SNSの隆盛やDX(デジタルトランスフォーメーション)の影響などで、企業の顧客対応が様変わりしている。
中でも注目を集めているのが、カスタマーエクスペリエンス(以下、CX)だ。
CXとは、顧客接点ごとに適切なコミュニケーションを行い、自社商品を利用する前後の体験を向上していくプロセスを指す。オフライン・オンラインの双方で良質なCXを設計することが、事業成長の鍵となる。
この点で、アパレルブランド「マザーハウス」の取り組みは注目に値するだろう。
同社はバングラデシュのような発展途上国に工場を持ち、現地の職人たちとの経済的な共存を目指して、バッグやジュエリーなどの独自ブランドを製造・販売。
そのブランドストーリーを発信し続けることで、商品の持つ物語性に惚れ込むファンを増やし、アパレル不況の中でも着実に売り上げを伸ばしてきた。
昨年からのコロナ禍で店舗中心のビジネスモデルが苦境に陥っても、すぐさまECやオンライン接客を強化。この一連の流れで、CXの担当チームを率いてきたのが、コミュニケーションデザイン部門の執行役員・神村将志(かみむら まさし)さんだ。
2012年にマザーハウスに入る前まで、Web制作会社でディレクターをしていた神村さんは、どうやってCXのイロハを学んだのか。
マザーハウス流のCXを考える土台になった「仕事観に影響を与えた本」と合わせて、5冊の書籍を紹介してもらった。
—— CXの仕事内容は、一般にまだよく知られていません。マザーハウスのコミュニケーションデザイン部門は、普段どんな業務を行っているのですか?
まずはブランドを知っていただくことから始まります。そして、商品を購入されたお客様が楽しく商品を使い続けていただけるようにサポートを続け、ブランドに愛着をお持ちいただくことを目指します。
この一連のコミュニケーションプロセスを設計、実行するのが、私たちの役割です。
具体的な業務は、ブランドや商品、シーズンのPR・プロモーション。関連する制作物や空間のアートディレクション。購買履歴やお問い合わせの声を事業に活用するCRMシステムの企画・運用などです。
CXは、オンライン中心に考えることのように思われがちです。しかし、マザーハウスはオフラインでの顧客体験も非常に大切にしているため、Webから直営店まで一貫して責任を持てる組織編成にしています。
リアルとデジタル両方のコミュニケーション設計に関する何でも屋、という感じです。
—— 以前はWebディレクターだったそうですが、なぜ今の仕事をすることに?
新卒でWebディレクターになったのは、大学で建築学を学んだ結果、ゲームやインターネット上の空間設計をしてみたいと思ったからでして。
Web制作会社に入り、WebサイトのUI設計という「情報を伝える手段」を学んだ後は、「情報の伝え方」そのものを学びたくなったんですね。
それで転職を考え始めた時に、マザーハウスの求人を見つけました。
一般的な商品プロモーションでは、ポイント還元や何%オフといったお得感を伝えるケースが多いと思います。でも、マザーハウスは、定価でも喜んで買っていただけるようなコミュニケーションを目指していました。
それが、お客様に途上国の可能性をまっとうに評価していただくための土台になるからです。
このブランドコンセプトに興味が湧いて、2012年に転職しました。
最初はECマネージャーと情報システム担当者のような仕事から始めて、徐々にデジタル領域全般を見るようになり、CXに関する仕事も任されるようになったという流れです。