YouTubeやNetflixの台頭により動画視聴のあり方が多様化するなか、テレビディレクターは依然として人気のある職業の一つだ。
だが、テレビには業界特有の言葉づかいも多く、「ディレクターとプロデューサーの違いもよくわからない」という人も少なくないだろう。
TBS系列のドラマ作品『グランメゾン東京』や『MIU404』など、数々のヒット作を世に送りだしてきたドラマディレクターの塚原あゆ子(つかはら・あゆこ)さんは「ディレクターは『世界観』を創る人、プロデューサーはそれを実現する人」と、役割の違いを説明する。
「テレビディレクターの未来は明るいです」と語る塚原さんに、テレビディレクターに求められるスキルやキャリアについて聞いた。

写真:本人提供
── テレビディレクターとはどんな仕事ですか?
私が担当しているドラマ制作の場合、ディレクターは「物語の世界観を決め、1話から最終話までのストーリーを作る人」を指します。
台本づくりやキャスティング、撮影など作品に関わる部分にはすべて携わり、脚本家やキャスト、美術部、技術部などさまざまな人の意見を取り入れながら、1つの作品を仕上げる仕事です。
連続ドラマでは、だいたい2~3名のディレクターが各回を持ち回りで担当します。
よくプロデューサーと混同されますが、ドラマそのものを作る「頭」がプロデューサーで、実現に持っていく「手足」がディレクターと考えるとわかりやすいかもしれません。
プロデューサーは、私たちディレクターをふくめた制作陣を統括し、予算やスケジュールの調整、キャスト事務所との連絡、放送後の版権などにも責任を持ちます。
放送後にDVD化したり,海外に展開したりするのも、プロデューサーの仕事です。
── 一つのドラマに、どれくらいの制作期間がかかりますか?
作品ごとに異なりますが、企画立案から放送終了まで2年ほどです。
プロデューサーが企画を出し、制作チームを組んでメインキャストを決め、放送枠を確保するのがスタート。そのあと1年間は、プロデューサーは台本作りやキャスティングを進め、ディレクターは他のドラマのディレクションを行いつつ、並行して新作品の制作準備を進めていきます。
たとえば、昨年は星野源さんと綾野剛さんW主演ドラマ『MIU404』の撮影をしながら、今年10月放送予定の作品『最愛』のキャストやストーリーラインを決めていました。
「誰がどんなストーリーを演じるか」が決まった後は、台本づくりに取り掛かります。
台本にはキャストが話すセリフや簡単な演出内容が書いてあり、脚本家と詰めていくことが多いですが、場合よってはディレクターが作るケースもあります。

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その後はロケ地や使用カメラなどを決め、放送1~2カ月前にはアシスタント・ディレクター(AD)やアシスタント・プロデューサー(AP)、技術スタッフが集まっていよいよ実制作に入ります。
撮影カットを細かく決めながら撮影をしつつ、サウンドトラックを作ったり、主題歌の打ち合わせをしたりと作品を仕上げていきます。
── テレビには、報道やバラエティなどのジャンルもあります。番組が違えば、仕事内容も異なりますか?
もちろん番組によって違いますが、「視聴者に面白いと思われるコンテンツを作る」という目的は共通していますね。
学園祭にたとえると、クラスごとの出し物が異なる感覚でしょうか。
報道やバラエティは取材量が多く、扱うテーマも幅広いので、焼きそばやかき氷など色々な食べ物を作ってどんどん売る、「模擬店」のクラス。ドラマは自分たちでテーマを考え、自作した「演劇」を見せるクラスに近いかもしれません。

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放送内容は違えども、番組の「つかみ」は直前枠の視聴者を意識しています。
たとえば、今年の4月から6月に放送していたドラマ『着飾る恋には理由があって』の前はタレントのマツコ・デラックスさんがゲストとニッチな世界を掘り下げる『マツコの知らない世界』というトークバラエティでした。
この番組はサブカルチャーに興味がある視聴者が多いので、ドラマの冒頭でもサブカルの要素を意識したり、視聴者が関心を持ちそうなテンポ感を目指したり、と工夫をしました。