【大胆チェンジ】非・美大からデザイナーになる戦略的転職プラン
2021年5月31日(月)
私が卒業した早稲田大学は、大手企業に就職する学生が比較的多い大学です。
所属していたサークルやゼミの先輩方も、少なくない人数が、就職人気ランキングで上位にランクインする大手企業に就職していました。
ただ、学生だった私の目には、先輩方が楽しそうに働いているようには見えませんでした。
その様子を見ていて、「仕事は人生の大半を費やすものだから、楽しく働く人を増やしたい」と考え、人材業界の門を叩いたのです。
「千﨑は将来、なにがしたいの?」と先輩に尋ねられたことで、自分の人生を問い直したのがきっかけです。
ファーストキャリアは有意義な仕事であり、不満があったわけではありません。
しかし、「一生かけて成し遂げたいことか」と問われると、迷いなく頷けない自分がいました。
そのタイミングで、綺麗事なしで、自分が本当にやりたいことを考えてみました。
出てきた答えは、「いつか自著を出版してみたい」という、かねての夢です。
では、どうすれば自分の名前で本を出版できるのか。
具体的なプランが浮かんだわけではありませんが、書籍の執筆は「自分が得意で好きなことを突き詰めた結果、実現するもの」という結論に至ります。
私はもともと、書道や演劇、絵を描くことやダンスなど、幼い頃から表現することが大好きでした。
ただ、あくまで趣味だと捉えており、その道で食べていくという考えはなかったのです。
でも、考えれば考えるほど、「人生は一度きりだから、チャレンジしてみたい」と思うようになりました。
「デザイナーになりたい」。私の未経験転職チャレンジは、ここからスタートします。
もちろん、不安はありました。
とはいえ、少なからず自信があったのも事実です。
前職ではクリエイター向けに仕事を紹介する仕事をしていたので、「デザイナーとして仕事を手にするには、経歴よりもポートフォリオ(作品集)が重要だ」ということが分かっていました。
つまり、私もポートフォリオが充実していれば、少なくともデザイナーとして仕事にアサインされる可能性があるということです。
デザイナーといえば、「美大出身者の仕事」というイメージがあると思います。
しかし、実情は異なります。
もちろん相対的に美大出身者は多いのですが、総合大学出身の方や、スクールでデザインを学んだ方も、デザイナーとしてキャリアを歩んでいました。
仕事によっても異なると思いますが、私が担当していた多くの案件から推測するに、デザイナーは「センスがモノをいうアーティスティックな職業」ではなく、むしろロジックに基づく緻密さこそが価値になる職業でした。
そうした経験から、まずは社内のデザイナーにお薦めの書籍を聞き、およそ20冊ほど入門書を読み込みました。
そうしてデザインの基礎を叩き込んだのちに、PhotoshopやIllustratorといったデザインツールの使い方を学びました。
自主制作ばかりのポートフォリオでは採用率が低いと分かっていたので、知人の会社のホームページを、実物に即して制作していました。
その際に注意したのは、「思考のプロセス」を明確に示すこと。
どのようなフローで制作を行ったのか、どのようなペルソナを想定し、特にどのような点に注意を払ったのかなど、アウトプットに至るまでの思考プロセスを盛り込みました。
「学んだ知識を丁寧に再現できる」ことを明示できれば、「彼女は伸びしろがある」と思ってもらえ、書類の通過率が上がると考えたのです。
すでに経験のあるデザイナーと私を比較すると、アウトプットのレベルやデザインしてきた作品の数では、太刀打ちできません。
だからこそ私は、未経験ならではの戦い方でポートフォリオを作成したのです。
想像していたよりもずっと、スムーズに進んだように思います。
前職での経験上、未経験者にも採用ニーズがあると分かってはいましたが、当時利用していた転職エージェントの方から、「未経験にしては書類通過率が非常に高い」と言っていただけましたね。
「伸びしろのある人材だ」とアピールする作戦が、功を奏したのだと思います。
デジタルプロモーションに特化した制作会社・NONAME Produceに、Webデザイナーとして勤務しています。
私が担当しているのは、主にLP(ランディングページ)のデザインです。
