【三井物産・29歳】入社6年目で見えた、商社パーソンの仕事の本質

2021年5月11日(火)

インフラで社会を豊かにしたい

——岩下さんが商社パーソンという職に就いたのは、どのような理由からなのでしょうか?

「インフラという切り口で国や地域の発展に貢献したい」という夢を持ったことがきっかけです。

就職先を本格的に考える前から「世界中の人たちの生活を豊かにする仕事がしたい」という漠然とした思いを抱いていました。

とりわけインフラに携わりたいと考えるに至った背景には、ゼネコンで働いていた父、そして、高校時代のある経験が大きく影響しています。

当時私は台湾に住んでいたのですが、ちょうどその頃、父の会社も建設に携わっていた台湾新幹線が開通し、生活がぐっと便利になったんです。インフラが生活を豊かにする、というのを身をもって感じた出来事でした。

また、同じく高校時代、孤児院の子どもたちを遠足に連れて行くボランティアを毎月企画していたのですが、資金繰りが厳しくなったり引率者がいなくなれば事業を継続させることができないという厳しい現実に直面しました。

ボランティア自体はとても意義があるのは確か。しかし「この活動も続けることができなければ意味がなくなってしまうのでは」と、どこか学生としての力不足を感じたんです。

そこで、将来は「営利企業」で「インフラビジネス」という観点から「持続的、永続的に」社会の発展に貢献したいと考えるようになり、そのすべての要素が当てはまったのが商社でした。

——インフラで社会の発展に携わるのであれば、ゼネコンに就職するという選択肢もあったと思います。なぜ、岩下さんは商社パーソンになることを選んだのでしょう?

確かに、就活中一度はゼネコンも検討しました。ただ「インフラに携わりたい」と考えてはいたものの、インフラのなかでも特定の商材や技術に対する特別な強みや関心があったわけではありませんでした。

就活を進めて行くうちに「特定の専門性で勝負するよりも、時代や相手のニーズに応じて、必要とされるものを見極め、組み合わせ、提供することが自分のやりたいことに近いのではないのか」と思うようになり、商社パーソンであればそれをプロジェクトの推進という形で実現できることがわかったので、商社に入ることを決めました。

泥臭い努力こそ、事業の本質

——岩下さんの現在の業務内容を教えてください。

三井物産が株主である「TIACT(東京国際エアカーゴターミナル)」という企業の、主管部担当者として事業管理と運営支援を行っています。

TIACTは羽田空港における国際貨物ターミナルの運営・管理を担う企業です。主な事業として貨物の輸出入の事務や荷役業務、取扱施設や事務所の賃貸、維持管理サービスの提供を行っており、世界と日本を繋ぐスムーズな物流を24時間365日支え続けています。

そのなかで私は、弊社の投資先としてTIACTが想定通りの収益を上げられているかどうかをモニタリングするのはもちろん、TIACTが企業としてさらに成長していくための経営課題の解決をサポートしています。

——これまで岩下さんは、どのような経営課題の解決にかかわってきたのでしょうか?

例えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)施策を用いた業務効率化です。その一環として、去年は空港内の荷物搬送に使われるドーリー(荷台本体下に車輪を取り付けた搬送機器)の位置測位(GPS)ソリューション導入に携わっています。

オペレーション上の課題として、空港の敷地内の様々な場所で使われている膨大な数のドーリーが十分に管理できていないことが挙げられており、TIACTと共に三井物産社内にあるDXチームを巻き込み、最適な施策を探っていった結果、同ソリューション導入にたどり着きました。

この施策導入により、必要時に広大な場内を探し回る業務負荷を軽減し、稼働率の把握にも繋がりました。

GPSの細かな仕様の検討や効果検証の対応をしていただいたのはTIACTの皆さんでしたが、私は様々なステークホルダーの間に立ち、調整や協議をすることでスムーズな課題解決への貢献に努めました。

——円滑なプロジェクト推進に日々試行錯誤しているのですね。現在このようにして学生時代に志望していた商社パーソンになった岩下さんですが、実務を経験して、ギャップを感じることはありますか?

入社する前は「インフラ=事業開発」というイメージを強くもっていましたが、入社してから開発後のインフラ運営の重要性に改めて気づかされました。

例えば、私が携わってきたここ数年のTIACTでは、2020年の羽田空港における発着枠の増枠に向けた対応に取り組んできました。

しかし、コロナ禍に見舞われた今は、安全で確実な運営を続けられるように事業継続計画の策定に力を入れています。

このように、状況によって課題は大きく変化していくので、インフラを維持できるよう、場面に応じた適切な判断ができることが求められているのを学びました。

また、インフラのような大規模な事業では、大きな決断が日々下されるイメージを抱いていました。

しかし現実には、事業開発・事業運営に関わらず、非常に地道で泥臭い仕事に支えられているということを日々の業務で実感しています。

——実際に業務で「地道で泥臭い」と感じたエピソードを聞かせてください

入社してすぐに参加した、海外での入札案件の仕事がとても印象に残っていますね。

この入札業務では、入札要項に基づき、申請書や弊社の各パートナーの財務状況、運営実績等、相手国の政府から要求された書類を15cmもの分厚いバインダー5冊分、4セット提出する必要がありました。

ただ、この書類が1枚抜けている、順番が違うといった不備が少しでもあると失格になってしまうんです。

当時の私は入札要項の規定通り書類をまとめる作業を任されたので、原本を現地にいるパートナー企業に送り、手元に控えておいた写しと照らし合わせながら電話越しに1ページずつ書類を突き合わせるという作業をおよそ一日がかりで行いました。

「数千億円規模のダイナミックなインフラ事業も、このような地道な作業の積み重ねでできている」という事実を身をもって知ることができた仕事でしたね。

「自分FINAL」で行動せよ

——岩下さんは、商社パーソンの仕事のやりがいをどのようなときに感じますか?

