外コンに転職も、半年で退社。市場価値より「生きがい」選ぶキャリア

2021年10月1日(金)

25歳で感じた「焦り」

—— 斎藤さんが担当している「カウンセラー」の仕事内容について教えてください。

カウンセラーは、目の前の相手がキャリアの何に悩んでいるのか、どうすれば解決できるのかを、対話や問いかけを通して一緒に考える仕事です。

私たちのカウンセリングでは、「ここに転職したほうがいいですよ」「この資格を取りましょう」と、直接的なアドバイスはしません。

丁寧に相手の話に耳を傾け、適切な質問を投げかける。その繰り返しによって、ユーザーさんの人生設計や、仕事で大切にしたい価値観を言語化するお手伝いをするのです。

カウンセリングで自信を持ち、トレーニングを通して行動や思考が変わっていくユーザーさんを見るのは、いつでもうれしいですね。

—— もともとカウンセラーの仕事を志していたのですか?

いえ、ファーストキャリアでは営業職を、転職先ではコンサルタントを経験し、2度目の転職でカウンセラーの職に就いています。

きっかけは、社会人になって初めて、「自分はどんな人生を送りたいのか」とキャリアに悩みを抱えるようになったことです。

自分で言うのも恥ずかしいですが、私は会社に入るまで、順風満帆な人生を送っていたつもりでした。

教員の両親のもとで育ち、地元の進学校に合格。高校でも、勉強も部活も全力で頑張って結果を出し、国立大学の理系学部に入学しました。

卒業後はそのまま大学院に進学し、ブリヂストンから技術職で内定をもらっています。

いわゆる「安定した人生」を歩んでいる自覚がありましたし、そんな自分に満足もしていました。

Photo : iStock/Nattakorn Maneerat

ただ、会社に入ったとたんに、突然キャリアに悩みを抱えるようになりました。

今まであった「合格」や「内定」のような、明確なゴールがなくなったからです。

そのとき、初めて「あれ、私って結局どう生きたいんだっけ?」と考えるようになったんです。

この会社で、定年まで働いて安定した生活を送るのが、本当に自分が望む人生なのだろうか、と。

── 仕事自体も、あまり楽しくなかったのですか?

いえ、仕事は楽しかったです。技術営業として、車の販売店や運転手さんの元へ通い、技術的な知識を生かしてタイヤを売る。

もともと人と話すのは好きでしたし、仕事での人間関係にも恵まれていたので、充実していました。成果が認められ、本部からアワードをもらったこともあります。

ただ、やっぱりその先にある「どんな人生を送りたいか」という、ゴールが抜け落ちていたんですね。

だから、目の前の仕事で結果が出せていても、ふとした瞬間に「この会社で働く以外の人生もあるかもな」という考えが頭をよぎる。

スタートアップで働く同級生が、やりたいことを仕事にしていたのも大きな要因です。

土日も夢中になれるくらい、生き生き働いてる人もいるのに、本当に私はこのままでいいんだろうか、と次第に焦りを感じるようになりました。

Photo : iStock/RyanKing999

そこからは、本気で転職を検討しはじめて。スタートアップの友人の集まりに顔を出したり、求人サイトや転職エージェントに登録したりしました。

25歳、新卒2年目のことです。

「どう生きたいか」が定まらない

── 結果的に、アクセンチュアに転職しました。スタートアップではなく、なぜコンサルだったのでしょう?

はじめはスタートアップがいいな、と思っていたのですが、転職活動の最後まで「スタートアップで何をやりたいか」が見いだせませんでした。

転職前は20人くらいに相談し、いろんな企業のエピソードや、仕事内容、やりがいなどを聞きました。

いわば、「第二の就職活動」です。

同級生から30代、上は50代まで。幅広い年代・職種の人と話し、自分にあう仕事のイメージを広げていきました。

── そこで、コンサルへの転職を決めたわけですね。

無事アクセンチュアに転職できたものの、ここから半年はつらい時間を過ごすことになります。

というのも、配属されたプロジェクトの仕事内容にまったく興味が持てなかったんです。

当初望んでいたとおり、ビジネスパーソンとして一人前のスキルが身につけられる環境ではありました。

ロジカルシンキングやプレゼンテーション資料の作り方なども徹底的に叩き込んでもらいましたし、同僚や上司との関係も良好でした。

ただ、やっぱりそのプロジェクトになぜ自分が今携わっているのか、何のために働いているのかに、明確な解が見いだせなくて。

それ以降、仕事へのモチベーションがどんどん下がっていきました。これまで、がむしゃらに頑張ることが取り柄だったのに、このときばかりは本当に頑張れなくなりました。

おそらく、当時の私は「自分がどう生きていきたいのか」を無意識に探していたんだと思います。スキルを身につけようとコンサルに入ったのに、やっぱり割り切れなかったんですね。

ゴールがわからないから、目の前に壁があらわれても、踏ん張れない。せっかく転職したのに、結果が残せない自分にも苛立つ、という悪循環が起こっていました。

今までの人生で、一番苦しい瞬間でしたね。

転職前に20人に相談。準備は万端だった

── つらい時期を、どうやって乗り越えたのですか?

