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【解説】「法務は保守的」は時代遅れ。現役CLOに聞く戦略法務

【解説】「法務は保守的」は時代遅れ。現役CLOに聞く戦略法務


この記事に登場するロールモデル

目次

  • 弁護士は、個人商店
  • 個人商店からチームへの意識変化
  • 「法務は保守的」は時代遅れ
  • リスクテイクの番人

営業部門やマーケティング部門を後方から支援するバックオフィスに対して、「保守的な仕事」というイメージを持っている人は少なくない。



しかし、本当にそうだろうか?



日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR」のCLO(最高法務責任者)である草原敦夫(くさはら あつお)さんは、「保守的だと思われがちな法務職ですが、イノベーションを加速させるポテンシャルを秘めた職業です」と語る。



現役の弁護士で、企業のCLOでもある草原さんに、法の観点から持続的な事業成長を推進する「戦略法務」について話を聞いた。

【解説】「法務は保守的」は時代遅れ。現役CLOに聞く戦略法務_草原敦夫_02


弁護士は、個人商店



—— もともと、スタートアップで働くことを見据えてキャリアをつくってきたのですか?



いえ、スタートアップで働くことは、全く想像していませんでした。



子どもの頃から、なにか明確な夢があったわけではなく、弁護士を目指し始めたのも「文系職でプロフェッショナルな仕事だし、いいかもな」くらいの気持ちでした。



当時のことを詳しく覚えているわけではありませんが、手に職がつきますし、専門職に就きたいという気持ちがあったのだと思います。



法律の面白さを感じたのは、司法試験に向けて、友人たちと答案練習会をしていたときのこと。



事例問題を、法律を用いて分析し、結論を出していく練習をするのですが、だんだんと「法律を使うこと」の感覚がつかめてきて、知識もつながっていき、少しずつ魅力を感じるようになったのです。



それまでは、あるいはそれからも、大学の授業についていけないこともありましたが(笑)、本格的に弁護士を目指そうと思いました。



—— ファーストキャリアでは、森・濱田松本法律事務所(以下、モリハマ)に入所しています。どんな理由からですか?



モリハマのサマーインターンに参加し、そこで働くシニアな弁護士の仕事論を聞き、とても印象的だったことが大きいです。



司法試験に合格すると、弁護士だけでなく、裁判官や検察官になる道も選択できます。



そこで、「裁判官や検察官になろうとは思いませんでしたか?」と尋ねたのですが、「八百屋さんか弁護士なら迷うけど、それ以外は考えなかったね」と彼は答えました。



あくまで比喩ですが、彼は要するに「弁護士は“個人商店”だ」ということを伝えたかったのです。



個人事業主である弁護士は、個人の力量によって営業し、仕事を獲得し、収入も大きく変わります。



「自分の実力で仕事を取りにいく」という考え方に強く惹かれました。



結局、モリハマには4年半お世話になり、いろいろな領域の案件を担当させてもらいました。



個人商店からチームへの意識変化

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—— モリハマでの業務内容について、詳しく教えてください。



入所1年目は、ファイナンス、M&A、訴訟・倒産の3つのうち、2つのプラクティス(現場)を経験するジョブローテーションがありました。



私は最初、主に訴訟のプラクティスに関与し、その後M&Aを担当しました。



入所2年目以降は分野を絞りますが、そうはいっても、幅広い案件に関与させていただきました。



当時は経済政策「アベノミクス 第三の矢」として、コーポレートガバナンスの改革が推進されている時期でした。



そうした背景もあり、先輩弁護士のフォローに入る形で、役員報酬や取締役会の運営、株主総会の運営や内部統制など、大企業のコーポレートガバナンスにかかわる案件にも複数関与させていただきました。



その一方で、ジョブローテーションでM&Aを担当していたときの所内のつながりで、スタートアップの資金調達やM&Aの案件、日常的な法律相談に乗る機会にも恵まれました。



このスタートアップ関連の案件が、私にとっては非常に魅力的だったのです。



企業と弁護士事務所は、長い付き合いになることが少なくありません。



つまり、変化の激しい若い企業の場合、成長の過程を間近で見ることができます。



資金調達や大企業とのアライアンスを支援したときは、企業の成長に貢献できている実感がありましたし、なによりも、同じ若い世代が大きな目標を掲げ、急激な成長を遂げるスタートアップという事業体そのものに興味が湧きました。



厳しいタイムラインの中で、トレードオフの発生する意思決定、交渉戦略をスタートアップの経営者と議論するシーンも多々あり、大きな刺激をもらえましたね。



—— その頃から、スタートアップへの転職を意識していたのですか?



