【新説】高卒の元お笑い芸人が提唱する“好きなこと”に縛られないキャリア論

2021年2月5日(金)

"無理ゲー転活"の成功要因

—— はじめに、キャリアアドバイザーの仕事内容について教えてください。

求職者に適した企業をご紹介し、転職活動をサポートする仕事です。私の場合は、20代の「第二新卒」といわれる求職者層を担当しています。

転職してからすぐ辞めてしまう短期離職を防ぐため、複数回にわたる面談を行い、求職者の適性や希望を探っていきます。

その後求職者のアピールポイントを言語化し、応募先を決定します。企業に採用してもらえるよう、アドバイザーからも売り込みます。

特に中小エージェントの場合、登録者数の少なさから、単に人材を紹介するだけでは大手エージェントに見劣りしてしまいます。

ですから、普段から求職者、企業様と密なコミュニケーションを重ね、関係性を構築しておくことがなおさら大切なのです。

—— 実際に今まで森川さんがサポートした事例はどんなものですか?

印象に残っているのは、地方のパン工場からキャリアをスタートした高卒の女性です。

高校生の就職活動は担任の先生が成績順に職場を振り分ける仕組みになっていて、基本的には1人1社しか受けられません。自力で就職活動をする手もありますが、「やり方がわからない」、「先生から推薦をもらった方が確度が高い」という理由で、多くの学生が高校の制度を利用します。

その女性も高校の就活システムを利用してパン工場に就職したのですが、1年間で退職し、上京してきました。

最初は事務職を志望していましたが、最近は大手企業ですら正社員での事務職採用をしないところも多いのが実状です。需要に対して供給が少ない状態なので、その方の経歴では、事務職への転職は難しいのが実際のところでした。

その代わりに、「向いているのではないか」と思ったのが、IT業界でした。

—— なぜ、そう感じたのですか?

当時のIT業界は男性比率が圧倒的に高かった上、40代以上の方が主戦力でした。女性は貴重な存在として優遇されやすい傾向にありましたし、当時19歳だったその女性が健気に頑張る姿は、おじさん社員の心にも刺さるはずだと考えたのです。

ただ、アドバイザーの考えを一方的に押しつけてしまうと、短期離職の原因となってしまいます。ですから、求職者の方には、毎回自分で業界研究をしてもらいます。

この女性には「なぜIT業界が伸びているのか」、「今後どのようなところに需要があると思うか」、「なぜ未経験者でも入れるのか」の3つを考えてきてもらったところ、期待していた以上にきちんと調べ上げてきました。

また、当時弊社が無料開催していたITスクールに参加してもらったところ、苦手な数学からも逃げず、1カ月やりきったのです。

そこで改めて本人の意向を伺うと、「エンジニアを希望する」とのこと。私の方からも彼女を猛プッシュし、ネットワーク系エンジニアとしてIT企業に内定しました。

その後、別の企業から引き抜かれ、今ではIT業界では名の通った外資系企業で、プロジェクトリーダーをされています。

“100万円の損失”が教科書に

—— これまでの話から、キャリアアドバイザーには「求職者の隠された適性やスキルを見抜く能力」が必要だと感じました。

そうですね。例えば、ITエンジニアや事務職を希望している方が書いた履歴書の文字サイズやフォントが揃っていない場合、率直にいうと「素養がない」と思ってしまいます。

Webマーケターの希望者であれば、ポートフォリオとして、SNSやメディアの運用経験、実績をみます。

もちろん1つの要素で判断することはありませんが、小さなサインを見逃さないように細部にまで目を配っています。あらかじめSNSで求職者の人間性をチェックすることもありますね。

—— 求職者の適性を見極め、希望通りの企業に転職できたとき、その仕事は成功したといえるのですね。

内定をもらうことがゴールではありません。たとえ転職に成功しても、すぐに辞めてしまっては、企業のためにも、求職者のためにもなりません。ですから、「定着率」が低ければ、成功とは言えないのです。