周りの人に相談したり、内省を繰り返したりして、自分なりにどうにか状況を変えようともがいていました。

ただ、あまり良い変化は起きなくて。

どうしようかと思っていた矢先、友人から、ポジウィル代表の金井(芽衣さん)のTwitterアカウントを紹介してもらったんです。「この人のキャリアについての発信、エネルギッシュで参考になるよ」と。

Photo : iStock/west

実際にフォローしてみると、たしかに楽しそうに仕事をしている様子が伝わってきました。同時に、SNSだからそう言ってるのかもな、とちょっと斜めに見たりもしていましたね(苦笑)。

でも、毎日満員電車に揺られながらツイートを見ていると、だんだん「こんなふうに働けて羨ましいな」という気持ちも湧いてきました。

そしてある日、金井の「営業出身で広報やりたい人を募集している」というツイートを見て、この人と話してみたい!という一心で、ダイレクトメッセージを送ったんです。

後先も考えず、ほとんど反射神経で動きましたが、無事会えることになりました。

──実際に話してみて、どうでした?

初対面にもかかわらず、短い時間で私のこれまでの人生や悩みを捉え、真摯に向き合う様子が印象的でした。

同時に、「ああ、私がやりたいのはこういう仕事かもしれない」と思ったのを覚えています。

相手のキャリアにとことん向き合い、人生の軸の言語化や意思決定をサポートする。

選択肢と情報が無限に溢れているこの世の中で、私のように「どんな人生を送りたいかわからない」と迷う人の力になれたら、どれだけやりがいがあるだろう、と思ったんです。

その後、自分の直感に従ってポジウィルに転職し、カウンセラーになって半年ほどたちますが、あのとき想像したとおり、充実感を持って働けています。

試行錯誤を通して、あれだけ探し求めていた「自分がやりたいこと」にたどり着けた気がしますね。

「やりたいこと」が見つからずに苦しかった経験が、結局いまの自分の仕事につながっている。

皮肉ですが、そう考えると、あのつらい時間も無駄じゃなかったんだ、と思えます。

苦しかった時期も、無駄じゃない

── つらい時に頑張ったり、行動したりするのはエネルギーを要します。何が、そこまで自分を突き動かしたのでしょう?

一番は、「自分の人生を諦めたくない」という気持ちですね。

思い返すと、社会人になるまでの私のモチベーションは、劣等感が大きかったんです。優秀な姉や兄に劣らないように頑張らなきゃ、とにかく周りに認められなきゃ、と必死でした。

でも、社会人になってからは、もう少し自分を意識するようになった気がします。

「周りから見てどうすべきか」じゃなくて、「私はどうしたいか」。一度きりの人生なので、自分の意思を最大限尊重して、納得ができる選択をしたほうがいい。

これは、カウンセリングを担当する時も、私が大切にしている価値観です。

── 自分らしいキャリアを築けずに悩んでいる読者に、アドバイスがあればお願いします。

私もまだまだ道半ばですが、一つ言えるとすれば「自分の人生ってこんなもんかな」と思った瞬間に、本当に状況が前に進まなくなる、ということです。

自分でリミットを決めた瞬間に、行動も思考もそこで止まってしまう。これは、あまりにもったいない。

Photo : iStock/SimonSkafar

逆に、諦めずに動いていれば、何らかのチャンスが舞い込んでくるものです。

カウンセリングに来るユーザーさんにも、はじめは「もう無理だ」とキャリアを諦めていたけれど、少しずつ選択を重ねるうちに転機が掴めた、という人はたくさんいます。

今でこそ仕事にやりがいを感じている私も、少し前までは、社会人になってからずっとキャリアで悩んでいた一人です。

自分の可能性を諦めずに、まずは足を動かしてみる。

言葉にするとシンプルですが、それこそが自分の人生を彩る一番の方法だと、カウンセラーとして、そしてキャリアに悩み続けた人間として確信しています。

合わせて読む:「人生は一度きり」。ミレニアル世代のキャリア観に異変あり

取材・文:高橋智香、編集:オバラ ミツフミ、デザイン:松嶋こよみ、撮影:遠藤素子