堂出身でThe Breakthrough Company GOを立ち上げた三浦崇宏さんによって、新時代に求められるクリエイターの定義が説明されている。
「課題解決型」は限界。新時代のクリエイターの条件三浦さんによると、従来の広告業界では、顧客の課題に対して予算の範囲内で解決策を探す「課題解決型」のクリエイター育成がなされていたと説明する。
しかしこれからは、新たな価値を生み出す「機会創造型」のクリエイターが必要だという。
例えば、ある商品の売上を伸ばしたいという依頼に対して、広告企画の提案やCM制作を行うのが従来のクリエイターなら、これからは「ミドリムシを動力源に飛行機を飛ばす変な会社があるから、社会での使い道を一緒に考えない?」などと提案する力が重要となる。
それゆえ三浦さんは、自社の採用面接でも「広い視野」と「圧倒的なストロングポイント」を確認しているそうだ。これはつまり、時代の要請に応じて求められる役割も変わっていくことを示している。
そこで本稿では、主にコンテンツ関連のクリエイターを目指す学生、転職希望者に向けて職種分類と仕事内容を解説。
加えて、実際にクリエイターとして働くロールモデルの経験談と、未経験者へのオススメ本を紹介しよう(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。
コンテンツ関連のクリエイターは大きく、自身で手を動かし制作物を作成する制作系職種と、全体の統括やスケジュール管理をメインに行うディレクター系職種の種類に分かれる。
それぞれどのような職種があり、仕事内容とやりがい、苦労は何なのかを紹介していく。
1つ目は映像クリエイターだ。
映像クリエイターとは、各種の動画コンテンツを企画・作成する仕事。配信先はTVのようなマスメディアだけでなく、Webサイトやスマートフォンアプリ、SNS、動画配信プラットフォームなどに広まっており、制作手法も多様になっている。
勤め先はメディア業界からゲーム会社、事業会社のマーケ・広報部門などと幅広い。最近はYouTuber(やYouTuberを支える裏方)として生計を立てる人も増えている。
バンダイナムコスタジオの映像クリエイター谷口博昭さんは、自身の制作物に対する反応をSNS上で確認できる楽しさがある一方で、媒体に応じた最適なフォーマットが見いだせない時に苦労すると語る。
映像制作において、 伝えたいメッセージをユーザーに届ける演出の答えは
2つ目の職種はライターだ。
ライターとは、依頼された内容に応じて取材・調査を行い、記事を書く仕事。雑誌やWebメディアの他、近年はオウンドメディアやコンテンツマーケティングの世界でも需要が高まっている。
場合によっては企画立案から携わり、自らその実現をリードしていく。
フリーランスのライターとして活動するオバラ ミツフミさんによると、インタビューを通じて他者の思想を知れることにやりがいを感じる一方、企画内容に応じて広く深い知識が問われるため、常に勉強し続ける姿勢が求められるという。
苦労と表現すべきか迷いましたが、ライター(インタビュアー)という仕事の特性上、自分よりも人生経験が豊富な方とお仕事をする機会が大半です。 またクライアントの領域もさまざまなので、常に勉強し続けなければ、そもそも仕事にならないと感じています。 日常的にインプットをしながら、毎日のようにインプットを行うので、毎日背伸びをして歩いている感覚です。 それ自体を楽しめる人には、ライターという仕事は向いているのではないかと感じます。
3つ目は、グラフィックデザイナーを紹介する。
グラフィックデザイナーとは、印刷物や広告、メディア、Webサイトなどのビジュアルを構想・作成する仕事で、制作物を見る人にどのようにメッセージを伝えるかを考え、コンセプトを決めた上で紙面・画面をデザインする。
かつてはデザイン事務所や広告代理店が主な勤め先だったが、今はプロダクト開発を行う事業会社に応募してインハウスデザイナーとして活躍する人も増えている。
ZOZOテクノロジーズでインハウスのグラフィックデザイナーを務める藤本歩実さんによると、会社を支えるクリエイティブ制作をできる喜びがある一方で、1日中試行錯誤しても制作が終わらない大変さがあるという。
とにかく実際のゴール(完成)までの道のりが長いです。そのほとんどが考
はじめにクリエイティブ・アートディレクターを紹介しよう。
クリエイティブ・アートディレクターとは、広告やグラフィックデザインの制作で全体統括を行う仕事。一般的には、広告代理店でクライアントと制作現場の間に立ち、各種クリエイティブの方向性や完成物の品質管理、制作過程の進捗管理を担当する。
