マーケターとは、売上をつくる人。未経験からプロになるには?
2021年5月25日(火)
マーケターとは文字通り、マーケティングを実行する人を指します。
では、マーケティングの定義とはなにか。
マーケティングの権威として広く知られているフィリップ・コトラーの言葉を借りれば、「ニーズに応えて利益を上げること」です。
つまり、マーケターとは、「売上をつくり、利益を上げる活動をする人」だといえます。
市場の調査や顧客の分析、商品・製品やサービスの企画、広告宣伝……といった、マーケティングという言葉から連想される業務は、すべて「売上をつくる」という最大の目的を達成するための方法であり、一連の流れになっています。
マーケティングはコンセプトをつくることに始まり、顧客の目に触れるSNSの広告運用まで、非常に守備範囲の広い仕事です。
言葉の定義に従えば、すべてのセグメントを網羅的に理解している人=マーケターなのですが、そうした人は、市場にほとんどいません。
マーケターを自称する大半のビジネスパーソンは、デジタル領域に特化した「デジタルマーケター」や、SNS運用を得意とする「SNSマーケター」といった、細分化されたセグメントを担う人たちです。
当然それらもマーケティング活動の一部ですが、特定の職種に特化した人材が「マーケター」を自称することには、言葉の定義からすると、少なからず違和感を覚えます。
「売上をつくる」という大上段に掲げた目的に立ち返れば、コンセプトや仕組み——いわば戦略をつくることこそが、最も難度が高く、目的の達成に寄与するアプローチです。
そうであれば、市場における自社の立ち位置やリソースを把握したうえで、コンセプトメイキングや戦略構築ができて初めて、マーケターと呼ぶに値するのではないかと思います。
さまざまな方法がありますが、僕であれば「まずは、領域を絞りましょう」と提案します。
運用型広告でも、SNSでも、SEOでも、マーケティングにかかわるものであればなんでも構いません。まずは特定の領域でトップ5%になることが大切です。
というのも、繰り返しになりますが、マーケティングは非常に守備範囲の広い仕事なので、すべてを同時に深めるのは困難だからです。
まずは1つの領域でスキルを高め、そこで得た知識や考え方を横展開していくのがスムーズだと思います。
SNSでも、SEOでも、突き詰めればマーケティングの片鱗をつかむことができます。
それができたら、今度は専門領域を広げていけばいいのです。
逆に、あらゆる領域に浅い知識があるだけの状態では、求められる価値を発揮できない、“自称マーケター”になってしまいます。
そうした考えから、私が取締役を務めるデジタリフトでも、マーケティング業務を経験したことのないメンバーには、とにかく1つの業務に習熟してもらうことに重きを置いています。
ケース・バイ・ケースですが、幅を求めるのであれば、事業会社に就職するのが早いと思います。
とはいえ規模が大きい会社だと、結局は細分化された業務を担当することになり、かつ裁量が与えられないこともあるので、入社前に詳しく調べておくことをお勧めします。
一方、代理店であれば、担当する社数が多くなるので、1つの領域で専門性を身に付けるまでのスピードが速くなる傾向があります。
こちらも会社次第なところがあるので、どれだけ質の高い業務を任せてくれるのかは、具体的に調べておくべきです。
また、マーケターとしての成功を目指すうえでは、会社選びよりも上司選びが重要だとも思います。
繰り返しになりますが、業界にはマーケティングの本質を理解していない“自称マーケター”が少なからずいます。
僕の感覚でいえば、マーケターを名乗るビジネスパーソンのうち、マーケティングの本質を理解しているのは、5%未満です。
マーケティングについて理解のない上司からは、当然マーケティングを学ぶことはできません。
マーケティングのスキルを極めたいのであれば、会社名にとらわれず、誰を師匠とするかまでを考えながら、就職活動をしてほしいと思います。
「なるべく早く、なるべく正しい意思決定をする訓練」をしていただきたいです。
従来のマーケティングの手法でいえば、ターゲットとなる消費者を想定し、デモグラフィック情報や興味関心情報を分析して、彼らにどのようなアイデアでアプローチするのかを検討するのが一般的でした。
しかし、そうした仮説は往々にして外れます。人間が考えることは、正確性に欠けるからです。