業務量が非常に多く、勤務時間も長かったので、当時は転職を考える時間もありませんでした。



目の前の案件に必死で、自分のことを振り返る余裕などなく、キャリアについて考え始めたのは入所4年目になってからです。



同期が留学に行き始める時期なのですが、スタートアップに興味を持っていたこともあり、「この先どうする?」と自問自答しました。



—— 弁護士からスタートアップ企業への転職は、あまり前例がないキャリアです。



ですから、同期や先輩に相談したところ、「まずは留学に行ってみたら?」「頭を冷やして考えたほうがいい」と諭されることも多々ありました。



また、「興味がある」とはいえ、メンバーとして会社の成長に貢献するというより、もともとは弁護士として、外部からサポートするつもりだったのです。



個人商店への憧れもあって弁護士を選んだので、会社に入るというイメージが湧きにくいということもありました。



—— ではなぜ、READYFORに転職したのですか?



今後のキャリアについて明確な指針はなかったのですが、モリハマの同僚から「幼なじみがやっているスタートアップが法務を探している」と聞き、とりあえず会ってみることにしたのです。



そのときに話をしたのが、代表の米良はるかでした。



米良は「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくるために、お金の流れを変えていくんだ」という話をしきりにしていました。



そのままお酒を飲みに行き、お酒の席だったので詳しい話は覚えていませんが、官と民の間の「公」の重要性の話とか、経済合理性のみではない、期待や共感を込めたお金の流れとか、これからの自己実現・ウェルビーイングの話とかをして盛り上がった気がします。



もともと、「とりあえず会ってみる」だけのつもりだったので、そこで返事をするつもりは毛頭ありませんでした。

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でも、終電もなくなった深夜1時過ぎに、気が付いたら「一緒にやります」と返事をしていて。



ビジョンに共感できたし、「これから資金調達をして、大きな挑戦をしていく」という彼女の言葉を聞き、自分もその一助になりたいと思ったのでしょうね。



「法務は保守的」は時代遅れ

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—— 転職してからは、どんな仕事に従事したのですか?



まず着手したのは、サービスの健全性を担保することです。サービスの「安心・安全」にかかわるところですね。



クラウドファンディングサービスの「READYFOR」は、お金の流れを扱うサービスです。プラットフォームであることを言い訳にして、不適切なところにお金を流すのを見過ごすわけにはいきません。



私が入る前から「安心・安全」への意識が高いサービスでしたが、その体制をより精緻化していくのが最初のミッションでした。



具体的には、サービス全体のルールの見直し、それらをページで表現するルールの明文化、本人確認の強化、ユーザーへの説明の充実などです。



とはいえ、悩ましい場合もありました。例えば、掲載するクラウドファンディングに関する審査基準の見直しです。



法的な解釈に基づけば「YES or NO」を判断できるとしても、クラウドファンディングを通じてお金を流し、その活動をエンパワーメントするということを考えると、「違法でないからいい」とはいかないものもあります。



あくまで一例ですが、「PCR検査を大規模実施したい」という掲載依頼があったとしましょう。



関係法令に反しないとしても、偽陰性の問題を指摘する専門家もいらっしゃいますので、公衆衛生との関係でどのように考えるべきかは、判断が難しい問題です。



あるいは、大規模な災害が起こった後に「被災地に入って支援活動を行いたい」という掲載依頼があったとしましょう。



その思い自体は素晴らしいことであるという前提で、発災直後に被災地に入るとかえって混乱を招くといわれているので、これまた判断に悩む場合があります。



—— 悩ましい判断も多い中で、専門的な知識をどう生かしていますか?



