【ラクスルCMO】いま22歳なら「修羅場体験」を積める会社を選ぶ

2021年11月8日(月)

飲食業界で足腰を鍛える

当社のインターンや、若い世代を見ていると、何事も効率が大好き、合理的なものが大好きという人が多い印象を受けます。就活や仕事も、効率的に進めるのが正しいと考えているというか。

確かに効率の良さは大事な視点ですが、自分自身の価値まで効率的に見いだそうとする姿勢には、少し違和感があるんです。

私がいま22歳だったら、飲食業界に行きます。社会人としてのオリジナリティは、非合理や非効率の中でしか見つけられないと思っているからです。

どんな世の中になろうが、あらゆるものがデジタル化されようが、最終的に購入するのは、生身の人間です。

生身の人間がお金を払う理由とか、サービスに不満を持つ人からクレームを受けて謝りに行くみたいなことも含めて、お客様の気持ちをどれだけ理解できているのか。

これはネットで調べても出てきません。お客様のもとへ足を運んで、リアルな意見を聞くのは、非効率ですが非常に価値のあることです。

だからこそ、人と触れ合う機会の多い飲食店やサービス業での経験価値が高まっていると感じるのです。

また、昨今のビジネスシーンでは、「属人的だね」という言葉をまるで良くないことかのように使う人がいますが、むしろ逆です。

効率的に働けば働くほど、人と差別化はできません。属人的でない=皆ができることをやっているだけなので、大きな価値も生まれません。

属人的な仕事で、他の人たちより成果を出している人の秘密を解き明かし、それを仕組み化すると、事業の売上や顧客満足度に直結するようになる。

つまり、非効率に働けば働くほど、属人的な強みが身に付きやすいのです。

うちの会社にも、東大法学部のような、要領が良く優秀なインターンが5〜6人います。

ただ、彼ら・彼女らがオリジナリティのあるキャリアを歩むことができるかと問われると、正直わからない。なので、私は必ず、「早いうちに修羅場経験をどれだけ積めるかが重要だ」と伝えるようにしています。

学生時代にどれだけ優秀だったとしても、社会に出てから修羅場を経験できないと、自分だけのキャリアを築くのは難しいからです。

学生と面談をすると、ほとんどの人は「会社名か人か事業」で就職先を選ぶようですが、私は「その会社は、あなた自身にとってどんな修羅場があるのかという視点で考えてみるといいですよ」と伝えています。

修羅場経験はお金で買えないですし、若いうちに修羅場でつまずいても、いくらでも巻き返すことができる。40代で修羅場を経験すると、本当の修羅場になるので、若いうちに経験したほうがその後のキャリア形成に役立つと思います。

望まない仕事は、むしろやるべき

私自身、まさにこの修羅場体験を通じて成長してきました。学生時代も、新卒で社会に出た後も、真面目にキャリアを考えたことがなかったですが、とにかく修羅場の多い人生だったと思います。

例えば、学生時代にバーで雇われ店長をしていた時のことです。

自分の給料が完全に歩合制だったので、夜遅くまで働いているのに売上が上がらず、給料が全く出ないことも普通にありました。

Photo:iStock / Kondor83

そこでチラシを撒いたり、新メニューを開発したりといろいろ試行錯誤してみるものの、いっこうに売上が伸びない。

悩んだ私は、よく来てくれる常連さんや、近所のライバル店のお客さんに、直接ヒアリングをしてみることにしたのです。

自分の店では「何で来てくれたんですか?」と話しかけ、ライバル店では自腹でお店に行き、さりげなくお客さんに「近くにある〇〇というお店、どう思いますか?」と聞いてみる。

すると、この飲み物が100円高いとか、駅から遠いのにわざわざあんなところには行かないなど、具体的な声をたくさん聞くことができた。

これらの意見をもとに、店の経営戦略を決めると、売上が上がり、自身の給料も上がっていきました。

この時私がしたことは、顧客の声に向き合い、戦略を決めるというマーケティングの基本です。その後の全てのビジネスをやる上で、この経験が土台となり、今でも足で稼ぐことを大切にしています。

また、私は若いうちに本人が望まない仕事をやることも大事だと思います。新卒で入社した丸井では、入社当初、自分が興味のあった仕事を全くできませんでした。

同期入社のほとんどは、希望の部署に配属されたのに、私は入社式で寝ていたこともあり、希望の部署には配属されませんでした。

通販カタログを作る部署だったのですが、そこで、上司から渡された手書きの資料をパワポにするとか、とにかくコピーを取り続けるみたいなことを毎日やっていました。

2年目になると、同期の多くは花形部署である丸井の宣伝部に異動になります。当然私も、そこにいきたかったのですが、2年目は販促担当として新宿にあったマルイのゴスロリファッション専門の館に配属となりました。

私自身ゴスロリに興味はなかったけれど、逆に言うとゴスロリのことがわからなかったからこそ、学生時代同様、お客さんやショップの店員さんに大量のヒアリングをしました。

Photo:iStock / Simonkolton

おかげで自分の打ったプロモーションがどれだけ効果があったか、あるいはなかったのか、リアルタイムに体感することができたのです。

今の時代は、Will全盛です。就活でも、「あなたのWillは何ですか」と問われる機会が多いですが、私は「Willがあって、やりたいことが目の前に来た時、やれる能力があるんですか?」と問いたいです。

当時、上司の手書きの資料をパワポにしまくっていたからこそ、今はキレイなスライドを短時間で作れます。興味のないゴスロリ館に配属になったからこそ、足を使ってお客さんのリアルな声を聞くことの重要性を再確認できました。

