「理系の学生や院生は、就職の選択肢が少ないように思われがちですが、今はどんどん増えています」
そう語るのは、JAXAの宇宙開発技術者からゴールドマン・サックス証券のM&Aアドバイザー、そして通信テクノロジーベンチャーの創業と売却を経て、エンジェル投資家となった井上北斗さんだ。
より成長実感のある仕事を求めて、キャリア選択をして現在の仕事にたどり着いた井上さんに、研究者から転身したM&Aアドバイザー、そして現在、ITから医療、VTuber、宇宙まで投資先は40社以上もあるという投資家、起業支援という仕事のリアルについて、赤裸々に語ってもらった。
—— 井上さんは東大大学院・JAXAから新卒でゴールドマン・サックス証券へと、一見するとつながりのない就職をしています。なぜ金融の世界に興味を持つようになったのですか?
井上 小さい頃から、目に見えない不思議なものに興味があったんですね。手で触れられない壮大なものを知りたがる性分で、中でも強く引かれたのが宇宙でした。
宇宙がどうやって始まってどうやって終わっていくのか、ブラックホールの中ではなぜ時空がゆがむのか。そんな宇宙の神秘を探るため、高エネルギー宇宙物理学と呼ばれる研究分野に進むことにしたのです。
東大は歴史的にJAXAとのつながりが強く、私が在籍していた研究室も神奈川県相模原市にあるJAXAの宇宙科学研究所にありました。
最近話題になった、はやぶさ2を開発した研究所です。そこで科学衛星に搭載する半導体の開発や、科学衛星から地球に送られてくる観測データを、相対性理論などを使って解析する研究を行っていました。
ただ、研究を続けるうち、壮大なスケールの謎を解明できるという面白さの一方で、「成果を出すまでにあまりに時間がかかる」というジレンマを感じるようになります。
そこで、もう少し短期間で成果を出せて、さらに、成果と報酬の関係性が分かりやすい仕事をしたいと思い始めて、金融業界に目を向けるようになりました。
金融も、ある意味では宇宙と同じで「目に見えない不思議なもの」です。一つ一つの事象は、人間の合理的な判断の結果です。
ところが、それらの寄せ集めとして動いている金融の現実世界は、なぜか、全く理屈通りにいかない不思議さがあるんです。
—— 就職先にゴールドマン・サックスの投資銀行部門を選んだ理由は?
すごくキラキラしている世界に見えたから、というのが本音です。
私が就職を考え始めた2000年代始めのころから、外資系投資銀行が就活でも人気になっていました。それもあって、友だちに就職相談をしたところ、「どうせなら、世界トップのゴールドマン・サックスに応募してみたら?」となりました。
説明会への応募も、当時日本とアメリカを行き来しながら研究に没頭していたので、その友人が手伝ってくれました。
当初は、それくらい、お気楽な感じだったのですが、行ってみると、まず、都心の綺麗なオフィスにびっくりして(笑)。
しかも、投資銀行部門はグローバルにあらゆる巨大企業を対象にしていて、中には新聞の一面を飾るようなM&Aもあると聞いて、ワクワクしたのを覚えています。
そうした直感的な第一印象から、真剣にゴールドマン・サックスへの就職を考えるようになりました。