人気デザイナー直伝「私が素人からプロを目指して学んだスゴ本」5選
2021年10月29日(金)
今でこそ、ラブグラフのデザイナー兼CCOとなり、インスタグラムでもデザインに関するノウハウを発信していますが、元は社会学部に通う普通の大学生でした。
小さな頃から絵を描くことは好きでしたし、デザイナーに対する漠然とした憧れは抱いていました。
でも、入った高校はいわゆる進学校で、一般大学を目指すのがスタンダードな選択肢です。デッサンを習っているわけでもなかったので、美大に進学する道はありませんでした。
では、どうして普通の私がデザイナーになれたのか。きっかけは、大学1年生のときに訪れた、とある出会いです。
どうしてもデザイナーになりたくて、未経験出身者のロールモデルを探したり、ダブルスクールしようと考えたり、必死になって行動していた矢先に、関西でおそらく唯一の学生スタートアップの求人を見つけました。
このチャンスを逃してはいけないと思った私は、秒速でエントリー。
早速次の日に行われた面接で、「MacBook持ってます。フォトショもイラレも一応使えます」と少し話を盛ってアピールした結果、即採用。
よくよく話を聞いてみると、代表を務める学生は、制作会社でデザイナーとして働いたあと、自分でWebメディアを立ち上げたとのこと。彼は、私と同じくらいの年齢の、普通の文系学生でした。
彼は私とは違い、自分でスキルを身につけ、やりたいことを実現していました。デザイナーになりたいと思いながら、「美大じゃないから無理」と諦めていた私は、ただ言い訳をしていたのだと気づかされました。
正直、底知れぬ悔しさを感じました。ただ、それと同時に、「私にもチャンスがあるかもしれない」と希望が湧いたのを覚えています。
これが、デザイナーへの第一歩でした。
とはいえ、実際の日々はハードワークもいいところでした。終電逃しはもちろん、明け方4時までパソコンとにらめっこして、数時間の仮眠。2、3限だけのために大学に行って、講義が終わればオフィスにとんぼ返り。週3で泊まり込み……なんてこともザラでした。
でも、とにかくビハインドがあるわけですから、その差を埋めるべく必死でした。Twitterを開けば、同世代のクリエイターたちの活躍が華々しく紹介されています。一方、私は、自分の作ったものが「どの部分がなぜダサいか」さえ分かっておらず、上司にボロカス言われる毎日です。
悔しくて泣いている自分が惨めで、自分を変えるべく、勉強してはアウトプットする毎日を過ごしていました。
こうして無我夢中で食らいついてきた結果、今はラブグラフを立ち上げ、デザイナー起業家として着実にキャリアを築くことができています。
そんな私が言えるのは「努力すれば、学歴なんて関係ない」ということ。
もちろん未経験はハンディになりますが、着実な努力の積み重ねで挽回することは十分可能なのです。
ただ、努力といっても「正しい努力」をする必要があると思います。オンラインスクールの流行などを背景に「未経験でもデザイナーになれる」という言説が一人歩きしていますが、活躍できるとは限りません。
実際、華やかなイメージに飛びつき、実力が伴わないままデザイナーとしてデビューした結果、レッドオーシャンの中で溺れてしまう人も少なくありません。
そこで、今回は、デザイナーに「なる」ためのハウツーではなく、デザイナーとして「生きていく」ために必要な基礎知識や思考法を蓄えられる本と、私なりの仕事論をみなさんに紹介できればと思います。
「デザイナーになりたい」と思ったら、いきなりフォトショやイラレを触る前に、何よりもまず基礎を徹底的に学んでください。
サッカーボールを蹴ったことがないのに、Jリーガーの正確なパス回しを見ても、そのすごみは理解できないですよね。
デザインも全く同じで、基礎が曖昧な状態では、良いデザインと悪いデザインの差が理解できません。つまり、デザイナーとしてステップアップするために自分自身に欠けている要素を、見極められないのです。
まずは書籍を活用しながら、基本のインプットを重ねることをおすすめします。
さまざまなデザインの入門書がありますが、個人的に初心者でも一番分かりやすいと感じるのは『なるほどデザイン』(エムディエヌコーポレーション)です。
