デザイン思考やデザイン経営。こうした言葉が示す「デザインの力でイノベーションを導く」アプローチが、さまざまなビジネスシーンで重視され始めている。
幅広い業種の企業がデザイナーを積極採用し、Apple復活の立役者となった元CDO(最高デザイン責任者)のジョナサン・アイブやAirbnb創業陣のようなデザイナー出身のビジネスリーダーが脚光を浴びる時代になった。
だが、こうしたトレンドの裏側には、膨大な量のデザインワークに追われ、単なる作業者のように扱われる現状に思い悩むデザイナーがいるのも事実だ。
医療業界向け事業で世界展開を進めるエムスリーで、今年4月からCDOを務める古結隆介(こげつ・りゅうすけ)さんも、20代はこれに近い悩みを抱えていたと振り返る。
そこから、事業づくりの中核を担うデザイナーに“変身”できたのはなぜか。
「いま22歳だったら、『きれいなデザイン』をする人から『美しいデザイン』ができる人になるのを目指す」と語る古結さんに、この2つの違いや、デザイナーとしてステップアップするために必要な経験を聞いた。
今は、デザイナーとしてキャリアをつくっていくための選択肢がたくさんあります。
さまざまな会社がインハウスのデザイナーを抱えるようになり、フリーランスとして活躍する人も増えています。副業で同時にいくつものプロダクトデザインを手掛けることだってできる。
私がラジオ局傘下の制作会社に就職し、Webデザイナーを始めた2000年代に比べると、働き方は本当に多様になりました。デザイナーにとって良い時代になったと感じます。
そんな中で、私がいま22歳に戻るなら、ただ「きれいなデザイン」をするのではなく、できるだけ早く「美しいデザイン」ができる人になるのを目指すと思います。
「きれい」と「美しい」には、微妙な違いがあるんですね。
きれいなデザインとは、単にビジュアル面でかっこいいデザインを追求すること。
一方の美しいデザインとは、携わる事業の理想像やユーザー心理を考え抜き、何のためのデザインなのかをしっかりと定めてつくられたと感じるものです。
前者ができるデザイナーはたくさんいますが、後者ができる人はそう多くありません。私自身も、若い頃はきれいなデザインをつくるのが仕事だと考えていました。
その考えを根底から覆され、デザインには美しさが重要だと気づかされたのは、エムスリーでプロダクト開発の初期段階からコミットするようになってからです。