それゆえ、コミュニケーションを取る相手はクライアントやプランナー、エンジニア、デザイナー、コピーライターなどと幅広い。
各種コンテンツの企画・制作を行うカヤックの阿部晶人さんによると、ひらめきがコンテンツとなり笑顔を生み出せた時にやりがいを感じる一方、チームでアイデアが出ない時や、案件を共にした戦友がプロジェクト終了後に去ってしまう時に苦しさを感じるようだ。
発想が僕らの商品です。 だから他の人には出せないアイデアをどうしても出さなければなりません。 ねじめ正一さんの「手を抜かず、気を抜かず、力だけを抜く。」という言葉があります。重圧に負けて硬くなってしまうとどんどんアイデアが出なくなっていくので、「なんとかなるやろ」という根拠のない自信を常に持ち続けて軽やかに粘り続けるのです。 基本的にアイデアを出すのが好きな人がこの仕事をやっていますが、それでも出ない時はかなり苦しいものです。嫁さんに相談したいけど、新商品の具体的な情報言えないからめちゃめちゃぼやかした言い方で相談してみたら「あんた何言ってんのかまじわからん」と一蹴されます。 この苦しさを解消するにはアイデアを出すしかないのです。そこに近道はありません。でもみんな苦しいけどマラソンしてるじゃないですか?(僕はしないけど)。あれと同じでやっぱりランナーズハイになったりゴールする喜びが体に染み付いてるから、苦しくてもやるんですよね。いやぁ、苦しいなぁ(笑)。 もう1つの苦しみは、仲間が去ってしまう時。 ほとんどのアイデアは難産です。 仲間とうめきながら、苦しみながら、産み出すのです。そのアイデアを可愛がって育てて「世の中」という世界へ嫁に出す訳です。たくさんの仲間がかいがいしく世話をしていく中で、仲間というよりもむしろ家族のような絆がスタッフ間にできていきます。だから色々な事情で仲間が去ってしまう時は堪え難い苦しみを伴うのです。何度枕を濡らしたことか。 失恋の乗り越え方が様々なように、この苦しみもその人なりに乗り越えるしかない。僕の場合は、旅立つ仲間の武運を祈りながら、胃袋を揚げ物で満たします。
次にWeb編集者・雑誌編集者を紹介する。
Web編集者・雑誌編集者は、各種メディアに掲載するコンテンツを企画・編集する仕事だ。
主に出版社・メディア企業勤務となるが、近年はオウンドメディアを手掛ける事業会社の求人も増えている。
情報提供者やライター、フォトグラファー、デザイナー、イラストレーター、DTP(印刷物のデータ制作)担当者などさまざまな人たちと協業しながらコンテンツを作成し、メディアの特性に応じて最適な配信形式を考え、アレンジする役割を担う。
NewsPicksで編集者を務める野村高文さんによると、一流の人たちと至近距離で触れ合える楽しさがある一方、作った企画がウケず数字がついてこない時はプレッシャーを感じるという。
数字がついてこないときです。もちろん企画職である以上、当たる企画もあ
ここからは、こうしたクリエイター職に向いている人の特徴を、ロールモデルの経験談から紹介していく。
転職サイトの「エン転職」をはじめとする人材サービスを運営するエン・ジャパンで、映像クリエイターを務める西春博矢さんは、普段からコンテンツに愛着を持てる人が向いているという。
ドラマ、バラエティ、映画など、または、YouTube、TikTokでも、好んで見るジャンルやついつい見てしまう映像があることが、この仕事において一番大事だと思います。「ついつい見てしまう」「印象に残る」映像を作り、視聴者に行動を促したり、感情を抱かせたりすることが我々の仕事だからです。 映像に普段から慣れ親しんでいれば、「なんでその番組や映画が好きなのか」「どんなところが見続けられるポイントなのか」「何を面白いと思うのか」「自分が企画・編集するならどうするのか」など考える(研究する)ことができます。逆をいえば、普段から映像に慣れ親しんでいない人(テレビを全く見ない、YouTubeやTikTokを使ったことがない)人は、まず好きな映像作品や、番組、動画を見つけることから始めるといいかと思います。
西春さんはその理由を、日常的にコンテンツを見ることで「なぜその作品が好きなのか」「自分ならどう企画・編集するか」を因数分解して考える習慣が身に付くからだと説明する。
コピーライターとしてエン・ジャパンに入社し、企業サイトやサービスのコピーライティングを行う野津幸一さんは、ライティングスキル以上に粘り強さが必要だという。
