【保存版】電通コピーライター直伝、面接官の心をつかむ言葉術

2021年5月28日(金)

奇抜な自己紹介は必要ない

イマジン:JobPicks編集部でインターンをしている、平瀬今仁といいます。阿部さんの本やラジオの大ファンで、お話しできる日をとても楽しみにしていました。

阿部:よろしくお願いします。「イマジン」さん、とてもいいお名前ですね。

イマジン:ありがとうございます。今日は、「面接官の心をつかむ言葉」をテーマにお話を聞かせてください。

まずは、採用担当者にとって読みやすいES(エントリーシート)とは、どのようなものか教えてください。

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阿部:ESの読みやすさは、「見出しがついているか」で決まると思っています。

例えば新聞なら、見出しを見るだけで概要が分かりますよね。ESにも、同じことがいえます。

大前提として、採用担当者は1日に数十人から数百人のESに目を通します。しかも、仕事の合間を縫って。時間の都合上、全てを細かく読み込むことは難しい。

では、どうしているのか。

「言いたいことが伝わってくるか」を判断しながら読み進めています。

見出しがあれば、内容に入っていきやすい。自分の言いたいことを、ただ羅列してしまっているだけでは、読み手の負担になります。読み手の立場に寄り添って考えてみると、ESの整え方が見えてきますよ。

イマジン: 面接でも同じことがいえますね。「質問には、結論ファーストで回答しなさい」とよくいわれます。

阿部:その通りですね。

ただ、必ずしも「結論」を先に言う必要はないと思うんです。

一番おいしそうな、目印となる部分——。ショートケーキでいえば、イチゴにあたる部分を、回答の初めに持っていく。

ショートケーキは、イチゴが目印となって、それを見ることでそそられると思うんです。

面接も同じで、相手にとって「ちょっと気になるな」「続きを聞いてみたいな」という部分を、見出しに持っていくと良いと思うんです。

まずは自分にとってのイチゴだけでも伝える。それさえ言ってしまえば、緊張していても後から言葉はついてきます。

イマジン: 面接の冒頭に「1分間で自己紹介してください」というシーンがよくありますが、そこで目印を話すべきでしょうか。

阿部:冒頭で大きな勝負に出る必要はないと思ってます。所属と名前、部活やサークル活動などやってきたことの簡単な紹介と、「今日はよろしくお願いします」のあいさつだけで十分じゃないかなと。

サッカーでも、試合開始直後は小さなパスから始まりますよね。

面接も同じで、最初からゴールを決めようとする必要はありません。話の流れの中で、シュートを決めるチャンスが巡ってきますから。

そのときに、先ほどのイチゴを思い出してください。

もしかしたら奇抜な自己紹介を求める面接官もいるのかもしれません。いたとしてもごくまれだと思うんですよね。多くの面接官は会話のキャッチボールを望んでいるのではないかなと。

なのでこちらも力みすぎて、「無理をしているな」とか「就活本に書いてあることをうのみにしているな」とか、そんなふうに思われたら本末転倒ですし、もったいないですよね。

イマジン:思いきり、最初からゴールを決めようとしていました……。「自己紹介は印象に残るようなコピーをつくった方がいい」と、教わってきたのです。

阿部:印象に残るとは何だろう?って考えたいですよね。

話がチグハグな人や、この人は本心で話していないと感じられる人は、面接官に「ここには、合わないかな」と思われてしまいます。

大事なのは、その人なりの「納得できる動機」が見えるかどうかです。多少、つじつまを合わせるのは良くて、自分が納得できるなら、奇をてらった言葉である必要はありません。

自分を“箇条書き”してみる

イマジン: 自己紹介や自己PRなど、自分をアピールする方法にも悩みます。ぜひ言葉のプロである阿部さんから、アドバイスをいただきたいです。

阿部:最初から、完璧を目指さないことだと思います。

まずは、箇条書き程度で十分。スマートフォンのメモで構わないので、とにかく自分の思う「自分らしさ」を書き出してみてほしいです。

例えば、イマジンさんが自分を箇条書きしてみると、どのような項目が出てきますか?

イマジン: 学生団体で、カンボジアの支援をしていました。でも、ありきたりな話で、あまり面接官の反応がよくないのです。

阿部:えっ!ありきたり……ですかね?

どのような支援をしていたのか、もう少し詳しく聞かせてもらえますか。

イマジン:大学生を1000人集めて、チャリティー運動会を開催しました。とにかくリレーが盛り上がるように工夫を重ね、参加費の全額を寄付しています。

阿部:1000人?リレー?どこがありきたりなんですか?

