インスタ10万の人気写真家が、会社員時代に学んだ「発信力」の正体

2021年10月18日(月)

SNSフォロワー5万人の会社員

—— Instagramのフォロワーがおよそ10万人、YouTubeチャンネルの登録者数が7万人。フリーランスのフォトグラファーとして活躍するもろんのんさんですが、もともとは会社員をしていたと聞いています。

新卒では写真売買プラットフォーム「Snapmart」に就職し、今年の3月までは、チーズケーキを製造する「Mr.CHEESECAKE」で働いていました。

会社員として写真の撮影を任されることもありましたが、フォトグラファーとしての業務はあくまで仕事の一部です。基本的に、Snapmartでは営業職を、Mr.CHEESECAKEではマーケティング職に就いていました。

—— 独立するまで別職種を本業にしていたのですね。どのような背景で、会社員になる道を選択したのですか?

写真を撮ることは好きでしたが、「写真しかできない」ことに焦りがあったんです。

就職活動をしていても、私以外の学生は、マーケティングやブランディングといった知識を持っていました。ビジネスをするうえで絶対に必要になるであろう、より全体を捉える思考で物事を考えていたんです。

いまでこそ、写真が大きな武器になると理解できます。ただ、それだけでは仕事をしていけるか不安だったので、まずはマーケティングで手に職をつけたいと思い、会社員になる道を選びました。

—— 新卒でSnapmartに就職した理由を教えてください。

代表の江藤(江藤美帆:現・栃木サッカークラブ取締役)さんが、私が抱いていた「写真しかできない」というコンプレックスに、「それは武器だ」と価値を見いだしてくれたからです。

当時、私のInstagramには5万人のフォロワーがいました。江藤さんいわく、私には「写真が撮れるだけでなく、フォロワー数を伸ばす能力があり、Snapmartでは即戦力になれる」と。

また、当時は会社が設立したばかりで、「誰と何をするか」が明確でした。少しでも自分が役に立てることがあるなら、一緒にこの事業を世の中に広めたいと決意して、スタートアップに飛び込みました。

Snapmartでは、BtoBの営業から、受注した案件のディレクションまでを担当していたので、営業活動の一連のプロセスを任せていただいていたことになります。顧客のニーズをヒアリングし、それに応じてクリエイターを育成する業務も担当していました。

営業が私の武器になっているかは分かりませんが、少なくとも、現在の仕事に​​はSnapmartでの経験が生きています。

武器を磨くより、幅を広げる

—— Mr.CHEESECAKEには、営業職からマーケティング職へと職種をまたいで転職しています。

Snapmartの仕事には、クライアントの悩みを解決しつつ、「写真クリエイターの可能性を広げていく」というやりがいがありました。

しかし、サービスの特性上、写真とSNS以外での方法でクライアントに寄り添うことが難しく、次第に「その垣根を越えたい」と感じるようになりました。

また当時、個人のフォトグラファーとしての仕事でコスメ会社の取材をすることがあり、本国の農家や、創業代表に直接お話を伺える機会をいただきました。そのときに「有形商材が生まれる歴史やかかわる方々の思い」に共感をして、モノづくりの会社への関心が高まりました。

そうした背景があり、お世話になったSnapmartからの卒業を決意し、ブランド側へ転職活動を始めました。

転職に際し、私が考えていたことは3つです。自分の職種の可能性を広げられて、なおかつ自分の強みを生かして貢献でき、それでいて会社が掲げる思いに共感できること。この全てとぴったりだったのが、Mr.CHEESECAKEでした。

—— Mr.CHEESECAKEでは、どのような業務を担当していたのですか?

主務はコンテンツマーケティングです。

とはいえ、オウンドメディアのコンテンツ制作やSNS運用以外にも、季節限定フレーバーをリリースするための進行管理やメディアとのリレーション構築など、「Mr.CHEESECAKE」をお客様に届けるためのアプローチ全般が私の役割でした。

—— 写真を武器に生きていく選択肢に気が付いている中で、それでも業界や職種をまたいで会社員を続けていたのには、どのような理由があるのですか?

写真は私の人生において大切なパーツですが、好きを仕事にするというよりは、もはや自分の一部であり、それを本業にしようとまでは思っていなかったからです。

働いているうちに理解が深まったのですが、私は自分が応援したいと思うものを世界に向けて発信することが好きなんです。

写真の魅力も、チーズケーキの魅力も、私が信じられるものです。それを世界に向けて発信して、お客様に喜んでいただける瞬間がやりがいでした。

何も、写真にこだわっているわけではありません。いまは自分が表に立つスタイルを選んでいますが、今後は裏方に回ってディレクターとして働いている可能性もあります。

ですから、フォトグラファーとして独立している現在も、過去の経験は全てが貴重な経験であり、チームメンバーにも、クライアントにも恵まれた必要な体験なのです。

いま22歳でも、会社員になる

—— 会社員とフォトグラファーの二足のわらじを履いてきたもろんのんさんですが、なぜ独立を決意したのですか?