言葉って、本当にままならないものだなと思います。文法を無視して好き勝手できないし。読む人のことを考えて書かないと全然伝わらないし。普通に書くと、普通の言葉しか出てこなくてクソつまんないし。だからそう簡単に、良いものが出来上がるものではない。だから、良い書き手になるためには、何よりも粘り強さが必要だと思います。 まず、書く前に考える。依頼主が伝えたいこと。現状の課題感。伝えたい相手はどんな人か。何を知っていて、何を考えていて、どんな言葉に喜び、どんな言葉を嫌がるか。どんなシチュエーションでこの言葉・文章に接触するのか。それなら、どんな口調で、どんな内容を、どんな構成で伝えるのが良いのか……。 その上で、書きながら考える。書いてからも、考える。読み返して、引っかかるところはないか。論理は飛躍していないか。読み手に嬉しい言葉遣いになっているか。書き手のエゴが出すぎていないか。余分な言葉は削ぎ落とされているか。もちろん、誤字・脱字・衍字(えんじ=余分な文字が入るミスのこと)は絶対NG。書いてから、できれば一晩寝かせて、フラットな目でチェックする。信頼できる人に見てもらう。そうやって、何度も書き直す。 短いコピーでも、長文でも、そのプロセスは変わらないと思います。特に長文は、技量がモロに出る気がする。ひょっこり良いフレーズがひとつふたつ浮かぶことはあるけど、それだけでは「一定の長さのあるテキスト」をクオリティ高く仕上げることはできない。ちゃんとした長文を書けないと、プロを名乗れない気がするので、そのスキルは粘り強く伸ばしていかないといけないのかなと思っています。そういう地味なところを頑張れない人は、結局、短いコピーも含めて、あんまり上手くなれないんじゃないだろうか(自分もそんなに上手くないかもしれないけど……)。
コピーライターの仕事では、依頼主が伝えたいことや現状の課題感だけでなく、伝えたい相手は何に感情が動くのか、徹底的に考え抜く必要がある。
その上で、コピーを書いた後も、論理の飛躍や読み手の心を動かすものになっているか何度もチェックし直す。
締め切り厳守という“絶対ルール”の中、この作業をどれだけ粘り強く続けられるかが問われるようだ。
クリエイティブ職では意外に思うかもしれないが、特にディレクター系クリエイターにとって欠かせない素質の一つだ。
事実、NewsPicksで編集者を務めるBae Ryoseonさんは、企画・制作だけでなく細かな確認作業も重要だとコメントしている。
記者と編集者にとって、誤報と誤解が一番のリスクだと思っています。今はソーシャルメディアのたった数十文字の文も、誤解を生む表現や固有名詞のミスがあると炎上します。なので、この仕事で一番大事なのは「ファクトチェック」であると考えています。ユニークな考えを持った人や話すのが得意な人、文章力がある人など、「あればいいスキル」はたくさん挙げられます。しかし、ファクトチェックをきちんとできないと、どれだけ斬新なアイディアを提案できても記者・編集者の仕事は難しいと思います。私も細かい表記や固有名詞の確認など、人より時間がかかっていつももどかしいですが、ここをきちんとできないとプロの編集者になれないと言い聞かせながら取り組んでいます。
編集者のような仕事では、誤解を生む表現や、固有名詞のミスが即炎上につながってしまう。細かな部分までファクトチェックを繰り返す地味な仕事も重視されると覚えておこう。
最後、コンテンツ関連のクリエイターを目指す人向けに、ロールモデルがオススメする入門書を紹介していく。
この本は、人気放送作家の鈴木おさむさんによって書かれ、ヒット企画を生み出す55の実践的な企画術が解説されている。
動画配信サービス「ABEMA」を運営するAbemaTVの映像クリエイター早馬光さんは、考えが煮詰まった時や脳トレーニングをする時に読み返せる点で、未経験者へのオススメ本として紹介している。
人気放送作家の鈴木おさむさんが、企画の考え方や作り方を余すことなく教
早馬さんは「企画する立場の全てのビジネスパーソンに役立つ書籍」だといい、「人は何に面白さを感じるのか」を論理的に理解することができるようだ。
『言葉ダイエット』はコピーライターの橋口幸生さんによって書かれ、無駄を削り、魅力的な文章を書くための文章術が4ステップで解説されている。
DMM.comでグラフィックデザイナーを務める滝見壮平さんは、人に魅力を伝える上での「構成スキル」が得られる点で本書をオススメしている。
グラフィックデザイナーを目指す人にお勧めするのは不思議に思われるかも
滝見さんのコメント通り、さまざまなモノの魅力を第三者に伝える必要のある全てのクリエイター必読の一冊だ。

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