法務の専門性は、契約・紛争・法律に限らず、広く言えばリスクマネジメントであると思います。



そのため、専門知識を持った法務が在籍しているということは、企業が正しくリスクを取れることにつながると思います。



READYFORに限らず、そもそもスタートアップとは、ある程度リスクテイクをするのが当たり前です。



リスクを取らなければ成長できませんが、リスクを取りすぎると足元をすくわれます。バランスを考え、正しくリスクを取らなければ、持続可能な成長は望めません。



誰しも、過大なリスクテイクの結果、社会に害をなしたり、事業の成長を阻害する事態を生じさせたりすることは望みません。



もっとも、役割分担の中で、それぞれの目標を追う中でリスク管理がなおざりになる、優先度が下がることは十分あり得ます。



だからこそ、攻めと守りの適切なけん制関係を持ち込むことが重要だと思いますし、リスクの側から事業を考える人間がいるからこそ、事業部がアクセルを踏めるとも思います。



経営チームに法務の専門知識を持った人間がいる意義の一つとして、リスクを議論する文化を醸成するところがあるのかなと感じます。

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—— 法務という職に就くにあたり、弁護士資格を持っていてよかったと感じることはありますか?



資格の有無に関しては、やはり信頼性を担保できるありがたさがあります。この点は先人に感謝です。



また、弁護士になる過程で、六法(憲法・刑法・民法・商法会社法・刑事訴訟法・民事訴訟法)を体系的に学べたのはよかったと感じます。



クラウドファンディングもそうですし、今となっては身近なフリマアプリ、民泊・スペースシェア、カーシェアなど、昨今は「既存の法令が想定していない新しいビジネス」がどんどん生まれています。



そして、新しいサービスを想定していないからこそ、既存の法令が新しいビジネスを必要以上に規制して、イノベーションを阻害する「法の遅れ」といわれる事例も生じています。



とはいえ、既存の法令も、なんらかの権利・利益を保護するために存在しているはずです。



それ自体は尊重しつつ、テクノロジーの発展や社会情勢の変化を受け、ビジネスのニーズや権利・利益の保護のあり方がどのように変わったかを法的に分析することは、「法の遅れ」の解決にとっても重要です。



このような分析には、憲法が保障する人権の理解も重要です。



また、新しいサービスを提供する場合、そのルールを設計し、当事者間の責任分配のあり方を適切に決めていく必要があります。



その際は、私人間の権利義務関係の基本法である民法の理解が重要となるでしょう。



スタートアップで法務に取り組む中でも、法学を体系的に学ぶ機会があってよかったと感じることは少なくありません。



リスクテイクの番人

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—— 日本ではまだ事例の少ない、企業のCLOである草原さんが考える、法務に向いている人材の特徴を教えてください。



主な業務の一つにリスク管理があるので、当然楽観的すぎてもいけませんが、心配性すぎてもブレーキをかけすぎてしまいます。



突発的なトラブルに対して心が折れないことを含め、前向きでいられる人間性が求められると思います。



法務のみで解決できる課題は多くなく、他の部署と連携しながら業務を行うことになるので、巻き込む力や、上手に巻き込まれる力も求められるように思います。



また、法務は経営・事業の一機能ですので、当然ながら、事業や経営を理解する能力も問われます。



繰り返しになりますが、特にスタートアップやベンチャー企業は、健全にリスクを取りながら成長していく事業体です。



繰り返し新しいチャレンジをしていくことになるので、避けるべきリスクを避け、法律に抵触することなくアクセルを踏むための参謀として、法と事業をセットで理解している、あるいは、理解したいと積極的に思えることが重要な素養だと思います。



—— これから法務を目指す若い世代に向け、伝えたいことはありますか?



私は大企業の法務を務めた経験がないので、スタートアップの法務としてのメッセージになりますが、法務という職業はイノベーションを加速させるポテンシャルを秘めており、非常に魅力的な仕事です。



資金調達、M&A・アライアンス、新規事業の適法性検討、リスクマネジメント、内部統制、紛争・トラブル対応、規約・契約書の作成・審査など、役割を挙げればキリがありませんが、その全てが企業の持続的成長にひも付いています。



最近では、企業活動と倫理・インテグリティというテーマも重要性が増しています。皆さんが思っている以上に、大胆な意思決定に寄与する機会もあるでしょう。



また、「法の遅れ」の解決に取り組むことは、社会的にも意義があると考えています。



情報技術の革新が起こり、ビジネスモデルが刻一刻と変化している現代において、法務が事業に貢献できる価値は、ますます大きくなっていくはずです。



私のインタビューが、少しでも法務の仕事を知るきっかけになっていたら幸いです。



JobPicks未来が描ける仕事図鑑_01

取材:平瀬今仁、オバラ ミツフミ、文:オバラ ミツフミ、デザイン:黒田早希、撮影:遠藤素子

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