弊社の場合、転職後半年間は求職者のアフターフォローをすることになっています。長い方だと1〜2年の間、定期的に連絡をとっています。

もう1つ、キャリアアドバイザーとリクルーティングアドバイザーを兼任している立場から、個人的に成功の指標としていることがあります。それは、「新しく開拓した企業から、追加の求人案件をもらえるか」です。

ご契約いただいた企業様に適切な人材をご紹介すれば「またUZUZで求人を出そう」と思ってもらえます。

企業様や求職者に満足していただけるだけでなく、当然ながら自社の利益にもつながります。そこまでやって、はじめて成功だと言えると思っています。

—— つまり、どんなに華麗な転職劇があっても、求職者が短期離職をしてしまえば、それは失敗だということですね。

おっしゃる通りです。入社して間もない頃、サポートした求職者が2日で離職してしまったことがありました。

早期離職者が出ると、転職エージェントは一定額を返金しなくてはいけません。とはいえ高単価で契約をしていただいていたので、100万円近くの損失を出してしまいました。

退職理由は、社風のミスマッチ。求職者は人事の方と一緒に働くわけではないのに、私が「人事と求職者の相性」ばかりを重視して、会社全体の社風を考慮しなかったことが原因です。

まだ入社して間もない頃だったので、ひどく落ち込みましたが、カルチャーフィットの重要性を知る貴重な体験でした。

元芸人の異色のキャリア

芸人として活動していた森川さん(右)

—— 森川さん自身は、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

実は、私自身「高卒で元お笑い芸人」という異色な経歴を持っています。

昔から勉強が好きではなかったので、卒業後すぐに就職しようと考えていました。しかし、高校の就活制度を使うと、成績が学年で下から2番目だった私が就ける職業には限りがあったのです。

そこで「それなら自力で見つけよう」と、右も左も分からないまま就職活動をしたところ、運良く100名規模のIT企業に営業職として採用してもらえました。

ただ、途中で高校時代から抱いていた「お笑い芸人」への憧れの気持ちがぶり返してしまい。入社1年ほどで退職し、ソニーミュージック所属のお笑い芸人として活動を始めました。

—— 思い切って仕事を辞めたことで、憧れの職業を手に入れたんですね。

とはいえ駆け出しの頃は、芸人だけでは生計が立てられなかったので、芸人以外の別の仕事を見つける必要がありました。そこで次に始めたのが、光回線の飛び込み営業です。

これが意外にも自分に向いていたようで、入社1カ月後には表彰対象になったり、業務委託なのに正社員を束ねるリーダーになったりしました。

ただ、恥ずかしながら、当時は“魔法のトーク”ばかり使う強引な営業をしていたので、契約の数に比例してクレームも増えていきました。最終的に「連続クレーム件数」の日本新記録を樹立してしまったんです。

その際、会社の罰則として「月給5万円で半年間働く」という無茶な条件を提示されたので退職を申し出たのですが、聞き入れてもらえませんでした。

そのまま半日間オフィスに閉じ込められたので、トイレに行くふりをして裸足のまま4階から螺旋階段を駆け下り、自宅まで逃げ帰ったのが、2回目の転職活動です。

—— そこから、UZUZとはどのような経緯で出会ったのですか?

その年の夏に、知人からUZUZを紹介してもらい、最初はアルバイトとして入社しました。当時はお笑い芸人も続けていたので、UZUZで働く合間にライブをする毎日です。しかし、売れっ子芸人になるまでの道のりは険しく、勝ち筋は見えませんでした。

そこで、あるときを境に「就活アドバイザー芸人」を名乗ったんです。というのも、当時は副業やパラレルキャリアが話題に上っていた頃だったので、キャリア関連の話と絡めれば、世間の注目を集めることができるのではないかと考えました。