この本に書かれているのは、サッカーでいうドリブルの仕方。つまりは「基礎中の基礎」です。
初めてデザインに触れる人にとっては、「デザイン=装飾」のイメージがあるかもしれません。でも実は、服をTPOに合わせて選ぶように、デザインも目的に応じた使い分けが必須。それを体感できるのが『なるほどデザイン』です。
本に出てくる例を1つ引用し、説明してみましょう。
例えば、雑誌で料理の特集ページを作るとします。レシピを一番の見どころにしたいなら、文字組みがきれいで読みやすさ重視のデザインにするし、料理の写真で読者の感性を揺さぶりたいなら、文字よりも写真の見せ方を優先する必要があります。
つまり、主として伝えたい内容に応じて、デザインの正解は変化するのです。
「甘さを連想させるのはこんな色」「臨場感を感じさせたいならこんな写真を選ぶ」など、たくさんの事例が分かりやすい説明とともに紹介されているので、本のタイトル通り「なるほど!」と、目で楽しみながらデザインの基本を感じとることができます。
次に紹介するのは『ノンデザイナーズ・デザインブック[第4版]』(マイナビ出版)です。
『なるほどデザイン』がデザインを感覚的に学ぶ本なら、同書は理論的にデザインを知る本。
「なぜロゴマークは左上に配置すべきなのか?」「なぜ色を使い過ぎるとダサく見えてしまうのか?」のようなデザインにおける基礎的なルールを、人間の脳の仕組みから解説しています。
こうして感覚と理論の両軸から「デザインの何たるか」を頭に叩き込むことで、初めてデザイナーとしての強固な基盤ができるのです。
デザインが何かを理解できたなら、ぜひ鍛えてほしい力が3つあります。
まず1つ目は、ロジカルシンキングです。
例えばバスケでは、ドリブルやパス、ランなどの基本をしっかり身につければ、ある程度は活躍できますよね。フェイダウェイシュートなどの派手なプレーに憧れる人はいますが、それは基本ができていることが大前提です。
デザインにも、同じことが言えます。そもそも、デザインは情報整理が命。極端な話、必要な情報が整理され、伝えたいメッセージがきれいにまとまっていさえすれば、デザインとして十分成立します。細かいテクニックや個性的な表現は、デザイン全体において1割あるかないかです。
そして、この情報整理に欠かせないのがロジカルシンキングです。ロジカルシンキングを鍛えると、伝えたいメッセージに必要な情報を過不足なく選びとり、説得力のあるデザインを生み出すことができます。
その証拠に、優れたマーケターや経営者の作るプレゼン資料は、デザイナーのアウトプット同然にきれいに整ったものが多いのです。これは、日頃からロジカルに判断を重ね、相手に伝える情報を取捨選択することに慣れているからだと思います。
ロジカルシンキングを初めて学ぶなら、『マンガでわかる!マッキンゼー式ロジカルシンキング』(宝島社)をお薦めします。
情報整理に関連しますが、デザインには「優先順位をつける力」も大切です。
実際の制作の場面では、優先度づけ、つまりはデザインの主役・主題が何かを決めることが非常に重要になってきます。
そこでぜひ手にとってもらいたいのが、『人生は、運よりも実力よりも、「勘違いさせる力」で決まっている』(ダイヤモンド社)です。
この本に登場する「錯覚資産」とは、「人々が自分に対して持っている、自分に都合のいい思考の錯覚及びそれを引き起こす事実」のこと。人生の中でどこをピックアップするかで人の見え方は大きく変わる、と著者のふろむださんは語ります。
この考え方はデザインにも応用できます。
「あれもこれも全部伝えたい」と欲張ってしまう気持ちはわかります。しかし、どの情報にフォーカスしたデザインにすれば、最初に設定した課題解決に資するのかを考えるのが、デザイナーの責務です。
そして3つ目が、打ち合わせ能力。
忘れてはならないのは、デザインは基本的に課題解決の手段だということ。
つまりは、課題設定の場であるクライアントとの打ち合わせから、すでにデザインは始まっています。ここで適切な課題を設定できなければ、実際の制作で適切なアウトプットを生み出すことはできません。
