【要点まとめ】データ分析の「結果」をビジネスに生かすコツ

2021年5月14日(金)

データ分析は「活用」が難しい

データ分析を通じて事業課題や顧客(ユーザー)の欲求を発見する仕事が、重要度を増している。

採用市場ではデータサイエンティストの需要が年々高まり、SEOやSNSマーケティングの施策を考えるWebマーケター・デジタルマーケターにとって分析スキルは新人〜ベテランまで必須になった。

他にも、営業推進事業開発プロダクトマネージャーコンサルタントなどの仕事では、以前からExcel(エクセル)やGoogleスプレッドシートを使ったデータ分析がルーティン業務の一つだった。近年、こうした業務は幅広い職種で求められる。

その背景には、下の記事で説明されるように「ビッグデータそのものも、ビッグデータを分析するツールも、われわれが考えているよりはるかにオープンになっている」という現状がある。

【新】「一億総データアナリスト」の時代がやってくる

ただし、専門家以外の人もデータ分析ができるようになったからこそ、今求められるのは「分析結果」をビジネスに活用するスキルだ。

単にデータ分析をするだけでは、ビジネスに使える示唆は見いだせない。苦労してデータを集めたにもかかわらず、分析結果を基に事業やサービスを改善するプロセスでつまずくケースも少なくない。

エクセルを使った分析ノウハウがたくさん出回り、AIを搭載する高度な分析ツールも気軽に使える状況下で、データ分析のプロたちは、分析結果を活用するためどんな工夫しているのか。

6人のロールモデルの経験談から、データ分析を成果につなげるコツを読み解く(注:ロールモデルの肩書などは、全て本人が投稿した時点の情報)。

データサイエンティストの下準備に学ぶ

分析のスペシャリストであるデータサイエンティストの経験談を読むと、分析作業に入る前の準備が重要だという内容が多い。

ボストン コンサルティング グループなどを経て、ビッグデータ分析のAIツールを提供するDataRobot Japanでデータサイエンティストになった柴田暁さん(現・同社CEO)は、そもそも何を分析するべきか? の仮説が間違っていると、その後の作業が徒労に終わると言う。

前提が間違っていたとき

データ分析は複雑なステップを順番に踏んで行く必要があります。例えば複数のデータを組み合わせる、その後にデータのクリーニングを行う、その後にビジュアライズして仮説を立てる、それを元にモデルを作る、それを元に予測を行う、などです。最終的にはより正しい結果が求められるのはもちろんですが、各ステップで正しい

『ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)』を運営するユー・エス・ジェイや、クラウドファンディングのREADYFORなどで分析業務をしてきた浅井貴宏さんも、仕事時間の「約8割がデータ準備にかかる」と投稿している。

膨大なデータを1つ1つ確認してデータ加工する必要があるとき。地道にやっていかないと終わらないので非常に辛いです。 データ分析作業に投入するコストのうち、約8割がデータ準備にかかると言われているほど、すぐに分析に取り組めるとは限りません。 数万行のデータを目で確認して加工するなど、延々と続く地味な

浅井さんは、苦労して分析したデータを「どう解釈して」「どうビジネスに生かすのか」を見据えて仕事をする大切さも述べている。

「当事者意識をもってデータに向き合う」 データ分析やシミュレーションモデルの作成など、データは客観的に評価しなければなりません。 しかし、データ分析の結果だけでは人を動かすことはできません。何を必要としているのか、そこから何をしたいのかをジブンゴト化し、データをどう活用するかまでをしっかり考えな

データ分析そのものは専門家以外にもできるようになったからこそ、何のために結果を見たいのかを考えて加工・分析を進める準備が今まで以上に大切になるようだ。

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マーケターは「全体と1人」を見る

データ分析の結果を仕事に生かす方法を知るには、Webマーケター・デジタルマーケターの経験談も役に立つ。

教育サービスの全研本社やDeNA、DMM.comなどでWebマーケターを歴任してきた川畑光優さんは、膨大な量のデータを分析する一方で「1人のユーザー」がサービスを利用した理由を考えるように勧めている。

1セッションの向こうには、1人のユーザーが居る

元ネタはクックパッドのエンジニアさんの言葉らしいのですが(笑) 数万セッション規模の施策を考えていると 1セッションの重要性に対する感覚が麻痺してくるため、 自戒の言葉として大事にしています。 施策のインパクト(量)も重要ですが、 サービスや施策が悪いせいで、離れてしまうユーザーさんを “0 “に

