【江原ニーナ】仕事が楽しくなる「まずはやってみよう」の考え方
2021年4月20日(火)
いえ、想像もしていませんでした。
むしろ、スタートアップとは無縁の大企業への就職を考えていたくらいです。
VCでインターンを始めて数カ月経ってから、いわゆる就職活動をやってみたこともあります。
まず、就職活動に対して強烈に違和感を覚えていました。
ステレオタイプな考え方かもしれませんが、就職活動のスタートは、自己分析から始まると思います。
自分の過去を掘り下げ、ありたい将来像を考える。
そのうえで、過去と未来をつなぐ架け橋として、入社したい会社を選びます。
でも、「その時々で、一番楽しいと感じられること」を選択してきたので、過去の経験にあまり一貫性があるようにも思えませんでした。
大学1年生のときは野球部のマネージャーをしていて、2年生からスタートアップでインターンをし、3年生になったらキャピタリスト修業をしている。
過去を振り返ったところで、「なんのために頑張ってきたのか」という理由が見つかるわけでもなく、「なぜ自分が御社を志望するのか」を考えても、納得のいく志望理由ができなかったんです。
結局、就職活動をやめて、「今一番熱を注げていることはなにか」と立ち返ったときに、ベンチャーキャピタリストになる道を選びました。
世の中の“負”の解決に取り組む仕事だと思っていましたし、今でもそう思っています。
世の中には、まだまだ解決されるべき課題がたくさんあります。
しかし、放置されたままだったり、なんらかの障壁によって解決されずにいたりするものが少なくありません。
ただ、そこに問題意識を持って、解決のために人生をかける人はいます。
「起業家」もその一部です。
VCは、彼らに寄り添い、サポートをし続ける仕事です。
VCでインターンを始めて間もない頃は、「一生この仕事を続けよう」と思っていたわけではありません。
でも、今この瞬間は、私が一番熱を注げることであり、この熱はきっとしばらく消えないんだろうなと直感しました。
そうして一歩を踏み出してみたところ、ベンチャーキャピタリストとしてのキャリアがスタートしたのです。
グロービス経営大学院が主催する大学生・大学院生を対象としたイベント「G1カレッジ(現在は休止中)」に参加したことです。
私は帰国子女で、2016年までアメリカに住んでいました。
2016年は、生まれ故郷の熊本県で地震災害が発生した年です。
親戚が震源地の近くに住んでいたこともあり、他人事には思えず、アメリカで義援金を集めるプロジェクトを立ち上げることにしました。
しかし、初めての挑戦で分からないことも多かったため、東日本大震災の発生時にユースの団体を立ち上げた経験のある学生の方とFacebookでつながって、いろいろと教えてもらいました。
帰国後しばらくした頃、彼から「面白いイベントがあるから、よかったら応募してみて」とメッセージが届きました。
右も左もわからぬまま、とりあえず応募してみたところ、審査に通り、参加に至りました。
それが、「G1カレッジ」です。
参加者の大半は、すでにビジネスの世界で活躍している学生たちで、中には自分の会社を立ち上げている人もいました。
一方で私は、スタートアップの「ス」の字も知らない野球部のマネージャーです。
参加者の皆さんは「全く知らない世界の人たち」で、同年代に社会を変革するサービスを生み出そうと奮闘する人がいることに衝撃を受けました。
「ベンチャーキャピタリスト」という仕事を知ったのもこのときです。
偶然ですが、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一さんが登壇するセッションに参加して、「なんかスタートアップって面白いかもしれない」と夢が膨らんでいきました。
「G1カレッジ」で出会った企業で半年ほど働いた後、同世代の起業家が活躍する姿に刺激を受け、自分も起業しようと考えていました。
でも、具体的なアイデアが思い浮かばず、先々のキャリアを模索していたところ、ANRIにインターンとして声をかけてもらったのです。
当時、ANRIは投資先が増えていて、なおかつ『Good Morning Building』というインキュベーション施設を運営していたこともあり、投資先同士の交流を促すコミュニティマネージャーを探していました。
VCに知見があったわけではありません。「面白そうだし、やってみよう」くらいの気軽さで、ジョインしたことを覚えています。
アイデアの状態から、サービスが誕生するまでの流れを近くで見ているうちに、次第に興味が湧いてきたのです。
