【傾向分析】その先に何がある? MBA卒業後のキャリアまとめ

2021年5月26日(水)

MBA修了後の3大パターン

ビジネスエリートの代名詞とも言えるMBA(Master of Business Administration)は、過去、ビジネスパーソンの憧れだった。

しかし、近年は「MBAを取得する必要はない」という声もよく聞くようになった。

ビジネス環境が短期間で非連続な変化を繰り返す中で、経営学の基礎や過去のケースを学ぶだけでは適応できないというのが主な理由だ。

また、海外のビジネススクールや全日制MBA(平日の昼夜間に学ぶMBA)に通う場合、高額な授業料を払って、一定の期間を休職することになる。この投資が、その後のキャリアにどれだけ意味があるのか? と言う人もいる。

そんな中、下の記事では、社会人の「学び直し」の観点からMBAの価値を再考している。

【完全図解・保存版】MBA「7つの大変化」

MBAのプログラムは、時代の変化に合わせて進化を続けている。

ファイナンスや経営戦略のみならず、最近はデザイン思考、データアナリティクス、アントレプレナーシップなどを実践的に学ぶコースも増えているという。

また、国内MBAの増加やオンライン授業の普及、教育訓練給付金の適用範囲の拡大などで、働きながら学ぶこともしやすくなっている。

出世のためというより、長い職業人生を生き抜くための学習機会として、MBAの取得を検討する人は今後も増えそうだ。

では、MBAを取得したJobPicksのロールモデルたちは、どんなキャリアを歩んでいるのだろうか。

上の記事で紹介されている「MBA取得後のキャリアパターン」を参考に、ロールモデルの経歴を見ていこう(注:ロールモデルの所属・肩書は、全て本人が投稿した時点の情報)。

出典:【完全図解・保存版】MBA「7つの大変化」(NewsPicks / 2018年12月4日)

海外MBA修了生の「その後」

MBAの取得を目指す時に、海外と国内どちらのビジネススクールに通うべきか迷うのはよくあるケースだ。

下の表は、英『フィナンシャルタイムズ』が発表しているグローバルMBAランキング(2020年版)である。

出典:Financial Times「Global MBA Ranking 2020」

修了生の平均年収や、MBA取得後の年収増加率などを指標に作られた同ランキングでは、米ハーバード・ビジネス・スクールなど海外のビジネススクールが上位を占めている。

では、海外MBAを取得した人は、どのようなキャリアを歩んでいるのだろうか。

■ ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの修了生

最初に紹介するウォートン・スクール(Wharton School of the University of Pennsylvania)は、1881年に実業家ジョセフ・ウォートンの尽力によって設立された全米初のビジネススクールだ。

上のグローバルMBAランキングでは2位に入っており、ファイナンスをはじめ、マーケティング、アントレプレナーシップ分野に強みを持っている。

同校の修了生には、ドワンゴ代表取締役社長の夏野剛さんや、ゴールドマン・サックス証券の代表取締役社長・持田昌典さん、マネーフォワードCEOの辻庸介さんなど、グローバル企業の経営者から起業家までさまざまな著名人がいる。

「ネットがどうビジネスに影響を与えるか」人生を変えた米国留学

JobPicksのロールモデルで三井物産の山口快樹さんは、ウォートン・スクールでMBAを取得した後、【2】ファンクション(職種・専門分野)と【3】インダストリー(働く業界)の2つを変えた。

山口 快樹山口 快樹

キャリアパスを見ると、大和証券SMBCでインベストメントバンカーに従事したのち、MBAを取得して商社パーソンに転じている。

投資アドバイザーから、自身で事業を動かす立場に転じた形だ。

> 山口快樹さんの経験談を読む

■ INSEAD(インシアード)の修了生

グローバルMBAランキングで4位のINSEADは、1959年にMBAプログラムが設置され、現在フランス、シンガポール、アブダビにキャンパスを持つ名門ビジネススクールだ。

特徴として、約80カ国から学生が集まるため(2017年の発表)、国際色に富んだ環境で受講できる点が挙げられる。

修了生には、資産運用のロボアドバイザー分野で起業し、サービス開始から4年でマザーズに上場したウェルスナビの柴山和久さんや、20万部超えのロングセラー本『最強の働き方』(東洋経済新報社)の著者ムーギー・キムさんなどがいる。

(下のインタビュー記事は、MBAが万能ではないことを知る意味でも参考になる)

【柴山和久】死に物狂いでMBAを取得したのに、就職できない【ムーギー・キム】海外MBAで失敗する「日本人の3タイプ」

JobPicksのロールモデルの中では、NewsPicksの副社長・杉野幹人がINSEADでMBAを取得している。

杉野 幹人杉野 幹人

杉野は、NTTドコモで事業企画・事業開発を経験したのち、INSEADを経て、経営コンサルティングファームのA.T. カーニー(※現在のグローバル・ブランド名はカーニー)に転職。山口さんと同じく、【2】ファンクションと【3】インダストリーの2つを変えている。

MBA取得前はネットワークエンジニアや事業企画・事業開発だったのが、その後のキャリアでは経営全般にかかわる職業を歴任している。MBAで知識を得て、幅を広げたパターンだ。

> 杉野幹人の経験談を読む

■ オックスフォード大学サイードビジネススクールの修了生

上のグローバルMBAランキングでは表外の21位に入っているオックスフォード大学サイードビジネススクール(Saïd Business School, University of Oxford / 通称SBS)だが、英国トップクラスのMBAで、国際学生比率の高いビジネススクールとしても知られている。

