なぜ楽天は人材輩出企業になったのか?社員&転職した卒業生の証言

2021年10月13日(水)

注目を集める「楽天マフィア」

海外では、のちに大きな成功を収めるスタートアップの成長過程を支えた社員が、転職後に続々と新ビジネスを創出する現象を「◯◯マフィア」と呼ぶことがある。

この視点で過去十数年の日本を見ると、楽天は「楽天マフィア」と呼ぶにふさわしい卒業生たちを輩出してきた。

インターネットの黎明期だった1997年にECサイトの「楽天市場」を始め、楽天ポイントを軸にした“楽天経済圏”をつくり上げた楽天グループは、2021年時点で国内外40社近くの連結子会社を持つコングロマリット(多業種間にまたがる巨大企業)に成長している。

東京・二子玉川にあるグループ本社の「楽天クリムゾンハウス」(撮影:谷口 健)

その過程を経験した元社員には、グリー会長兼社長の田中良和さんや、ビズリーチ創業者で現ビジョナル社長の南壮一郎さん、メルカリCEOの山田進太郎さん(※正社員ではなく学生インターンで楽天オークションの立ち上げを経験)など錚々たる面々が並ぶ。

昨年2月、NewsPicksとスタートアップ情報プラットフォームのINITIALが共同調査した「シリーズB以上のスタートアップCEOの前職ランキング」でも、楽天は学生起業を除けばリクルートに並ぶトップタイに入っていた。

※ランキングの全体結果や調査概要は、以下の出典元【保存版】540社のCEO前職調査で判明「新・人材輩出企業」に記載【保存版】540社のCEO前職調査で判明「新・人材輩出企業」

では、増え続ける「楽天マフィア」を育てた、楽天の企業文化とはどんなものか。

経営人材の育成支援を行うエッグフォワードの徳谷智史さんは、上の記事で、人材輩出企業の特徴を「新規事業に携わる機会が多いことと、ゼロから市場開拓をしてきた経営者がいること」と説明している。

どちらも、楽天に当てはまる特徴だ。

同記事には、創業者で会長兼社長の三木谷浩史さんに近しい立場で働いたことのある人の証言として、「三木谷曲線」と呼ばれる考え方についても言及がある。

これは、自分の担当業務を100%やり切ったつもりでも、人が驚くような出来かどうかで見たら、95%までしか到達していないという考え方だ。本当に事業の成否を分けるのは、残り5%の努力や工夫——。特に役員や事業責任者は、この5%が何なのかを考え抜き、通常レベルから感動のレベルまで、急上昇カーブを描いて到達するように強く求められる。 —— 【保存版】540社のCEO前職調査で判明「新・人材輩出企業」

こうした楽天の文化は、社員にどんな仕事習慣をもたらすのか。

JobPicksロールモデルの中から、楽天の現役社員と元社員の経験談をピックアップしながら、その一端を覗いてみた(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。

現役社員が明かす「KPI文化」

まずは、現役社員の経験談を見ていこう。

■ 楽天グループの法人営業(フィールドセールス)担当・鈴木豪介さんの口コミ

2010年1月から楽天グループで働く鈴木さんは、「この仕事を始めてからよく使うようになった専門用語」として、KPI(重要業績評価指標)を挙げている。

KPI

フィールドセールスだけではありませんが、 セールス工程においての、見込み客の数値化や可視化されての管理は、 欧米に比べ、日本は遅れています。 そのため旧来の属人的な営業スキルに依存する組織がまだまだ蔓延っています。 組織として、人員の影響による脆弱さを避け、安定した成果を出し続けるために、 昨今ではSFAの導入が進んでいます。 1人のレジェンド的な営業よりも、10人で12~13人分の成果を効率よく出すために、 KPIの管理が重要になります。 フィールドセールスの前後工程であるインサイドセールス、ひいてはマーケティング、 また後工程のカスタマーサクセスの領域まで、 シームレスに情報伝達がなされなければなりません。 特定の工程にのみフォーカスしKPIの達成にこだわり続けると、 質の悪いリードの醸成に繋がってしまいます。 サブスク型の売り方が主流になる昨今、成約率や継続率が低いリードは、非効率です。 各工程がぞれぞれの前後工程とKPIの質も含めたイメージを共有し、 単純な数字だけではない部分も可視化することが大切です。

楽天以外のビジネスでもよく使われる言葉だが、楽天ではKPIを軸に日々の仕事を回していくスタイルが徹底されているという。

楽天出身者が在籍時を振り返る記事をいくつか読むと、適切なKPIを設定して事業の進捗をウォッチし、目標達成にコミットする意識と行動を導くやり方があらゆる仕事の土台になっていると分かる(参考記事1 | 参考記事2)。

