ボストン コンサルティング グループに見る「戦略系の仕事の変化」
2021年6月30日(水)
1963年、米国東部の大都市ボストンで生まれたボストン コンサルティング グループ(Boston Consulting Group)は、名門コンサルティングファームとして世界に知られている。
BCG Japanは、1966年にボストンに次ぐ2番目の拠点として設立。同じグローバル戦略ファームのマッキンゼーよりも早く日本市場に展開しており(下の記事参照)、日本のコンサルティング業界を黎明期から支えてきた代表的なファームとなっている。
インフォグラフィックで見るマッキンゼー vs. BCGそんなBCGの特徴は、手掛けるコンサル案件のほとんどが「CEOアジェンダ」に直結している点だ。
下の記事で、BCG日本共同代表の内田有希昌さんは「企業の存在意義(パーパス)に深くかかわるテーマについて、CEOの壁打ち相手となって議論する機会が多い」と話している。
【BCG】日本のコンサル業界は、まだ黎明期だこれを換言すれば、BCGの手掛ける案件を知れば、各業界を代表するような日本企業のCEOが直面する課題や、中長期目線で考えていることが透けて見えるということだ(ちなみに上の記事によると、BCG Japanはクライアントの8〜9割が日本企業とのこと)。
BCGのみならず、コンサルティングファームではクライアントやプロジェクトの内容を秘密にしているため、具体的な仕事はベールに包まれている。
だが、現役コンサルタントの経歴や、得意とする専門領域を見れば、BCGがどんなコンサルティングに注力しているかを部分的にだが知ることができる。
BCGで働くことで、身につく「CEO目線」とは何かを知ることもできるだろう。
そこで本稿では、JobPicksに経験談を投稿しているロールモデルの中で、現役&元BCG社員の経歴から、今、CEOが解決に取り組む課題の傾向を読み解く(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。
近年のCEOアジェンダを知る上で、一つの重要テーマとなっているのが、企業経営のデジタルシフトだ。
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がバズワード化したように、事業のデジタル化やAI活用、データ分析を基にした戦略構築などがCEOにとっても重要なテーマとなっている。
事実、BCGの内田さんインタビューによれば、「CEOアジェンダの4〜5割がデジタル関連になっている」(2020年11月時点)という。
それもあって、最近のBCGではテクノロジーにまつわる専門知識を持つ人材が増えているようだ。
2019年、BCGに入社した打越武さんは、ヤフーやレッドブル・ジャパンでWeb広告のユーザー体験向上やSNSマーケティングの企画・実行を手掛けてきた。
現在は、BCGが2018年に立ち上げたデジタルソリューションの専門部隊DigitalBCG Japanで、シニア・エクスペリエンスデザイナーとして活動。クライアントが手掛ける事業のユーザー体験向上に寄与している。

打越さんインタビュー:BCG「新型UXコンサル」の仕事の中身
また、2014年11月にBCGへ転職した白倉誠さんも、前職では総合系コンサルティングファームのアクセンチュアでITコンサルタントをしていた。
さらにその前は、企業の業務をオンライン化するSaaS製品を提供するパイプドビッツで、ソフトウェアエンジニアを務めていたそうだ。
2人のような経歴を持つコンサルタントがいるということは、少なくない数のCEOが「テクノロジーによる新たなユーザー体験の創出」に関心を持っているのだと推察できる。
古くは戦略コンサルタント=企業戦略の上流を支援する役割というイメージがあったが、今はそれだけではなくなっていることも読み取れる。
同じ文脈で、事業経営にビッグデータを活用していく動きも強まっているようだ。
2018年にBCGへ新卒入社した横山聡恵さんは、1年後の2019年8月からDigitalBCG Japanのアナリティクス組織「GAMMA」でデータサイエンティストを務めている。
横山さんは、カリフォルニア大学バークレー校でApplied Mathematics(応用数学・統計学)を修めている。
投稿された経験談を読むと、その知識を生かして「データセントリックの戦略コンサル」として課題解決に取り組んでいる。
眠れないほどしんどい瞬間はあまりないですが、 難しいのは経営目線の問題解決ならではかと思いますが、ただ単にデータを分析するのではなく、ビジネス的に意味のある分析をする必要があるところかと思います。 興味本位で分析をしに行くのではなく、ビジネス的に意味のある分析を設計していくことが重要となっていくため
従来の戦略コンサルタント像とは異なる印象だが、BCG出身でDataRobot Japan代表・柴田暁さんの経歴を合わせて見ると、横山さんのような役割が以前から求められていたと読み取れる。
柴田さんは、ロンドン大学とニューヨーク大学で素粒子の先端研究に従事。その後の2010〜2013年にBCGで働いており、以下のインタビューシリーズの「#4」では次のように語っている。
「小売りやIT、製薬、電機メーカーなどの大企業の経営戦略案件に携わり、データ分析を駆使した提案ができるコンサルタントとして少しは貢献できたのではないかと思います」
【シバタアキラ】「AIの民主化」を目指すデータサイエンティストこの発言から、BCGでは企業のデータ活用を早くから支援していたと分かる。データドリブンな課題解決も、BCGに強く求められる要素の一つになっているのだ。
ここまで取り上げたようなコンサルティングテーマを、具体的な施策につなげる際も、BCGに“伴走”を求めるクライアントが増えているようだ。
2019年1月からBCGで働く東野誠さんの前職は、マーケティングオートメーションを支援するSaaSツールを提供するシャノン。
同社でCMO(最高マーケティング責任者)を務めた後、現在はDigitalBCG Japanのプリンシパル兼プロダクトマネージャーとして、デジタルマーケティングの企画から実装まで幅広く支援している。
東野さんの投稿を見ると、コンサルティングの一環でクライアントのサービスローンチまでサポートすることがあるようだ。
メンタル的には重要なクライアント経営陣への提案時は、フィジカル的には、サービスローンチ直前、失敗プロジェクトの鎮静化の際など、その時々でしんどいことはあります。 万事順調で楽なプロジェクトはありませんが、やり遂げた時にはそのしんどさは忘れます。
コンサルティング業界では、以前から「戦略=絵を描くだけの戦略コンサルは不要」という声が挙がっていたが、戦略系のトップファームであるBCGでもこの流れが進んでいると分かる。
BCGは、元ミスミグループCEOの三枝匡さんやパナソニック代表取締役の樋口泰行さんなど「プロ経営者」を数多く輩出するファームとしても知られている。だが、近年のコンサルティング案件から推察すると、経営だけでなくデジタル分野の専門領域を深める機会も豊富にあると思われる。
逆に言えば、これからの企業経営に、デジタルの知見は欠かせないということ。BCGは、経営目線でデジタル戦略を遂行する経験が積める場所にもなっている。

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