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【読書術】“越境公務員”が薦める、働く意味に出会う珠玉の5冊

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国家公務員として本業での人事を担当しながら、副業的にキャリア教育研究家として、多くの講演や産学連携教育プロジェクトへの参画など、公務員の枠を越える活動をしているのが、橋本賢二さんだ。



副業や他社留学など、自社の枠を超える“越境型活動“は、これからの働き方のキーワードになっているが、そんな働き方、生き方をすでに公務員の世界で実践している橋本氏に、JobPicks「座右の書」シリーズとして、仕事やキャリア選択で迷子にならないためのお薦め書籍を5冊紹介してもらった——。

座右の書03 prof橋本 賢二 / キャリア教育研究家 1981年生まれ。公務員としての本業で人事を担当する傍ら、副業的に未就学児からシニアまでの人材育成に関わる「キャリア教育研究家」として、教育機関やセミナーなどで「キャリア・オーナーシップ」の必要性や育て方の講演活動を展開している。早稲田大学のWASEDA NEOでの講師や教育委員会での研修講師を務めたほか、キャリア教育を提供する団体の支援や産学連携教育プロジェクトにも参画している

働く「意味」を考える



——橋本さんがキャリアに悩む人、自分の生きたい人生がわからないという人たちに、まず推薦したい書籍というと何でしょうか?



第一に薦めたいのは、ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』です。


本書はオーストリアの精神科医が書いた強制収容所(ホロコースト)を生き抜いた体験記です。いつ殺されるかわからないという極限状態だからこそ「生きる意味」を徹底的に考えさせられる一冊です。



私は国家公務員ですが、公務員である以前に一人の人間として、自分はどうありたいのかという、自分の生きざまを考えさせられました。


——キャリアを考える上では、まず自分はどう生きたいのかを考えるのがいい、ということですか?


その背景として、今は何事にも意味が求められる時代になってきたことがあります。



ビジネスの世界でも、モノを売るだけでなく、“コト消費“や”トキ消費“が注目されるように、どういう価値、すなわち「意味」を提供できるのか強く問われるようになってきていると思います。



生き方だけでなく、働くことにも意味が求めれるようになっています。そんな時代だからこそ、自分が生きる意味を根源的に考えるいいきっかけになるのが『夜と霧』です。



——役立つモノよりも、意味のあるモノが売れる時代とも言われます。



今は価値観が本当に多様化しています。



みんながみんな「これがいい」という絶対的なモデルがなくなり、自分がいいと思うものを突き詰めて考えられるようになりました。それにより、多様なサービスが生まれ、世の中も充実しているように見えます。



だからこそ、自分自身は何をしたいのか、何が好きなのかという自分の価値観を強く問われる時代だと思います。



——読んだのは最近ですか?



初めて読んだのは高校生のときでした。



当時世界史が大好きで、とりわけ、第二次世界大戦の近辺の歴史に夢中になっていました。そうなるとホロコーストは、避けて通れない大きな歴史的事実です。そこで、『夜と霧』を読んだのですが、歴史的な話とは全然違う感想を持ちました。



同書の主人公は、強制収容所という、あまりに悲惨な環境の中でも、冷静に状況を判断し、自分には何ができるのかを考えています。



すべてが切り捨てられた極限状態の、生きることだけに集中せざるを得ないという状況下で、主人公は生きることを精いっぱい体現しているのです。



私はその事実に衝撃を受け、自分自身にも、「何で自分は歴史が好きなんだろう?」「自分は勉強して何をしたいのか?」という問いを投げかけるようになりました。



自分は究極、何をしたいのか。自分が死んだら、何を残したいのか——。そういうことまで考えたいと思った原点となったのが、『夜と霧』でした。



人は誰しも、仕事でモヤモヤしたり、人間関係でモヤモヤしたりするときがありますね。そういうときに、『夜と霧』の極限状態に触れると、そんなモヤモヤはあっという間に吹き飛んでしまいます。