アイデアを形にするまでの過程は、もちろん大変なことも多く、壁にぶつかることも少なくありません。
でもANRIのメンバーは、困難に立ち尽くすのではなく、むしろ笑い飛ばすくらいの気持ちで、起業家に寄り添っていました。
その姿を見て、素直に「かっこいい」と思いましたし、何より楽しそうで。
次第に「彼らのようになりたい」と思うようになり、「私もベンチャーキャピタリストになりたいです」と、代表の佐俣(アンリさん)に打診しました。
本来であれば、経験のあるベンチャーキャピタリストの下でアソシエイトとして働き、投資のいろはを学んでいくのが通例です。
しかし、佐俣は、「それなら起業家に会ってみて、どういう起業家に投資したいのかを考えてみて」とチャンスを与えてくれました。
ほとんど毎日誰かに会っていたので、相当な人数の方とお話をさせてもらったと思います。
そうして半年が過ぎた頃、「投資したい」と心から思える会社に出会い、投資案件を持たせてもらいました。
ベンチャーキャピタリストとして働き始めて、あまりにも女性が少ないことに違和感を持ったからです。
ベンチャーキャピタリストだけでなく、起業家も男性比率が高く、近年開催されたカンファレンスでは、「登壇者40名全てが男性」ということもありました。
日常の飲み会もそうですが、自分以外の参加者が全員男性だと、やはり居心地が良くないですよね。
でも、スタートアップ業界ではそれが当たり前になっているのです。
実際、女性起業家からは「起業家コミュニティから歓迎されていないと感じる」という声を聞きます。
つまり、事業を大きくしていったり、資金調達をしたりするために必要な情報にアクセスしにくい状況になっているのです。
これは、社会にとっての損失だと思います。
女性が生きているうちに経験する“負”には、当たり前ですが女性の方が敏感です。
課題の解決を目指す女性の起業家が増えれば、社会をもっとポジティブにできるはずなのに、少なからず構造上の問題で実現していない——。おかしなことですよね。
繰り返しになりますが、私はベンチャーキャピタリストを「世の中の“負”の解決に取り組む仕事」だと思っています。
そうであれば、女性のベンチャーキャピタリストである私が、この問題に立ち向かうべきだと考えました。
まだまだ挑戦は始まったばかりですが、ダイバーシティとインクルージョンを推進する試みを、個人としても続けていくつもりです。
既存の社会構造ではスポットライトが当たりにくい方々の存在に常に想像力をはたらかせ、いちベンチャーキャピタリストとして何ができるかを問い続けていきます。
1つは、違和感を見逃さないことです。
生きていると「おかしいな」と感じる出来事に出会うことがあると思います。
でも多くの場合、「自分の考え過ぎかな」、「無視しても大丈夫」と、ないがしろにしてしまうことが多いですよね。
でも、その違和感には、自分の役割を見つけるヒントが詰まっていると思います。
もう1つは、新しいなにかを始めようと思ったときに、「それをやっている自分を応援できるか」で考えることです。
挑戦することはなんであれ素晴らしいと思いますが、挑戦している自分を応援できなければ、結局のところ継続できません。
その通りです。
「これが私の役割だ」と胸を張れるキャリアを歩めているのは、この2つの視点を大切にしてきたからです。
そのつもりです。
ベンチャーキャピタリストとして、女性の経営者を増やすことはもちろんですが、多様なロールモデルの輩出に貢献していきたいと思っています。
というのも、ロールモデルとしてスポットライトが当たる対象が、まだまだ限定的だと感じているからです。
そして、その傾向は女性が顕著だとも思います。
「成功している女性」と聞くと、おそらく“バリキャリ”と呼ばれるスタイルが第一に想像されるのではないでしょうか。
つまり、とにかく仕事で名を上げている人です。
なぜそうなってしまうのかといえば、それ以外が過小評価されているからだと私は思っています。
仕事だけがキャリアではないですし、時価総額が1兆円を超えていなくても、世の中の“負”を解決している会社はたくさんあります。
もっと多様な成功のあり方を世の中に広めていくことができれば、あり方そのものが肯定される世の中になっていくはずです。
従来の「成功している女性」の像とは違うかもしれませんが、私もいつか、働く女性のロールモデルになれたらと思っています。
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取材:井上茉優、取材・構成・編集:オバラミツフミ、撮影:遠藤素子