世界的な課題を解決するビジネスリーダーを輩出するのを目的に、経営学をはじめアントレプレナーシップを鍛える高い質のカリキュラムを有している。

同校の修了生には、スキルマーケット「ココナラ」などを運営するココナラの創業者、南章行さんがいる。

南 章行南 章行

キャリアパスを見ると、日本の投資会社アドバンテッジパートナーズでプライベートエクイティに従事したのち、サイードビジネススクールでMBAを取得し、その後起業してCEOになっている。

これまでに紹介したロールモデルと同様に、【2】ファンクションと【3】インダストリーを変えているが、MBA取得後に起業している点が異なる。

以前の職業は金融専門職なので、ビジネススクールで学んだことで、自らの手で社会課題の解消に取り組む知見を得たようだ。

> 南章行さんの経験談を読む

■ ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスの修了生

上のグローバルMBAランキングでは30位の米ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネス(University of Michigan's Ross School of Business)は、全日制MBAとしてバランスの取れたカリキュラムを提供しており、実践を通じた学生同士のコラボレーティブな学習環境があることでも有名だ。

ある調査では、修了生の女性比率が45%で、他校に比べて高いというデータも出ている。

このロス・スクール・オブ・ビジネスでMBAを取得したロールモデルは、組織・人事変革コンサルティングを手掛けるマーサージャパンの田中康博さんだ。

田中 康博田中 康博

MBAを取得後、人事の専門分野はそのままに、【3】インダストリー(働く業界)を変えている。

東日本旅客鉄道(JR東日本)の人事担当者から、多様な企業に人事関連のソリューションを提供する人事コンサルタントへ——。特定の専門性をベースに、MBA留学を経て経営に近い領域へと守備範囲を広げた好例だ。

> 田中康博さんの経験談を読む

国内MBA修了生の「その後」

次に、国内でMBAを取得し、キャリアチェンジを成功したロールモデルを紹介していこう。

国内でMBAを取得するメリットとして、海外留学に比べて生活・仕事の基盤を大きく変えずに済む点や、日本語で素早く効率的に学習できる点がある。

■ 早稲田大学 大学院経営管理研究科(早稲田ビジネススクール)の修了生

早稲田大学大学院のMBAは1998年にプログラムが開講され、2016年に大学院商学研究科ビジネス専攻と大学院ファイナンス研究科が統合されて現在の形となった。

同校のプログラムでは、ビジネスとファイナンスの融合により、幅広い業種で活躍するビジネスパーソンを育成する。

修了生には、ビアテイスト清涼飲料水「ホッピー」を製造するホッピービバレッジ代表取締役社長の石渡美奈さんなどがいる。

JobPicksのロールモデルでは、AI企業エクサウィザーズの経営企画・守屋智紀さんが、同校でMBAを取得後、経営のプロフェッショナルとしてキャリアを築いている。

守屋 智紀守屋 智紀

2016年から約4年間、ベイン・アンド・カンパニーで経営コンサルタントを経験しているが、それ以外はNTTドコモやエクサウィザーズでIR、経営企画の仕事を歴任。

守屋さんのキャリアは、適宜【3】インダストリー(働く業界)を変えつつも、MBAを取得することで経営の知識を「深めた」ケースの一つと言える。

> 守屋智紀さんの経験談を読む

■ グロービス経営大学院の修了生

2006年、自身もハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得している堀義人さんが立ち上げたビジネススクールだ。国内では東京ほか複数の拠点でキャンパスを展開しており、近年はオンラインコースも拡充している。

プログラムの特徴としては、全世界MBAの共通領域に加えて、創造、変革など独自領域のカリキュラムも提供している。

JobPicksのロールモデルでは、2020年に組織開発やカルチャー醸成のコンサルティングおよび関連サービスの開発に取り組むAlmoha LLCを共同創業した唐澤俊輔さんが修了生だ。

唐澤 俊輔唐澤 俊輔

経歴を見ると、新卒で入った日本マクドナルドに在籍しながらグロービス経営大学院に通い、MBA取得後は社内でキャリアチェンジをしている。異動で【2】ファンクション(職種・専門分野)を変えたパターンだ。

下のインタビュー記事で、唐澤さんは「28歳で当時の史上最年少マーケティング部長に抜擢されたが、リーダーとしての力不足を痛感してグロービス経営大学院に通い始めた」と話している。

【秘伝】マックの元・最年少マーケティング部長に聞く「仕事の幅の広げ方」

MBA取得後は、マーケティングや事業開発職から経営企画に転じており、社長室長として同社の組織風土改革にも取り組んだそうだ。

この時期に専門性を広げたことで、その後メルカリなどのスタートアップで人事のトップも務めている。

> 唐澤俊輔さんの経験談を読む

「経営に携わる仕事」の登竜門に

今回紹介したロールモデルたちのキャリアをまとめると、MBAで経営学を学んだあとは、全員が異業種転職や異なる職業へのジョブチェンジに成功していた。

MBA取得を通じて【1】ロケーション(働く国・場所)を変えた人はいなかったが、外資系企業への転職により、海外拠点の社員と働く機会を得た人もいるだろう。

中でも特に、CxO(経営責任を持つポジションの総称)や経営企画、コンサルタントのような経営関連職へのジョブチェンジが多く、起業家の道を歩み始めるケースも見られた。

このように、なりたいキャリアから逆算してMBAを検討するのも一つの手だろう。

大人の「学び直し」時代、進化するMBA

文:平野佑樹、編集・デザイン:伊藤健吾、バナーフォーマット作成:國弘朋佳、バナー写真:iStock / ArtemSam