「思い描いていたキャリアと違う」
こうして理想と現実のギャップに悩むビジネスパーソンは少なくない。
入場料制の本屋「文喫」など、SNSで話題を呼ぶプロジェクトのブランディングを手掛けるHARKENの木本梨絵(きもと りえ)さんも、その一人だ。
武蔵野美術大学空間演出デザイン学科を卒業し、スープ専門店「Soup Stock Tokyo」などを運営するスマイルズに入社するも、希望ではなかった店舗スタッフとしてキャリアをスタート。
苦手な仕事に悪戦苦闘し、「私だけが置いていかれている」と感じていたそうだ。
理想と現実のギャップに苦しんだ彼女はなぜ、現在クリエイティブディレクターとして活躍できているのか。
木本さんの発想と行動に焦点を当て、「遠回りを武器にする方法」を探っていく。
—— 飲食店での接客からキャリアをスタートしたと聞いています。
新卒から約1年半、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」やファミリーレストラン「100本のスプーン」の店舗で接客業務をしていました。
運営会社であるスマイルズのブランド戦略に強い興味を持っていて、やっとの思いで入社への切符をつかんだのですが、配属されたのは飲食店でした。
美大を卒業していますし、クリエイティブ職としてキャリアを築いていくのが一般的な中で、理想とのギャップに葛藤する日々が長く続きました。
—— どのようにして、キャリアチェンジを実現したのですか?
落ち込んでいても状況は変わらないと覚悟し、「今の環境でできることはないか」と考えを改めて行動していたら、クリエイティブ本部へ異動するチャンスが訪れました。
今振り返っても、ファーストキャリアは、自分の人生において最も泥くさく、つらい時期でした。
しかし、この1年半の“遠回り”の過程で獲得した思考回路こそ、クリエイティブディレクターとして仕事をするうえで、自分のかけがえのない武器になったと確信しています。
—— そもそも木本さんが「スマイルズで事業のブランディングに携わりたい」と思った理由を教えてください。
大学時代の講義がきっかけです。
外部から講師を招く講義を受講していたのですが、ある日の登壇者が、スマイルズ代表の遠山正道さんでした。
そこで取り上げられたSoup Stock Tokyoの事業形態が、地方出身の私にとってはものすごく先進的で、衝撃を受けたのです。
調べてみると、スマイルズはSoup Stock Tokyoだけでなく、ホテルやファミリーレストラン、副業サービスを手掛けるユニークな企業だと知り、ますます興味を引かれました。
また、学生時代は複数のデザイン事務所でインターンをしていて、事業や商品に対し、表層的なクリエイティブだけを依頼されることに違和感を覚えていました。
事業そのものに共感できていないにもかかわらず、見栄えだけを良くしても、ブランドは持続し得ないと考えていたからです。
こうして私は、「ブランディングに真摯に向き合うスマイルズに入社し、クリエイティブ職として事業の根本から携わりたい」と考えるようになりました。
—— スマイルズなら、木本さんが理想とするブランディングが追求できると考えたのですね?
その通りです。
ところが、就活では書類選考落ち。
ただ、私にはスマイルズ以外に行きたい会社がなかったため、ここで簡単に引き下がるわけにはいきませんでした。
そんなとき、偶然にも書類選考に落ちた翌週に、遠山さんが講師を務める講義がありました。
「なにがなんでもリベンジしてやる!」と燃えていた私は、スマイルズを題材としたホテルのプロジェクトを企画し、全精力をかけてプレゼンしました。
その結果、努力が功を奏して再度選考に参加することができ、やっとの思いで入社の切符を勝ち取ることができました。
「ついに憧れのスマイルズの事業に携われる……!」。夢に描いていたキャリアが、華々しく始まるはずでした。