デジタルマーケティングという言葉をよく耳にするように、マーケティングの主戦領域は、どんどんデジタルの世界に移っています。
つまり、消費者行動のすべてがデータとして可視化されるということです。
そうであれば、データをベースに、早く正しい意思決定をすることこそが、マーケターに必要な能力になります。
もちろん、現代社会のトレンドに敏感であることは重要です。
トレンドをキャッチし続けることで、ヒット商品を企画できたり、それによって売上を上げることもできるでしょう。
しかし、弊害もあります。
例えば、新型コロナウイルスの影響により、日本国内でもマスク関連の新規事業参入が増えました。
一時的な需要過多が発生しており、最初は好調だったかもしれません。
しかし現在は、再び中国製の商品比率が増えており、価格競争が起きています。
そうした状況の変化から、多数の在庫を抱えている企業が少なくないそうです。
トレンドというのは、売上寄与も大きく、大きな力を持ちますが、単にトレンドに乗るだけでは、持続的な成長は期待できません。
タピオカが分かりやすい例で、一時的なトレンドに入り込みすぎてしまうのは、少々危険です。
大切なのは、事業やマーケットの本質と向き合うことであり、複眼的な視点を持っていなければ、「持続的に売上をつくる」というマーケターの責務は果たせません。
マーケターのニーズは高いですし、今後もそうであり続けると思います。
しかし、市場全体において、「長期的な時間軸で考えると、給与はそれほど上がらない」というのが僕の見立てです。
なぜなら、細分化されたセグメントに対する求人が増加していくので、それほど難度の高い職業としての扱い方をされなくなっていくと考えているからです。
翻って、あらゆるセグメントを総合的に考えられる、本当の意味でのマーケターは、ますます希少度が上がっていきます。
現在も給与の高い求人は多数ありますが、総合的な思考ができる人や、スキルのカバー範囲が広い人を対象とした内容になっています。
就業人口が非常に多い職業になっていくので、食いっぱぐれることはないにせよ、頭一つ抜けるのが難しい、諸刃の剣ともいえる仕事です。
ですから、これからマーケターを目指す皆さんには、一人歩きする「マーケター」という言葉に惑わされないでほしいと思っています。
興味の移り変わりが激しく、多趣味な人には、ぜひお勧めしたいです。
僕は、マーケターのキャリアを歩むということは、エベレストを登っている感覚に近いと感じています。
いわば、“終わりなき旅”です。
学ばなければいけないことが多すぎて、どれだけ勉強し、実践経験を積んでも、なかなか一人前になることができません。
しかし、キャリアを深める過程で、あらゆる知識やスキルが身についていきます。
そして、そこで得た知識やスキルは、業界を問わず使える武器になります。
険しい道ではありますが、それ自体を楽しむことができるのであれば、きっとあなたにはマーケターの資質があります。
まずは、マーケターという職業の解像度を高めてください。
あなたが目指しているマーケターは、広告運用のスペシャリストなのか、あるいはSEOのスペシャリストなのか、そこを明確にすることから始めましょう。
そのうえで、どのようなキャリアパスをたどれば最短で目標を叶えられるのか、よくよく検討してください。
事業会社の大半はマーケティング部署を持っていますし、マーケティングを専業とする代理店は世の中にたくさんあります。
ファーストキャリアの選択に失敗すると、浅はかな知識でマーケターを自称してしまったり、マーケティングを作業だと勘違いしてしまったり、結果的に本当の面白さに気づけないままキャリアを終えてしまう可能性があります。
しかし、それは非常にもったいないことです。マーケターの仕事は奥深く、やりがいにあふれています。
僕はこの世界に飛び込んで6年になりますが、今でも「マーケター」を自称するのが恥ずかしいくらい、学ぶべきことが多い世界です。
翻って、一生ものの仕事として選ぶには、申し分のない職業です。
少しでもマーケティングに興味があるなら、トレンドに踊らされず、その本質に近づけるよう、アクションを取ってみてください。
その一歩こそが、マーケターとしてのスキルを高める第一歩になります。
【仕事の未来】資金調達するマーケターの時代がくる取材・構成:オバラミツフミ、編集:小林将也、撮影:遠藤素子