狙い通り、少しずつメディアへの露出も増えていきました。取材やラジオへの出演、「AbemaTV」のロケにも参加させてもらいました。ただ、肝心のネタを考えていなかったので徐々に仕事が減っていき、最終的に芸人は諦めることになりましたが……(苦笑)。

この間に、UZUZの仕事は正社員へと切り替わり、気づけば5年間キャリアアドバイザーを続けています。

ですから実は私自身、言ってしまえば成り行きのキャリアです。今でも「この仕事が向いている」と思う瞬間は、あまりありません。だからこそ、「求職者と同じ目線を持ってアドバイザーを務めることができるのかもしれない」と思っています。

好きを探すより、まず経験

—— 「向いている」と感じたことがないまま、5年間同じ仕事を続けられた理由は、何だと思いますか?

仕事をはじめるときに「好き」ではなく「メリット」で選んだからだと思います。

最初にキャリアアドバイザーの職に就いたとき、「人の人生に寄り添いたい」「人材業界で働きたい」といった気持ちは一切ありませんでした。

自分の人生にとって一番大切なものは「お笑い芸人になる」という夢だったので、副業を許可してくれる職場ならどこでもよかったのです。

そのため、たとえ仕事で嫌なことがあっても、「辞めよう」とまでは思わないんです。

もちろん、「好き」を仕事にして、楽しく働いている人もいます。でも「好き」だけで仕事を選ぶと、「好き」が崩れた瞬間、仕事を続ける動機がなくなってしまいます。

それに、今まで何人もの求職者と対峙してきて思うのが、「良くも悪くも若い人は変化しやすい」ということ。まだ経験を積んでいない方の「好き」は、明日には「嫌い」に変わっている可能性があります。

だからこそ、最初から手持ちのカードを少なくして、選択肢を狭めるのは危険だと思っています。

—— 仕事に対して「好き」という気持ちがない場合、何をモチベーションにして働けばいいのでしょう?

私の場合、責任感がモチベーションになっています。

「UZUZ」は、クライアントの大半が中小企業です。ほぼ全ての採用リソースを「UZUZ」に割いていただいている企業様も少なくありません。

「企業の採用活動の成否が、全て自分にかかっている」のは大きなやりがいですし、企業様から感謝の言葉をいただいたときは、うれしい気持ちでいっぱいになります。

また、数年前に自分が担当した求職者が、「UZUZ」掲載企業の人事になっており、取引先として一緒に仕事をするケースもあります。そんなときは、“我が子の成長を間近で見ている親”のような気持ちになります(笑)。

自分にとってのメリットとやりがいのバランスがとれているから、5年間働いてこられたのだと思います。

—— 最後に、キャリアアドバイザーとして、JobPicksの読者にアドバイスをお願いします。

私は「“好き”は後天的」だと思っています。まずは経験してみなければ、好きなものにも出会えません。若い方には、まだ経験したことのない物事がたくさんあるはずです。

最初から食わず嫌いをして選択肢を狭めたり、無理に好きなことを見つけようとせずに、まずは挑戦してみるとよいのではないでしょうか。

そうして経験が積み重なったときに、はじめて自分の中に物事を判断するものさしが生まれるのだと思います。

私自身、今は「お笑い芸人」以上にやりたいと思える仕事には出会えていませんし、キャリアアドバイザーの仕事も、最初はメリットに惹かれてはじめています。

それでも続けているうちに、自分が目指す方向性や、どんな価値を提供したいかが少しずつ見えてきています。

最近は、ボランティアとして高校生の就職活動の支援もしています。「UZUZ」での仕事と同じように、定期面談や面接練習を行っているんです。

私のように、ただ目の前の選択肢にしがみついてきただけでも、やりがいを感じながら働くことは可能ですし、やりたいことも少しずつ見つかってくると思っています。

僕がそうだったように、新しい選択肢に気づかせてあげるのが、キャリアアドバイザーである私の役割だと思っています。

取材:倉益璃子・佐藤留美、編集:小原光史、デザイン:小鈴キリカ、写真:森川剛(本人提供)