インフラ案件を推進するリーダーである「プロジェクトマネージャー」に自分が一歩近づけたと思えたときですね。

TIACTの事業管理を例に挙げると、貨物の動きやシステムとの連動の仕方など、TIACT内で日々起こるオペレーションについて一つ一つ理解を重ねていくことで、いわばTIACTの代表のような形で弊社のDXチームやメーカーの方とも自律的に協議できるようになりました。

また、社外との契約締結の場面で、本社と子会社の間で意見の食い違いが生じた場合にも、互いの考えをしっかりと理解して議論を詰めていくように努めていると、建設的な議論を行える関係性を構築でき、当方の意見にも真摯に向き合ってもらえるようになりました。

「全体を把握し事業を進めながら、チームをまとめ、目標に向かわせられる人でありたい」という思いで日々取り組んでいるので、チームと事業、そして自分自身が一歩前進していると実感できると、「仕事って楽しい!」と嬉しくなりますね。

——逆に、どのようなときに苦労を感じますか?

手元の仕事の目的や目標に自分自身が納得できていないまま進めてしまった時期は、苦しい日々が続きました。

TIACTの前に担当していた事業管理での出来事だったのですが、業界知識も経営の経験も乏しかったにもかかわらず、周囲の経験豊富で優秀なメンバーに圧倒されたり相手方の重役とのやりとりで萎縮しているうちに、疑問点をそのままにしてしまったんです。

その結果、「コストカット」「収益改善」という言葉が出てきても、具体的なオペレーションのイメージが掴めていないので何をどうすることを指しているのかがよくわからず、業務における自分の判断軸が持てないまま長らく五里霧中に陥ってしまいました。

もっと初心に返って、一つ一つの疑問点をクリアにして仕事を進めるべきだった、と反省しています。

——五里霧中状態で仕事を進めてしまった経験から、岩下さんが得た教訓はありますか?

どれだけ手探りであっても、自分の意見を持って発信し、実行していくことの重要性です。これを実行しようとするたびに思い出すのが、先輩に教えられた「自分FINAL」という言葉です。

「自分FINAL」とは、自分の判断がチームのファイナルアンサーになるつもりで常に行動するという考え方。

この意識を持って行動することで、自分の仕事に対する責任感も増しますし、自分の仕事の意義を考えるようになり、業務を誰よりも詳しく知る必要性が出てきます。

「自分FINAL」を意識し、「判断を積み重ねることで初めて実力がつき、視野も広がり最適解を見つけられるようになる」と自分に言い聞かせながら、日々の仕事に励んでいます。

大きな夢、小さな努力

——岩下さんは、今後、商社パーソンとしてどのようなキャリアを描きたいと考えていますか?

現時点では、今後5年間でプロジェクトマネージャー、そして経営者に近づけるようもっと努力していきたいと考えています。

今かかわっているTIACTの事業では経済発展を支え、人々の豊かな生活の実現に貢献できていると思うので、学生時代に思い描いていた社会人像に、まず一歩順調に近づけたという実感があります。

しかし、プロジェクトの推進・運営という観点では知識も経験もまだまだ成長段階にいます。

ですので、今後事業開発やその後の運営によりじっくりと携わることで経営に関する経験値を高め、「プロジェクトの中核としてチームをまとめ、社会の発展に持続的に貢献する」という目標を達成していきたいです。

——最後に、これまでの経験を踏まえ、商社パーソンを志す学生世代に伝えたいことはありますか?

一言で「商社」といっても、部署によって事業内容や裁量の大きさ、成長の仕方は様々です。

また、「商社」と聞くと、海外出張や扱う事業規模の大きさなどで一般的には華々しいイメージを持たれる方も多いかもしれません。

しかし、どんな大規模な事業も、実際は様々な人の地道な努力に支えられている、という事実をしっかりと頭に入れておくことが、就職後の「こんなはずではなかった」という事態を避けるために必要だと考えています。

とはいえ、例えば私の所属するインフラ部門では、国や地域の持続的な発展への貢献という大きな夢を実現できる職だということに違いはありません。

ですので、商社パーソンになったあと楽しく働くためにも、まずはぜひ自分が商社でやりたいこと、そして実現したい社会像とは何かをじっくりと見極めてみてください。

合わせて読む:【三井物産トップ】変われなければ、商社は「不要」になる

取材:佐藤留美・小原由子、構成:小原由子、編集:佐藤留美、撮影:岩下佳央(本人提供)、デザイン:岩城ユリエ