「おしゃれなホームページを作りたい」と語るクライアントの話をよくよく掘り下げてみれば、実際のユーザーはほとんどがお年寄り世代で、本当に必要なのは大きくて分かりやすいフォントを使ったホームページだった、なんてこともあります。
デザイナーのエゴで仕事を終わらせないためにも、ヒアリングのクオリティは高めるべきなのです。
そこでおすすめなのが、『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)です。
同書では、広告業界のトップクリエイターである佐藤可士和さんが、実りある会議を行うために実践してきた仕事術が綴られています。
すぐに使えるノウハウから常に意識すべき心構えまでぎゅっと詰まっており、仕事の基本が見直せる一冊です。
デザイナーとしてレベルアップを目指すなら、ぜひ「違和感を言語化する訓練」を積んでみてください。なぜなら、言語化できることで再現性が高まり、アウトプットのバリエーションが広がるからです。
私の場合は、テレビ番組の間に流れるCMを“言語化タイム”に活用しています。CM中のグラフィックを見ては、なぜこの商品ロゴにこの色なのか、フォントのサイズはタイトルに対してなぜこの比率なのか、脳内で言語化していくのです。
私たちはデザインに囲まれて暮らしているので、デザイン力を鍛えるヒントは日常に無数にあります。特別なものを用意せずとも、いつでもデザイナーとしての思考訓練はできるはずです。
先ほど、「細かいテクニックや個性的な表現は、デザイン全体において1割あるかないか」と言いました。翻って、基礎ができた後は、その人にしかない発想や感性が勝負を分ける要素になります。
私が考える重要な要素は、「自分にとってデザインの定義」を持てるか否かです。
私にとって、デザインとは「願い」。情報整理というベースに加えて、「こんなブランドであってほしいな」「あなたの持ってるものはこんな価値があるんだよ」という思いを選ぶフォントや色に込めるのです。
すると、「村田さんからはこう見えるのか」とクライアントから感動してもらうこともあって、それが何よりもやりがいにつながっているのです。
クライアントの持つ素材にデザインという形の願いで価値を引き出す。そんなデザイナーでありたいと私は考えています。
ちなみに、『読者ハ読ムナ(笑) ~いかにして藤田和日郎の新人アシスタントが漫画家になったか~』(小学館)では、クリエイティブでの「その人らしさ」が形づくられる過程について詳しく書かれていますので、ぜひ手にとってみてください。
最後になりますが、デザイナーに限らず、クリエイティブ職への憧ればかりが強くなる一方で、「どうせ自分にはできない」と諦めている人がいるかもしれません。
そんな方に、私の好きな漫画『バクマン。』実写映画版のワンシーンを紹介したいと思います。
『バクマン。』にはエイジという天才漫画家が登場し、王道の少年漫画を書いては新人賞を次々と受賞していきます。
主人公の2人組であるサイコーとシュージンも負けじと王道漫画を描きますが、どう頑張ってもエイジには及ばず。そんな中でシュージンは、サイコーにこう持ちかけるのです。
「邪道だよ。エイジが王道なら、天才じゃない俺たちは、邪道で勝負するんだ。それが俺たちの博打だろ?」と。
もしかすると、今立ちすくんでいるあなたは天才ではないのかもしれません。でも、逆に言えば、普通なあなたは、この世の中に圧倒的な数を占める「普通の人」の苦しみや喜びが分かる、ということ。平凡さとは、天才が絶対に持てない、最強の武器です。
私も天才にはなれず、イチから知識を手繰り寄せてデザイナーになりました。だからこそ、普通であることに誇りを持って、普通の感覚を存分に生かして日々デザインに取り組んでいます。
あなたももう「私なんか」なんて思わないでください。
今、スタートラインは等しく皆さんの前に引かれています。そこから先、自分の夢を実現するための正しい努力が積めるかどうかは、あなたの一歩の踏み出し方、それ次第です。
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取材・編集:オバラミツフミ、文:小原由子、デザイン:岩城ユリエ、撮影:村田あつみ(本人提供)