—— 長井さんは“公務員イノベーター”として活躍していますが、公務員の仕事は保守的なイメージを持たれがちです。なぜ神戸市役所へ入ろうと思ったのですか?
大学進学を機に出会った神戸の美しい街並みに引かれて、公務員試験を受け、縁あって神戸市役所に入庁しました。
とはいえ私自身も、入庁当初はどちらかといえば、安定を求め、アフター5は「趣味など自分の時間に使えれば」と思っていました。高い志を持っていたわけではありません。
しかし、さまざまな部署で産官学連携事業を企画したり、組織の壁を越えた課題解決などに携わっていく中で、「公務員こそ、地域課題解決におけるイノベーションの核であり、成長のチャンスに満ちた職である」と、今は考えています。
—— 入庁当初は、どのような仕事をしていましたか?
新人時代に担当したのは生活保護のケースワーカーで、現場の最前線で市民に向き合いました。
—— 希望した配属だったのですか?
違いましたが、配属された以上は全力で取り組もうと思いました。
とはいえ、大学を卒業して間もない時期だったので、本当に世間知らずだったなと。時には失敗もして、自分の判断が市民の生活を左右することを身をもって実感し、公務員の仕事の重みを学びました。
2年務めたのち、「組織内部のことを学びたい」と希望すると、その通り給与課へ配属され、給与・人事評価制度などに6年間携わりました。
その後は、係長に昇任するタイミングで、新設されたICT活用関連の部署に異動しました。
どちらかといえばテクノロジーには疎い方で、人事異動に関する意向調査にも「苦手分野はシステム」と書いていたくらいでした。にもかかわらず、ふたを開けてみるとまさかの配属で(笑)。
でも、この異動が、公務員でもワクワクできることに気づくターニングポイントになるのです。
—— きっかけは、どのようなことだったのでしょうか?
配属1年目の秋に、世界規模のデジタルメディア・コンテンツの学会・展示会「SIGGRAPH ASIA(シーグラフアジア)」が神戸で開催されることになりました。
この大会の開催に合わせて、多くの地元企業や大学研究機関の出展などを呼びかけるとともに、神戸市民の参加を促す共催イベントの立ち上げから運営までを、一から任されることになったのです。
4月の異動当初に「長井くん、半年後にこんなイベントが開催されるからよろしくね」と。
当然、僕はICT関連のネットワークが何もなかったので、上司の人脈を頼ったり、周りで一緒にイベントを盛り上げてくれる仲間をとにかく必死に探し回ったりして、共催イベントを行うための実行委員会を設立しました。
とことん自主運営にこだわりながら、多くのIT企業や大学に協力を呼びかけ、「経済産業省から補助金が出る」と聞けば自ら申請を出したりして予算を当初の2倍にしました。
その結果、展示会に出展した神戸市ブースでは、のべ約70の企業や大学などがプレゼン・出展を行い、レセプションイベントには約1300人もの参加者が集まる大盛況でした。
無事に終えられたとレセプション会場の片隅で一人ホッとしていると、イベント終了後に実行委員会のメンバーから「長井さんがおらんと始まらへんって皆言ってるで」と声をかけられて、まさかの号泣。
仕事で感動して泣くことになるとは思いもしませんでした。
運営をまるごと事業者へ委託することもできたはずでしたが、その費用は中身の充実に回したかったのです。
そんな思いで素人ながら妥協せずに汗をかいたことで、ありがたいことにステキな仲間が集まり、想像以上の結果につながったのかなと思います。
「公務員でもこうして組織外の方々と協働して、新しいものを生み出せるんだ」と感じた瞬間でした。
このイベントの成功をきっかけに、「組織の枠を超えて新たな価値を市民に提供することに挑戦していきたい」と考えたのです。