ネット印刷・集客支援のプラットフォーム「ラクスル」を手掛けるラクスルで、CMO(最高マーケティング責任者)を務める田部正樹(たべ まさき)さん。
丸井グループ、テイクアンドギヴ・ニーズを経て、現在はラクスルで運用型テレビCM「ノバセル」を立ち上げるなど、多様な業界で自分だけのキャリアを歩んできた。
そんな彼は、「いま22歳だったら、飲食業界に就職してビジネスパーソンとしての足腰を鍛える」と語る。得意のマーケティングで、事業や業務の効率化を進めてきた彼が、あえて効率化の進んでいない業界に行くのなぜか。
「新卒には、自分の名前で仕事ができるようになってほしい」と語る田部さんに、20代から自分ならではの強みを持って働く秘訣を聞いた。
当社のインターンや、若い世代を見ていると、何事も効率が大好き、合理的なものが大好きという人が多い印象を受けます。就活や仕事も、効率的に進めるのが正しいと考えているというか。
確かに効率の良さは大事な視点ですが、自分自身の価値まで効率的に見いだそうとする姿勢には、少し違和感があるんです。
私がいま22歳だったら、飲食業界に行きます。社会人としてのオリジナリティは、非合理や非効率の中でしか見つけられないと思っているからです。
どんな世の中になろうが、あらゆるものがデジタル化されようが、最終的に購入するのは、生身の人間です。
生身の人間がお金を払う理由とか、サービスに不満を持つ人からクレームを受けて謝りに行くみたいなことも含めて、お客様の気持ちをどれだけ理解できているのか。
これはネットで調べても出てきません。お客様のもとへ足を運んで、リアルな意見を聞くのは、非効率ですが非常に価値のあることです。
だからこそ、人と触れ合う機会の多い飲食店やサービス業での経験価値が高まっていると感じるのです。
また、昨今のビジネスシーンでは、「属人的だね」という言葉をまるで良くないことかのように使う人がいますが、むしろ逆です。
効率的に働けば働くほど、人と差別化はできません。属人的でない=皆ができることをやっているだけなので、大きな価値も生まれません。
属人的な仕事で、他の人たちより成果を出している人の秘密を解き明かし、それを仕組み化すると、事業の売上や顧客満足度に直結するようになる。
つまり、非効率に働けば働くほど、属人的な強みが身に付きやすいのです。
うちの会社にも、東大法学部のような、要領が良く優秀なインターンが5〜6人います。
ただ、彼ら・彼女らがオリジナリティのあるキャリアを歩むことができるかと問われると、正直わからない。なので、私は必ず、「早いうちに修羅場経験をどれだけ積めるかが重要だ」と伝えるようにしています。
学生時代にどれだけ優秀だったとしても、社会に出てから修羅場を経験できないと、自分だけのキャリアを築くのは難しいからです。
学生と面談をすると、ほとんどの人は「会社名か人か事業」で就職先を選ぶようですが、私は「その会社は、あなた自身にとってどんな修羅場があるのかという視点で考えてみるといいですよ」と伝えています。
修羅場経験はお金で買えないですし、若いうちに修羅場でつまずいても、いくらでも巻き返すことができる。40代で修羅場を経験すると、本当の修羅場になるので、若いうちに経験したほうがその後のキャリア形成に役立つと思います。