終身雇用制度をはじめとする日本型雇用が制度疲労を起こし、安定の定義が揺らぐ時代に突入してから、はや10数年が経つ。
複数回の転職は当たり前になり、キャリアに不安を抱える若者も少なくない。そんな先行きの不透明な時代で注目を集めるのが「コーチング」だ。
知識を提供するコンサルティングや、指導を行うティーチングとは異なり、コーチングは答えを提示しない。「答えはクライアントの中にある」という前提に立ち、本人の潜在意識を解放させることで、その人らしい人生の実現を支援するのだという。
利用者が増えたことで、職業としての認知を拡大する「コーチ」とは、一体どのような職業なのか。
コーチングスクール「THE COACH Academy」を運営する、THE COACHの小林加奈(こばやし かな)さんに話を聞いた。
話題の職業「コーチング」とは?
—— 小林さんが手がける「コーチング」とは、どのようなものなのですか?
コーチングにはさまざまな定義や手法があるため、以下は私と私が経営するコーチングスクール「THE COACH Academy」の定義としてお話しさせていただきます。
私が考えるコーチングとは、「気付きと行動が生まれるコミュニケーション」です。
コーチは、クライアントのさまざまな声を受け取り、問いを立てます。すると自然に気付きが生まれ、クライアントは自身が前に進みたいタイミングで行動を起こせるようになります。
コーチと聞くと、スポーツの指導者を思い浮かべる人が少なくないと思います。
しかし、コーチングでは、「答えはクライアントの中にある」という前提に立つため、コーチからクライアントに何かを教えたり、誘導したりすることはありません。
—— コンサルティングやティーチングとは異なる概念なのですね。
コンサルティングと混同されることがよくありますが、コンサルティングは知識を与える行為です。一方コーチングは、クライアントの潜在的な考えを引き出します。似ているようで、違うんです。
また、よくカウンセリングとの違いを尋ねられることもあります。明確な定義が存在するわけではありませんが、一つの違いとして「マイナスからゼロに導くのか、ゼロからプラスに導くのか」が挙げられます。
カウンセリングは、心の状態をマイナスからゼロに導く行為です。トラウマを抱えて行動できなかったり、精神にきたした不調を回復させたりするのが主たる目的であり、心の状態をゼロからプラスに転換していくコーチングの目的とは異なります。

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—— コーチングという概念が少しずつ広がっていると感じます。どのような背景があるのですか?
「先行きが不透明な時代になった」というのが、一つの理由だと思っています。
正解がない時代に突入したことで、「このままで大丈夫かな」とキャリアにモヤモヤを抱える人が増え、コーチングの需要が少しずつ高まっているんです。
高度経済成長期から数年前までは、ある種の「正解」がある時代でした。
例えば、偏差値の高い大学を卒業し、大企業で終身雇用されれば、人生は安泰だとされていましたよね?
目指すべき正解があったので、多くの人は、迷うことなく毎日を過ごせていたんです。
しかし、今日はどうでしょうか。
誰もが知る大企業がリストラを敢行していますし、現在の職業がAIに代替されるという話も頻繁にされます。
—— キャリアアドバイザーという職種も存在します。コーチとはどのような違いがあるのですか?
コーチングは、アドバイスをしません。
繰り返しになりますが、「答えはクライアントの中にある」というのがコーチングのスタンスです。
あくまでも「生き方」や「在り方」に焦点を当てるものなので、入口がキャリアプランの悩みであっても、「クライアントが達成したい目標は何か」「心から願っているものは何か」といった、根源的な欲求に向き合うのがコーチの役割なんです。
人の可能性を信じる仕事