また、本業とは別に、個人でロゴデザインの仕事もしています。
想像していたよりもずっと、クリエイティブな発想が求められる点にはギャップを感じました。
転職活動中にデザインを学んでいたときは、デザインには決まりきったルールがあると思っていたのです。
しかし、人を引き付けるデザインをするうえでは、いわゆるアート的な感覚や発想も求められます。
例えば、「楽しくにぎやかな雰囲気を演出するには?」という問いに対し、答えや決まりきったルールはありません。
ただ、多くの場合、経験や引き出しから、直感的に「クラッカーがあると楽しそう」といったように思考するはずです。
ロジックからデザインを学んだ私にとって、直感的なデザインは、まだまだ難しいと感じるシーンが少なくありません。
著名なデザイナーが手掛けた作品や、デザイン関連の書籍で紹介されている作品など、いわゆる「優れたデザイン」を自分の目で見ることを大切にしています。
そのうえで、なぜ優れているのかを感覚で終わらせず、言語化するよう努めています。
その思考を繰り返すことで、“デザインの引き出し”が増えていくからです。
デザインを専門的に学んできた人は、この思考の回数が違います。
私のデザインは独学であり、業務で補うには時間も足りないので、自主的に思考の時間をつくるようにしています。
もちろん、アウトプットも欠かさないようにしています。
私の場合、表現のバリエーションを鍛えるべく、Twitterに自主制作のタイポグラフィーを投稿しています。
一時期は、毎日のように投稿していましたね。
結果的にデザインのレベルも上がりましたし、文字のバランスなど、細部まで注意深く観察する目が養えました。
そうした実践を繰り返していた結果、Twitterのフォロワーは1万人以上増えました。
個人で行っている仕事には、SNSのフォロワーが増えたことがきっかけでいただいたものもあります。
転職をゴールにせず、デザイナーとしてスキルアップし続けることを意識していたからこそ、こうしてデザインする機会をいただけているのだと思います。
私のちょっとした反省でもありますが、デザイナーという職業の解像度を高めることをお勧めします。
一口に「デザイナー」といっても、グラフィックデザイナーやモーションデザイナーなど、職種はさまざまです。
私はそれを知らず、イメージだけが先行して、Webデザイナーの道を選択しました。
その選択を後悔しているわけではありませんが、「違う道で働いている未来もあったのかな」と思うこともあります。
ですから、デザイナーに興味を持ったら、まずは現場で働くデザイナーに話を聞いてみてください。
また、「自分はどんなデザインが好きなのか」を知っておくことをお勧めします。
というのも、面接で非常によく聞かれる質問だからです。
今になって振り返れば、自分の会社の扱うデザインの系統に合っているかを判断すると同時に、デザインに対する熱量を測っていたのではないかと思います。
仮に質問されなくても、好きなデザインを知り、その理由を言語化することは、転職先を比較する基準にもなります。
やっておいて損はないので、ぜひ実践してみてください。
転職を検討する際は、目的と手段を混同しないことが大切です。
例えばデザイナーに憧れている場合、デザイナーを名乗って、クラウドソーシングサービスで案件を獲得すれば、その時点でデザイナーにはなれると思います。
でも、「デザイナーに憧れている」の本意は、「その道で活躍すること」かもしれません。
その場合、安易に転職や独立をしてしまうと、次第に自分の身を削ることになり、きっと苦しくなってしまうはずです。
また、専門職での転職であっても、スキルが問われる以外は一般的な転職活動と同じです。
結局、「自分はどうありたいのか」「どんなミッションを達成したいのか」を考えなければ、転職の成功率は低くなります。
常に目的を考え、目的達成のために戦略を立てる。
その順番を間違えさえしなければ、掲げた理想に近づけるはずです。
未経験転職を成功させた一人として、皆さんのチャレンジを応援しています。
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取材・執筆:小原由子、編集:オバラミツフミ、デザイン:黒田早希、撮影:千﨑杏菜(本人提供)