【7人の経験談】総合商社に就職して身につく「仕事力」の正体
2021年9月1日(水)
手掛けるプロジェクトの規模が大きい、世界を股にかけてグローバルな仕事ができる、平均年収の水準が総じて高いetc......。今も昔も、就活の人気業界であり続ける総合商社。
特に三菱商事、三井物産、住友商事の財閥系3社や、伊藤忠商事や丸紅を含む5大商社、双日、トヨタグループの豊田通商などの総合商社は、学生の憧れる就職人気企業として名前が挙がる機会が多い。
ただ、近年の商社業界は、かつての「トレーディング 」「投資」などのイメージとは異なる事業を展開する、変革のさなかにある。
例えば下の記事で紹介しているように、商社の主力事業の一つであるエネルギービジネスは、 ESG(環境・社会・企業統治)への関心の高まりを背景に「脱炭素」が進み、大きな転換期にある。
【超図解】3分でわかる商社の脱炭素包囲網また、もともと事業領域の広い総合商社の中でも、最近特に注目されているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)に関連するビジネスだ。
以前から手掛ける事業投資の一つとして、DXに特化したプロジェクトを手掛ける子会社も出てくるなど、他の業界と同じく商社各社もこの領域に力を入れている。
【戦略】「DX」で商社は変わるのかこういった変化によって、今ではデジタル関連のテクノロジーに明るい人を積極的に採用する商社も増え、商社パーソンのイメージも以前とは様変わりしている。
そんな中で、これから商社への就職を考える学生は、どんな経験を積めるのだろうか。自己変革を繰り返す商社の中で、身につけることができる本質的な仕事力とは何なのか。
ここでは、上記したような総合商社で働くJobPicksのロールモデルたちが投稿する経験談から、商社の仕事を通じて得られる仕事力の中身を探る(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。
その前に、まずは商社パーソンが入社後に経験する仕事の中身を紹介しておこう。
下の記事では、JobPicksが今年4月に出版した書籍『JobPicks 未来が描ける仕事図鑑』で取り上げた、商社パーソンの新人が最初にやる仕事をまとめている。

【のぞき見】人気職種で「新卒が最初にやる仕事」比較
これによると、総合商社では資源、医療、小売、流通、金融など幅広い事業を手掛ける機会があるため、新卒社員がやる仕事にも「典型的なパターンはない」(三井物産・田渕順司さん)。
例えばトレーディング事業で金属資源を扱う部署に配属されれば、最初はマーケットを知るところから仕事が始まる。不動産ビジネスへの事業投資なら、マンション販売のイロハから契約書づくりのノウハウなどを実践を通じて学んでいく。
配属された部門ごとに、新人が手掛ける仕事は千差万別だ。
それでも、商社パーソンとして求められる(身につく)仕事の基礎力は、ある程度共通するものがあるようだ。
三井物産に新卒入社し、今は同社が株主の「TIACT(東京国際エアカーゴターミナル)」に出向する岩下佳央さんは、新人時代に学んだ「自分FINAL」という言葉が教訓になっているという。
自分FINALとは?自分が決裁者になったつもりで常に行動すること。

