—— 岩井さんはパナソニックで新規事業開発に携わっていると聞きました。パナソニックに入社した理由を教えてください。
学生時代に描いていた、「たくさんの人に幸せを届けたい」という人生のミッションを実現できる企業だと感じたからです。
「たくさんの人に幸せを届けたい」と考えるようになった背景には、幼い頃から続けてきたサッカーで、選手生命を絶たれる大けがをした過去があります。
大学でも体育会サッカー部に所属するほど熱中していたのですが、この先サッカーを続けられないことが分かり、「これからどうしよう」と、心に暗い影が差しました。
ただ、落ち込んでいても仕方がありません。
サッカーで大成することを諦め、留学に挑戦してみたり、NPOで働いてみたり、とにかくアクティブに活動してみました。
そこでさまざまな人に出会い、いろんな経験をする中で自分の人生が豊かになり、幸せを実感する頻度が圧倒的に多くなったんです。
どうせなら、自分や誰かの幸せのために働きたいし、そのためには熱意だけでなく、教養やテクノロジーが求められる。
そんなことを考え、官公庁やさまざまな業種の企業などを検討した結果、「パナソニックこそ、自分にとって最適な企業だ」と結論づけました。
—— 具体的に、パナソニックのどのようなところに魅力を感じたのですか?
たくさんの人に影響を与えるためには、やはりそれを実現するだけのリソースが必要です。
パナソニックは、家電から住宅設備、スマートシティまで、人の生活に根ざした幅広い領域で事業を展開しており、そのポテンシャルがあると感じました。
また、今後どのような分野でチャレンジするにしても、大きな価値をつくるにはテクノロジーの活用が不可欠だと考えていました。
その点、パナソニックは長年日本を代表するメーカーとして最先端のテクノロジーを生み出してきているので、「パナソニックのリソースを掛け合わせることで、多くの人の生活にアプローチできるサービスやソリューションをつくれるのではないか」と考えました。
さらに、創業者の松下幸之助から長く受け継がれているミッション・ドリブンな社風に共感したことも入社を後押ししました。
就活の当初はカルチャーフィットをさほど重要視していたわけではありませんでしたが、「どんな世界を実現したいか」を起点に物事を考えたい自分と、きっと相性がいいはずだと思ったんです。
—— 岩井さんはこれまで、どのような仕事をしてきたのでしょうか?
入社以来、ビジネスソリューション本部に所属し、仙台のまちづくりプロジェクトでパナソニックやパートナー企業のリソースを活用した新規事業開発などを担当しています。
まちで取得できるデータを掛け合わせて新サービスの創出や既存サービスの改良を実現する「コミュニティ都市OS」、そして、テクノロジーを有効活用して地域住民の健康をまち全体で支える「地域包括スマートケア」の実現に向けた未病関連サービスや、次世代型高齢者施設の入居者・介護スタッフのQOLを高めるサービスなどを手掛けています。
住民・環境の両方にとって、サステナブルなスマートシティの推進を目指しています。
—— これまでの仕事で、どのような苦労がありましたか?
日々実感するのは、大規模かつ先進的な事業をビジネスとして定着させる難しさです。
このまちづくりプロジェクトには、弊社のみならず複数の企業が参画しています。
つまり、誰がどれほどの投資を行い、リスクを負うのかなど、社内外でのシビアな調整がいくえにも重なってくるんです。
会議での調整が難航して、なかなか突破口が見えないあまり、投げだしたくなることも何度もあります。
ただ、その一方で、ステークホルダーが多いからこその面白みもあると感じています。
プロジェクトを実現するためには、全ステークホルダーが同じ方向を向き、一緒に走ることが大切です。
直面する課題に対して各社の知恵を持ち合いながら対策を練り、解決に至るまでの一連の流れをリードできたときは、何にも代えがたいすがすがしい達成感でいっぱいになります。
もちろん、大規模なプロジェクトを動かすにあたって、壁にぶつかる回数のほうが圧倒的に上回ります。
それでも、さまざまな人たちとビジョンやアイデアを交換しながらワイワイと事業を進めていくと、いつの間にか当初思い描いていたイメージよりも良いものができ上がっていくんです。
そのプロセスは、さながら文化祭を準備しているときのようで、熱中しながら毎日を過ごせています。
—— 実際の業務を通じて感じる、入社前とのギャップはありますか?
「大企業は安定志向」「ベンチャーやスタートアップは成長意欲が高い」といった社風の対比をされることがしばしばあります。私もそうしたイメージを抱いていた1人です。
しかし、実際に入社してみると、実現したいビジョンを持ち、チャレンジ精神に満ちた仲間がたくさんいました。
周囲の社員に「こんなことが社会で実現できたら最高ですよね」と声をかけると、「本当にそうなんです」と乗ってもらえて、実現に向けて話が進んだりすることも少なくありません。
パナソニックは大企業なので、一つ一つの事業規模が大きく、かかわる人数も多いため、イノベーションを起こすには時間がかかります。相対的に、個人の機動力は小さく感じるかもしれません。
ただ、それは裏返せば「周囲の人を巻き込んでいく力を発揮すれば、大きな目標を達成できるチャンスに満ちている」ということでもあります。
多くの人と夢を語りあいながら大きなリソースを動かしていけるのは、やはり大企業ならではの魅力だと思います。
—— 入社時の配属希望は、どの程度通るのでしょうか? また、異動は希望すれば可能なのでしょうか?