アウシュビッツ第1収容所(ポーランド郊外)の最奥部にあった銃殺場「死の壁」。ここでポーランドの収容者数千人が銃殺された。写真)AFP=時事
アウシュビッツ第1収容所(ポーランド郊外)の最奥部にあった銃殺場「死の壁」。ここでポーランドの収容者数千人が銃殺された。写真)AFP=時事

そして、気持ちをリセットさせることができて、「あなたは結局、どうしたいの?」という問いにも、純粋に向き合うことができます。



その意味では、いくつになっても、人生に迷ったとき、進むべき道を見いだすための座右の書と言えます。



発信することで自分を探求



人生の意味を考える上で、もう一冊、私がお薦めしたいのが、梶谷真司先生(東大教授、哲学専攻)の著書『考えるとはどういうことか』です。



自分の考えを磨くためには、インプットだけでなくアウトプットも重要で、アウトプットするからこそ自らの考えや他者との関係が深まります。

座右の書02_考えるとはどういうことか_0歳から100歳までの哲学入門_梶谷真司(著)_出版:幻冬舎新書_価格:924円(税込)

本書は、小難しい哲学ではなく、誰にでもできる手法で、自分の世界を広げる方法を教えてくれる一冊です。



哲学というと、どうしても考えるだけというイメージですが、梶谷先生は哲学対話という手法をもって、自分の考えを磨いていく方法を伝授してくれます。



具体的には、「問う」だけではなく、「話す」、「聞く」、すなわち対話することの重要性が説かれています。



——つまり、考えをアウトプットすることが大切だと?



そうです。そうすると、相手からフィードバックがありますね。すると、自分の考えはまだ整理が足りないなど、新たな気づきがあり、こうして考えが深まっていくのです。



——対話することで、思考のPDCAが回って考えが整理されていくと。



その通りです。まさに「問う」「考える」「語る」「聞く」を回すのです。



人に聞いてもらうことではじめて自分の考えが受け止められ、意味を成すということが説かれています。



自分の考えを語って、相手の話を聞く——。それは今、日本人に最も足りていないことだと思っています。

橋本 賢二 / キャリア教育研究家 1981年生まれ。公務員としての本業で人事を担当する傍ら、副業的に未就学児からシニアまでの人材育成に関わる「キャリア教育研究家」として、教育機関やセミナーなどで「キャリア・オーナーシップ」の必要性や育て方の講演活動を展開している。早稲田大学のWASEDA NEOでの講師や教育委員会での研修講師を務めたほか、キャリア教育を提供する団体の支援や産学連携教育プロジェクトにも参画している。

——とはいえ、SNSにより、若い世代が意見を語る機会は増えているのでは?



統計で見ると、意見を言うことが増えたとは言えません。



総務省の『平成30年版 情報通信白書』によれば、日本ではフェイスブックで「積極的に情報を発信する人」は5.5%程度なのに対し、アメリカは45.7%もいます。



また、SNSの使い方では、日本は「興味のある情報の収集」や「暇つぶし」が強く認識されているのに対し、欧米では「他人とのつながりを得るための手段」として強く認識されています。



日本人は流れている情報の多くを取り込もうとします。しかし、残念ながら情報を収集しただけで終わってしまうことが多い。



梶谷先生の考え方を踏まえれば、取り込むこと以上に他者に対して語ることが大切です。



情報収集量が多いと、どう情報を編集すればいいかわからず、何も語れないというジレンマに陥ってしまいがちです。



——では、どうすればいいのですか?