合わせて読む:【三井物産・29歳】入社6年目で見えた、商社パーソンの仕事の本質
「自分の判断がチームとしてのfinal answerになるつもりで行動する」気概は、新人として巨大なプロジェクトに配属された時にも求められる。
同じ三井物産で、入社3年目(投稿時)の陣内寛大さんも、次のようなアドバイスで仕事のスタンスを見直したという。
三井物産には『人が仕事をつくり、仕事が人を磨く』という言葉があり、入
また、2011年、丸紅に新卒入社した細江康将さんは、入社2年目にタイへ赴任した際、岩下さんや陣内さんと似たような学びを得たと語る。
「因果」という言葉の通り、原因と結果は関係で結びついており原因のない
経験の有無を問わず、担当事業の肝となるポイントを考え抜いて自ら判断するという基本は、商社の仕事で身につく基礎力の一つなのだろう。
経営学の人気教授として知られる早稲田大学大学院の入山章栄さんは、下の記事で「ビジネスパーソンの成長を左右するのは意思決定の頻度」だと述べている。
総合商社は社内外の人を交えた巨大なチームで動くため、新人のうちは見習い的な仕事も多い。それでも、自分なりに意思決定を繰り返すことが、成長スピードを速めるのだ。
【入山章栄】成長できる会社「通説のウソ」を斬る上でプロジェクト規模の大きさについて触れたが、総合商社ではそのような環境下でもチームをけん引するためのスキルを身につける機会が多い。正確には、「身につけざるを得ない」と言える。
三菱商事に就職し、その後ユーザベースに転職した山中祐輝さんは、商社パーソン時代の苦労に「社内ステークホルダーの利害関係調整」を挙げている。
伝統的な大企業ならどこもそうなのかもしれないですし、管理部門だったか
非常に生々しい経験談だが、こうした状況でも成果を出すには「押し付けではない対話」を重ねることが大事と語るのは、丸紅の岩本未来さんだ。
岩本さんのコメントからは、利害の異なる人たちを巻き込みながら事業を推進していく仕事の本質が読み取れる。
まず私の業務についてお伝えすると、所属部はアグリインプット(農業生産
伊藤忠商事の増田響子さんも、チームの成果を最大化するための動き方を学んできたと述べている。
私はかつて、周りの人に対して、私ならこうやるのに、なぜこうやらないん
若手時代の増田さんは、「大きな決断は上司にゆだね、私自身はただ盲目的に目の前のミッションを遂行すべく突き進んでいた」そうだが、それではかかわる人たち全員を一つにすることができないと痛感。
そんな苦労を経験したことで、自分なりのチーム力の引き出し方を学んだ。
どの仕事もそうですが、商社の仕事にもまた唯一無二の答えがありません。
決断した意思決定を「正解」にするため奔走する──。この姿勢も、商社パーソンとして身につく基礎力の一つと言えそうだ。
その他、商社パーソンとして経験談を投稿してくれたロールモデルが語る「先輩や同僚にアドバイスされたこと」は、下のリンクを覗いてみてほしい。
本稿の締めは、商社で働くことを目指す就活生や転職者が、応募前に読んでおきたい「商社の仕事を知るためのおすすめ本」を紹介しよう。
複数のロールモデルが推薦していたのは、TVドラマにもなった小説『不毛地帯』シリーズ(新潮社)だ。
書籍は全5巻で展開されており、第二次世界大戦後の混乱を生き抜いた主人公が、第二の人生として商社パーソンの道を選び、ビジネスという“戦場”をサバイブしていく模様が描かれている。
時代背景の異なる小説とはいえ、三井物産の太田純平さんは「総合商社のエッセンスが詰まった名著」とコメントしている。
ベタかつ王道であり、時代錯誤な内容に感じる部分も多分にあるが、総合商
先述の山中さんも、本書を「物語で書かれているダイナミズムは多少の脚色はあれど働いていてリアルに感じられる」内容だと述べている。
商社パーソンや商社ビジネス(人生)をテーマにした小説ですが、いずれも物語で書かれているダイナミズムは多少の脚色はあれど働いていてリアルに感じられるものでした(エネルギービジネスに携わっていたから少しバイアスがあるのかもしれませんが)。 このような生き方やビジネスに心からワクワクし、情熱を傾けられるのであれば、商社での仕事にやりがいを感じられる可能性は高いと思います。 商社のビジネスモデルも少しずつ変わってきていますし、新卒採用であれば配属リスクもあるので、必ずしも一面的には語れませんが、重厚長大な事業部門を想定すれば、一定のリアリティがあると思うので、読んでいて損はないと思います。
商社での仕事を事前にイメージする意味でも、一度読んでみるのが良さそうだ。
これ以外には、出光興産の創業者をモデルとした歴史経済小説『海賊とよばれた男』(講談社)や、司馬遼太郎の有名な著作『竜馬がゆく』(文藝春秋)を薦めるロールモデルもいた。
商社ビジネスのリアルは、案外、立志伝のような歴史小説から学ぶことができるのかもしれない。

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