その部署で働きたい理由をロジカルに訴えることができれば、希望が通ることも多いと思います。
ただ、社員数も多いので、やりたいことが明確な状態で入社した人の絶対数が多い一方で、「何か面白いことができるだろう」くらいの感覚で入社している人が一定数いるのも事実です。
これといったやりたいことがなく、漠然としたキャリア観で入社した人が、当初のイメージと違う部署に配属された結果、モチベーションを見失っているシーンも見られます。
ただ、早ければ3年目以降で、自分の意思で他部署への異動を働きかけられる機会があります。ですので、やはり意思を持って発信するのが大切になってくるのではないでしょうか。
—— 「裁量権の大きい環境でチャレンジしたい」と考えている学生が多数いますが、岩井さんはパナソニックに“若手に任せる文化”があると思いますか?
部署によってもカラーが違うので一概には言えません。ただ、私が把握する限りでは、若手社員に期待する文化があると感じています。
例えば私の場合、どちらかというと自走したいタイプだったこともあってか、配属後1カ月たっていない時点で、上長からパートナー企業の取締役が参加する重要な会議のアジェンダ設定から進行まで全てを任せてもらい、その後は同社との検討を主導する役割もいただきました。
当時は会社やプロジェクトのことをあまり理解できていない状況だったので、準備には骨が折れましたが、なんとか工夫しながら会議をつくっていきました。
一方で、周囲の先輩を参考にしながら仕事を学んでいきたい人は、少しずつ任される範囲を広げてもらっているようです。
—— 個々人のペースや特性にあわせて、上長が仕事の任せ方を変えていると。
自分自身がどのように仕事を覚えていきたいかは、上長とのコミュニケーションで調整することが大切です。
また、社内起業プログラムが整備されていたり、有志団体の活動が活発だったりするので、挑戦するための選択肢や、思いを共にする仲間とつながる機会は多いと思います。
ただ、「こんなことがしたい」と口にするだけでは実現につながりません。
弊社が大切にしているのは、本人が熱意と一定のロジックを持って発信しているかどうか。
何を実現したいのか。それを実現することが、会社と社会にとってどのような意義があるのか。そして弊社のリソースを使って実現すべき理由はどこにあるのか。
これらを周囲のフィードバックをもらいながら発信し続けていれば、実現を応援してくれる風土があります。
—— 岩井さん自身が、やりたいことを社内で発信し続けた結果、実現に至った経験があれば教えてください。
現在、社内外の協力を得ながら「ライフデザイン」という活動を主導しています。
ライフデザインとは、自分の人生を主体的につくるためにありたい姿の仮説を設定して思考・行動を繰り返し、得た気づきをもってより納得度の高い仮説をつくるプロセスのこと。
もともとキャリアデザインに興味があったことに加え、入社後に強い問題意識を持った「大企業若手社員のモチベーション低下問題」を解決したいと考えたことがきっかけで、スタンフォード大学の授業などを参考に、1級キャリアコンサルティング技能士の方にも意見をもらいながらオリジナルのプログラムを作成しました。
最初は、社内の知り合いを相手にプログラムを実施していました。
しかし、プログラムに対する思いや弊社で実施する意義を発信し続けた結果、次第に共感してくれる仲間が増え、現在では社内の有志団体や社内研修でワークショップを実現するまでに派生していったんです。
通常業務とは異なる軸で、人の幸せをつくることに携われていることがうれしく、今後も社内外の仲間と協力しながらチャレンジの幅を広げていければと考えています。
—— 岩井さん自身の就職活動時の選考を振り返り、どのような点が評価されて内定獲得に至ったと思いますか?
私の場合は、エントリーシート・面接ともに具体性と主体性を大切にしていました。
具体性に関しては、自分のこれまでの経験から、具体的にどのように会社に貢献できそうかを考え、ロジカルに伝えるといいのではないかと思っています。
例えば、研究職志望で留学経験があるなら、「将来的には自分の技術・知識と異文化適応能力を生かして、海外の製造現場立ち上げや生産管理を行える」というように、採用する側が自社で働いている様子を具体的にイメージできるように表現するのです。
こうすることで、自分の経験の生かし方を考える思考力も一緒にアピールできるかと思います。
主体性については、過去の経験から、自分で考えて行動できることを打ち出すのが大切です。
仕事において、「こうすれば必ずうまくいく」という正攻法は存在しません。
ですので、目標達成に必要なインプットを自ら探し出して勉強し、アウトプットすることを繰り返しながら、継続的に自分をアップデートできる人材が求められています。
これら2点はパナソニックのみならず、さまざまな企業の採用側が大事にしている要素だと思うので、ぜひ参考にしてみてください。
—— 最後に、パナソニックでの活躍を視野に入れている就活生にアドバイスをお願いします。
学生のうちに、主体的に何かを頑張る経験を積んでおくことが重要だと思います。
よく「PDCAを回す」といいますが、パナソニックでは自律的にこのサイクルを回す行動力と継続力のある人材の活躍が特に目立つように感じます。
目標を設定し、目標達成のために何をすべきか考え、実行に移し、結果を分析して次のアクションを考える。
このサイクルを回し続けることができる人は、どんな環境にいっても活躍する素地があるといえるのではないでしょうか。
部活、バイト、研究、インターン、留学、起業、学生団体など、手段は人それぞれでいいと思います。
自分の熱中できる分野を見つけて、ぜひチャレンジを続けてみてください。
取材・文:小原由子、編集:オバラ ミツフミ、デザイン:堤香菜、撮影:岩井凌太(本人提供)