理由は2つあり、1つは体力的な限界がきてしまったことです。

学生の頃からフォトグラファーとしても仕事をしてきたのですが、いよいよ本業との両立が困難になってしまいました。

平日の退勤後と週末を利用して撮影や編集をしていたのですが、ありがたいことに少しずつ案件の数が増え、休む時間が減るにつれて心のゆとりがなくなってきてしまいました。

「このままでは、どちらも中途半端になってしまう」。ついに、どちらか1つを選ぶタイミングが訪れたと感じ、最終的には“もろんのん”としての仕事を優先する道を選びました。

2つ目の理由は、新しい挑戦がしたくなったこと。

ずっとYouTubeチャンネルを立ち上げたいと思っていて、その目標に向かって走り出していたのですが、「もっと伝えたいことを伝えられる表現を磨きたい」という気持ちがありました。

「自分が信じられるものを世界に向けて発信することが好き」な私にとって、発信の手段を増やすことは、自身のミッションに近づく選択です。

ミッションを実現するには、やはり時間が足りず、理想により近づくための選択として、前職のプロダクトやチーム、今後に対する魅力は感じていたのですが、その時点で最適だと感じられた独立を決意しました。

—— 過去を振り返り、会社員として自身の可能性を増やしてきた経験は、現在の仕事にどう生かされていますか?

具体的に挙げるのは難しいのですが、もし新卒でフォトグラファーとして独立する道を選んでいたら、私はいまほど社会に価値を提供できる人間にはなれなかっただろうと思います。

会社員として過ごした時間は、誰かと力を合わせることで、自分だけでは不可能な大きさのインパクトを生み出せるということを教えてくれました。

また、クライアントが何を求めていて、そのために発揮すべき力は何かという、物事を俯瞰して考えるビジネスの基礎も身につきました。

もし、いま22歳に戻ったとしても、社会人キャリアのスタートは会社員になる道を選びます。

知らないことは、選択できない

—— 自分のやりたいことを見つけたもろんのんさんですが、やりたいことが分からず将来に不安を抱えている学生は少なくありません。彼らに対して、伝えたいことはありますか?

「やりたいこと」がある人生だけが幸せなわけではないので、不安を抱える必要はないと思います。

私が好きな記事を書かれた経営者の桜林直子さんは、「やりたいことがある人」と「やりたいことがない人」を、「夢組」と「叶え組」と表現されていました。

内から湧き出る「やりたいこと」がなくても、その人をサポートすることはできます。共感できることを全力でサポートするのだって、立派な仕事です。

むしろ、私は明確な「やりたいこと」がない「叶え組」タイプです。だからこそ、発信する力と手段を増やし、「自分が信じられるもの」を世界に届けるための努力をしてきました。

もちろん、提供できるスキルが未熟だからといって悩む必要はありません。自分に足りないことを理解して、それを埋めるために勉強できるのであれば、全くもって問題ないと思います。

—— 「夢組」にしろ、「叶え組」にしろ、自分らしい人生を歩むためには、どのような経験を積むべきだと思いますか?

まだまだ未熟な自分が言うことではないかもしれませんが、若いうちに、いろいろな環境を自分の目で見ることが大切だと思います。

自分にはない視点や価値観を取り入れることで、選択の幅が広がります。知らないことは選択できないので、納得できる人生を歩むのなら、まずはいろいろ経験してみてください。

私がフォトグラファーになったきっかけは、Instagramにアップされた幻想的な写真に憧れ、思い切って一眼レフを買ったからです。

当時はコンパクトデジタルカメラしか持っておらず、写真の知識なんてほとんどありませんでした。でも、興味に導かれて楽しんでいたら、いつの間にか“写真友達”ができ、皆さんに教えてもらいつつ写真を投稿していたら、仕事までいただけるようになっていました。

環境を変えると、いままでの常識がひっくり返ることがよくあります。うまくいかない自分に不満や不安を抱えていても、舞台を変えれば飛躍的に成長できる可能性だってあるんです。

現在の延長線上に未来を見据える必要性はないので、ときに自分をリセットしながら、まだ眠っている可能性にも目を向けてみてください。

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取材・文:オバラ ミツフミ、デザイン:黒田早希、撮影:遠藤素子