上で紹介した鈴木さんのコメントを見ても、この仕事習慣が、多くの社員に浸透していると推察される。

■ 楽天の人事担当・Sugihara Yukiさんの口コミ

ITコンサルタントや経営コンサルタントを経験した後、2020年5月から楽天で人事を担当しているSugiharaさんは、入社してすぐ「コレクティブ・ウェルビーイング」と呼ばれる働き方のガイドラインを制作した出来事について書いている。

社内外の人々から感謝されるとき

事業部側から、我々の考えるアイディアに対して賛同いただけたり、我々の

このガイドラインを対外的に公表したのは、Sugiharaさんの中途入社からたった2カ月後の2020年7月だ(同社のリリース)。

そのスピード感はもちろん、能力のある人には社歴に関係なく大きな仕事を任せる風土にも驚かされる。従業員数がグループ連結全体で2万人を超える規模の会社では、異例と言ってもいいだろう。

全ての社員がこうした機会に恵まれるとは限らないが、組織が大きくなってもベンチャーマインドが保たれていることを示すエピソードの一つだ。

楽天から転職した人の仕事習慣

次に紹介するのは、楽天を卒業して社外で活躍する元社員たちのキャリアと仕事内容だ。

JobPicksのロールモデルには、現職で経営、プロダクト開発のリーダーを務める人が多かった。

■ 楽天の経営企画→ランサーズCxOに転身した曽根秀晶さん

クラウドソーシングを手掛けるランサーズで、2015年からCxOを務める曽根さんは、楽天に在籍していた当時、事業企画や経営企画を担当していた。

曽根 秀晶曽根 秀晶

そんな曽根さんは、現在の仕事で重視する事柄として「最後の1人になる覚悟をもって意思決定すること」を挙げている。

80/20の判断ではなく、50/50の賭けでもなく、60/40の決断が重要であるということ。最後の一人になる覚悟をもって意思決定するということ。スキル云々の前に、まずマインドとしてそれが必要条件だとあらためて思います。 少し具体のスキル面でいうと、CxO≒経営陣の役割を担うものとして、事業・組織・財務と連続・非連続のマトリクスで6つのマスを描いたときに、少なくとも2つのマスを会社単位で動かすことができるということが必須という考え方はわかりやすいですし、意識するようにはしています。

コメントを読むと、上で紹介した「三木谷曲線」にも相通じる意識や、事業運営の要点を的確に因数分解して言語化する思考力が身に付いていると感じる。

■ 楽天→メルカリ→エクサウィザーズのプロダクトマネージャーに転身した宮田大督さん

この「因数分解」や「言語化」について、曽根さんと共通する力を感じさせる投稿をしているのが、2012年から約3年間勤めた楽天で、プロダクトマネージャーとしてのキャリアを歩み始めた宮田さんだ。

宮田 大督宮田 大督

下のコメントを読むと、事業運営ではリスクテイクする勇気と、失敗からも学ぶことで成功に向けてPDCAを回し続けるのが重要だと伝わってくる。

大負けするような結果がでるのは良い仕事の証拠。無風が最悪。

ほとんどの仕事は、わりと、ちょっと良いか、かちょっと悪い結果ぐらいの

結果と原因をとことん突き詰める姿勢が、担当サービスの成功確率を上げる——。そんな教訓を、楽天を含むこれまでの所属企業で学んできたのだろう。

■ 楽天のデジタルマーケティング責任者→FiNC TechnologiersのCHRO→リブの事業統括になった中山理香さん

中山さんは楽天を卒業後、ヘルステックベンチャーのFiNC TechnologiersでCHRO(最高人事責任者)を経験し、2020年1月から女性向けのライフキャリア支援を手掛けるリブで事業統括を担っている(※同社のWebサイトでは現・執行役員)。

中山 理香中山 理香

CHROとして働いていた時の経験談として、「遠すぎない未来を具体的にイメージして確認、そこから逆算して施策を検討するのが習慣」だったと述べている。

先回りした組織戦略が経営戦略にシンクロした時。

いくつもの失敗をしながら学んだこと。 顕在化している組織の課題解決

これは、楽天流のKPIドリブンな仕事習慣とも共通する話だ。同社での経験が、中山さんの仕事観に少なからず反映されているのかもしれない。

組織拡大しても受け継がれる文化

ここで紹介したロールモデルの経験談は、数多くいる楽天社員や卒業生のごく一部でしかない。

現在の楽天の社風や組織文化について、異なる感想を持っている人もいるだろう。

事実、下の記事では、組織の規模が大きくなる中で生じた組織の変化について、副社長執行役員の百野研太郎さんが赤裸々に語っている。

【楽天】副社長が明かす「社員1万人超え」で迫られた人事改革

それでも、フェーズに応じた変革を続けることで、「社員が自分で成長できる組織にしたい」「自分たちでKPIをつくり、進捗管理もするというふうに持っていきたい」(ともに百野さん談)と話す経営陣がいる限り、楽天の本質的な組織文化は継承されていくのだろう。

合わせて読む:【独占70分】三木谷浩史、「これからの楽天」のすべてを語る

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