GMO NIKKOやNewsPicks StudiosでWebマーケターをしてきた米山朱茜さんも、先輩かもらったアドバイスとして次のようなポイントを挙げている。

ひとりひとりのユーザーデータを見た方が掴める

データを見る時は、全体感を掴んだら満足してしまいがちですが、 個別具体なデータをいくつか見ることが重要で、そうすることでユーザー像が見えると教えていただきました。 全体を丸めた数値を見ているとなんとなくわかった気になりますが、 個別具体なデータを見ることで、ユーザーの行動がよりくっきり見えて、なぜ

2人の経験談を読むと、データ分析で見えた全体の傾向だけでなく、ペルソナになりそうな「顧客(ユーザー)1人の行動」も調べることで、分析結果を具体的な施策につなげるきっかけが得られるようだ。

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サービス改善で大切な「ひと手間」

さらに具体的なデータ活用法として、分析で得た知見をプロダクトの企画〜改善に落とし込むプロダクトマネージャーの経験談を紹介しよう。

スキルマーケット『ココナラ』のプロダクトマネージャーPenpen Kanakoさんは、駆け出しだったころ、「自分たちの起こす『些細に見えること』がどのくらいお客様に不便、不安、不満を与えてしまうのか? を敏感に感じ取れるようになって欲しい」とアドバイスされたそうだ。

ユーザーの痛みとシンクロしろ

プロダクトマネジメント業駆け出しの頃に先輩に言われ、今でも大事にしている言葉です 「デジタルで完結するサービスを運用して、データを日々見ていると、だんだんお客様の心の機微に疎くなる。データの向こうに生身の人間がいることを忘れてはいけない。そして、自分たちの起こす「些細に見えること」がどのくらいお客様に不便、不安、不満を与えてしまうのか?を敏感に感じ取れるようになって欲しい。  ・サービスの寸断  ・ちょっとした説明の入れ忘れ  ・マスターシートの設定ミス どれも運用側には一見、些細な時間だったり、修正の工数がさほどかからない(場合によっては管理画面でちょっといじるだけの?)事象かもしれない。ただ、その裏でその事象によって、ユーザーの大事な商談が潰れたり、(ゲームなら)白熱したバトルに水を刺されてデモチすることだってある。ユーザー体験への影響は決して障害の大きさに比例するわけではない。我々のちょっとした判断がユーザーを「ちょっと不快」なんかではなく「絶望させる」ことがある。 また、ユーザーに「良かれ」と思ってとった対応が、その対応の裏で対応を受けられなかったユーザーを白けさせていることもある。 プロダクトマネジメント歴の浅い人はユーザーの「喜びそうなこと」には意識を向けられるが「痛み」と細部までシンクロできる人は少ない。運営側でありながら、圧倒的なユーザーとしての当事者意識を持って、それでも運営としての判断ができる。そんな人がコンテンツをグロースさせることができる。」 という意味が込められている1行です。

Kanakoさんの投稿には、「ユーザーの『喜びそうなこと』には意識を向けられるが『痛み』と細部までシンクロできる人は少ない」というコメントがある。

この痛みが何なのか? をデータ分析で探るには、「サービスの寸断」や「説明の入れ忘れ」など、既存機能の“粗(あら)”と付き合わせて考える習慣が大切になるだろう。

そうすることで、具体的な改善策が見えてくる。

また、AIやIoT(デジタルサービスと物理的な製品を融合させたプロダクト)を用いた保育関連サポートを行うユニファの山口隆広さんは、過去の成功体験として「定性データも地道に拾い上げる」ことを挙げている。

成功事象と課題が繋がったとき

想定していなかった特定の機能がやたらと使われているらしい…アプリのレビューを見てもその話題ばかり。でも、なぜその結果に繋がっているのか全く何も想定がつかないこと。プロダクトに関わる方であればよくあると思います。 失敗の原因が見つからないことは怖いですが、成功の理由が見つからないことはもっと怖い。そ

山口さんの経験談を読むと、定量データを分析して気付いた点や疑問があったら、個々のユーザーに直接聞きながら理由を明らかにするのが大切だと分かる。

これは、Webマーケターの「全体と1人を見る」仕事術とも共通する。

データを分析して満足するのではなく、それがどんな意味を持つのか足を使って確かめる作業も大事──。ここまでやることで、事業やサービスを進化させる糸口が具体的に見えてくる。

データ分析にかかる苦労に報いるためにも、心に留めておきたいエピソードだ。

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