数ある職業の中でも、営業職は就労人口が非常に多い職業だ。
ちまたには営業テクニックがあふれているが、「本当に参考になるテクニックがわからない」と考えている人も少なくないだろう。
類似製品が数多くリリースされ、営業のスタイルそのものが変化している時代に、営業パーソンとして頭一つ抜け出すには一体どうしたらいいのだろうか。
2014年から数年在籍したLINEで大企業との提携を数多く手掛け、現在はメルカリで法人営業を担当する杉本浩一(すぎもと こういち)さんは、読書を通して得た知見を武器に「営業嫌い」を克服し、実績を上げ続けてきた。
「営業職には、ノウハウ以上にスタンスが求められます」と語る杉本さんに、自身のキャリアを振り返りながら、営業パーソンに薦めたい必読書を教えてもらった。
—— 杉本さんは、法人営業のやりがいや極意をツイッターなどで日々発信していますが、最初は営業をやりたくなかったそうですね。
むしろ営業「だけ」はやりたくない、と考えていたクチです。
小さい頃に吃音(きつおん)持ちだったこともあり、コミュニケーションそのものに苦手意識を持っていました。
新卒で大手通信会社に入社したのですが、そのときもエンジニアやコンサルを志望していました。とにもかくにも、営業だけは嫌だったんです。
ただ、なんのいたずらなのか、配属先は法人営業の部門でした。キャリアのスタート時点が、仕事に対するモチベーションが最も低い時期だったと思います。
——「営業嫌い」だった杉本さんが、なぜ今も営業を?
実際に働いてみて、仕事のイメージが覆されたんです。
営業と聞くと、ノルマがあるとか、頭をペコペコ下げるとか、泥くさいイメージを持つ人が少なくないと思います。
もちろんそうしたシチュエーションはありますが、あくまで一部であり、むしろ楽しくて仕方がない仕事でした。
例えば、顧客から信頼を得て大きな発注をいただけたり、モノを売るだけでなく事業を推進したり、営業はイメージしている以上にやりがいのある仕事です。
自分が携わった仕事が新聞に取り上げられたときは、社会に良い影響を与えられたんだと実感できて、本当にうれしかったですね。
結局10年以上にわたり、法人営業一筋のキャリアを歩んでいます。
—— これまでの経験を振り返り、印象的だった仕事を教えてください。
例を挙げればキリがありませんが、前職のLINEにいたとき、ヤマト運輸と提携した事業が強く印象に残っています。
私たちは日常的に運送サービスを使っています。おそらく、多くの人が再配達の依頼をしたことがあるでしょう。急用が発生しても、時間を改めて荷物の受け取りができる便利なサービスです。
しかし、ドライバーさんにかかる負担が問題視されていますし、CO2の排出量が増えるので、環境にもよくありません。
特に近年はEC市場が拡大していることもあり、「不必要だったはずの再配達」が社会的な問題になりつつあります。
そうした背景から、荷物のお届け予定や不在連絡を「LINE」で通知でき、日時や受け取り場所の変更ができる仕組みをヤマト運輸と共同で開発しました。
ただ、当時のLINEは上場前で、社会的な信用が今ほど高いわけではありませんでした。一方、ヤマト運輸は歴史のある会社です。
門前払いとはいいませんが、取り組みが実施されるまでには、少なからず困難がありました。
それでも、課題を解決したい、絶対に成功させたいという思いで取り組み続けた結果、アイデアが形になったんです。
両社がプレスリリースを発表したあとは、瞬く間に利用者が増えていきました。
ユーザーは配達時間をリアルタイムでコントロールでき、ヤマト運輸はコストの削減はもちろん、サービスが向上して、ドライバーさんは負担が減る。
このような三方よしのサービスをリリースでき、「便利なサービスだよね」という声も聞こえてきて、営業として働く意義を強く感じました。