どうやって1000人も集めたのか、なぜ運動会だったのか、なぜリレーだったのか、そしてどんな工夫をしたのか。

もっともっと、話が聞きたくなります。

このように、自分の箇条書きをもとに、ぜひ他の人に話してみてほしいです。

社会人の方でもいいですし、先輩でも友だち同士でも、ご両親でも、どなたでも構いません。

カフェで1人集中して志望動機を考える時間も必要なのですが、芸人さんが人前でネタを披露するように、就活生も自分の話を披露した方が、より言葉の精度が磨かれていくと思うんです。

話のツボが分かってくる感覚ですね。自分が当たり前だと思っていたことが、相手にとってはとても気になることだったり、もっと聞いてみたいことだったりもするので、「これはありきたりだ」とふたをしてしまうのは非常にもったいないですよ。

イマジン:僕の場合なら、「カンボジアの支援」ではなく、「運動会でカンボジアを支援」ですね。

阿部:その通りです。「もっと聞かせて!」ってなりますよね。

人の一番の強みは、その人が自然にできてしまうことでもあります。そのため、自分ではなかなか気づきにくいのです。

強みを的確に言語化するには、まずは身近な誰かに話してみて、適切なフィードバックをもらうことが近道になります。

少しだけ、僕の話をさせてください。

就活のとき、どうしても広告業界に進みたかったこともあり、59人にOB・OG訪問しました。

どんな言葉なら、もっと人に伝わるのか——。自分の志望理由や自己PRをOB・OGに伝え、反応を確認しながら言葉を磨き上げた経験は、面接のトレーニングになりました。

結果的に、面接には一度も落ちなかったんです。筆記試験には落ちていましたが(笑)。

僕の経験上、「面接で緊張してうまく話せない」という人の多くは、場数が足りていないだけだと思うんです。

僕はもともと、人前で話すことが苦手でしたが、OB・OG訪問によって伝える力が鍛えられました。

今振り返ると、ちょっとやりすぎだなと思います(笑)。どうしても行きたかったんですよね。

イマジン:逆に、相手の話を聞くときに、気をつけるべきことはありますか。

阿部:「WHY?」と「WOW!」を、たくさん投げかけてください。

「なぜそれをやろうと思ったの?」という「WHY?」と、「それ面白いね!」という「WOW!」を、聞き手がしっかり伝えることが大切です。

そうすれば、話し手は自分のエピソードの勘所がだんだん見えてきます。友だち同士で練習すれば、伝える力がみるみる向上すると思いますよ。

自己分析より、自己選択

イマジン: 「最初から完璧を目指さなくていい」という言葉に、心が楽になりました。でも実は、伝える以前の、自己分析も苦手なのです。

阿部:「自己分析」ではなく、「自己選択」と捉えて考えてみてほしいんですよね。

「分析」という言葉は、どうしても明確な答えが出てくるようなイメージがあります。その言葉に引っ張られて、答えの出ない苦しさに立ち止まってしまう学生が少なくありません。僕自身もそうでしたから。

でも、「自己選択」なら、そうした苦しさを味わうことなく、自分らしさを見つけられると思います。

具体的には、自分が過去に選択したシーンを思い浮かべて、なぜその選択したのかを考えてみるんです。

フィットネスジムの受付のアルバイトもあったのに、なぜ飲食店のアルバイトを選んだのか。飲食店の中でも、どうしてファストフードだったのか。「どうしてそれを選んだのか」にこそ、個性が出ます。

家が近かったからでも、時給が高かったからでも、理由はなんでも構いません。その選んだ理由をたどれば、必然的に判断基準という「自分らしさ」が見えてきます。

イマジン: 阿部さんの言う通りで、「分析」という言葉にとらわれて、自分探しに夢中になっていたことに気がつきました。

ちなみに自己選択をする際は、どの選択から振り返ればいいのでしょうか。

阿部:「大きな選択」から考えてみてください。例えば、「なぜ今の大学を選び、どうして今の学部を選んだのか」などです。

イマジンさんの専攻を教えてもらえますか?

イマジン: 法学部の新聞学科です。

阿部:なぜ、その学科を選んだのですか?

イマジン: メディアに興味があったからです。昔からテレビや新聞、特にラジオが大好きでした。

阿部:なぜ、テレビでもなく新聞でもなく、ラジオが一番好きだったのでしょうか?

イマジン: 夜にお笑い芸人の深夜ラジオを聴くことが好きだったのです。

スマホもなかった小学生のとき、夜になると、話し相手がいないことが寂しくて。ラジオは、その寂しさを埋めてくれる存在でした。

阿部:ラジオの存在を知ったきっかけも教えてください。

イマジン: 車の中で、ずっとラジオを聴いていたのです。

大学に上京する以前は富山に住んでいて、移動手段の大半は車でした。母はいつもカーラジオをかけていたので、いつも2人でラジオの内容について話していた思い出があります。

阿部:明確に「ラジオが好きだ」と気づいたのは、いつ頃でしょうか?