望まない配属を経験したからこそ、良い意味で仕事を選ばなくなった。この経験は、自分のキャリアにも大きな影響を与えています。

圧倒的な量が質を担保する

丸井で3年半勤めた後、私はテイクアンドギヴ・ニーズに転職します。丸井は、商品単価が1万円程度なので、もっと高額で人生に一度しか買わないような高額商材を扱ってみたいと思いウェディング業界を選びました。

しかし、入社直後にリーマン・ショックで経営が傾き、業績が悪化したんです。マーケティング担当として「お金を使い事業を伸ばす役割」で入社したはずが、入社後は事業戦略室長として「コストを削る役割」を命じられました。

事業戦略室は簡単に言うと、PL(損益計算)に責任を持ち、会社の企業価値を上げる役割です。これまでやってきたマーケティングとは縁遠い仕事でした。

具体的には、全国62会場の水道光熱費を調べ、何でこの会場がこんなに光熱費が多いのかとか、何のためにこれを買っているのかみたいなことを地道に洗い出し、一つ一つのコストを抑えていく仕事です。

この時に改めて、お金は何も考えずに使うものではなく、誰かが稼いできて、その稼いだお金をどのような価値に還元するのかが重要だと気づきました。

マーケティングという言葉には適切な和訳がありませんが、唯一あるとするならば「商売」だと思います。商売とは、お客様が商品に価値を認めてお金を払ってくれるか、無駄なお金をカットして利益を出すということ。

この当たり前の話を、改めて経験できたのがよかった。今も事業をやっていて感じるのですが、会社のお金を自分ごととして使えない人に、事業を任せることはできません。

その後、自分の能力は別の業界でも通用するのか試したいと考え、これまでとは真逆の「法人向け×ITビジネス」であるラクスルに入社しました。

ラクスルでは、マーケティング責任者を経験後、広告プラットフォームの「ノバセル」を2020年4月にリリースし、運用型のテレビCMという新たな市場を作っています。

ただ、最初から順風満帆だったわけではありません。「ノバセル」の立ち上げ当初は、1年間で500件ものアポを入れていました。

当時は、オンラインミーティングではなく、全て自分の足でお客様企業のもとを訪れ、1件ずつ説明をしていました。

効率的な働き方だったとは思いませんが、この経験のおかげで、お客様の意見がわかり、自分の考えを直接伝え、自分の覚悟も決まった。

全てひっくるめて、500件も営業に行ったことが、結局「ノバセル」の立ち上げにとって一番重要だったと思います。

サービスや事業の立ち上げ期は、圧倒的な量が質を担保すると思うんです。よくある話ですが、すごい計画を考えたり、最初に長い時間をかけて議論したりすることはあまり意味がありません。

結局自分の考えをユーザーにぶつけに行くとか、リアルな声を聞きに行くことのほうが重要だし、そこに答えがある。

この考えは、これまでも一貫して持ってきました。

自分の名前で仕事ができるの意味

キャリアを選ぶ時は、苦労が積める会社かどうか? という視点も持っておくといいなと思います。

大半の人は、自分の経験が生きるとか、自分がやりたい仕事がそこにあるという理由でキャリアを選ぶのですが、一度、逆の考え方をしてみる。

その会社に行くかどうかは別として、一番苦労する会社はどこかなと考えてみた時、その会社がたぶんその人にとって一番難易度も高い道なんですよ。

私も、非効率ですが、自分の足で稼ぐということを大切にしてきたからこそ、今のキャリアがある。非効率な修羅場こそ、宝の山です。

加えて、非効率な修羅場を乗り越えるためには、ともに働く人が重要です。

この人はフィーリングが合うし、ついていきたいという選択肢ももちろんありますが、私は、とんでもない結果を出していて、今の自分では手の届かない人と一緒に働くのをオススメします。

そのような人と一緒に働く経験は、自分の幅を若いうちに広げてくれます。私も、そういう人との出会いがあって今の自分があります。

例えば、テイクアンドギヴ・ニーズの創業者である野尻佳孝さんとの出会いです。

私がテイクアンドギヴ・ニーズで働いていた当時は、時価総額が1000億円くらいだったのですが、それでも野尻さんはマーケティングに投じるコストや投資対効果をとてもシビアに精査していました。

創業者はサラリーマンと違い、会社のお金に対する身銭感が違います。いつも、野尻さんは「それ、自分のお金ならやる?」と聞いてきました。

一方で、会社のお金を身銭感なく使うマーケターは、Facebook広告などをバンバン出しまくったりする。自分のお金でも、同じことをしますか? と問いたいです。私は、創業者の隣で仕事をすることで、会社のお金を自分のお金と同じ感覚で扱う意識が身に付きました。

もう一つ、新卒社員には、自分の名前で仕事ができるようになってほしいと伝えています。

ご指名が入ったり、「●●さんと一緒ならやる」と言われる人は、自分の経験や自分の言葉にオリジナリティがあります。

このオリジナリティは、苦労や修羅場を通して、自分にしかできない経験をどれだけ積めたのかで決まるのです。

私も、丸井から高額商品を扱うテイクアンドギヴ・ニーズへ行き、個人向け×リアルの業界から、法人向け×ITのラクスルへ転職するなど、いつも逆張りをして渡り歩いてきました。

全く逆の業界に行っても、自分の力を発揮することができれば、オリジナリティのある本物の能力が身に付くと思います。

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取材:佐藤留美、取材・文:平瀬今仁、編集:伊藤健吾、デザイン:石丸恵理、撮影:竹井俊晴