まず自分は何を発信したいのかという「問い」を明らかにすることです。



その上で、情報のインプットと発信を繰り返すのです。そうしないと、考えは深まりません。まずは、つたない言葉でもいいから、SNSで友人の投稿に感想をコメントすることから、言葉にして話すということを意識してやっていくのがいいのではないでしょうか。



そうしないと、いつになっても発信できる人になれません。すると情報の編集もできないから、結果、物事に意味を見いだすことも難しくなってしまいます。



日本人は、実生活でも発言は慎ましくというような意識で暮らしていますが、それがいろいろな面でこの国が元気のない要因にもなっているのかもしれません。思考停止に陥らないためにも、発信し続けることが必要です。



国の現状を見て将来を考える



情報発信といえば、『シン・ニホン』(安宅和人著)は、発信されている情報量が半端でなくすごい一冊です。



その膨大な情報を、一つ一つ丁寧に解きほぐして紡ぎ、この国に必要なことが実にロジカルに、そして鮮やかに論じられています。



具体的には、世界と日本の現状をこれまでの歴史から振り返り、多方面にわたる豊富な情報を示した上で、これからの日本のあるべき姿を示しています。

座右の書03_シン・ニホン_AI×データ時代における日本の再生と人材育成_安宅和人(著)_出版:NewsPicksパブリッシング_価格:2640円(税込)

価値が多様化して、判断することが難しくなっている今の時代においては、これぐらい突き詰めてモノを考えることも重要だと教えてくれます。



本書に注目したもう一つの理由は、言葉の端々に安宅さんのこの国の未来に対する危機感があることです。その危機感を、時に過激な言葉を使いながらもロジカルに説明しています。



徹底して考え抜いて出した結論に多大な情熱を持っていることが読み取れます。この姿勢と実践は行政官としても見習うべきものだと思います。



その分析力、表現力、熱量は、今後の行政の仕事においても必要になってくるスキルだと思っているため、『シン・ニホン』は行政への宿題のようにも受け止めました。



——分析力、表現力、熱量の3つが仕事でも重要だということですか?



そうですね。人々を動かすという意味では、危機に対して共感を得ることが必要です。そんな共感を得る話を安宅さんが語れる裏には、御自身が将来の日本の危機をひしひしと感じているだけでなく、当事者として行動もしていることがあるはずです。



言語化すると、それは行動に結びつきます。言葉にして、「これが必要だ」と人前で言えば、「じゃあ、あなたがやれば?」と返ってくるから、「では、自分がやろうか」ということになりますよね。



強い使命感と行動力を知る



危機感というと思い浮かぶのは、司馬遼太郎著の『坂の上の雲』。この本も座右の書としてお薦めです。



本書は、強烈な使命感と危機感を持って、それぞれの立場からこの国の危機に全身全霊で奮闘する姿に勇気をもらえる一冊です。



今の時代、行政官だけでなく、あまねくビジネスパーソンから、使命感や奮闘という青臭さや、純粋さが失われているように感じています。なので、自分を奮い立たせる本としてみんなに読んで欲しいですね。

座右の書04_坂の上の雲_(全8巻)_司馬遼太郎_(著)_出版:文春文庫_価格:各803円(税込)

——橋本さん自身は、どういうタイミングで『坂の上の雲』を読み、自己を奮い立たせたのですか?


最初に読んだのは大学生のときで、2回目に読んだのは公務員試験を受けていたときです。公務員面接を受ける前に、自分を奮い立たせるというか、精神安定剤になったと思います。



主人公は、騎兵部隊の創設に生涯をかける秋山好古と、弟で海軍に入って海戦戦術の開拓に人生を捧げる秋山真之。そして真之の親友で、俳句・短歌の革新運動に情熱を燃やす正岡子規。



維新で賊軍扱いという士族の秋山兄弟も正岡子規も、自分が置かれている逆境をうまくチャンスに変えていく。好古は元主君の影響で当時の陸軍では主流ではないフランスに留学して騎兵を学び、日本で騎兵を組織するのですが、日本の馬は小さく頼りなく、騎兵として機能しません。