イマジン: 小学校高学年くらいだったと思います。今までずっと当たり前だったラジオですが、「好きだな」「居心地がいいな」とぼんやり思い始めました。

阿部:そのときの感覚が、ずっとイマジンさんの価値観に影響しているのではないでしょうか。

JobPicks編集部のインターンもそうですし、就活で仕事を選ぶときも、メディアを通して「居心地のよさをつくる」ことを、大事にされているのだろうなと感じました。

イマジン: たしかに、阿部さんの言う通りです。周りに居心地よくいてほしいし、争いごとはなくなってほしいと常日頃から思っています。

阿部:自分の強みを一言で表すなら、どんな言葉になりますか?

イマジン: 「相手の気持ちに、想像力を働かせられる」ことです。

阿部:それもきっと、ラジオを聴いていたからではないでしょうか。

イマジン:えっ……?

阿部:「打球は、ラジオの方がよく飛ぶ」という広告コピーがあります。

テレビよりも少ない情報量の中で、今どんな情景なのか、この人は何を言おうとしているのか、音声からリスナーが想像力を広げていくからです。

ラジオが好きになった。だから、相手の状況や気持ちにも想像力を働かせられる。

「イマジン」というお名前もぴったりですね。

イマジン: 小さな頃にラジオを聴いていた経験が、今につながっているなんて、初めて気づきました。人と対話することの大切さを、強く実感します。

阿部:「お母さんと車でラジオを聴く時間が好きだった」と面接で言われたら、誰にも否定できないですよ。

そのエピソードには、ものすごい説得力があるし、その情景をイメージできます。

別に、大会で優勝した、何かのリーダーをやっていたなど、大それたことを言わないといけない、自分にはそれがないだなんて思わなくていいんです。

ふとした瞬間の出来事でも、そのときの気持ちをわかち合うように自分の言葉で話せるなら、それはあなただけの強みであり、志望動機になるのです。

面接には一発逆転がある

イマジン: 阿部さんとお話しできて、とても元気が出ました。

阿部さんは就活生のためのラジオやnoteなどでよく発信されていますが、どうして就活生のサポートをされているのでしょうか。

阿部:僕、学生から刺激を受けたことをきっかけに、今コピーライターの道を歩んでいるんですよね。

僕は8年間アメフトをやっていて、そこで感じた一体感を仕事でも味わいたい!と思い、電通に入社しました。

最初に配属されたのは、人事です。

学生向けのインターンシップのアテンドをしたとき、2〜3歳しか変わらない学生たちの熱量が、ものすごくうらやましく感じました。

学生たちが一生懸命つくったプレゼンテーションが、聞き手の心を奪って、拍手が巻き起こる。

アメフトにおいて、ワンプレイでワッと会場を驚かせる瞬間があるように、たった1つのアイデアや、たった一行の言葉が、会場を沸かせる瞬間を目の当たりにしました。

「これこそが、僕がつくりたかった一体感ではないか」と心に火がつき、翌年にクリエーティブ試験にチャレンジして、コピーライターになれたんです。

就活は、どんな人に出会うか、やり方を知っているか知らないか、ただそれだけで結果が全く違うものになります。

僕が学生の方の影響で変われたように、就活生の皆さんには、自分の持つポジティブな影響力を信じてほしいし、イキイキと就活してもらいたいと思っています。僕がそうだったように、その姿に影響を受ける人って、実はものすごく多いんじゃないかなと。

イマジン: 最後に、就活の真っただ中にいる学生、もしくはこれから就活を迎える人に向け、メッセージをいただけますか。

阿部:「これを言ってダメだったらもう仕方がないな」と思える言葉を、胸に抱えて面接に挑んでください。

今イマジンさんが僕に聞いてくれたように、面接でも最後に「何か一言ありますか?」と聞いてもらえることがよくあります。

どうしても入社したい企業の面接を受けるなら、「これを言ってお祈りされるなら、企業に見る目がないんだ」と思える言葉を、最後に伝えてください。

面接の最後の時間は、試合終了直前のロスタイムみたいなものです。面接官の意識も集中しているので、一番情に訴えられる時間でもあります。

そういう時間にこそ、一発逆転は起きるものです。最後まで諦めず、その時間を大事にしてください。

繰り返しになりますが、決してとっぴな言葉でなくてもよいのです。

OB・OG訪問で言われてうれしかったことでも、どうしても入社したいという気持ちでも、どんなことでも構いません。

僕は、「自分の心から丁寧に言葉をすくって、伝えて、誰かの心を動かしていく人は、全員コピーライターだ」と思っています。

つまり、この記事を読んでくださっているあなたも、コピーライターだと思うんです。

自分の選んできた道に胸を張るあなたの言葉を伝えられれば、おのずと道は開けると思います。

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取材:平瀬今仁・佐藤留美、取材・構成:岡田菜子、編集:オバラミツフミ、デザイン:國弘朋佳、撮影:遠藤素子