そこで機関銃を採用した機動力と攻撃力で、好古は見事ロシアの最強騎兵を撃退します。まさに逆境の中、自分の弱みを克服して強みを生かすイノベーターですね。



また、正岡子規は文芸を創作するだけではなく、従軍記者として日清戦争へも行き、結核を患った後も使命感というより情熱を持って、短歌を書きまくります。まさに、短歌の革新運動に「心を燃やす」のです。



国家公務員という仕事を選び、試験を受けると決めたとき、私も子規と同じように、心を着火させておきたかったのかもしれません。



自分が今、目の前にある坂の先に、使命や目標を見いだし、それに向けて歩みを止めずに進んで行く——。そんな勇気を確かにもらいました。



——公務員は制度を作り、世の中を変えるインパクトの大きい仕事だから、逆境の中で自らを奮い立たせるくらいの気概が必要ですね。


公務員に限らず、あらゆる仕事において、国の制度は変えられなくても、世の中を変えることはできます。



なので、どんな逆境にあっても、自らの「心を燃やせ!」ということ。そう『坂の上の雲』は教えてくれます。



日本型組織の不条理を知る



仕事をする、あるいは就職する上で大切な視点の一つとなるのが、組織の仕組みや力学を知ることです。その意味で、私が最後に皆さんにお薦めしたいと思ったのは、『失敗の本質』という一冊です。



本書は旧日本軍の組織的研究の古典です。本書の中で、日本軍の失敗の要因として、人間関係の過度の重視、情に流される、結果よりプロセス重視などといった傾向を指摘しています。

座右の書5_失敗の本質_日本軍の組織論的研究_戸部良一、他(著)_出版:中公文庫_価格:各838円(税込)

——今でも、精神論に偏りがち、プロセス重視は、日本の組織のあらゆるところで散見されることです。


この国の多くの組織では、いまだに見られる傾向であって、もちろん行政機構も例外ではありません。



公務員になって、意思決定が組織の人間関係や情に流されるのは、どこにでもある話だと妙に納得しました。



——気合と根性が大事といった精神論を重視するあまり、旧日本軍は補給や敵軍の圧倒的な火力の違いも無視し続けました。


その通りです。例えば、ガダルカナル島の戦いでは貧弱な補給の上に戦力を逐次投入して、おびただしい戦死者と餓死者を出したのに、日本軍は精神論や雰囲気で作戦をやめず、同じことをビルマ戦線でも繰り返しました。

日本軍が大敗を喫したガダルカナル島の戦い
日本軍が大敗を喫したガダルカナル島の戦い(Photo by Keystone/Getty Images)

——「米軍は根性なしだから勝てる」という、根拠なき精神論が蔓延していました。


そういう精神論は、今の日本の組織でもけっこう横行していると感じます。



特に近年の働き方改革に加えて、コロナの影響もあって、日本的な働き方に対する疑問が呈されましたが、これに反動するマインド(精神論)もまた大きなものがあったと思います。



これまでの働き方をなかなか変えられない理由は、やはり情に流されている面もあるのではないでしょうか。



あと、もう一点、日本軍の失敗として指摘されているのが、行動の検証をしないことです。だから、意味がなくなっていることに気づかず、同じことを繰り返してしまう。



日本人には、失敗しても「でも頑張ったよね!」という変にポジティブな感覚が心の中にあるのかと考えさせられました。



こうした、気づきを得るために、この本は折に触れて読み返しています。とりわけ、不合理、不条理な出来事にあったときに。



不条理な現実に疑問を抱きつつ、これは日本的なこういう状況があるからだと現状分析して納得する。そして、次の行動のための糧にするのです。



あまり読み返したくない本ですが、今でもあらゆる組織に当てはまる不条理を考えるヒントが満載です。この本は、ある意味反面教師の決定版だとも言えます。



(取材:佐藤留美、文:栗原昇、デザイン:國弘朋佳、撮影:遠藤素子)

この記事に登場するロールモデル

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